【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 近いようで遠くて、やっぱり近い

 

さっき通り過ぎた『浜松いなさインターチェンジ』から新東名高速道路に乗る。

 

通行券を受け取り、財布の中へしまう。

 

このインターは引佐(いなさ)連絡線にあるので、本線に合流してから、ジャンクションで新東名の本線に合流。

 

浜松SAには一昨日・昨日で上下線両方に入ったので、次の『遠州森町PA』で休憩。

 

お昼御飯にちょうど良い時間なので、フードコートへ。

 

『もりかけ屋』……。国会中継を思い出す店名だ……。

 

うどん・そばがメインのお店だ。しかし、中華そばもある。

 

ここは無難に……中華そばだな。

 

【挿絵表示】

 

「そうか。一昨日パンクしていたのか……」

 

食べ終わってもすぐには出発出来ないので、新城(しんしろ)さんと雑談。

 

「はい。突然のことで慌ててしまいました……」

 

あの時は本当に焦った。綾乃(あやの)が来なかったら、どうなっていただろう。

 

「知らない土地だったからな、尚慌てるだろう。私も似たような経験はあるから分かるよ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。山奥で急にエンストしてエンジン掛からなくなった。携帯は圏外だったから、焦ってしまってな。原因がガス欠ということにすぐに気づけなかったよ」

 

「その時はどうなったんですか?」

 

「携行缶を積んでいることを思い出して、給油して近くのスタンドに駆け込んだよ。慌てると回りが見えなくなるものだ」

 

一昨日の俺も似ている……。

 

「分かります。俺も綾乃に言われるまで、すぐのところにバイクのお店があるのに気付きませんでした」

 

「まあ、無事に直ったようだし、良かったじゃないか」

 

その通り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新清水インターチェンジを降り、国道52号線を北上。

 

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『山梨県南部町』県境を通過し、山梨県へ帰ってきた。

 

ETCを搭載している新城さんのバイクは、インターチェンジの料金所で一瞬先になったが、そこ以外ではずっと俺の後を走っている。

 

トリシティとトライアンフ。バイクに詳しい人から見れば、『これ、順番逆じゃ?』と思われかねない光景だ……。

 

 

あ。たけのこタワー。『道の駅とみざわ』に設置されているたけのこタワーが見えてきた。

 

【挿絵表示】

 

最初見たときは驚いたが、実は中に公衆電話があるだけのモニュメント。筍が旧富沢町の特産品だとか……?

 

ここまで来れば、あと一時間ぐらいで帰れる。

 

しかし、『あと少し』というところで油断してしまうと、大事故に繋がりかねない。山梨へ入ったんだし、休憩して行こう。

 

後ろの新城さんに分かるよう、手で合図をする。

 

入口の交差点を左折して、駐輪場にバイクとめた。

 

「あれ……?」

 

隣には、見覚えのあるスクーターがとまっていた。

 

ナンバー……『身延町 み376-66』*1って、マジか!

 

「あれ? 滝野(たきの)先輩?」

 

この声は……。

 

「リンちゃん?」

 

やっぱり。リンちゃんのビーノだった。

 

当人が現れた。というか、俺の後ろに立っていた。

 

「って、お祖父ちゃん?」

 

隣の新城さんにも気付く。

 

「リンじゃないか。久し振りだな」

 

「うん、久し振り。こんなところでどうしたの?」

 

「キャンプに行く途中だよ。滝野くんと一緒に走ってきたんだ」

 

そう言われると俺の方を見た。(うなづ)いて返事する。

 

「へぇ……。浜松からですか?」

 

「うん。新城さんの家から」

 

「お祖父ちゃん家! あの山の中から? マジですか……」

 

リンちゃんに驚かれた。そんな、信じられないって目で見ないでよ!

