【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 顧問

 

大垣(おおがき)さんに連れられて校庭へ。

 

いつも通り? 野クル部(のくるぶ)は校庭で焚き火をしているらしい。

 

しかし、見た感じだとジャージ姿の三人が焚き火を囲っている。一人多い。

 

各務原(かがみはら)さんと犬山(いぬやま)さんは確定だろう。あと一人は誰だ?

 

「お前ら~! 入隊希望者連れてきたぞ~」

 

入隊希望って。何なんだ?

 

「あ、滝野(たきの)先輩や」

 

「ブランケット先輩?」

 

やはり、犬山さんと各務原さんだった。

 

「あ、ミクちゃん!」

 

「恵那ちゃんだ!」

 

もう一人は恵那ちゃんだ。そういえばキャンプに参加するって、さっき大垣さんが言っていたな。

 

「ミクちゃんもキャンプに参加するの?」

 

「うん。滝野先輩が参加するって言うから、楽しそうだと思って」

 

そんな理由かよ。

 

「って、焚き火台があるじゃん」

 

ふと、焚き火の方を見たら、台の上に乗っていた。てっきり直火だと思っていたけど……。

 

「買ったんだ」

 

「ああ。最初はバイト代でコミコミ30,000円の焚き火台買おうとしたんですが、カート入れる直前に鼻血出たんです」

 

そりゃあ出るだろ。俺の所持金20,000円で鼻血出したんだから……。

 

「だから4,500円のこれにしました」

 

それでもそこそこの値段だな。

 

とはいえ、これで直火禁止のキャンプ場でも気にすることなく焚き火が出来るのだ。

 

「さて。それではクリキャン作戦会議始めるぞ」

 

ジャージ姿の各務原さん、犬山さん、大垣さん、恵那ちゃんと、制服のままの俺と可児。なんか、異様な光景だ。周りから変な目で見られなきゃ良いけど……。って、俺たちの他には誰も居ないか。

 

「えっと、日取りは24日と25日。場所は五湖周辺、ということだけ決まっています」

 

「まあ、富士山が見えて芝生で温泉が近いところ、って条件満たすキャンプ場は、中々厳しいやろな」

 

「その通り! そんなわけだから、只今絶賛検討中っす!」

 

ほお……。うちのキャンプ場は、一つも当てはまらん……。

 

大人数でワイワイするのにあのサイトは不向きだし、交通の便も悪い。風呂は無いし、富士山は見えない。

 

まあ、この辺りにはいいキャンプ場は沢山あるし、何処からしら該当するだろう……。

 

「あき! 鼻血出とる!」

 

「ほわっ!」

 

おっと。考え事してて話聞いてなかった。

 

って、何で大垣さん鼻血出してんの!

 

 

 

「斉藤さんも泊まりにしたんだよ」

 

「しかしまあ、45,000円の寝袋かぁ」

 

「斉藤、お前実は良いところのお嬢様なんじゃ……?」

 

「普通の家だよ」

 

聞いていなかった部分の話を纏めると、当初は日帰りの予定だった恵那ちゃんが、お父さんにお金を出してもらい、シュラフを購入して泊まりにしたとのこと。

 

そのシュラフが45,000円もするやつだったため、大垣さんは鼻血を出したらしい。

 

また、恵那ちゃんがプレゼント交換を提案したが、金銭的な面から見送られ、代わりに一人一つなにか『おもてなし』をしよう。という話になった。

 

「まぁ、持ち物の確認もしたし、プレゼント交換の代わりに、みんなそれぞれおもてなしをすることに決まったし。あとは当日を待つだけやな」

 

一部、聞きそびれてしまったけど、まあ大丈夫だろう。最悪、後で聞けば良いことだ。

 

「あ、キャンプに犬連れていってもいいかな?」

 

恵那ちゃんが思い出したように口を開く。

 

スマホを取り出し操作。……あ、チワワじゃないか。

 

「ふおおおぉ! チワワだー」

 

見せられた写真を見て、各務原さんが真っ先に歓声を上げた。その気持ち、分かる。めちゃくちゃ可愛い……。

 

「こいつ、ちくわ って名前なんだけど」

 

ちくわ…………? 竹輪?

 

「かわええな。連れて来てぇー!」

 

「じゃあ一緒に連れてくね。あ、先輩も大丈夫ですよね?」

 

「うん。構わないよ」

 

アレルギーとかを心配してくれたんだろう。最近はマナーの悪い飼い主も多い中、しっかりしている。ちくわも幸せ者だろう……。

 

「というか、俺も会いたい」

 

すごく可愛い。いかん、自然と顔がにやけてしまう。こんな顔を見せるわけには……。

 

って、みんな同じような顔してるじゃないか……。

 

「さて。じゃあ、お湯が沸いたらコーヒーにするか」

 

「「「はーい」」」

 

そんな時だった。

 

「ちょっと、あなた達!」

 

後ろの方から声がした。

 

「こんな所で何やってるの!」

 

この声は……?

