朝。
今は期末試験前で部活が禁止されているので、いつもより少し遅い時間に家を出る。
朝練ができないのに早く登校しても勿体無いからだ。
バイクがまだ代車だから、ゆっくり走る。
学校到着。
駐輪場へバイクを入れる。
既に何台かバイクが止まっており、柱には幾つかチェーンロックが回してある。
普段なら一番下になるんだけど、朝練がない分遅く来たから、上の方になった。外すときも楽だから良い。
お。リンちゃんのビーノ、もう止まってる。
「えっと、前にお話した通り、社会科の
朝のHRの終わりがけ、担任の先生がそう言って教室を出ていった。
そういえば産休って、昨日
今日から来る新しい先生が、鳥羽先生か。
…………まあ、珍しい名前ではないし、あの人ってことはないだろう。
と、思ってから
「では、授業始めますよー」
そう言いながら、先生が入ってきた。
……。
…………。
………………えっ?
予鈴が鳴る。
「きりーつ」
「気を付け。礼」
「着席」
日直の号令で授業が始まった。
おい、まじか。そんなことがあるのかよ……。
先生の顔を見て、
「それではまず、先生の自己紹介から」
そう言いながら、チョークで黒板に名前を書いていく。
この間、受付で書いてもらったのと同じ名前だ……(書いたのは妹さんだったが)。
「鳥羽
クラスから拍手が起こった。
「じゃあ、みんなにも自己紹介をしてもらいましょう。えっと……あ! ……ごめんなさいね、何でもないわ。左前、
先生が教室内を見渡したとき、俺の顔を見て一瞬表情が
まさか、この間利用したキャンプ場の管理人(厳密には違う)が、自分の生徒だったなんて……。といったところだろう。
『酔っていて記憶がない』というのなら笑うけど、
いや、
「はい。次、
俺の番か。
起立し、先生の顔を見る。
「滝野
そう言って着席。
顔はそっくり。髪型も一緒。第一、名前が一緒だ。これだけ一致していて他人の空似ということはないだろう……。
しかし、授業後に何か話し掛けられることもなく、先生は職員室へ帰っていった。
無事に期末試験が終了。あとは冬休みを待つのみだ。
試験前日の放課後は、約束通り大垣さんと試験勉強をした。
図書室で、犬山さんも一緒にやったんだけど、『尻に火がつかんと駄目なタイプ』だという大垣さんは、その前日の俺の発言でお尻が大炎上。形から入るとか言って何処で入手したのか『必勝』と書かれたハチマキを締め、燃え盛るオーラを放ちながら勉強をしていた。
それを隣に座った犬山さんは苦笑い、カウンターにいたリンちゃんはひきつった顔で見ていた……。
まあ、無事に試験も終わったんだから良しとしよう。
今日は学校も早く終わったので、本当なら部活に出たいんだけど、今は所用で国道52号線を北上している。
さっきから、鞄の中のスマホから、ラインの通知音が止まらない。
さしづめ、可児から部活を休んだことに対しての文句が延々と綴られているのだろう……。
走行中の今は確認できないので、気にせずに走り続ける。
目的地に到着。
鞄からスマホを取り出し、新着通知を確認……。
うわぁ……。予想通り、可児から鬼ラインが来ていた……。
可児:先輩、今何処ですか?
可児:なんで部活来ないんですか?
可児:裏切りですか?
可児:浮気ですか?
可児:サボりですか?
可児:休みだなんて、私は認めませんよ!
認めませんよって、可児は何様なんだよ……。
ん?
新たな通知が。今度は
各務原:カリブーなう!
各務原:【画像】
犬山さん大垣さんと
カリブーか。彼女たち電車通学組が行けそうな所だと、
それなら俺も……。
滝野:俺もカリブーなう!
滝野:カリブー甲府店に着いたところだよ
滝野:【画像】
同じ店に居ると思われないように、注釈と店の写真をつけて送る。
返事はすぐにきた。
各務原:ふおおぉぉぉぉ!
各務原:先輩もカリブーですか
各務原:先輩はお買い物ですか?
滝野:似たようなものだけど、ちょっと違うかな
各務原:写真、いっぱい送ってください!
滝野:写真って
滝野:何を撮るの?
各務原:えっと……
各務原:色々!
滝野:了解
色々って。まあいいや。
さくっと用事を済ませよう。
しかし恵那ちゃんも一緒か。あの子、キャンプに興味あったんだな……。
あ、店に入る前に可児に返事しないと。
滝野:仕事だよ
滝野:今甲府のキャンプ用品店
滝野:明日の朝は出るから許せ
入口の自動ドアを潜る。
「いらっしゃいませ! あ、滝野くん。いらっゃい!」
入ってすぐ、馴染みの店員さんに声掛けられた。
「山川さん。お久し振りです」
山川さん。赤髪短髪の女性で、いつもお世話になっている人だ。
「この間はありがとうございました」
「いえいえ。あのシュラフ良かったでしょう?」
「はい。とても暖かかったです」
お陰で快適に過ごせた。
「お薦めして良かったです。ところで、今日はどの様なご用件で?」
おっと、本来の用事を忘れるところだった。
「注文書、持ってきました」
そう。俺がここまで来た理由は、備品の注文書を渡すためだ。
うちのキャンプ場で販売している、ガス缶や薪に貸出用の機材は、この店から買っている。
必要になったら注文書を持ってきて、届けてもらっている。
FAXやメールで良いと思うんだけど、注文だけは何故か未だにアナログ……。
「……はい。確かに。では、明後日にお持ちしますね」
「分かりました。よろしくお願いします」
支払は届けてもらう時なので、俺の仕事は注文書を渡したら終わりだ。
「あ、そうだ。滝野くん。最後のご挨拶を……」
「えっ?」
「実は私、富士吉田店に異動になるんです」
異動? 富士吉田?
「短い間でしたがお世話になりました」
「そうですか……。俺の方こそ。お世話になり、ありがとうございました」
せっかく仲良くなれたのに、淋しいが、働いている以上仕方ないことだ。
「そっちの方へ行くことがあったら顔出しますよ」
「遠いですよ?」
「全然、富士吉田だったら大した距離じゃあ無いです」
確か、カリブー富士吉田店は、道の駅富士吉田に併設されているあの建物の筈だ。そこまで遠くはない。
決して近い距離でもないけれど。
「そっか。滝野くんのビーノならすぐだよね?」
「はい。なのでその時はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「まあ、今はビーノ乗れませんけどね……」
「と言うと?」
「オイル交換に出したら、部品交換が必要らしくて……。しばらく代車ですよ」
「そうですか。じゃあ、ビーノが戻ってくるまでは、その子を可愛がってあげてくださいね」
言われなくても。
お店を出た。
さてと。用事も済んだしさっさと帰るか。
店の中にいるときはポケットの中に入れていたスマホを、鞄に入れるために取り出す。
ラインを確認。
……可児へ送ったメッセージには既読が付いていた。
返事がないということは、仕事だということを理解してくれたのだろう。
まあ、理解してもらうより仕方ないが。
そういえば、なにか忘れているような……。
「あ! 写真撮ってない」
このあと、もう一度店内に入るのも億劫なので、山川さんに頼んで店内の写真を送ってもらい、それを各務原さんに転送した。
この事は内緒だ。
カリブー富士吉田店の山川さん(※原作では名前無し)、身延店の揖斐川さん・関さんと並び、人気のあるキャラクターですね。調べてみるとイラストも幾つかありました。
なので、甲府店から異動してきたことにして、早めに登場させてみました。