 

「リン、お前も他人のことは言えないだろう。一昨日は伊那(いな)に行ってきたそうじゃないか」

 

この辺りから長野の伊那だと、直線距離なら割と近いが、南アルプスが(そび)え立っているので、中央自動車道や東海道新幹線のように、大きく迂回しなければならない。

 

「そんなに遠くなかったよ」

 

近いようで遠くて、やっぱり近い。

 

恵那ちゃんにはあんなことを言っておきながら、免許とって最初のバイク旅が諏訪湖の更に先だったし。彼女にしてみれば近いんだろう。

 

まあ、これが血筋だろうか……。

 

(ずる)いなぁ……」

 

リンちゃんがぼそっと呟く。

 

狡い。か。

 

恐らく、俺と新城さんがここまでツーリングしてきたことに関してだろう。

 

『私も一緒に走りたった』と思っているのかもしれない。

 

ならば、俺はさっさとこの場を去ろう。

 

「ちょっとトイレ行って来ます」

 

声を掛けてこの場を離れる。

 

 

 

 

 

 

「さてと。トイレも済ませたし、俺はそろそろ出発しますね」

 

新城さんはこのまま52号を北上していけば良いが、俺は富士川を渡ってしまった方が早い。

 

「ああ。あと少しだろうが、気を付けて」

 

「二日間、ありがとうございました。リンちゃんは明後日学校でね」

 

「はい。先輩、気を付けて帰ってください」

 

二人に見送られながら、道の駅を出発する。

 

さあ、あと少しだ。気を引き締めて帰ろう。

 

……そういえば、リンちゃんはなぜ彼処(あそこ)に居たんだろう?

 

 

 

国道52号線を外れ、南部橋で富士川を渡る。

 

ん? 橋の右岸脇にある家に、見覚えのある車が止まっていた。

 

一瞬でナンバーが確認できなかったけれど、今度こそ他車の空似だろう。三度目の正直だと思いたい……。

 

 

 

橋を渡って左折。

 

県道10号線に入り、北上を続ける。

 

そういえば、このまま進めばカリブー身延店の前を通るな……。

 

顔出して行くか……止めておこう。早く帰りたいし、うちの御用達は甲府店だ。

 

建設中の中部横断道を横目に走る。

 

このバイクなら、開通後の高速道路も走れる。これがあればもっと早く帰れるんだけど……。

 

とはいえ、ビーノが帰ってきたら乗れない。

 

原付の場合、車両に対する制限速度30㎞/Hがある。

 

原付二種にはそれが無いので、道路に対する制限速度、自専道*2が走れないから最高で60㎞/H。

 

しかし、このバイクだと高速道路が走れるから、新東名みたいに110㎞/Hの場合もある。

 

長々と語ったが、何が言いたいかというと、俺には最高60㎞/Hのスピードが合っている。

 

高速は走れなくても、今は困らないし、そんなに遠出するにしても、やっぱりあのビーノが良い。

 

早くビーノに乗りたくなってきたなぁ……。否。

 

トランペットが吹きたい……!

 

 

早く帰ろう。トランペットを吹くために! もちろん、安全運転で。

 

\オイコラ!/

 

……ん? 遠くの方から何か聞こえたような?

 

 

 

富山(とみやま)橋の交差点を右折し、国道300号線本栖みちへ入る。

 

本栖高校の近くを通り、いつもの下校ルートへ入る。

 

下部隧道を抜け、県道414号線へ。

 

走り慣れた山道を、いつも通り走ってゆく。

 

そして『おかえりなさい 一日ご苦労さまでした』と書かれた農機具庫(?)の前を通る。

 

【挿絵表示】

 

この文字は市川三郷町方面に走っていると見れるので、水曜日の夕方以来、三日振りに見る。

 

ほぼ毎日見ているから、数日見ないだけでやけに懐かしく感じる。

 

こういうのも人の性だろうか……?

 

市川三郷町に入り、県道409号線へ。

 

 

 

やっとついた~!

