【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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祝 映画ゆるキャン△ Blu-ray・DVD発売決定!




 土岐さんの家

 

無事、パンク修理が終わった。

 

代金を支払い、お礼を言って店を出る。

 

土岐さんも一緒だ。

 

「それじゃあ、俺はこれから帰るよ。色々ありがとう」

 

待っている間、色々な話をした。

 

俺のこと、土岐さんのこと、各務原(かがみはら)さんのこと……。

 

正直言うと話足りない。もっともっといろんな話がしたい。

 

でも、帰らないとね。家まで遠いから。

 

お礼を言って立ち去ろうとしたら、終始のほほんとした表情だった土岐さんが、驚いた顔になった。

 

「えっ? 今から帰るんですか? こんな時間から?」

 

パンク修理で時間を取られ、辺りは既に真っ暗だ。

 

「今から新東名走るとか、無謀すぎですよ。これから大型トラックどんどん増えますし、めっちゃ(あお)られますよ。気象的にも物理的にも」

 

確かに。

 

「といっても、どうしろと? 今から泊まれる所なんてあるかな……」

 

観光地である浜名湖が近いから、お金に糸目をつけなければ、何ヵ所でも空いているホテルは有るだろう。

 

しかし、俺も決してお金持ちじゃない。

 

高速代、ガソリン代、お土産代。父から幾らか貰ったが、余裕のある額ではない。

 

「……ならさ。あたしの家に泊まりませんか?」

 

……。

 

…………は?

 

「急に何言ってんの! 今日知り合ったばっかの男を家に連れ込むとか、頭おかしいでしょ!」

 

「酷い言い草ですね……」

 

俺の言葉に呆れる土岐さん。しかし、間違ったことを言ったとは思ってない。

 

「大丈夫ですよ。なでしことは家族ぐるみの付き合いだったし、よく泊まりにきてましたよ。その先輩なんですから、親も歓迎してくれますって。それに、あたし一人っ子だから、変な遠慮は要りませんよ。空いてる部屋もあるし」

 

「そういう問題じゃないと思うんだけど」

 

「せっかく会えたんだし、もっといろんな話もしたいです」

 

俺の話を?

 

「お兄さんの話は、なでしこから一杯聞いてます。でも、なでしこ自身の近況はあまり教えてくれないんですよね。こちらから催促したら、心配しすぎって言われそうだから……」

 

えっと? 俺の話ではなく、俺から聞ける各務原さんの話が聞きたいのか……。

 

「さっきも聞きましたけど、全然足りません。もっともっと話したいです」

 

「まあ、俺も同じこと思ってるけどさ……」

 

「なら決まりですね」

 

いやいやいや。決まってないから!

 

 

 

 

 

 

 

結局、土岐さんの家に一晩お世話になることに。

 

さっき電話してたけど、『なでしこの高校の先輩』とは言っていたが、男であることは言わなかったと思う。

 

大丈夫だろうか? 親御さん勝手に女の子だと思っていたりしない?

 

「よし、じゃあ出発しましょう。あ、お兄さん二人乗り大丈夫ですよね?」

 

えっ?

 

「ああ、大丈夫だよ。ヘルメットはこれね……。入る?」

 

先日、大垣(おおがき)さんを乗せるために積んで、そのままになっているヘルメットを渡す。

 

「大丈夫です。道案内は私がしますんで、お兄さんはその通り走ってください」

 

土岐さんが後ろに乗り、俺は言われた通りにバイクを走らせる。

 

周りは暗く、土地勘が無いから何処を走っているかはさっぱりだが、いつも俺が走っている山梨の道より、断然交通量が多い。

 

しかし、一つ気になった。

 

「土岐さん」

 

「何ですか?」

 

走行中だから、少し大きめの声で話す。

 

「さっきの話振りだと、土岐さんもバイクに乗ってるんだよね?」

 

「はい。そうですよ」

 

「じゃあ、なんでバイクに乗ってないの?」

 

「いやいや、乗ってますって」

 

「違う違う。今乗ってなかった理由」

 

「散歩ですよ」

 

信号が赤になり、ゆっくり停止。

 

「普段、バイクばかり乗ってますから、運動を兼ねて散歩してました」

 

「家、まだ先みたいだけど、あんなところまで徒歩で?」

 

「もちろん、バスにも乗りましたよ。適当に乗って、降りて。適当に歩いていたらお兄さんに出くわした、って訳ですよ。偶然って凄いですよね」

 

偶然、か。確かにそうだな。

 

「信号変わりましたよ」

 

「あ、本当だ。動くよ」

 

ゆっくり発進。

 

 

 

「その信号を左折して、三軒目です」

 

「了解」

 

点滅している信号を、一時停止の後左折。

 

えっと、三軒目……。あった。

 

表札に『Toki』と書かれているからこの家で間違いないだろう……。

 

「着いたよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

玄関の前にバイクを停車させた。

 

脇のガレージには、軽自動車が一台止まっていて、その脇にはバイクが一台。

 

「土岐さん、バイクはどこに停めれば良いの?」

 

「エイプの隣で良いです」

 

エイプ? ……バイクの名前だろうか。

 

「エイプって、このバイクの名前?」

 

そう聞きながら隣に停め、近くの柱へチェーンロックを回す。

 

「はい。ホンダのエイプですよ」

 

「へぇ……。って、なにこれ?」

 

ナンバープレートがピンクだから、俺のビーノと同じく原付二種か。と、思ったら、見たことの無い変な形のナンバープレートが付いている。

 

