【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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【お詫び】
本日、1時に投稿した際、一部文章が抜け落ちている場面がありました。



場所は、

滝野とリンがバイクに乗って出発後、バイクについて想い、ビーノ125から『ヒドイコトイウナ』と、突っ込まれる所
 
二人が近くのコンビニに到着する所

の間です。


投稿前に確認するようにして、再発防止に努めます。申し訳ありません。




 妹

 

犬山(いぬやま)さんがコンロに火を付けるが、弱々しい炎が見えたと思ったら、すぐに消えてしまった。

 

「あらら。ガス切れてしもうた」

 

何度か再点火を試みたが、付く気配はない。ガス欠だろう。

 

「なでしこちゃん、新しいガス缶ある?」

 

「あーっ!」

 

犬山さんが尋ねるも、各務原(かがみはら)さんはこの反応……。つまり。

 

「忘れた……」

 

だと思った。

 

「あっ! コンロがもう使えないということは、明日の朝ごはん何も作れない……」

 

そう言いながら、膝から崩れ落ちるように突っ伏す。

 

コンロだとCB缶だもんな。ここの管理棟で売ってるのはOD缶だから代わりが利かない。とはいえ、CB缶ならコンビニでも売っている。

 

「各務原さん、ガスは何本あれば良いの?」

 

俺はそう言いながら立ち上がる。

 

「えっ?」

 

各務原さんの顔がこちらを向く。

 

……泣いていたのかよ。

 

「近くにコンビニあるから買ってくる」

 

着ているサンタ衣装を脱ぎ、防寒着を着込む。

 

「ブランケット先輩~」

 

「泣くなよ」

 

「あ、そうだ。あおいちゃん、お肉と割下って残ってる?」

 

「うん、少しならあるで?」

 

犬山さんに何かを確認した。

 

「先輩、お金出しますから、ガス2本とチューブしょうがをお願いします」

 

ガス2本、しょうが……。

 

「了解」

 

「じゃあ、あたしグミー」

 

「私、ミント系のガムー」

 

「私、のど飴がええわぁ」

 

調子に乗って色々言い出す他の面々。

 

「待て待て、覚えられん。メモするから……」

 

「あったし日本酒~!」

 

先生……。

 

「補導されます。そもそも売ってくれません」

 

いくら酔っているとはいえ、流石に不味いだろう。先生がこんなことを言ったら……。

 

「えっと、恵那(えな)ちゃんがガム、大垣(おおがき)さんがグミ。犬山さんはのど飴……。他は大丈夫? 可児(かに)、さやかは? リンちゃんも」

 

「じゃあ先輩、歯ブラシセットをお願いします。忘れちゃったので……」

 

可児が歯ブラシセット。

 

「あ、追加のジュースは? もう残り少ないよね?」

 

さやかがそう言うと、一同頷く。

 

ジュース。

 

「私は大丈夫です」

 

「了解。……それなりに多いなぁ。リンちゃんもバイク出せる?」

 

「えっ? えっと、構いませんよ。……それじゃあ」

 

そう言い、少し大きい手提げ袋を手に、立ち上がった。

 

俺と同じように、サンタの衣装から防寒着に着替える。

 

「行きましょうか」

 

「オッケー。それじゃあ行ってきます」

 

「「行ってらっしゃい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、これどうぞ」

 

「えっ?」

 

リンちゃんが差し出してきたものは、片耳用のヘッドセットだ。何故(なぜ)こんなものを?

