クリキャンが終わってから、早いもので2日が経った。
今、俺は
理由は簡単。
「これより部室の大掃除を始める!」
そう。今
部室棟が使えるのは28日まで、つまり明日。その前に掃除してしまおう、ということらしい。
「ではかかれーっ!」
「オーッ!」
名前貸しのつもりでいた野クル部だが、ああやってキャンプに参加している以上、そう言い切るわけにもいかないだろう。
そんな訳だから、俺も掃除を手伝う。
しかし、一瞬で終わった。
「部室狭いからすぐ終わったね」
「こういう時は助かるわ」
「全くだ。音楽室は広くて大変だったよ……」
因みに、音楽室の掃除は、
さやかに声を掛けたら二つ返事で手伝ってくれた。後で何か要求されそうで怖いが……。
「先輩の妹さん、何時までこちらに居るんですか?」
「30日のバスで帰るから、実質29日迄だな」
7時頃に甲府を出発するバスに乗るから、朝早く出る予定だ。
「そうですか……」
大垣さんの声は何となく残念そう。
「あき、どうしたん?」
「いやぁ。この間のクリキャンの時なんだけどさ。ちくわが可愛いからトラ先輩の演奏そっちのけで遊んでたけど、よくよく考えてみたら、トラ先輩とかにミソ、妹さんの三人で演奏するなんてさ。二度と無いかもしれないことだと思って」
ん?
「確かにそうやな」
「だねぇ……。私も聞いておけば良かった……」
「そうなんだよ。あたしたち三人とも遊んでて、まともに聞いていないんだよ!」
確かに。
演奏を聞いていた子どもたちは時々入れ替わっていたが、この三人は結局最後にしか来なかった。
「後悔しても遅いぞ。さやかが京都帰ったら、三人では演奏出来ないからなぁ」
「あー! 遊んでないで演奏聞くんだった! ちくわとなら、これから暖かくなってきたら何時でも遊べるんだから~」
「私も失敗だったわぁ……」
「私も~!」
三人とも後悔しているらしい……。
まあ、また機会はあるだろう。保証は出来ないけど。
「ちくわかぁ。俺も遊びたかったなぁ……」
この三人はちくわと遊んでいて俺たちの演奏を聞いていないわけだが、それはつまり、俺はちくわと遊んでいないことを意味する……。
「まあ、一応俺が吹奏楽サークルの部長だし、演奏ぐらい何時でもできるから……」
「加えて先輩は野クル部の一員でもありますからね。機会あればお願いします! ……あれ? そういえば、部に昇格したんだから、大きいところに移れるんじゃなかったっけ?」
ああ。そういえばそうだ。
俺を勧誘したのは『広い部室』と『部費』が目当てだった。
部費は出ているらしいが、部室は……変わってない。
「ま、まあ。その筈だったんだが……」
ん?
「これより大きい部屋の空きが無いんだってさ。春まで待って欲しいって言われた」
まあ、年度途中でサークルが部に昇格しても、そうなるわな……。分かってましたとも。
「しかも、今年度末に廃部になる部・サークルが無い場合は、空く部屋が無いから移れん可能性もあるって……」
おい、まじか。今の言葉を聞いた二人は、そう言いたげな顔で固まっている。
学校を出て、四人で駅へ向かう。
「あれ? ブランケット先輩、バイクは良いんですか?」
「学校の駐輪場が工事で使えないから、駅前にとめてあるんだよ」
冬休み前、教頭からそう言われている。JRと町役場の許可は得ているんだと。
「ああ、塗装工事するって言うてましたね」
「そういうこと。だから、朝は君たち電車組と同じように、駅から歩いて登校したよ」
思いの外、学校前の登り坂がきつかった。バイク通学に変えてからほとんど歩いて無かったからなぁ……。
話題はいつの間にか、年末のことになった。
「二人とも、大晦日までバイト?」
各務原さんが二人に問い掛ける。
この二人は普段からアルバイトをしている。
「書き入れ時やからなー」
「あたしは三が日までフル出勤だぜ。元日も仕事だよ」
「私は元日休みやで。お店自体が休みやからな」
「なに! イヌ子ずりーぞ!」
「しゃーないやろ。まあ、せいぜい頑張りや」
「あはは。そっかー。ブランケット先輩は?」
「俺もバイトだよ。郵便局で年賀状の仕分け」
昨年末同様、
「なでしこちゃん、まだバイト見つかってないん?」
「うん」
そうか、各務原さんはバイトを探しているのか。
「まあ、この辺だと求人は甲府か富士宮がほとんどだからな」
その通り。あっても、バス運転士や看護師などの専門職で、俺たち高校生はお呼びでない……。
「自分のお金でたくさん道具買ってキャンプしたいのに……。一体いつになったら働けるんじゃろう……」
「残念ながら、俺も協力出来ないからなぁ」
夏休みなら、団体利用が多く臨時のアルバイトを雇うこともあるが、年末年始はそもそもキャンプ場が休みだ。いつぞやみたく、『うち来ない?』とは言えない。
「あ、お金で思い出した!」
急に、大垣さんが大きな声を出したので、何事か! と思ってそちらを向く。
「トラ先輩、キャンプの時に一体何をしたんですか!」
すると、大垣さんがすごい剣幕で俺に詰め寄ってきた。
「な、なんのことや……?」
俺、何かしたか?