 

我が家、四尾連湖木明荘の入口に到着した。

 

「あ、父さん?」

 

『お、純一。帰ってきたのか?』

 

「うん。今行って大丈夫?」

 

『えっと。大丈夫だぞ。出ていく車は無いから』

 

「ありがとう」

 

車の確認の電話をし、進んで行く。

 

そして……。

 

家に到着。

 

父さんが出迎えてくれている。

 

「お帰り、純一」

 

そう、声掛けられた。

 

「ただいま」

 

だから、俺はこう返した。

 

 

 

 

余談だが、俺が最初に買った方のうなぎパイは、見事に割れていた。

 

流石に粉々では無かったものの、ちょっと悲しいことになってしまった。まあ、食べるのはさやかたちだし、問題ないだろう……。

 

因みに、綾乃からもらったやつは無事だった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 へやキャン△

 

 

 

「行ってきます~!」

 

元気良く玄関扉を開け放つなでしこ。

 

「ちゃんとスマホ持った?」

 

「大丈夫だよ~」

 

前科があるからちゃんと確認をしておく。

 

「なら良いわ。気を付けて行ってくるのよ」

 

「はーい!」

 

一昨日、風邪を引いたなでしこは、リンちゃんとのキャンプ計画が御破算となり、憂さ晴らしにとカリブーへ出掛けていった。

 

キャンプ道具を眺めて気分を味わってくるらしい……。

 

さてと。今日はどうしようか……。

 

お母さんとお父さんは買い物に出掛けてしまったし、家には私一人だ。

 

土曜日だから特に用事もない。

 

……ん? 電話が鳴りだした。

 

「はい。各務原です」

 

『あ、お姉さん? あたし、土岐 綾乃です』

 

なでしこの幼馴染みのアヤちゃんからだ。

 

「アヤちゃん。久し振りね。元気だった?」

 

なでしこはラインで定期的に連絡をとっているみたいだけど、私は久し振りに話す。

 

『はい。こちらこそ、お久し振りです。桜さんもお元気そうでなりより』

 

「ありがとう。あ……、なでしこ、ちょうど出掛けちゃったところなの」

 

そういえば、なんで家に掛けてきたんだろう?

 

あの子への連絡なら、わざわざ家に掛けなくても良いはず。

 

『あ、いや。なでしこじゃなくても良いんです……。良いかは分からないけど』

 

……?

 

「どういうこと?」

 

『実は、少し困ったことになりまして……』

 

困ったこと、とは?

 

声色からして、そこまで緊急性のある内容ではなさそうだけど。

 

『お姉さん。滝野先輩ってご存知ですか?』

 

滝野……。滝野くん?

 

「滝野 純一くんのことかしら? なでしこの一つ上の」

 

『はい! ご存知なんですね』

 

「ええ。なでしこがお世話になってるから」

 

『そうなんですね。それで、あの……滝野先輩の連絡先って、分からないですよね……』

 

「分かるわよ」

 

『そうですか……。えっ!』

 

知らないと思い込んでいたんだろう。声色が途中で変わった。

 

「携帯の番号なら分かるけど……。どうして?」

 

今のご時世、他人の個人情報を易々と教えるのは良くない。理由は何だろう。

 

『実は、昨日こっちでお会いしたんですよ』

 

「こっちって、浜松?」

 

『はい』

 

あのバイクで浜松まで行ったの……。頑張るわね。

 

あ、今はトリシティか。

 

『それで、バイクに乗せてもらったんですよ。それ以降、私の携帯電話が見当たらなくて……。もしかしたら、バイクに紛れ込んじゃったんじゃないかって』

 

「なるほど、そういうことね。分かったわ」

 

スマホを取り出して、電話帳を開く。

 

「言って大丈夫?」

 

『はい。お願いします』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。滝野くんは浜松まで……」

 

電話を切り、家の中で一人呟く。

 

「念のため、お祖母ちゃん家、教えておこうかしら……」

 

 

 

 

*1
原作・アニメ共『本栖』になっているが、本作では現実に則り『身延町』とします

*2
自動車専用道路

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