ブランケット先輩
国道52号線。山梨県甲府市と静岡県富士市とを結ぶ、重要かつ唯一の街道……。途中、南部町や身延町を経由する。
並行して中部横断道の建設が進められているが、開通はまだ先の話だ。
『静岡県富士宮市』県境を通過した。
俺は今、バイクでこの街道を南下している。
何故かって? それは、数日前に
さやか:やっほー
さやか:前言った通り、クリスマスはそっち行くから、よろしく
純一:マジで来るのか
さやか:ダメなの?
純一:いや。大歓迎
さやか:良かった
さやか:お母さんと一緒に行くから
さやか:お土産持っていくから、お土産よろしくね
純一:何で?
さやか:要らないの?
純一:違う~!
純一:何でこっちも土産用意しないかんの?
さやか:だって~!
さやか:せっかく山梨行くんだし
さやか:そっちのものも食べたいじゃん?
さやか:うなぎパイ、用意しておいてね♡
純一:なんだその気味悪いのは
さやか:失礼ね!
純一:というか、うなぎパイは浜松の名物だろ?
純一:ここは山梨だぞ
さやか:お兄ちゃん、可愛い妹のために用意してよ。食べたいんだもん
純一:道中買ってこい
純一:浜松通るだろ?
さやか:ごめーん(汗)
さやか:高速バス予約したから、そっち通らないんだって
さやか:
さやか:だから、うなぎパイ用意して
純一:…………
純一:了解
さやか:マジ?
さやか:ありがとう!
さやか:お兄ちゃん大好き❤️
純一:だからその気味悪いのやめろ
と、まあ。こんな訳で『うなぎパイ』を買いに、浜松へ向かっている。
幸い、バイクがまだ代車のトリシティ155だから、高速道路を走れる。なので、直接買いに行くことにした。
新清水インターチェンジから新東名高速道路へ入る。
人生初、自分の運転するバイクでの高速道路だ。
事前にネットで『バイクで高速を走るとき』等の情報・豆知識はチェックしておいたけれど、実際に走るのはどうだろう?
まずは料金所。ETCは使えないから、『一般レーン』で通行券を受け取る。無くさないように大切にしまっておく。
えっと、方面を確認。俺が向かうのは『名古屋』方面だな……。
分岐点を間違いなく通過し、長めのランプを走る。そして加速車線で十分に加速して本線へ合流。
乗ってしまった……。
初めて高速を走るという、感動・喜びよりも、失敗・過ちみたいな感じが強い。
なんというか、恐ろしい……。本当に『乗ってしまった』という感じがする。
後ろから来る車に次々と抜かれて行く。
一応、このトリシティは、三輪だが三輪車という扱いにはならない らしく、制限速度は100キロ。
しかし、怖くてそんなに出せない。
他の車の邪魔にならないよう、端の方をゆっくり走ろう……。
新清水ジャンクションを通過。
近い将来、ここから山梨方面へ中部横断道が延びる予定だ。これが開通したら、身延町周辺の交通網は劇的に変化するのだろう……。
なんて考えながら走っていくと、新静岡インターチェンジを過ぎた。
するとどうだろう。ここから、制限速度が110キロに変わった。*1
100キロでさえ怖くて出せないのに、その上の110キロなんて無茶だ……。
なんというか、走りにくい。
高速道路を走れるとはいえ、そこまでパワーがないから、速度が出ない。さっきは『出せない』と言ったけど、実際は『出ない』だった。
だから、周りの車は普通に追い越して行く。
あーあ。制限速度110キロだからって、あんなに飛ばして……。
みんな、あんなに急いでどこへ行こうとしてるんだ? トイレ……?
途中のパーキングエリアで何度か休憩しながら、なんとか
通行料金を精算するとき、料金所の係員に驚かれたのは内緒だ。
『そのバイクで清水から来たの!』って言っていたから、あの人もバイクに詳しいのだろう。
適当に走って行くと、変わったものを発見し、バイクを止めた。
「トイレ……?」
でかいミカンがある。
トイレらしい。
そうか、三ヶ日といえばミカンで有名だ。だからトイレもそれを模して作られているんだろう。
えっとここは……、
写真を撮る。
さて、誰に送ろう……。
滝野:【画像】
いつ返事が来るかな……。
お。もう来た。
リン:どこですか、そこ?
リン:そもそも何ですか?
滝野:トイレ
リン:なぜ、ミカンがトイレに?
滝野:有名だからじゃない?
リン:有名って
リン:先輩、イマココですか?
リン:間違えました。今何処ですか?
滝野:浜松市
リン:……?
リン:…………!
リン:くぁwdrftgyふじこlp
あ、リンちゃんが壊れた……。
すぐに返信が来る感じではないので、取りあえず進もう。
スマホを鞄にしまい、バイクを発進させる。
しばらく道なりに適当に走って行く。
「おお!」
浜名湖が見えた。
一周すると70キロ位あるらしい。
海と繋がっているから、多少足を伸ばせば海も見れるのだろう。
海無し県民の性、海も見たいなぁ……。*3
リン:失礼しました。
リン:因みに、今私は
リン:【画像】
リン:ミニソースかつ丼食べました
滝野:美味しそうだな
滝野:この辺り、鰻屋ばかり
滝野:こんなの食べたら財布が即死だわ(汗)
リン:デスヨネー
滝野:無難に、浜松SAでラーメン餃子セット食べた
リン:そういえば、浜松は鰻だけじゃなくて、餃子も有名ですね
滝野:あと、YAMAHA
リン:YAMAHA
リンちゃんのビーノ、俺のビーノ。そして、今乗ってるトリシティ。どれもヤマハ製だ。
最も、俺のビーノは台湾のヤマハだけど……。
滝野:あとで海の写真撮って送るよ
リン:お願いします
リン:私も何かしら送ります
滝野:よろしく
この辺りまで来れば、割と何処でもうなぎパイが手に入る。
バイクの振動で割れてしまうかもしれないが、それはある程度仕方ない。
買うものも買ったし、海でも見て帰ろうかな……と、そんなことを考えながら走っていたら、なにやら違和感が……。
安全な場所を見つけてバイクを停める。
「えっと? あ~!」
良く見ると、後輪がパンクしていた。
「マジか……。こんなところで」
よりによって遠出中の見知らぬ場所でパンクするとは……。
どうしよう? ロードサービス呼ぶか。それとも近くのバイク屋を探すか。ガソスタ……で、タイヤ交換出来るのか? そもそも。
「そこのお兄さん、どうしたのー?」
色々と考えていたら、後ろから声がした。俺に話し掛けているのか?