 

「校庭で焚き火なんかして。火事になったらどうするつもりなの?」

 

鳥羽(とば)先生だった。

 

 

 

「先生。あたしたち、一応登山部の大町(おおまち)先生に許可をもらって焚き火をしています。野クル部の活動として」

 

大垣さんが説明をする。

 

「の、野クル部……?」

 

「野外活動サークル、略して野クル。それが部に昇格したので、野クル部です」

 

「そ、そうですか……」

 

流石に『野クル部』という名前には首を傾げていた。

 

「その活動として、大町先生に指導を受けています。最初の頃は立ち会ってもらい、消火器の使い方・火の後始末の仕方とか……。ちゃんと指導してもらいました」

 

「成る程ね。でも、火事になったら大変だし……」

 

「火消しの水が入ったバケツに、消火器も置いてます。それと、燃やすもの以外は近くに置かないように気を付けていますから、大丈夫ですよ」

 

「そこはしっかりしてるんですね……」

 

って、バケツに消火器! 本当に横に置いてあるし!

 

ベンチの影になっていて気付かなかった。これ、毎回ちゃんと用意していたんだな……。

 

あれ? いつの間にか可児が居なくなってる。何処に行った?

 

「みんな~!」

 

噂をすれば。可児の声だ。

 

「大町先生呼んできたよ~!」

 

声のする方を見れば、可児と大町先生が一緒に歩いてきていた。

 

 

 

「大町先生、生徒だけでの火の取り扱いは危険だと思います。火事になったら大変なことになりますよ!」

 

「最初のうちはあたしが立ち会いましたし、後始末の仕方や消火器の使い方を指導しましたから。大丈夫ですよ」

 

鳥羽先生と大町先生が話し合っている。

 

「火を使うときは一声掛けてくれてますから。な! 大垣」

 

「ういっす!」

 

大町先生が大垣さんにそう問い掛けると、元気よく返事をした。敬礼付きで。大町先生も敬礼で返す。

 

「まあ、今日は大垣の代わりに犬山が来ましたけど……。そんなわけで、代理を立ててでも報告に来てますから。大丈夫ですって」

 

そうか、大垣さんは音楽室に行っていたから代わりに……ね。どこか抜けているところはあっても、基本的にはしっかりしている。

 

大町先生が言っていた通りだ。

 

「ですが……」

 

それでも鳥羽先生は納得ずくの様子。

 

「とは言ってもねぇ。全く心配ないわけではありませんけど、あたしも他の部の顧問をしてますからねぇ。本当なら、部に昇格したので、正式な顧問を立てなければいけないんですが……」

 

そういえば。『部昇格申請書』、顧問の欄を空欄で出してしまったけど、大丈夫だったのか?

 

あの後、教頭先生から何も言われていないし、前に大垣さんが話していた感じだと、部費も出ているみたいだから、大丈夫だろうけど。

 

顧問教師が決まっていないのに、何も言われないというのも怖いな……。

 

あ、それに吹奏楽サークルの顧問も探さないと駄目だった。

 

一応、野クル部に於ける大町先生のように、吹奏楽サークルは田原(たはら)先生が顧問の代わりの仕事をしてくれている。

 

しかし、産休に入ってしまい今は不在だ。

 

これもどうにかしないと……。

 

「「「わ~!」」」

 

えっ? あ。いかん。また考え事をしてた。

 

えっと……?

 

「「「顧問がついた~!」」」

 

いつの間にか、大町先生は居なくなっていた。

 

そして、可児と野クル部のメンバー+恵那ちゃんは、先生の前で大喜び。俺は先生の横に立っている。

 

「や、やぶへび……」

 

鳥羽先生が呟いた。

 

「先生、ごめんなさい。考え事してて話聞いていなかったんですが、何があったんですか?」

 

それとなく先生に聞いてみる。

 

「半ば強引に顧問をお願いされました……」

 

あらら。

 

「それは。なんと言うか。お疲れ様です」

 

「ありがとう」

 

お。ちょうど焚き火にかけていた湯が沸いたようだ。

 

コーヒー……あ!

 

「大垣さん! ちょっと離れるけど、コーヒー用意しといて!」

 

そう言い、校舎の方へ走り出す。

 

「あ。はい、分かりました~」

 

返事は犬山さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生も一つどうぞ」

 

「あ、ありがとう」

 

沸いたお湯で七人分のコーヒーを淹れ、俺が戻る頃には配られていた。

 

俺は音楽室の鞄から、数日前に買ってきたうなぎパイを持ってきて、まずは先生に渡した。

 

そして順に配ってゆく。

 

「はい。犬山さん」

 

「ありがとうございます」

 

「大垣さん」

 

「サンキューっす!」

 

「恵那ちゃんも」

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

「可児にも」

 

「先輩、ありがとうございます」

 

幸い、誰も割れていることには触れなかった。

 

「はい。各務原さんにはこれね」

 

