無事、期末試験が終わった。
わたし、
「うーん。テスト終わったー」
横長のロングシートに腰掛けたまま、伸びをする。
「あとは休みを待つばかりや」
「だねー」
「余裕だったぜー」
イヌ子となでしこがこう言ったのでそれに続いた。
今、余裕と言ったが、それはあくまでトラ先輩のお陰だ。
一昨日一緒にテス勉してもらったので、今回はわりと良い点が取れそうだ。いや~ぁ。先輩の住む方に足向けて寝れねぇなぁ。
……そういえば、トラ先輩って
下見に付き合ってもらった時、
でも、そうなると
謎だ。
『間も無く、
駅が近付き、車内にアナウンスが流れる。
普段、わたし達が降りる波高島駅がもうすぐだ。しかし、今日はここでは降りない。
電車が駅に着く。
『後ろの車両のドアは開きません。この列車は、後ろ乗り、前降りの富士ゆきワンマン列車です』
降りる気配を見せないわたしとイヌ子を見て、なでしこが口を開いた。
「あれ? 二人とも降りなくていいの?」
その一言を待ってました! と言わんばかりの勢いで、イヌ子がなでしこの肩に手を置く。
「今から『カリブー』行くで。なでしこちゃん!」
「かりぶぅ?」
そう、これから
しかし、この様子だとなでしこはカリブーが何の店か分かっていないらしい。ならば、着くまで秘密にしておこう。
身延駅に到着。
乗ってきた電車はこの先、静岡県の富士駅へ向かうが、この駅で20分程度停車する。
電車を降りて改札口へ。
「はい」
「ありがとうございました」
なでしこの場合は定期券の途中下車になるので、そのまま改札を通過した。
「精算お願いします」
しかし、わたしとイヌ子の場合は乗越になるので、ちゃんとその分の運賃を払う。
「波高島から……210円ですね」
「あ、二人分お願いします」
「えっと? ……こちらの方も波高島からなので、お二人で420円になります」
「はい」
「丁度ですね、ありがとうございました」
精算を済ませ、改札を抜ける。
「あれ? みんな、こっちなんだ?」
すると、聞き覚えのある声が掛かった。
「おお。斉藤。どうした?」
振り向くと、斉藤が改札を出てくるところだった。
「待ち時間長いからね。ちょっと自販機に」
ということは、同じ電車だったんだ。
「あ、
前にいたなでしこも斉藤に気付く。
「そうだよ。いつもは帰りがみんなより早いから、会うことなかったね」
そうか。斉藤は帰宅部なんだった。
「恵那ちゃん帰宅部だもんねー」
「なあ、なでしこちゃん。知っとる?」
ふと、イヌ子がなでしこに
「えっ?」
「うちの高校、1年生は部活・サークルの所属が絶対でな。でも、部活に入りたくない子も居るやろ? その子たちのために、『帰宅部』というのが実際にあるんや」
「そうなの?」
聞いたことがない。
「せやで。でな、入部届に『帰宅部』って記入して顧問の先生に提出すると、所属を証明するバッチが貰えるんや。でもな、もしそれを無くしたら……」
「無くしたら?」
含みを持たせた言い方に、なでしこが気になって急かす。
「一生帰宅できなくなるんやー!」
「ええっ!」
露骨に驚くなでしこ。
「なんてな。嘘やでー」
しかし、イヌ子の話は嘘だった。当たり前だろう……。
「そや、もし良かったら、斉藤さんも一緒にカリブー行かへん?」
イヌ子が斉藤も誘う。
「カリブー? ああ。キャンプ道具とか売ってるお店だよね」
「キャンプ!」
斉藤はカリブーが何の店か知っているようだ。それを聞いたなでしこは嬉しそうな声を上げる。
「斉藤、カリブー行ったことあるのか?」
「ううん。でも、リンが時々スマホで調べてるのを見てるから。『これならカリブーで買った方が、通販頼むより早いな』って言ってたのを聞いて、教えてもらったんだ」
「一緒に行くか?」
これは彼女を
「そうだよ。恵那ちゃんも一緒に行こうよ!」
「良いの? じゃあ、折角だし」
「やった~! 早く行こうよ!」
