【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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クリスマスキャンプ最終日です。

あとがきにちょっとしたお知らせがあります。


それでは本編どうぞ。




 朝ごはん

 

……。

 

…………。

 

目が覚めた。

 

シュラフから出て、上着を着込む。

 

「寒っ……」

 

テントの外へ出ると、流石に寒かった。

 

まだ辺りは暗い。

 

えっと……、4時半……。

 

マジか。昨日22時には寝たからなぁ……。

 

各務原(かがみはら)さんが早起きして朝ごはんを作ると言っていたが、それでもまだ寝ているだろう……。

 

「吹くか……」

 

テントからトランペットを取り出す。

 

今日、テントサイトに泊まっているのは俺たちだけだと言っていたから、皆を起こさぬよう、テントから離れたところでトランペット吹こう。

 

誰も居ないサイトを一人、歩いて行く。

 

 

去年の春の終わり、山梨県に引っ越してきて、本栖(もとす)高校へ編入。

 

吹奏楽サークルを立ち上げた時の俺は一人だった。

 

勿論、教室に行けばクラスの人たちが話し掛けてくれるし、仲の良い人も居る。しかし、吹奏楽に関しては俺一人。

 

当然、一人だけではサークルは作れないので名前を借りた先輩が居るが、サークルに顔を出すことはないから、音楽室ではいつも一人だった。そう、今のように……。

 

それが、今年の春になって可児(かに)が入部し、冬には野クルへも入部。

 

いつの間にか、俺の回りは賑やかになっていた。

 

今の俺は何処(どこ)へ行っても一人じゃない。

 

 

さて、この辺で良いだろう。

 

 

♪~

 

 

ちょっと冷えている。無理は良くないし、少しだけ……。

 

 

♪~

 

 

 

『名探偵コナン メイン・テーマ』

 

『ルパン三世主題歌Ⅱ』

 

『鳩と少年』

 

『情熱大陸』

 

 

少しだけと言いながら、色々な曲を吹いていたら、あっという間に時間が過ぎていた。

 

ちょっと無理したかな。リップ塗っておこう……。

 

持ってきてたよな……あった。

 

「あ、滝野(たきの)先輩こんなところに……」

 

俺の名を呼ぶ声。

 

振り向くと、犬山(いぬやま)さんがこっちへ歩いてきていた。

 

「トランペット吹いとったんですね」

 

「寝るの早かったから」

 

「目が覚めたんですね」

 

「うん。起こすのも悪いと思って、離れた所まで来てな……」

 

「先輩、リップ使こうとるんですね」

 

目敏く、俺の手にあるリップに気付く。

 

吹奏楽奏者向けのちょっと高いやつだ。

 

「せやで。唇の乾燥は奏者の大敵やから」

 

「大変なんですね。今の時期やと寒いし空気は乾燥しとるし、尚更でしょう」

 

「それで、何かあった? 俺探していたみたいやけど」

 

「あ、せやった。朝ごはん出来たからどうぞって、なでしこちゃんが」

 

もうそんな時間か。

 

「分かった。ほな行くわ」

 

……ん? 電話だ。

 

……父さんからだ。何だろう?

 

「もしもし、父さん?」

 

純一(じゅんいち)、起きてたのか』

 

「うん。どないしたの?」

 

『連絡遅くなってすまん。昨日の夜整備工場から連絡があって、ビーノの修理が完了したって。だから今から引き取りに行ってくるよ』

 

おお、やっと終わったのか。

 

「今から?」

 

『せやで。帰ってくる頃には、ビーノ戻ってきとるから』

 

「ありがとう」

 

電話を切る。

 

「先輩、何処からの電話ですか?」

 

前を歩いている犬山さんがこちらを向いてこう言った。

 

「良いことですか?」

 

「分かるの?」

 

「はい。だって、今先輩顔にやけてますもん」

 

マジか……。でも、仕方ない。一ヶ月近く待ったんだから。

 

「今、家から電話でな。修理に出してたビーノが戻ってくるって」

 

「あのバイクが戻ってくるんですね。良かったやないですか」

 

「うん」

 

やっと戻ってくる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テントまで戻ってくると、離れたところにテントを張っている二人を含め、みんな揃っていた。

 

「あ、ブランケット先輩。おはようございます」

 

「みんなおはよう」

 

「トラ先輩、朝から吹いていたんですね」

 

「まあ、目が覚めたでな」

 

「ほら、あたしの言った通りだったろ?」

 

「寒いのに頑張りますね……」

 

「まあ、お兄ちゃんだしね」

 

「どういう意味や?」

 

「先輩ですからね」

 

「だから、どういう意味やって!」

 

「先輩、朝ごはん出来てますよ」

 

どれどれ……。玄米ご飯に焼鮭、野菜と納豆? の味噌汁。

 

ご飯にのっている佃煮みたいなやつは何だろう……?

