【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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今回は、LINEの部分がちょっと長いです。

見づらいかもしれませんが、ご了承ください。




 酔ってんのかこの人

 

四尾連湖(しびれこ)へ続く県道409号線を、湖の方向へ走る。

 

414号との分岐も過ぎ、ひたすら走って行く。

 

「おや?」

 

男沢橋の手前で、向こうから見覚えのある車が来るのが見えた。

 

ナンバーは違うが、運転している人は知っている人だ。

 

俺が手を上げると、車はハザードを点けた。止まるのか。

 

「あら、滝野(たきの)くんじゃない」

 

運転席の窓が開き、桜さんが顔を覗かせる。

 

俺も横でバイクを止めた。

 

「こんにちは。二人を送った帰りですか?」

 

各務原(かがみはら)さんとリンちゃんは、桜さんに送ってもらうと言っていたから、その帰りなんだろう。

 

「ええ。今日はなでしこがお世話になるわね。……ところで、今日はバイクが違うわね」

 

桜さんはバイクが違うことが気になるらしい。少し遠慮がちに尋ねられた。

 

「ビーノのオイル交換で、父が代車として借りてきた奴です」

 

整備と言って何度か心配されたから、明確な理由を告げる。

 

「トリシティね」

 

さすが桜さん。バイクに詳しい。

 

「はい、トリシティ155です。三輪だから安定してて走り易いですね」

 

「そうみたいね。155なら高速道路走れるわね」

 

「勘弁してください。怖くて無理です。それに、俺まだ高速での二人乗りは出来ませんよ」

 

さっき大垣(おおがき)さんとのやり取りでもあったように、高速道路での二人乗りは『二十歳以上』となっている。

 

「二人乗り、ということは、誰か乗せてきたの?」

 

「大垣さん……部活の後輩と一緒に、キャンプ場の下見へ行ってきたんです」

 

「なるほど。……あ。呼び止めてごめんなさい。気を付けてね」

 

「ありがとうございます桜さん。桜さんも安全運転で」

 

話も終わったので、バイクを発進させる。

 

五分くらい話していたけれど、この間通った車の数はゼロ。

 

これはつまり、四尾連湖へ行く・行った人の数を物語る。悲しいねぇ……。

 

桜さんの車、確か浜松ナンバーだったと思うけど、山梨ナンバーになっていた。変更したのか。

 

そういえば、大学生だって聞いたけど、普段何しているんだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

バイクは違えど、普段通りガレージに入れ、戻る。

 

「おお、お帰り。バイクどうだった?」

 

早速、父から声が掛かる。

 

「走り易いよ。でも、乗り慣れたバイクの方が良いや」

 

ビーノのことだ。そろそろ拗ねてしまうだろう。

 

早く乗りたいなぁ……。

 

「それは良かった。その方がビーノも喜ぶだろ。……と言った手前あれなんだが……」

 

「どうしたの?」

 

嫌な予感。

 

「さっき、整備工場から電話があってな……」

 

 

 

どうやら、ビーノはどこかの部品を取り替える必要があるらしい。詳しい話を聞いたところでちんぷんかんぷんだったが、とにかくその部品を交換しないことには、いつか走れなくなる とのことだ。

 

「部品が取り寄せになるから、早くても一週間掛かるらしい。年内には終わると思うけど、その間あのバイクに乗っててくれ、って言われたんだ」

 

マジか。

 

「まあ、せっかく大きいバイクなんだし、ガソリン代と高速代は出すから、遠出してみるのはどうだ? この機会に」

 

「店主、お疲れ様です」

 

外仕事を終えたらしい、山県(やまがた)さんが入ってきた。

 

「お疲れ様。いやあ、純一(じゅんいち)のバイクが部品交換で一週間ぐらい代車だから、遠出してみるのはどうかな? って話してたんだ」

 

父が山県さんにも状況説明した。

 

「なるほど。良いんじゃないかな? 色々出掛けれるのも若いうちですよ。仕事するようになったら色々と難しくなるからねぇ。純一くんは学生だから勉強が優先ですが、君の成績なら大丈夫でしょう」

 

「だそうだ」

 

「僕もねぇ、高校時代によくキャンプ行ってた友だちが居てね。大学の頃までは頻繁に会ってたけど、就職した今は中々ね。最後に会ったのは五年前の琵琶湖キャンプが最後かな……」

 

「だな。そうなるから、今のうちに出掛けてみよう!」

 

あれ……?

 

これ、出掛けるの確定コース?

 

 

 

まあ、人に急かされて出掛けるのもあれだし、ゆっくり考えよう。

 

そう思って部屋に入ると、ラインの通知が来た。

 

誰だろう? リンちゃんたち……は違うな。ここのキャンプサイトは圏外だから。

 

大垣さんから今日のお礼だろうか。どれどれ……。

 

 

 

さやか:やっほー

 

 純一:……

 

 純一:…………

 

さやか:どうしたの?

 

 純一:なんだお前か

 

さやか:酷い言い草

 

さやか:可愛い妹からの連絡だよ?

 

 純一:自分で言うか? 普通

 

さやか:普通普通うるさい!

 

 純一:まだ一回しか言ってない!

 

 純一:まあ、可愛い妹というのに異論はない

 

さやか:でしょ?

 

 純一:ドヤ顔やめい

 

 純一:で、どうした?

 

さやか:クリスマス、そっち行くから

 

 純一:えっ? いつ?

 

さやか:だからクリスマス

 

さやか:23 24と土日でしょ?

 

さやか:23から冬休みだから、そっち遊びに行くね

 

さやか:ちゃんと泊めてよね

 

 純一:ロッヂに空きがあるはずだから大丈夫

 

さやか:いやいやいや

 

さやか:客として行く訳じゃないよ?

