今回は、LINEの部分がちょっと長いです。
見づらいかもしれませんが、ご了承ください。
414号との分岐も過ぎ、ひたすら走って行く。
「おや?」
男沢橋の手前で、向こうから見覚えのある車が来るのが見えた。
ナンバーは違うが、運転している人は知っている人だ。
俺が手を上げると、車はハザードを点けた。止まるのか。
「あら、
運転席の窓が開き、桜さんが顔を覗かせる。
俺も横でバイクを止めた。
「こんにちは。二人を送った帰りですか?」
「ええ。今日はなでしこがお世話になるわね。……ところで、今日はバイクが違うわね」
桜さんはバイクが違うことが気になるらしい。少し遠慮がちに尋ねられた。
「ビーノのオイル交換で、父が代車として借りてきた奴です」
整備と言って何度か心配されたから、明確な理由を告げる。
「トリシティね」
さすが桜さん。バイクに詳しい。
「はい、トリシティ155です。三輪だから安定してて走り易いですね」
「そうみたいね。155なら高速道路走れるわね」
「勘弁してください。怖くて無理です。それに、俺まだ高速での二人乗りは出来ませんよ」
さっき
「二人乗り、ということは、誰か乗せてきたの?」
「大垣さん……部活の後輩と一緒に、キャンプ場の下見へ行ってきたんです」
「なるほど。……あ。呼び止めてごめんなさい。気を付けてね」
「ありがとうございます桜さん。桜さんも安全運転で」
話も終わったので、バイクを発進させる。
五分くらい話していたけれど、この間通った車の数はゼロ。
これはつまり、四尾連湖へ行く・行った人の数を物語る。悲しいねぇ……。
桜さんの車、確か浜松ナンバーだったと思うけど、山梨ナンバーになっていた。変更したのか。
そういえば、大学生だって聞いたけど、普段何しているんだろう……?
「ただいま」
バイクは違えど、普段通りガレージに入れ、戻る。
「おお、お帰り。バイクどうだった?」
早速、父から声が掛かる。
「走り易いよ。でも、乗り慣れたバイクの方が良いや」
ビーノのことだ。そろそろ拗ねてしまうだろう。
早く乗りたいなぁ……。
「それは良かった。その方がビーノも喜ぶだろ。……と言った手前あれなんだが……」
「どうしたの?」
嫌な予感。
「さっき、整備工場から電話があってな……」
どうやら、ビーノはどこかの部品を取り替える必要があるらしい。詳しい話を聞いたところでちんぷんかんぷんだったが、とにかくその部品を交換しないことには、いつか走れなくなる とのことだ。
「部品が取り寄せになるから、早くても一週間掛かるらしい。年内には終わると思うけど、その間あのバイクに乗っててくれ、って言われたんだ」
マジか。
「まあ、せっかく大きいバイクなんだし、ガソリン代と高速代は出すから、遠出してみるのはどうだ? この機会に」
「店主、お疲れ様です」
外仕事を終えたらしい、
「お疲れ様。いやあ、
父が山県さんにも状況説明した。
「なるほど。良いんじゃないかな? 色々出掛けれるのも若いうちですよ。仕事するようになったら色々と難しくなるからねぇ。純一くんは学生だから勉強が優先ですが、君の成績なら大丈夫でしょう」
「だそうだ」
「僕もねぇ、高校時代によくキャンプ行ってた友だちが居てね。大学の頃までは頻繁に会ってたけど、就職した今は中々ね。最後に会ったのは五年前の琵琶湖キャンプが最後かな……」
「だな。そうなるから、今のうちに出掛けてみよう!」
あれ……?
これ、出掛けるの確定コース?
まあ、人に急かされて出掛けるのもあれだし、ゆっくり考えよう。
そう思って部屋に入ると、ラインの通知が来た。
誰だろう? リンちゃんたち……は違うな。ここのキャンプサイトは圏外だから。
大垣さんから今日のお礼だろうか。どれどれ……。
さやか:やっほー
純一:……
純一:…………
さやか:どうしたの?
純一:なんだお前か
さやか:酷い言い草
さやか:可愛い妹からの連絡だよ?
純一:自分で言うか? 普通
さやか:普通普通うるさい!
純一:まだ一回しか言ってない!
純一:まあ、可愛い妹というのに異論はない
さやか:でしょ?
純一:ドヤ顔やめい
純一:で、どうした?
さやか:クリスマス、そっち行くから
純一:えっ? いつ?
さやか:だからクリスマス
さやか:23 24と土日でしょ?
さやか:23から冬休みだから、そっち遊びに行くね
さやか:ちゃんと泊めてよね
純一:ロッヂに空きがあるはずだから大丈夫
さやか:いやいやいや
さやか:客として行く訳じゃないよ?
さやか:住居に空き部屋ないの?
