【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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原作中に登場する実在の施設は、作中で異なる名称に変更されている場合でも、今作では実在の名称で登場しています(※一部を除く)。



 本栖湖で寝ている女の子

 

土曜日。部活を終え、昼過ぎに帰宅。

 

二日とも午前中だけとはいえ、さすがに休日の部活が続くと疲れる……。

 

純一(じゅんいち)帰ったのか?」

 

「どうしたの? 父さん」

 

玄関を潜るなり、父に声掛けられた。

 

「ちょっと頼まれてくれないか?」

 

「何を?」

 

帰宅早々また出掛けるのだろか。俺は良いがビーノに文句言われそう。

 

「今日来ているお客さんの一人が、本栖湖(もとすこ)のキャンプ場に忘れ物をしたらしいんだ。もう呑んでしまった(酔っている)から自分じゃ取りに行けないらしい」

 

呑んだ? こんな時間から? まあ、せっかくの休日でいらしたんだろう。彼是言うのは失礼だ。

 

なんといっても、ここはキャンプ場……。

 

「了解。これ、部屋に閉まっといて」

 

左手に持っていたトランペットケースを渡す。忘れ物を取りに行くんだから、荷物は軽い方が良い。

 

「で、なに忘れたって?」

 

 

 

 

車庫にしまったばかりのビーノを引っ張り出す。

 

ヘルメットを被り、エンジンを始動。

 

\マダハシルノ?/

 

やっぱり、文句いってるよ……。

 

 

 

学校へ向かうのと同じ道を走る。

 

途中で別の道へ逸れる。本栖湖へは古関を通った方が早い。

 

そして国道300号線の、通称甲州いろは坂と呼ばれる区間へ。

 

ここはひたすら登りのヘアピンカーブが続く。

 

今にも崩れそうな崖や、明かりの無い短いトンネル等が続く。

 

そして、最後に中之倉トンネル。これを抜けると本栖湖だ。

 

トンネルを出る。

 

眼前には本栖湖。そして、湖の向こうには富士山が……。雲の傘を被っていた。

 

まあ、仕方ない。富士山を見に来たわけではないし、こればかりは天気次第だから。

 

勿論、見えたら嬉しいけどさ。

 

 

 

家から走ること約一時間。

 

本栖湖浩庵キャンプ場に到着。

 

「こんにちは。木明荘の滝野(たきの)です」

 

ビーノを止め、受付に顔を出す。

 

「ああ。お待ちしていましたよ」

 

すぐに管理人が出てきた。確か、宮田(みやだ)さんだっけ?

 

松川(まつかわ)様の忘れ物を取りに来ました」

 

「はい。こちらです」

 

箱を差し出される。

 

中には焚き火グリルが入っている。これが件の品物か……。

 

「はい。確かに預かりました」

 

「お願いしますね。あ、御父様にもよろしくお伝えください」

 

「分かりました。では」

 

手を上げて応え、外へ出る。

 

外は寒い。確か、道路脇の温度計は7℃を示していた。

 

「早く帰ろう……」

 

箱をリアのボックスに入れ、シートに座る。

 

やっぱり寒い……。

 

受付の建物の横には、自動販売機。

 

これから陽が傾いてくると、どんどん気温が下がる。

 

財布を取り出し、開く。小銭が数枚。

 

自販機の前に立ち、売られている商品を眺める。暖かいお茶・コーヒー・紅茶……。

 

いや、ここは我慢しよう。寒くなる前に早く帰宅すれば良いだけ。

 

再びシートに座り、ヘルメットを被る。

 

エンジン始動。スロットルを捻り、発進……。

 

 

 

ん?

 

「なんだ、あれ?」

 

少し走ったところにあるトイレの脇。路上に何かが落ちている。

 

…………人だ!