「クリキャンの時のキャンプ場利用料、かなり安かったじゃないですか! 何をしたんですか?」
「あ、そのこと?」
そんなことかよ。驚いて損した。
「俺、前話した通り家がキャンプ場だから、スノーピーク会員・モンベルクラブ会員とコールマン会員に、あとカリブーメンバー会員も入ってるのかな……? 多すぎて覚えてないけど、そういう会員になってるんだよ。キャンプ用品の購入でポイントが貯まったり、キャンプ場が安く利用できる特典があって、その中で一番割引率の高いやつを使ったんだ。だから、俺の名前で予約して貰った訳*1」
あ、今の話を聞いた大垣さんの目が点になった。
「コールマン……、スノーピーク……、モンベル……」
キャンプ用品の有名ブランドが並んでいる。驚くわけか。
「先輩、思ってたより凄いわぁ……」
「だね。あおいちゃん……」
なんか、俺が変な人だって言われているみたいに感じるんだが?
因みに、カリブーメンバー会員とスノーピーク会員の割引は、どういうわけか併用可能だった。あそこまで安くできたのはそのお陰。
というか、この子ら普段からカリブーに入り浸ってるのに、メンバー会員登録してないのかな……?
茶番劇(?)がありつつも、駅へ向けて歩いて行く。
ふと、誰かの携帯電話が鳴り出した。
「ん? 電話だ」
大垣さんか。電話に出ている。
「はい、大垣です。……えっ? 今何て? ……マジっすか! はい。……いい逸材居ますよ。ちょっと待ってください」
どうしたんだろう? 逸材って?
「なでしこ! 今あたしのバイト先から電話が来て、欠員が出たから年末年始の短期間だけだけど、働ける人が居ないかってさ!」
「本当!」
「なでしこなら体力あるし、重い酒瓶扱う仕事でも大丈夫だろ?」
「うん。あきちゃん、私やります!」
「了解! もしもし……」
その後、各務原さんが電話に出て、幾つか確認事項を聞かれていた。
「ありがとうございます! よろしくお願いします。失礼します!」
電話を切ったようだ。
各務原さんが大垣さんに電話を渡し……。
グッドサイン。
「明後日から三日まで働かせてもらえることになりました!」
「おお!」
「やったやん!」
「一緒に頑張ろうじゃないか!」
「うん!」
「よし。じゃあ、祝勝会だ~!」
「「わ~!」」
元気に自販機へ向かって走る三人。
今年も残すところあと僅か。
この一年、春夏秋と、それなりに色々なことがあったけど、それらが掠れてしまうぐらいに、後半(冬)の二ヶ月が劇的過ぎた。
例えば……、
「ブランケット先輩! 先輩も早く~!」
そう。彼女たちとの出会いもその一つだろう。
「今行くよ」
俺も走って行く。
さて。来年は何が起こるだろうか……。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
アニメ1期(原作1~4巻)相当のお話が終わりました。
今お読みいただいた通り、なでしこは千明の働いているお店でお手伝いをすることになります。
既に原作から脱線しているように、この先のお話は原作とは異なる部分が多くなります。
理由としては、今まで『原作コミック』と『アニメコミック』を確認しながら執筆していましたが、アニメ2期ではそれが出来ないため なのと、単に私が書きたいエピソードみたいなのがあるからです。
もちろん、進行上重要となる出来事(山中湖・なでしこ初ソロ・伊豆キャン)は登場します。
事前にお断りしておきながら勝手なお願いですが、今後ともお付き合いいただけると幸いです。
少し間が空くかもしれませんが、早くお届けできるように頑張ります。