 

「今までツーリングしてて、走行中会話が出来なくて不便でしたよね?」

 

「確かに」

 

走行中だと距離が離れるし風が凄くて話せないし、止まっていてもエンジン音に負けてしまう。

 

「それで、ネットで調べてみたんですね。そうしたらラインを活用するのが一番簡単だってことが分かって……」

 

「なるほど。ライン通話をしたまま走れば良いのか」

 

「はい。まあ、データ通信をするので消費しちゃいますけど、通話料は無料ですからね」

 

「それをヘッドセットを通じてすれば良いんだ」

 

「そういうことですね。専用の物を使うと高いですから……。とにかく試してみましょう」

 

「了解」

 

貰ったヘッドセットを着用し、ヘルメットを被る。

 

よし。機器が小さいから違和感なく着用できた。

 

これをスマホに繋いで……。ライン通話、発信。

 

…………。

 

『先輩、聞こえますか?』

 

「リンちゃん、ちゃんと聞こえてるよ」

 

ちょっと雑音が混じっているけど、問題なく聞こえてくる。

 

『良い感じですね。じゃあ、コンビニへ行きましょうか』

 

「オッケー」

 

 

 

バイクに跨がり、エンジンを始動させる。

 

リンちゃんに続き、ゆっくりと発進。

 

こういうとき、バイクがあると便利だよなぁ。

 

まだ車の免許がとれない俺たち高校生にとって、バイクは自分の力でなくても、他人に頼らずに遠くに行くことの出来る唯一の移動手段だ。

 

自転車と違い漕ぐ必要は無い。車と違って運転手(運転免許を持った大人、という意味)も必要ない。

 

最初、俺にはただの通学手段だったバイク。

 

それが、俺とリンちゃん・恵那ちゃんとの出逢いのきっかけとなり、各務原さんや桜さん、それに野クル部(のくるぶ)メンバーとの交流のきっかけにもなって……。

 

決して近くはない、浜松という地で友だちが出来た……。

 

いつの間にか、単なる移動手段ではなくなった。

 

しかし、ここまで来るとこのトリシティにも愛着が湧いてきたぞ。

 

俺にとって唯一無二の相棒であるビーノに、戻ってきてもらいたいけれど、この子も手放したくなくなってきたなぁ……。

 

 

\ヒドイコトイウナ!/

 

 

………………?

 

何だ、今の?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンプ場を出る。

 

『先輩、どっちのコンビニへ行きますか?』

 

「どっち、って言われても、来る途中に見たセブンしか知らないんだよね。俺」

 

『じゃあ左ですね』

 

左折のウィンカーが灯る。俺もそれに倣う。

 

国道を北上してゆく。

 

流石クリスマスイブの夜、といったところか。他の交通はほとんど無く、すれ違う車も、追い越す車もない。

 

『フッ……』

 

耳に、リンちゃんの笑った声が入ってきた。

 

「なんかあった?」

 

『えっ? 何ですか?』

 

「今笑ったでしょ?」

 

『……聞こえましたか』

 

「そりゃあね、ライン通話常に繋いでるんだからさ。何でも聞こえてくるよ」

 

それこそ、咳やくしゃみもダイレクトに……。

 

気を付けないと耳がやられる。

 

『この寒さ、ヤバいなって思いまして』

 

「まあ、確かに寒いよね。でも、違うでしょ?」

 

笑った理由は他にあるはずだ。

 

『先輩には敵いませんね。実は、今日のキャンプ、最初は断ったんです。ただ、斉藤(さいとう)から私は一人キャンプが好きだろうけど、みんなでやるキャンプは違うジャンルの楽しさがあると思うよって、そう言われたんです』

 

「なるほどね。で、どうだった? みんなでやるキャンプは」

 

『まだ始まったばかりですよ。これからじゃないですか』

 

「確かに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンプ場から10分位のところにあるコンビニに到着。

 

流石にこのままの格好では入店出来ないから、ヘルメットを脱ぐ。

 

「寒っ!」

 

気温が低いのもあり、ヘルメットが防寒具代わりになっていた分、寒さがダイレクトに来る。

 

早く入ってしまおう……。

 

「あれ? もしかして滝野(たきの)くん?」

 

入店するなり、俺の名を呼ぶ女性の声が。

 

「えっ……あ。笠野(かさの)先輩!」

 

なんと、北宇治吹奏楽部の頃にお世話になっていた笠野 沙菜(さな)先輩だった。

 

 

 

「こんなところでどうしたんですか?」

 

「滝野くんこそ。どうしたの?」

 