「可愛いですよね。浜松市のご当地ナンバーですよ」*1

 

確かに可愛い。

 

でも、市川三郷町には無いんだよな……。身延町も*2

 

俺のビーノもリンちゃんのビーノも、至って普通のナンバープレートが付いている。

 

もちろん、原付ではないこのバイクには、普通の山梨ナンバーが付いている。

 

 

 

言われた通りにバイクを止め、一緒に家へ。

 

「ただいま~」

 

「お邪魔します……」

 

土岐さんに続いて入る。

 

綾乃(あやの)お帰り。おお、君が滝野(たきの)くんだね」

 

お父さんらしき男性に迎えられる。あれ? 完全に普通の歓迎モードだな。

 

「なでしこちゃんから綾乃に送られて来てる写真で見てるよ。バイクに乗っていて、トランペットが得意なんだって? ああ、家がキャンプ場だとか?」

 

各務原さんからの情報、恐るべし……。

 

つまり、俺が男であることは知っていたんだ。

 

「えっと、はじめまして。滝野 純一(じゅんいち)と申します。今日はお世話になります……」

 

あんなに俺のことを知っているのなら、これ以上の自己紹介は不要だろう。

 

「山梨から遠路遥々お疲れ様だね。お風呂入ってるからさ、先にどうぞ」

 

「お、お風呂ですか?」

 

「綾乃から連絡もらって、真っ先に沸かしておいたよ」

 

「あ。えっと……」

 

有り難い話だが、客人である俺が先で良いのだろうか。というか、タオルや着替えは?

 

「お兄さん、早くしないとあたしも一緒に入っちゃいますよー」

 

……は? 何言ってるのこの人!

 

「急に驚いているだろ。いくらなでしこちゃんの話を聞きたいからって、お風呂にまで押し掛けたら迷惑だろう」

 

「えー。大丈夫だよ。それに、今日はお母さん夜勤だし、お風呂は早いうちに済ませた方が良いよ」

 

「じゃあ、三人で入るか?」

 

「狭いからヤダ」

 

……話の論点がずれてませんかね? 初めて家を訪ねてきた男と、一人娘が混浴しようとしているのに。

 

「それじゃあ、お風呂いただきますね」

 

埒が開かない気がしたので、そおっと歩き出す。

 

あ、お風呂はどっちだ?

 

というか、今まで玄関で立ち話をしていたんだ。

 

「それじゃあ、着替え用意しておきますね。お風呂は右手の奥ですよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お風呂に入り、用意されていた服(お父さんのだろう)を着て、リビングへ。

 

「お風呂、先にいただきました」

 

「どうも」

 

「ん~」

 

お父さんはキッチンに立っていて、土岐さんはソファーに転がって読書中。

 

「綾乃、次入れ」

 

「ちょっと待って。今良いところー」

 

俺への返事も、お父さんの呼び掛けにも、本から目を逸らさずに言っていた。よっぽど面白いのだろう。何読んでいるんだ? ……漫画か。

 

「土岐さん。それ何?」

 

「ん? ほい」

 

本からは目を離さず、体を180°回転させて、俺にタイトルが見えるようにした。つまり、土岐さん自身は寝転がっている形だ……。

 

「えっと?」

 

『……の刃』『遊……入大作戦』? この位置からだと一部の文字がよく分からない。だからといってあまり顔を近付け過ぎるのもあれだ。後で調べてみよう。

 

しかし、なんだか物騒なタイトルだな。

 

「面白いの。それ?」

 

「めちゃくちゃ面白いですよ。でも、クラスの子は誰も読んでなくて。今あたしがみんなに布教してまーす」

 

布教て……。

 

「何で皆知らないんだろう? 数年後、絶対ヒットしますよ、これ。因みに、これは最新巻の『遊郭(ゆうかく)潜入大作戦』です*3

 

そうですか……。

 

 

 

 

 

 

 

しかし眠いな……。

 

初めて長距離走ったから疲れているのだろう。

 

このあと、三人で夕食をいただき、色々な話をしたんだけど、あまり記憶にない。

 

土岐さんから『綾乃と呼んで』と言われたこと、『綾乃のお父さんは吹奏楽経験者』、『綾乃のお祖父さんも昔はバイクに乗っていた』という話は覚えている。

 

 

いつの間にか寝ていた。

 

 

 

*1
浜松市が2013年1月より交付している『ご当地ナンバープレート』(デザインナンバープレート・オリジナルナンバープレート)とも。

下記挿絵参照 ※見本写真です

 

【挿絵表示】

*2
身延町も2022年1月よりご当地ナンバープレートを交付している。但し、本作より後のため、登場予定はありません。

*3
詳しく語られていないためタイトルの詳細は伏せるが、綾乃の予想通り本作の数年後に大ヒットするあの作品。

この時点で9巻まで発売されている。綾乃が口にしたのはその9巻の副題。





最近では、普通の車のナンバープレートも、いわゆるデザインナンバーが増えてます。

私の住んでいるところは、原付のナンバーも車のナンバーも、デザインナンバー対象外の地域なんですよね……。隣町へ行けばあるんですが、その為だけにナンバー取得を他所でするのも面倒ですし(汗)

皆様は如何でしょう?


さておき、前書きに記載した通り、映画ゆるキャン△のBlu-rayとDVDの発売が決まりましたね!

私はまだ買うか決めていませんが、嬉しい話です。


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