斉藤も一緒に行くことになり、なでしこが嬉しそうに走り出す。
駅舎を出て一目散に走って行くが……。
「なでしこちゃん! そっちやないでー!」
逆方向へ向かって行った。
カリブー身延店に到着。
わたしとイヌ子は何度か来ているが、この二人は初めてなので、まずは注意喚起だ。
「斉藤、なでしこ。入る前に注意事項を説明する!」
わたしの一言で、ノリの良い二人は、姿勢を正した。
「店内には高額商品が待ち構えている」
「確かに。キャンプ道具って、0一つ間違えてるんじゃないかって思うことあるもんね」
さすが斉藤。
「そうだ。だから、ヤバいと思ったら速やかに外の空気を吸うんだ」
「わ、わかった」
「分かりました!」
「ここから先は危険だ。ちゃんとセーブしたか?」
「せ、せーぶ?」
「いいからさっさと入らんか」
イヌ子に
「ふおおお!」
店内に入った途端、なでしこが声を上げる。
「ふお~!」
店内各所を駆けずり回っている。
「心奪われまくりやなぁ」
「だねぇ」
わたしたち三人は、その姿を眺めるより他ない。
まあ、わたしたちはわたしたちで見て回ろう……。
って、斉藤、なでしこのことを写真に撮ってるよ。
一通り見終え、合流する。
「やっぱキャンプイスいいよなぁ」
「せやなぁ」
「だね」
「はぁ~」
キャンプイスのコーナーで、展示されているイスに座り一休み。
「『座る』ていうより、『埋まる』て感じがええよな」
「快適すぎだよねー」
「あたし……バイト代入ったらキャンプイス買うんだ……」
こんなに快適なら、絶対買ってやる!
「死亡フラグやめや。それに、鼻血出しても知らんで」
ごもっとも。イヌ子の突っ込みに、ぐうの音も出ない。
「でもさ。一通り見て思ったけど、アウトドアって大人の趣味だよね」
「確かになぁ」
斉藤の言葉にイヌ子が同調する。
さっき、入店前に斉藤となでしこに言ったが、普段わたしたちが生活している上で見るものと、0が一つ、物によっては二つ違う。
バイトしているとはいえ、簡単に出せる金額じゃない。
「働くようになるとバンバン買えちゃうものなのかな?」
「んー?」
「自由になるお金は増えるやろなぁ」
「社会人になると金銭感覚が10倍変わるって聞いたことあるよ」
「まぁ、アキもせいぜいバイト頑張らな」
「へぇ~。
三人の話を黙って聞いていたら、話を振られた。
「ん? イヌ子が働いているスーパーの隣だぞ。川本って酒屋だな」
なでしこにはバイトしているという話だけで場所は教えてなかったし、斉藤はこの話自体初耳だ。
「そうだ、バイトで思い出した!」
社員の人が言ってた話を思い出した。
「新しい歴史の先生」
「
「そうそう。あの先生、ウチのバイト先で『グビ姉』って
「「「グビ姉?」」」」
「毎日欠かさず夕方にフラッと現れ、ビール6缶パックを買って帰るらしい」
まあ、わたしは買っているところを見たことがないけど。
「へえー。お酒好きなんだねー」
「それだけでも凄い話だろ? だがな、あるバイトの人が『毎日買われるのなら、ケースで買われた方がお買得ですよ』って、言ったらしい」
「それでどうなったん?」
「その次の日から、一日おきに、勧められた『箱買い』をするようになったとか……」
「それ、一日に呑む量増えてるよね?」
「だな」
「ん……」
「どうしたん? なでしこちゃん?」
お酒に関する話をしていた横で、なでしこは顎に手を当てなにか考え事をしている。
「いや。鳥羽先生、前に何処かで会ってる気がするんだよね……。気のせいかもしれないんだけど」
「そうなん? 新任の先生って話やし、浜松の方から来たんかな?」
「いやいや、そんな前じゃなくて。最近だよ」
他人の空似じゃないのか?
「でも、案外近くに住んでるかもしれんし、見たことあっても不思議じゃないと思うで」
イヌ子の言うことにも一理あるなぁ……。
「そういえば、なでしこちゃん。何で本栖高校に転校したん?
