【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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新年明けましておめでとうございます。

2023年、本年も宜しくお願い致します。


元日、2日と、朝早くから仕事でした……。流石に疲れました。

今回のお話は、タイトルから察することが出来る、あのお話です。





テスト、カリブー、サークル活動
 理科室


 

期末試験二日前。

 

試験一週間前から部活を禁止されているので、帰るべく廊下を歩いて行く。

 

理科室の前に差し掛かった所、室内に知った顔がいるのが見え、立ち止まった。

 

一体何をしているのだろう。部活禁止のはずなのに……。

 

扉を開いた。

 

大垣(おおがき)さんに犬山(いぬやま)さんじゃないか。二人で何の実験してるんだ?」

 

そう、理科室には野クル(のくる)部の二人がいたのだ。

 

犬山さんは木製の皿(サラダボウル?)を、ヤスリで磨いている。

 

大垣さんは、鉄スキレットをカセットコンロにかけている。さしづめスキレットのシーズニング*1だろう。

 

「あ、滝野(たきの)先輩」

 

「お、トラ先輩」

 

ジュッ

 

「ぎゃ~!」

 

俺が声を掛けたために、正面を向いていた犬山さんは大丈夫だったものの、背を向けていた大垣さんが、こっちを見た拍子に熱いところを触ってしまい、悲鳴が上がった。

 

 

 

「本当にごめん」

 

水道の水で冷やし、作業再開。この間、俺は大垣さんに謝りっぱなしだ。

 

「良いんっすよ。あたしの不注意ですから」

 

「私もさっき同じことしてしまいましたし」

 

犬山さんもか。良く見ると、左手の親指が赤い。

 

「スキレットのシーズニングに、木皿の塗料剥がしか」

 

新品の鉄スキレットは、『シーズニング』というならし作業をする。

 

しないと、後で泣くことになるからだ。*2

 

しかし。

 

「木皿は何で塗料剥がすの?」

 

これは別に必須の作業ではない。

 

汚れ防止に塗料が塗られているはず。それをわざわざ剥がしている。

 

「ああ。熱いものがダメって書いてあるんで……。塗料剥がして油を塗布(とふ)すれば、スープカップに使えんじゃないかと思って」

 

ああ、なるほど。

 

しかし、そういう木皿って、元々はサラダボール等に使う設計じゃないのか? まあいいや。

 

 

 

「そういやあ、歴史の田原(たはら)先生、産休だってさ。驚いたなぁ」

 

「それな。『教職一筋に生きる!』って感じの先生やったから、びっくりやわ」

 

田原先生の話になった。

 

「先輩はどう思います?」

 

「ん? 田原先生か。まあ、驚いたわ」

 

結婚するとは聞いていたが、まさか産休とはねぇ……。

 

「それで、新しい先生が明日から来るらしいぞ。どんな先生だろうな?」

 

「まあ、普通に優しい先生やったら良いなぁ」

 

「面白い先生だと楽しいんじゃないか?」

 

「あきが想像しとるような先生は来んやろ……」

 

「まあな……」

 

二人とも仲が良いようで。

 

どれくらいの付き合いなんだろう?

 

高校入ってから、ではなさそうだ。そんな短期間ではないと思う。

 

しかし、俺の存在忘れられているな……。これ、帰っていいやつ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! スキレットの方は完成だ!」

 

「こっちもできたで」

 

両方とも仕上がったようだ。

 

「おお。良い感じじゃないか」

 

眺めていただけの俺が言うのもあれだが、スキレットに木皿、共に綺麗に仕上がった感じだ。

 

「しかしまあ、大垣さんスキレット買ったんやな」

 

「はい。この間、しまりんのじいさんが持ってたのを見て、欲しくなったので……。甲府まで行って買ってきました!」

 

甲府? 遠いな……。

 

「わざわざ行ったん?」

 

「はい。まあ、交通費が高くついて、色々買えなかったけど、良い買い物っすよ!」

 

そうか……。

 

「言ってくれたら載せてったんやけど」

 

「いやぁ~、有り難い話なんですけど、あまり使ってばかりだと申し訳無くて……。って、あたし物扱いですか! 『載せる』って字が!」

 

「あはは……。私ら()()()()()やな」

 

犬山さんが乾いた笑いを浮かべる。

 

確かに、野クル初キャンプの時は、犬山さんを『拾った』んだった……。

 

「ん? お。なでしこからラインだ」

 

そう言い、大垣さんがスマホを取り出す。

 

「おお!」

 

感嘆の声を上げる。

 

「どしたん?」

 

「何だ?」

 

犬山さんが覗き込むのに続いて、俺も画面を覗く。

 

 

 

なでしこ:テスト終わったら

     みんなでクリスマスキャンプしませんか?

 

なでしこ:【画像】

 

 

 

 

「クリスマスキャンプって。ナイス提案だな」

 

そういえば、この間大垣さんとそんな話したっけ。

 

「私はクリスマス()()と過ごすからムリやなー」

 

急に、犬山さんから爆弾発言が……!

 

「彼氏いたのか貴様ーっ!」

 

そんな話聞いてない! マジで。

 

この間のキャンプの時、バイクの後ろに乗せたとき、背中に思いっきり胸当たってたんだけど! これバレたら彼氏に殺される!

 

「うそやでー」

 

…………。嘘かい!

 

一瞬、本気でビビったんだけど!