俺も笠野先輩も、まさかの再会に驚いている。

 

「私はオープンキャンパスの帰りだよ。これから帰るところ」

 

「と、いうことは、先輩大学はこっちの方へ?」

 

「うん。やりたいことを見付けたからさ。遠いけど、寮に入って通うつもり。……滝野くんは?」

 

「この近くのキャンプ場でクリスマスキャンプの最中です。買い足しが必要なものがあって、買いに来ました」

 

「キャンプ? こんな時期に?」

 

「まあ、何と言いますか。今はこの時期のキャンプも流行っているんですよ。一部界隈(かいわい)では」

 

それを聞いた先輩は苦笑い。

 

「そうなんだ……。トランペットは続けているの?」

 

「はい、もちろん。といっても、俺がこっちの学校に来た時点で吹部無かったんで。俺がサークル立ち上げました」

 

「凄いねぇ。自分でって。私には真似できないわ……」

 

「いやあ、でも今年の北宇治凄かったじゃないですか。全国ですよ。俺が居た頃じゃ考えられなかったです」

 

府大会銅賞、参加賞みたいなものだ。

 

ここ数年ずっとそれだったのが、全国大会出場。並大抵のことではない。

 

「まあね。顧問の滝先生が凄いんだよ」

 

滝先生……。

 

何処かで聞いたことのある名前なんだよなぁ……。

 

春先に吉川(よしかわ)からの連絡で知ったんだけど、それからずっと引っ掛かっている。

 

「あ、車でお父さん待たせてるから行くね。元気そうで良かったよ」

 

「こちらこそ、会えて良かったです。他の先輩方にも宜しくお伝えください」

 

「分かったよ。また何処かで!」

 

笠野先輩がお店を出ていった。

 

突然で驚いたけど、嬉しい再会だったな……。

 

あ、俺は買い物をして帰らないと。

 

「先輩、終わりましたよ」

 

声掛けられ振り向くと、ビニール袋片手にリンちゃんが立っていた。

 

「買い物終わりましたから、帰りましょう」

 

「ごめん。ありがとね」

 

笠野先輩と話している間に済ませてくれたらしい。

 

「いいえ。京都に居た頃の知り合いですか?」

 

「うん。お世話になった先輩」

 

二人、店を出る。

 

『ということは、吹奏楽部の方ですよね』

 

「同じパートの先輩だよ。ところで、頼まれてるもの、ちゃんと買ってくれたんだよね」

 

『はい。大丈夫ですよ。ガス2本、しょうが、ミントガム、歯ブラシセット、のど飴、ジュース……』

 

うん? なにか足りない。

 

「何か忘れてない?」

 

『忘れてますか? 何でしょう?』

 

「えっと……。分かんない」

 

『私も分かりません……』

 

「何だっけ……。でもまあ、二人とも思い出せないってことは、気のせいだと思う。たぶん大丈夫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買い物を終え、キャンプ場に戻ってくると、みんなが管理棟の前に集まっていた。

 

「あれ? みんな迎えに来てくれたの?」

 

「いえ。ちくわを家に帰したところです。この寒さだとチワワを一泊させるのは厳しいですから」

 

なるほど。元々ちくわは帰す予定で連れてきていたらしい。

 

と、すると、さっき途中ですれ違った車が恵那ちゃん家の……。

 

恵那ちゃん、前にシュラフの話をしたとき、大垣さんからの問いに『普通の家』って返したけど、やっぱり良いところのお嬢様なんじゃ? 俺は車に詳しくないけど、さっきの高級車(しかも、外車)だったぞ……。

 

「頼まれたもの買ってきたよ。戻ったら〆のチーズパスタだな」

 

「はい!」

 

嬉しそうに返事をしたのは……、誰か言わなくても分かるだろう。

 

 

 

結局、待ちぼうけを喰らってお腹が空いていたので、全員で〆のチーズパスタをいただいた。

 

「じゃあ、そろそろ風呂行くか」

 

「そやね」

 

「うん」

 

「しゃあ、順番どうする?」

 