 

事件か事故か! と、慌てたものの、側に寄ってみたら大きなイビキをかいている。

 

一先ず、どちらでもないらしい。単に寝ているだけだろう。

 

しかし、こんなところで寝ていたら確実に風邪ひくぞ。今の気温一桁だし。

 

「おい。起きろ!」

 

肩を揺すってみる。あまり変なところを触ったら、目を覚ましたときに言い訳が出来ないので注意しつつ。

 

中学生……いや、高校生だろうか?

 

桃色ロングヘアーの女の子だ。

 

「風邪引くぞ。起きろって!」

 

強めに揺さぶるも、全く起きる気配がない。

 

頬を叩いてみる。あ、結構柔らかいみたい。

 

「起きろよ!」

 

まさか死んで……いや。イビキかいてるってことは生きてるよな。

 

「…………むにゃむにゃ」

 

駄目だ。全く起きない。

 

しかし柔らかい頬だ。これ、引っ張ってみたらどうなるんだろう?

 

いやいやいや。そんなことをしている場合じゃない。あまり遅くなると更に寒くなる。だから早く帰ろうと決めたんだ。

 

だから、起きるまで待つわけにもいかない。こうなりゃ仕方ない……。

 

バイクからブランケットを取り出し、掛けてあげる。

 

誰かは知らないが、こんなところで寝て風邪ひかれたら後味悪い。

 

さて。今度こそ帰ろう。

 

 

 

 

この後、本栖湖では一騒動起きるわけだが、その事を俺は知る(よし)もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく走っていると、スマホにラインの通知が来た。

 

ちょうど道の駅が見えているので、そこにビーノを入れ、駐車してから確認。

 

あ、斉藤(さいとう)さんからだ。どれどれ。

 

 

 

斉藤:先輩、今なにしてますか?

 

滝野:本栖湖の帰り。道の駅に停まったところ

 

斉藤:本当ですか! リン、今日本栖湖でキャンプしてるんですよ

 

 

 

マジか。入れ違っていたのか……。

 

と、いうことなら。

 

 

 

滝野:そういえば、トイレの脇で変なの見付けたよ

 

斉藤:変なの ですか?

 

滝野:大イビキかいて寝てる女の子

 

斉藤:えー。先輩、襲ったんですか?

 

滝野:まさか。起こしても全然起きないから、ブランケット掛けておいた

 

斉藤:優しいんですね

 

斉藤:リンにそれとなく言っておきますね。滝野先輩に襲われた女の子を保護してって

 

滝野:だから襲ってない

 

斉藤:冗談ですよ。では

 

 

 

からかわれた……。

 

しかし、女の子ってこういうところがマメだよな。ラインの返事も早いし。

 

……吉川(よしかわ)もそうか。

 

 

 

さて、トイレも済ませたし、今度こそ帰ろう。

 

元々トイレに寄りたかったから、遠回りをしているので、まだ半分も来ていない。

 

もう暗くなってきたし、急ごう。但し、慌てず急ぐ。安全運転で。

 

 

 

 

 

 

 

 

\ツカレタゾ/

 

ようやく帰ってこれた。

 

この辺夜になると街灯無くて真っ暗だから、飛ばせないんだよな。

 

だから、日没後はいつも普段以上に時間が掛かってしまう。

 

「ただいま」

 

玄関を潜る。

 

「父さん、帰ったよ」

 

「おお。ありがとう」

 

声を掛けると外から入ってきた。作業中だったらしい。

 

「はい。これね。よろしくお伝えくださいって」

 

「了解。じゃあ、今から渡してくる」

 

「牛のお化けに間違われないようになー」

 

「分かってる」

 

まあ、まだ時間じゃないけどさ。

 

 

 

ここ四尾連湖(しびれこ)には、丑三つ時になると、昔武士に倒された牛鬼の亡霊が湖面に現れる……。

 

という言い伝えが、有るとか、無いとか。

 

実際、ここに越してきて一年経つけど、目撃情報は未だ一件もない。大丈夫だろう……。

 

 

 

さてと。

 

明日は部活休みだし、久しぶりに一日ゆっくりしよう……。

 

 

 

 

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