 

「いつもは家族とクリスマスやけど、みんなでキャンプすんのもええかもな」

 

「家族いたのか貴様ーっ!」

 

「それはこっちのセリフやーっ!」

 

「あはは……」

 

なんですか、これ。

 

まあ確かに。俺の知る限り、大垣さんだけ家族について一切触れられていない。

 

大垣家、割と謎。大垣家の一族……。合わんな。

 

そう思うと、犬山家の一族って、意外としっくりくるなぁ……。って、こんなこと考えてる場合じゃない。

 

 

 

「そうや、滝野先輩も一緒にキャンプどうですか?」

 

あれ……? 言ってないのか。

 

「どうもこうも。俺も野クル部の一員だから、参加は決定だよ。な? 大垣さん」

 

「はい。イヌ子、トラ先輩には声掛けてあるんだよ。で、だ」

 

おほん。咳払い一つ。

 

「前回の教訓から、テントは最低三つは必要だ」

 

今参加が決まっているのは四人。俺は一人でテント一つ使った方が良い。

 

そうなると、四人でも三つ要る。

 

「トラ先輩の言う通り! やはり、トラ先輩は一人でテント一個だ」

 

「俺何も言ってないんだけど! まあ、その通りだけどさ」

 

この人なんなの?

 

「しかし、今我々が持っているテントは二つ。つまり、一つ足りないのだよ。でも、買うにしてもお金がなぁ……」

 

「部費で(まかな)えんの? 部に昇格したんやし」

 

「イヌ子、そんな大金は出るわけ無いだろ。次のキャンプの(まき)代にはなるんじゃないか? って程度だ」

 

(普通)テントはそんなに安くない。

 

だから、俺が先日の初キャンプで使ったテントが、980円(税込)だと知った時のショックは半端無かった……。『安物だった』という意味ではなく、『あの金額で、あれだけ良い物が入手出来た』という意味で。中々良いテントだった。

 

はあ……。溜め息一つ。

 

「先輩、溜め息つくと幸せが逃げるって言いますよ」

 

「溜め息程度で逃げる幸せなんて、全部逃げてまえ。構へん構へん……」

 

おっと、話が()れるところだった。

 

「そんなに悩むなら、俺がテント持ってくわ」

 

…………あれ?

 

俺の一言に、二人が凄い形相で固まった。

 

俺今変なこと言った? あ、京都弁になってたか……。って、その程度で二人がこんな顔するわけ無い。

 

最近では犬山さんの影響で、ナチュラルに(なま)りが出てしまっている。今更気にする程の事ではないはず。

 

となると、何があった?

 

「俺、何か言ったか?」

 

「せ、先輩。テント持ってるんですか?」

 

あ、そっち?

 

「持ってるよ。幾つか」

 

元を辿(たど)ればお客様の忘れ物だけどね。

 

極々(まれ)に、駐車場やキャンプサイトにテントを忘れていくお客様がいる。もちろん、拾得物として警察に届けているけれど、持ち主が現れずに保管期間を過ぎ、うちに戻ってきた物が何個かある。

 

年季物もあるけれど、新品同様のもある。捨てるのが勿体無いから保管してあるのだ。

 

「参加人数次第で、都合の良さそうなのを見(つくろ)って持っていくよ。で、俺はあの980円テントで充分だからさ」

 

そう言うと、二人の顔が元に戻った。

 

「よし、そうと決まれば各務原(かがみはら)に送る写真撮るぞ!」

 

 

 

白衣を着た大垣さんがスキレットを、バットのように持って構え。

 

犬山さんは木皿を、キャッチャーミットの様に持って構える。

 

「撮るよ~」

 

俺はカメラマン。

 

 カシャッ!

 

よし。良く撮れた。

 

「それじゃあ、これを各務原に……」

 

「ところで。何でここに各務原さん居ないんだ?」

 

これが野クル部の活動なら、居ないと変だ。

 

まあ、そもそも今活動していること。それ自体が変なんだけど。

 

「なでしこちゃんは、テス勉するって帰りました」

 

そうか。さっきの写真も駅のホームで撮ったものだった!

 

「まあ、所々変な写真送ってきてたけどな」

 

変な写真……?

 

あ、試験勉強。

 

「大垣さん、試験勉強大丈夫なん? 成績悪かったらクリキャン中止しよか?」

 

おお。今の一言で大垣さんだけまた凄い形相になった。青ざめてる。

 

「おお。それええ提案やなぁ。あき、勉強頑張りや」

 

「ぐぬぬ! トラ先輩、勉強教えてください~!」

 

「明日の放課後な」

 

今度は泣きそうだ。

 

「だから言うたやん。テス勉しよって」

 

「こりゃあかんね……。犬山さん。俺らは先帰ろか」

 

「おーい。二人とも置いていかないでくれ~!」

 

泣き出した((たと)え)大垣さんを余所に、二人理科室を後にする。

 

「まあ、これで尻に火付いたやろ」

 

「えっ? 何の話?」

 

「いいえ。何でもないです」

 

 

 

*1
元から表面に付いているさび止めを剥がし、表面に油膜を作る作業のこと。

*2
シーズニングせずに調理すると、元から表面に付いているさび止め・ワックスの臭いが食材に移り、不味い料理になってしまう。また、すぐに錆びてしまうし、スキレット自体長持ちしない。

正しく使えば100年持つ、とも言われるスキレット。シーズニングは必須である。





滝野は、イヌ子のホラ吹き を知らないので、『彼氏います』の時のショックが大きいのです……。


ちょっとオリジナルな話を突っ込みましたが、大垣の家族だけ、主要五人のなかで唯一家族が誰一人登場しないんですよね……。

映像(アニメ一期・二期、映画)に登場しただけでも、リンは、父・母・母方祖父。なでしこは、父・母・姉・父方祖母。イヌ子は、妹・父方祖母。恵那は、父。

それぞれ上記家族が登場します。なのに、大垣だけ誰も出てこない……。わりと真面目に『家族いたのか貴様~!』って感じなんですよ。(※私の見落としの可能性あります。その場合は、御指摘頂けると幸いです)

そんなわけで、イヌ子に言わせてみました。
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