 

さやか:住居に空き部屋ないの?

 

 純一:うち、年末年始休みだから、それまでなら……

 

さやか:だ、か、ら

 

 純一:嘘だよ嘘。掃除しとくから

 

さやか:お願いね

 

 純一:あ、クリスマスか……

 

さやか:なにか?

 

 純一:何でもない。また連絡する

 

さやか:了解

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消灯の時間になったので、施錠して回る。

 

さっきまで見えていた対岸の灯りも見えないので、焚き火を消したのだろう。二組とも、寝る時間らしい……。

 

おや? デッキのテーブルにトイレットペーパーが置いてある。

 

何でこんなところに?

 

置きっぱなしにしていても湿気で使い物にならなくなるので、どのみち片付けなきゃならない。

 

トイレットペーパーを持って戸締まりを続ける。

 

 

 

「純一、どうしたのそれ?」

 

事務所まで戻ると、父が俺の持っている物に気付く。

 

「デッキに置いてあった」

 

「えっ? あ、じゃあそれキャンプサイト側のトイレに持っていく奴じゃないか? 確か、もう無くなるはずだ」

 

「マジで!」

 

紙がないのまずい。今日のお客様は皆女性。紙は必須じゃないか。

 

「ちょっと、持っていってくるよ」

 

「ああ、頼んだ。暗いから気を付けて」

 

 

 

懐中電灯で足元を照らしながら、湖畔の道を走る。

 

トイレが見えてきた。と、同時にリンちゃんの姿も見えてきた。

 

あ、トイレに入るんだ。ヤバい!

 

「リンちゃーん! ストップ~!」

 

 

 

「驚きました。急に先輩が走ってくるんですから」

 

トイレに入る直前のリンちゃんを止め、紙を補充して出ると、ちょっと待ってて欲しいと言われ、湖を眺めながら待ってたら、出てきたリンちゃんが開口一番にこう言った。

 

そして、俺の隣に立つ。

 

「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだよ」

 

「でも、危うく紙の無いトイレに入るところだったので、助かりました。ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

二人、湖畔から湖を眺める。

 

湖面には月が映っている。とても美しい。

 

「良いところですね。ここ」

 

「まあね。交通の便は悪いけど……。そんなんだから、この時期なら何時でも空いてるよ」

 

「温泉が近かったら、もっと頻繁に利用したいですよね」

 

「う。痛いところを……」

 

ロッヂ・山荘利用者向けのお風呂はあるが、キャンプサイト利用者にはシャワーすら無い。

 

なんなら、今は凍結防止のためキャンプサイトの水場が利用できない。サイト利用者にはタンクを持参してもらい、受付横の水場を使ってもらっている。

 

「でも、こういう湖畔のキャンプ場も良いですね」

 

二人でそんなことを話していると、横の方から何やら物音が……。

 

『ヴォオエェ……』

 

「は?」

 

「え?」

 

変なうめき声のような音。

 

二人揃って右を向く。

 

その先では、黒い物体が動いている。頭には角のようなものが二つ……。

 

あれはまさか、言い伝えの……。

 

「~!」

 

「えっ? ちょっと、リンちゃん!」

 

リンちゃんが無言で超ダッシュ。サイトの方へ走って行った。

 

「え……」

 

残されたのは俺一人。近くには、『かつて、武士に倒された牛鬼の亡霊』が……。本当に出た~!

 

「って、あれ?」

 

恐る恐る、その牛鬼に懐中電灯を向ける……。

 

鳥羽(とば)様?」

 

髪の長い女性。メガネを掛けていないが、さっき受付対応をした人だった。

 

「うへ? あんた誰?」

 

「あ、えっと……。うわぁ……」

 

足下の方を照らすと、……まあ、お察しください。

 

つまり、さっきのうめき声の正体は、嘔吐の音だったらしい。

 

「あ! お姉ちゃんこんなところにいた!」

 

もう一人、髪の短い方の鳥羽様が現れる。つまり、この人の妹さんか……。

 

「酔って徘徊(はいかい)するなって何時(いつ)も言ってるでしょ! もう。管理人さんにも迷惑掛けて」

 

「……」

 

酔ってんのかこの人。

 

「あ、いや。俺は別に……」

 

どちらかと言えば、迷惑(こうむ)ったのはリンちゃんだ。

 

しかし、ここにはもう居ない。

 

「お騒がせしました。では、私たちはこれで」

 

「あ、はい。足元気を付けて……」

 

小さく手を振り見送る。

 

「ほんやはふぃ~!」

 

「もう呑んじゃダメだって!」

 

なんというか。人騒がせな人だった。

 

一瞬、本当に『牛鬼の亡霊』が出たと思ってしまった。普通に考えれば、ただの言い伝えだから、実在するわけ無いのに……。

 

 

あ、リンちゃん、ちゃんと寝れるだろうか……?

 

 

この後、各務原さんとリンちゃんは同じテントで寝ることになったのだが、それを知る由はない。

 

 

元々、牛鬼が出ると怖いから、各務原さんがリンちゃんと一緒のテントで寝たい、と言っていたらしい。

 

それが、牛鬼(鳥羽様)を見て、リンちゃんが各務原さんと一緒のテントで寝ることにした、とのこと。

 

牛鬼の正体が何だったか、知ったらリンちゃんショックだろうから、黙っていよう……。

 

 

 

 





本年の投稿は、これにて終了とさせていただきます。

皆様良いお年をお迎えください。

来年もよろしくお願いいたします。


なお、この先も毎週火曜日週一投稿を続ける予定ですが、投稿時刻を 6時→1時 に変更しますので、ご注意ください。

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