「えっと……?」
振り向くと、女の子が一人立っていた。
回りを見渡すが、俺とその女の子しかいない。
「あなただよ。お兄さん」
ニット帽を被ってて、両手を着ているパーカーのポケットに入れている。
中学生……高校生だろうか。
「あちゃー。パンクだねぇ。大丈夫?」
バイクの異変に気付いたのか、後輪を覗き込む。
「大丈夫じゃない……。どうしようか?」
「それ私に聞くの? どうするかはお兄さん次第だよ~。あたしがその手助け出来るなら、やってあげるけどさ」
やや気だるげな話し方。わざとではなくデフォルトらしい。表情は至って真面目だから。
「あ、えっと……」
冷静に考えれば、治すしかないよなぁ。場所の問題。
「パンク修理出来るところ。近くに無いかな?」
「すぐ近くに、あたしが普段から
女の子の先導で、バイクをゆっくり押しながら歩く。
「ここ、あたしが普段お世話になってるお店だよ」
本当にすぐ近くだ。
なんなら、俺が停まっていた場所から見えていた。
慌てると視野が狭くなるんだな……。反省。
しかし。
「良くこんなお店知ってるね」
幾つか分からないけど、この年頃の女の子が懇意にしてるって、不思議だ。
「この辺り、バイクに乗ってる女子高生少ないから。友達にもそういう子いなくて。だから話し相手も居ないからさ……。入り浸ってたら顔馴染みになっちゃったの」
高校生だったか……。この子もバイクに乗るのか。なら、全然不思議ではない。
駐輪場にバイクを停め、入店する。
「おや、アヤちゃん。いらっしゃい、今日はどうしたの?」
「どうも~。急にごめんなさい」
入ってすぐ、入口近くに立っていた作業着姿の人から声掛けられている。
顔馴染みというのは本当らしい。
「そこのお兄さんのバイク、パンクしちゃったみたいでね」
「どれ?」
どれ、というのは車種のことか?
「えっと、トリシティです」
「どのタイヤ?」
「後輪です」
「125?」
「いえ。155です」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。流石バイク屋。
手にしているバインダーに挟まれた紙を繰っている。
「えっと、トリシティ155後輪……。良かったな。125の後輪は切らしてるけど、155のなら在庫あるからすぐ交換できるよ」
良かった……。もし、取り寄せだったら数日間足止めになる可能性もあっただろうし、危ないところだった。
「今ピット空いてるから、すぐ始めるからね。ちょっと待ってて」
「よろしくお願いします」
「ああ、バイクはどこに?」
「駐輪場に停まってます」
…………。
「お兄さん、山梨から来たんだ?」
待合室の椅子に座っていると、トイレに行っていた女の子がやってきた。
俺の隣に座る。手には俺が奢ったお汁粉の缶。
「ああ。山梨県の市川三郷町から」
「どの辺だろ? ちょっとわかんないや」
まあ、そうだろう。
「甲府市と身延町の中間辺りだな。わかるかな? わかんねぇだろうなぁ」
「わかんない。あ、そのネタは知ってるよ。シャバダバディ~。イェーイ! だよね?」*4
マジで? お汁粉を選んだし、このネタ知ってるし。実はこの子、俺よりかなり歳上? な訳ないよな……。高校生って言ってたし。
「静岡県って広いよな。俺今日軽く100㎞ぐらい高速走ったんだよ。で、今ここに居るって訳なんだけど。それでも静岡県から出れてないんだよな」
「同じ静岡県の伊豆半島がここから200㎞以上離れてるからねぇ。愛知県の方が近いんだよ。一つ山越えれば豊橋だもん」
「そっか。確かに。でも、そう考えると面白いよな。山梨県の南部町だって隣は静岡市だし。甲府行くより近いんだから」
そう考えれば早川町なんて、もはや秘境だな。
「南部町か……」
ん? 何か引っ掛かったらしい。
「私の友達、南部町に引っ越しちゃったんですよね……。元気にやってるかなぁ」
待て。南部町に友達……。
確か、この子さっき『アヤちゃん』と呼ばれていたよな。そして、彼女自身バイクに乗っている、と言っていた。
被っているニット帽で隠れているが、覗いている髪は
「あのさ。差し支えなければその帽子、脱いでもらっていい?」
「えっ? 良いけど、何で?」
そう言いながらも帽子を脱ぐ。
……やっぱり!
「土岐……
「えっ? はい。……何故私の名前を?」
「俺、滝野 純一。ブランケットと言えば分かる?」
「ああ! ブランケット先輩!」
こんな偶然、あるんだ。
世の中狭いんだな。
浜松編、スタートしました。
完全オリジナルストーリーとなります。
そんなわけで、当分山梨側の登場人物は出てきません……。お待ちください。
途中、リンちゃんと滝野のラインの中で、『中の人』に関するちょっとしたネタを突っ込みました。お分かりいただけたでしょうか?