純一:うち、年末年始休みだから、それまでなら……
さやか:だ、か、ら
純一:嘘だよ嘘。掃除しとくから
さやか:お願いね
純一:あ、クリスマスか……
さやか:なにか?
純一:何でもない。また連絡する
さやか:了解
消灯の時間になったので、施錠して回る。
さっきまで見えていた対岸の灯りも見えないので、焚き火を消したのだろう。二組とも、寝る時間らしい……。
おや? デッキのテーブルにトイレットペーパーが置いてある。
何でこんなところに?
置きっぱなしにしていても湿気で使い物にならなくなるので、どのみち片付けなきゃならない。
トイレットペーパーを持って戸締まりを続ける。
「純一、どうしたのそれ?」
事務所まで戻ると、父が俺の持っている物に気付く。
「デッキに置いてあった」
「えっ? あ、じゃあそれキャンプサイト側のトイレに持っていく奴じゃないか? 確か、もう無くなるはずだ」
「マジで!」
紙がないのまずい。今日のお客様は皆女性。紙は必須じゃないか。
「ちょっと、持っていってくるよ」
「ああ、頼んだ。暗いから気を付けて」
懐中電灯で足元を照らしながら、湖畔の道を走る。
トイレが見えてきた。と、同時にリンちゃんの姿も見えてきた。
あ、トイレに入るんだ。ヤバい!
「リンちゃーん! ストップ~!」
「驚きました。急に先輩が走ってくるんですから」
トイレに入る直前のリンちゃんを止め、紙を補充して出ると、ちょっと待ってて欲しいと言われ、湖を眺めながら待ってたら、出てきたリンちゃんが開口一番にこう言った。
そして、俺の隣に立つ。
「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだよ」
「でも、危うく紙の無いトイレに入るところだったので、助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ」
二人、湖畔から湖を眺める。
湖面には月が映っている。とても美しい。
「良いところですね。ここ」
「まあね。交通の便は悪いけど……。そんなんだから、この時期なら何時でも空いてるよ」
「温泉が近かったら、もっと頻繁に利用したいですよね」
「う。痛いところを……」
ロッヂ・山荘利用者向けのお風呂はあるが、キャンプサイト利用者にはシャワーすら無い。
なんなら、今は凍結防止のためキャンプサイトの水場が利用できない。サイト利用者にはタンクを持参してもらい、受付横の水場を使ってもらっている。
「でも、こういう湖畔のキャンプ場も良いですね」
二人でそんなことを話していると、横の方から何やら物音が……。
『ヴォオエェ……』
「は?」
「え?」
変なうめき声のような音。
二人揃って右を向く。
その先では、黒い物体が動いている。頭には角のようなものが二つ……。
あれはまさか、言い伝えの……。
「~!」
「えっ? ちょっと、リンちゃん!」
リンちゃんが無言で超ダッシュ。サイトの方へ走って行った。
「え……」
残されたのは俺一人。近くには、『かつて、武士に倒された牛鬼の亡霊』が……。本当に出た~!
「って、あれ?」
恐る恐る、その牛鬼に懐中電灯を向ける……。
「
髪の長い女性。メガネを掛けていないが、さっき受付対応をした人だった。
「うへ? あんた誰?」
「あ、えっと……。うわぁ……」
足下の方を照らすと、……まあ、お察しください。
つまり、さっきのうめき声の正体は、嘔吐の音だったらしい。
「あ! お姉ちゃんこんなところにいた!」
もう一人、髪の短い方の鳥羽様が現れる。つまり、この人の妹さんか……。
「酔って
「……」
酔ってんのかこの人。
「あ、いや。俺は別に……」
どちらかと言えば、迷惑
しかし、ここにはもう居ない。
「お騒がせしました。では、私たちはこれで」
「あ、はい。足元気を付けて……」
小さく手を振り見送る。
「ほんやはふぃ~!」
「もう呑んじゃダメだって!」
なんというか。人騒がせな人だった。
一瞬、本当に『牛鬼の亡霊』が出たと思ってしまった。普通に考えれば、ただの言い伝えだから、実在するわけ無いのに……。
あ、リンちゃん、ちゃんと寝れるだろうか……?
この後、各務原さんとリンちゃんは同じテントで寝ることになったのだが、それを知る由はない。
元々、牛鬼が出ると怖いから、各務原さんがリンちゃんと一緒のテントで寝たい、と言っていたらしい。
それが、牛鬼(鳥羽様)を見て、リンちゃんが各務原さんと一緒のテントで寝ることにした、とのこと。
牛鬼の正体が何だったか、知ったらリンちゃんショックだろうから、黙っていよう……。
本年の投稿は、これにて終了とさせていただきます。
皆様良いお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。
なお、この先も毎週火曜日週一投稿を続ける予定ですが、投稿時刻を 6時→1時 に変更しますので、ご注意ください。