「えっ! ありがとうございます! ……こんなにもらって良いんですか?」

 

綾乃にもらった袋ごと渡したから、喜びよりも疑問の方が強い反応だった。

 

「それ、綾乃から各務原さんにってもらったやつだから」

 

「綾乃……ああ、アヤちゃんから! ブランケット先輩、アヤちゃんに会ったんですか?」

 

「うん。各務原さんが俺の話してたから、すぐ分かってもらえたよ」

 

「それってつまり、浜松に行ってきたってことですよね?」

 

「そうだよ。俺の妹が今度こっち来るから、うなぎパイ買っとけってうるさいから……」

 

「そうなんですね、遠路遙々お疲れ様でした。あ、アヤちゃんなにか言ってましたか?」

 

「特には。元気にしてるか心配してたから、元気だって言っておいたよ」

 

「アヤちゃんは元気そうでしたか?」

 

「もちろん」

 

本当は少し元気無かったけど、別れ際にはそんなことなかったから、間違ったことは言ってない。

 

しかし、綾乃の名前を出しただけでこの反応。本当に仲が良いんだな……。

 

 

 

 

 

 

「ところで。野クル部……、普段はどういう活動をしているんですか?」

 

コーヒーを(すす)りながら、先生が口を開いた。

 

「えっと、アウトドアの本を読んだり……」

 

「校庭で落ち葉を集めて焚き火して、沸かしたお湯でコーヒー飲んだり」

 

「休みの日にみんなでキャンプしてます!」

 

「あ、私は野クル部の部員ではありません」

 

「恵那ちゃんに同じく」

 

先生の問いに、居る面々が順に答える。

 

えっと? 俺も何か言えと?

 

「……俺は一応、野クル部の部員です」

 

「そ、そうですか」

 

「今度、クリスマスにみんなでキャンプするんだよね!」

 

「「「ねー!」」」

 

なんだかホッとした様子の先生。

 

ん? 俺のスマホにラインの通知が。

 

……。おお!

 

「大垣さん、さやかもキャンプ参加するって」

 

「マジっすか! あ、先生も今度のクリキャン参加しますよね?」

 

「えっ? えっと、クリスマスですよね? まあ、顧問になったんだから、参加しますよ」

 

「了解っす!」

 

えっと、これでクリキャン参加者は……9人になったのか。

 

って、9人!

 

可児が日帰りだとしても、8人は泊まりだから、テントもそれなりの大きさのが必要だな……。

 

あ、テント。

 

「鳥羽先生。先生のテントもお借りできますか?」

 

「えっ? あ……あのテントは妹が持っているので、相談してみないと何とも……」

 

妹さんのなのか。

 

「まあ、最悪俺が持っていくので大丈夫ですよ。分かったら教えてください」

 

「そうですか。分かりました」

 

「リンちゃんからだ!」

 

ふと、各務原さんの声が聞こえ、その方を見る。

 

スマホを見ている。リンちゃんと言っていたから、彼女からのラインだろうか。

 

「ふおおおっ!」

 

感嘆の声を上げる。

 

「朝霧高原だって。ここ、すっごい良さそう!」

 

「いいねぇ!」

 

朝霧高原か。まかいの牧場の方だな。そのままの名前の道の駅もある。

 

「朝霧高原といえば……ベーコンとビールよね……」

 

そう、隣の鳥羽先生が呟いた。

 

ビールって……。あの醜態を思い出し、溜め息が出る。

 

「はあ……。先生、キャンプの時、お酒飲むのは構いませんけれど、程々にしてくださいね」

 

「えっ? な、何で知ってるんですか!」

 

「見てましたから、四尾連湖(しびれこ)で。忘れたとでも?」

 

「み、見られていたんですね……。あの時の話は、後で妹から聞きました。私自身、酔っていたので少し記憶がないんです……」

 

やっぱり。

 

しかし、俺と四尾連湖で会っているのは覚えているようだ。

 

「ブランケット先輩。今のなんの話ですか?」

 

おっと、各務原さんが割り込んできた。

 

「今、先生ビールって言いませんでした?」

 

「ま、まあ……」

 

「先生。私、前に何処かでお会いしたことあると思うんですよ」

 

ああ。各務原さんも四尾連湖キャンプで顔を会わせているのか。

 

件の時はリンちゃんしか居なかったから、あの時以外で。

 

「そ、そうかしら?」

 

隠す必要あるのだろうか?

 

まあ、俺はばらすつもりはない。そおっと、一歩後ろへ下がる。

 

「先生、そのカップを持ったまま、両手を上に挙げてもらって良いですか」

 

「こ、こうかしら……?」

 

「そう。そうです。……あっ!」

 

分かったのだろうか?

 

「分かった! 酔っぱらいのお姉さんだ! 焼肉キャンプの時の!」

 

既視感で首を傾げていた各務原さんが、納得した様子で手を叩く。

 

誰か分かったようで良かった。

 

 

 

 

本人にとっては、全く良くないだろうけど……。

 

 

 

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