ふと、イヌ子の口から飛び出した言葉に、わたしは
この事は、わたしも何となく気になっていた。
「南部町には高校、無いんだよねぇ」
「そうだね。一番近いのが身延高校だね」
「それで、今、この辺りの高校が統合されるって話があるよね」
「あるなぁ。
「私も聞いたことあるよ。なぜか、本栖高校は対象外だよね」
「せやなぁ。謎やね……」
「不思議だよねぇ」
謎だ。でも、気にしたら負けだ。
「最初はその中に身延高校も含まれてたらしくて、『高校が無くなる!』って早合点したお父さんが、その話と関係のない本栖高校を勧めてくれたんだよ!」
「なるほどなぁ。そういう理由なんやね……。どしたんアキ?」
「えっ?」
急に振られて我に返る。
「何か考えとるん?」
「いや……。トラ先輩ってどの辺に住んでるのかな? って。今のなでしこの話聞いて気になってさぁ。本栖高校遠くないかな……って」
これ、話の流れで違和感なく、トラ先輩のことを聞けるチャンスかも。
「確かに遠いね。何で本栖高校に入学したんだろう?」
「なでしこ、トラ先輩の家知ってるのか?」
今の言い方。まさか。
「うん。
「「「えっ?」」」
今の一言に、三人揃って固まる。
「マ、マジか……」
「凄いわぁ……」
「恐るべし……」
わたしやイヌ子はまだしも、斉藤までもが固まった。
「市川? の方が近いよね? 前、お姉ちゃんの運転で木明荘行ったとき、そっちの方を通ったんだけど、結構ひらけてたよ。南部町や身延町より家も多かったし、交通量も多かったよ」
そりゃあそうだ。あっちの方は甲府盆地で、この辺りの山間部とは大違い。
って、今はそれどころではない。
「先輩、テント持っとるって言っとったけど、そういうことやったんか……」
イヌ子の驚きも分かる。
しかし、わたしはそれ以上に驚き動揺している。
「どしたんアキ? 顔真っ青やで?」
「本当だ。大垣さん体調悪いの?」
「アキちゃん大丈夫?」
とんでもないことに気づき、わたしはわなわな震えている状態。それが顔にも出ているらしい。
「だ、大丈夫だよ。そろそろ買うもん買って帰ろうぜ!」
この後、お買得品の銀マットを購入して店を出て、身延まんじゅうを買って食べて帰ったのだが、わたしはその辺の記憶が殆どない。
取り急ぎ、家族へ連絡しておこう……。そう思い、電車に乗って母へラインをしたことだけは、覚えている。
へやキャン△
母:大丈夫だけど、どうしたの?
千明:布団の向きなんだけどさ
千明:枕、逆にしていい?
母:急に何?
千明:訳は聞かないでくれ
母:あんた今、北に足向けてるんだっけ?
母:北に誰か住んでるの?
千明:そこまで分かったのなら、尚聞かないで欲しい……
前回、話したところの続きから……。山梨県へ取材へ行ったときのお話です。
ほったらかし温泉で一時間待ちと言われながらも、40分ぐらい待って入浴できました。
アニメで見たのと同じ景色に感動しましたね。まあ、富士山は見えませんでしたが(汗)
入浴後は、フルーツ公園へ。
なでしこたちが写真を撮った見晴らしスペースに行くと、今度は富士山が見えました……! 感動です。
その後、甲府市・笛吹市を経由し、四尾連湖へ向かう県道を、県道の終点まで行きました。
一応、四尾連湖は二つのキャンプ場の私有地ということなので、湖は見ずに引き返して、409号から414号へ入り、本栖湖へ向かいました。
途中、リンの家の前(モデルとなった場所。水防倉庫)を通っている筈ですが、記憶がありません(汗)
武田書店のモデルとなった、古関郵便局旧局舎 は忘れずに写真に収めてあります。
今回はここまでです。
さて。これにて期末試験に関するお話が終わりました。
この後、原作では 試験休みに伊那へキャンプ場&なでしこ風邪 のお話へ向かうわけですが、滝野は別行動の予定ですので、オリジナルストーリーを数話挟むことになります。
今後とも宜しくお願いします。