「あ、私後で良いよ」

 

「じゃあ、私も」

 

「先生は?」

 

「私は、ちょっと酔いをさましてから入りますぅ……」

 

「これ、一生入れねぇぞ……」

 

 

 

まあ、そんなわけで、先に、犬山さん・恵那ちゃん・さやか・可児が行くことになった。

 

残った、大垣さん・各務原さん・リンちゃん・先生と俺は後から行く。まあ、俺は男一人だから何時行っても大丈夫なんだけどね。

 

 

「あの……先生」

 

リンちゃんが言いにくそうに切り出す。

 

「今日、私たちに付き添ってくれてよかったんですか?」

 

「えっ?」

 

「クリスマスだし、彼氏さんはいいのかな……と」

 

先生彼氏居たのか。まあ、素面なら美人だし、居ても不思議じゃないか。

 

とはいえ、泥酔した姿を知っているのか疑問は残るが……。

 

「あ、火おこしのお兄さん」

 

ん? 各務原さんも知っているのか。

 

「ええっ! 先生彼氏居るんすか!」

 

大垣さんは知らないみたい。

 

「えっと……、私誰ともお付き合いしてませんけど。火おこしのお兄さん?」

 

あれ?

 

四尾連湖(しびれこ)で一緒にキャンプしてたじゃないですか」

 

「ブ~ッ」

 

「ど、どうしたんですか、トラ先輩」

 

「ナ、ナンデモナイヨ」

 

いかん。思わず噴き出してしまった。だってあの人って……。

 

「あー……。あれ、私の妹です」

 

だよね。

 

「「えっ! 妹?」」

 

「妹……?」

 

正体が分かり驚く二人に、その理由が分からず首を傾げる大垣さん。

 

「あんな感じなので、時々間違われるんですよ」

 

まあ、分からなくもない。

 

「どういうことっすか?」

 

「ああ。鳥羽(とば)先生の妹さんが、一見男性に見えるから、二人は彼氏だと思っていたらしいよ」

 

大垣さんに教えてあげた。

 

「ということは、ブランケット先輩は知っていたんですか!」

 

「まあね」

 

しかし、

 

「やっぱり間違われるんですね……。俺も最初は男の人だと思いましたよ」

 

「そうでしたか。因みに、滝野くんは何時気付きましたか?」

 

「最初、電話口では分かりませんでしたが、あの日予約が入っていたのは、女性二人組が二組だけでしたから……」

 

その後、実際に会ってみて、見た目でも間違えそうだった。

 

「火おこしのお兄さんじゃなくて、お姉さんだったのか……」

 

リンちゃんがそう呟く。しかし、あの時何があったのだろう……? 火おこしのお姉さんとは?

 

「あきちゃん」

 

そう言い、各務原さんが大垣さんの肩を掴む。

 

「あきちゃんは女の子だよね? ね?」

 

「はっ倒すぞ……」

 

 

 

この後、先にお風呂へ行った面々と入れ替わりにお風呂へ入り、戻ってきたら『今日のために月額見放題会員登録してきたから、アニメ鑑賞会するぞ!』と、大垣さんの案でみんなでアニメを見始めるが、俺は何だか眠かったので、先に寝ることにした。

 

 

 

クリスマスキャンプ一日目が終わる。楽しい時間はあっという間だな……。

 

 

 

 





今回は『響け!ユーフォニアム』側の登場人物が出てきました。

(久美子一年生時における三年生)滝野の一つ上、トランペットの笠野 沙菜先輩です。

時期的にオープンキャンパスなら、山梨へ来る理由が作れるので、ちょっと無理言って登場いただきました(?)。まあ、本当は7月~11月が多いようなので、若干季節外れ感ありますが(汗)


個人的に、クリスマスキャンプの部分はドラマ版が好きだったするので、『あきちゃんは女の子だよね?』の返事はドラマの台詞を取りました。クリキャン冒頭の受付でのやりとりで出る『先生は名前や無いやろ』も好きなんですよね……。
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