 

「さ、どうぞ。おかわりたくさんあるからね」

 

「「「いただきまーす」」」

 

「ハァーッ。味噌汁あったまるねぇ」

 

「染み渡るなぁ」

 

美味しい。

 

これぞまさに『日本の朝ごはん』という感じだな。

 

「旨いな! これ、昨日のお肉?」

 

「うん。割り下としょうがで大和煮にしてみました」

 

大和煮か。

 

だから、昨日しょうがを買ってきて欲しかったんだな。

 

「鮭と玄米あうなぁ」

 

「うむ」

 

斉藤(さいとう)さん、よく眠れた?」

 

「うん。起こされなかったら昼まで寝てたかも」

 

「流石、45,000円のシュラフ……。あたしなんか、寒くて途中でカイロ追加したわ」

 

可児(かに)さんはどうでしたか?」

 

大町(おおまち)先生に借りた登山部のシュラフだから、全く寒くなかったです。後でちゃんとお礼しておきますよ」

 

「お、かにミソ登山部にも入るのか?」

 

「いやいや、可児の体力じゃ無理や」

 

「なら、なでしこならついていけるんじゃね?」

 

「まあ、大丈夫だとは思うけど。私は野クル部みたいなまったり系が良いんじゃよ」

 

「おばあちゃんか」

 

「あ、日が出てくるよ」

 

おお、富士山の脇から太陽が顔を出す。

 

「まぶし……」

 

「眩しいねえ」

 

「でも、綺麗だね」

 

 

富士山から昇る太陽。

 

この時期は富士山の脇から昇ってきたけど、お正月には富士山の真上に昇る『ダイヤモンド富士』が見られるらしい。それはそれは美しいという話だ。

 

もちろん、今日のも美しかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食が終われば後片付けだ。

 

テントを畳み、荷物をまとめ、野クル部の備品は鳥羽(とば)先生の車へ積む。

 

サイト周りを散策したり、芝生に大の字で転がったりして遊んでいると、桜さんの車が来た。

 

 

恵那(えな)ちゃんも、帰りは桜さんの車で送ってもらうようだ。

 

「滝野くん」

 

積み込みを手伝っていたら、桜さんに呼ばれる。

 

「ちょっと……」

 

来い、ということか。

 

「はい?」

 

桜さんの隣に行くと、小さな紙を差し出してきた。

 

「これは?」

 

「浜名湖の畔に住んでる私のお祖母ちゃん家の、住所と連絡先。念のため、教えておくわ」

 

……何故? 話が読めない。

 

俺の顔で察したのか、桜さんは続ける。

 

「滝野くん、前に浜松行ったでしょ? もし、何かあったときにお役に立ちたいと思ってね」

 

なるほど、そういうことか。

 

「ありがとうございます」

 

しかし、逆に疑問が浮かぶ。

 

「有り難いんですが……。なぜ、俺が浜松まで行ったことをご存じなんですか?」

 

と、尋ねておきながら気付く。各務原さんから聞いたのだろう。

 

「それは秘密よ」

 

あれ? 笑って誤魔化された……。

 

「なでしこ からではないわよ。それはさておき。遠慮なく頼ってね。良い人だから」

 

「はい」

 

各務原さんではない。じゃあ誰だ……?

 

 

 

 

 

大町先生が到着。

 

「先生、シュラフありがとうございました!」

 

可児の荷物と、楽器を積み込む。

 

「ああ。楽しかったか?」

 

「はい!」

 

「大町先生。トランペットありがとうございました。お陰で兄と一緒に吹けて楽しかったです!」

 

さやかが先生にお礼を言って、一礼をする。

 

俺も思いは同じなので、続いて一礼。

 

「それは良かった。お役に立ててなによりだよ。可児、荷物積んだら帰るぞ」

 

 

 

このあと、管理棟の前でみんなで記念撮影して、それぞれ帰路へ。

 

余談だが、桜さんがカメラマンで他の全員で撮ったため、一見すると卒業式のクラス写真のようになってしまった。制服じゃないのがせめてもの救い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、他のみんなと別れ、四尾連湖(しびれこ)へ続く細い県道を走る。

 

(歩いているわけではないが)不思議と足取りは軽い。

 

普通なら、楽しかったことが終わってしまうわけだから、現実に引き戻されるような感覚に陥るものだが、今はそれがない。

 

家でビーノが待っているからだろう。

 

 

 

 

県道の終点、第二駐車場に到着。電話を掛ける。

 

『はい。四尾連湖木明荘です』

 

「父さん。俺だよ」

 

『お、純一。今なら大丈夫だよ』

 

「了解。後でね」

 

バイクを発進。

 

あっという間に到着。

 

「さやか、お疲れ」

 

さやかが降りてから、俺も降りる。

 

「お兄ちゃんこそ、お疲れ様。昨日今日とありがとね」

 

「改まって言われるとテレるな……」

 

「先戻ってるね」

 

「ああ」

 

さやかは家へ向かう。

 

 

俺はバイクを押しながらガレージへ。

 

戸を開く。

 

……居た。

 

「ビーノが戻ってきてる……」

 

\ヨウ!/

 

ガレージには、見間違う事など無い、俺のビーノが止まっている。

 

「ただいま。……お帰り」

 

 

 

 

 

 





以前、聖地巡礼と取材を兼ねて伊豆半島へ行った話をしたと思います。

その際、『伊豆キャンまで書くか、未定』と言ったと思います。が……

伊豆キャン……つまり、アニメ2期(原作5巻~9巻)相当についても 書こう と思います。

但し(?)、お断りと予告を兼ねまして……。かなりの部分で原作から脱線した話になると思います。

完全、とまでは言いませんが、私のオリジナルストーリーとする予定です。

それでも良い、という方々は今後ともお読みいただけると有り難いです。


なお、次話までがアニメ1期に当たるお話です。野クル部の部室を大掃除する話ですね。

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