【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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挿絵は、私が撮影した写真をアプリで少々加工しております。行ったこと・見たことの無い方に少しでも参考になれば幸いです。

残念ながら、私は絵が描けませんので……。



 なでしこのお姉さんと

 

国道139号線を南下していく一台のビーノ。それを操るのはこの俺だ。

 

……格好つけすぎかな。

 

今日は野暮用で。というより、今日も野暮用で富士宮市へ向かっている。

 

脇見にならない程度に、横の富士山を見ながら走っていく。

 

「流石だな……」

 

小さくそう呟く。

 

雲一つ無い快晴に、綺麗な雪化粧をした富士山は、まさに絵になる。

 

【挿絵表示】

 

\ボクニモミセロヨ/

 

無茶言うな。今ハンドルを富士山の方に向けたら、盛大に転倒し、最悪あの世行きだ。バイクとはそういう乗り物だ。肝に銘じておかないと、いつか痛い目を見る。

 

 

 

そのまま進んで行くと、前を走っている自転車を発見。

 

何となく見覚えのある背格好。あれはもしや……志摩(しま)さん?

 

そんな気がして、減速し始める。

 

追い越し際、ミラーで乗っている人を確認すると、予想通りだった。

 

少し先で止まり、手を振る。

 

「志摩さん~!」

 

すると、向こうも気付いたらしく手を振り返してきた。

 

「あ、滝野(たきの)先輩」

 

俺の横まで来て止まった。なので、エンジンを切る。

 

\サキハナガイゾ/

 

まあ待て。

 

「一瞬、誰かと思いましたよ」

 

なんで……って、それもそうか。普段学校で会うときは制服だ。

 

でも、今日は休日だから普段着。しかもライダースーツを着ている。さっきの続きじゃないけれど、ラフな格好をしていたら、転倒した時に大怪我をする。

 

夏場とか、半袖半ズボンにサンダルでバイク乗ってる人を見るけど、正直理解不能だ。言い方は悪いが、頭がおかしいのだろう……。

 

「今日は何処(どこ)へ?」

 

「この先の、麓キャンプ場へ」

 

何処だろう? 俺が向かっている場所とは違う。

 

しかし、志摩さんがここにいるということは、あの甲州いろは坂を越えてきたってことだよな。小さいのに、頑張るねぇ。

 

「先輩は何処へ行くんですか?」

 

「俺は、YMCA……なんとか? キャンプ場」

 

長すぎて覚えれなかった。

 

「富士山YMCAグローバルエコヴィレッジ、ですか?」

 

「そうそれ! 志摩さん知ってるの?」

 

「まあ……。行ったことあるので」

 

「そうなんだ。恵那(えな)ちゃんから聞いたけど、志摩さん結構キャンプ行くんだ?」

 

「オフシーズンだけですけど……」

 

オフシーズン。というと、ちょうど今の時期だ。

 

最近ではこんな時期のキャンプも人気らしく、俺の家もそこそこ忙しい。

 

昔ばあちゃんは、『冬は閑古鳥(かんこどり)が鳴いてるよ』って泣いていたけど……。今は違う。

 

「そっか。あ、呼び止めてごめんね? 急いでたでしょ?」

 

俺が一方的に呼び止めてしまったけど、志摩さんだって予定があるはずだ。

 

「あ、いや。別に急いでないですよ」

 

「そっか。じゃあ良かった。それじゃあ……」

 

脱いでいたヘルメットを被り、エンジン始動。

 

「キャンプ、楽しんでね」

 

「ありがとうございます。あ! 先輩!」

 

「何?」

 

「リン、で良いですよ。斉藤(さいとう)名前呼びでしたよね?」

 

ん? ああ。

 

「恵那ちゃんがそう呼べって言ってたから……」

 

「じゃあ、私も同じで良いです」

 

そういうの気にするタイプか。俺はその辺全然無頓着だけど。

 

「分かった。じゃあねリンちゃん。また学校で」

 

ゆっくり発進。

 

「先輩、気を付けて行ってきてください」

 

手を振って答える。

 

ミラーを見ると、リンちゃんは見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………。

 

全く。人使いの荒い人だった。

 

目的地の、富士山YMCAグローバルエコヴィレッジに着き、受付で預かっていた書類を渡したところ、確認するから少し待って欲しいと言われ、一時間位待たされた。

 

すると、今度は持って帰って欲しい書類があるからもう少し待つことになり、更に一時間。

 

ようやく帰れると思ったら、途中にある麓キャンプ場に渡す書類まで持たされた。

 

「俺は便利屋じゃないぞ……」

 

ビーノを走らせながら、一人呟く。

 

\チガウノカイ?/

 

勘弁してくれ、違う。

 

おっと。ガソリンが減っている。余裕を持って給油しておかないと……。

 

次のガソリンスタンドに寄ろう。

 

 

 

見付けたガソリンスタンドで給油。

 

財布から取り出した千円札を投入。

 

ここのセルフスタンドは硬貨が入れれない。財布に溜まりつつある硬貨の処理はまたの機会に。

 

給油機のタッチパネルには広告が流れている。

 

『小銭要らずでスピーディー』……というのは高校生の俺には無縁の話だ……。

 

そんなことを考えてるうちに、給油完了。

 

釣銭機でお釣りを受け取り、さて出発。と思ったとき、給油機を挟んだ反対側に車が止まった。青色の、ちょっとクラシックな感じのする車だ。

 

ふと、助手席にブランケットが置いてあるのが、目に入った。

 

あれ? ……あれはもしや。

 

「あ! 俺のだ!」

 

合点がいき、思わず叫んでしまった。

 

「俺の、って、このブランケットのこと?」

 

降りてきていた運転手が、俺の声に気づいたようだ。

 

「……!」

 

大学生くらいの女性。美人だ……。

 

「このブランケット、あなたのなの?」

 

ブランケットの方を指差し、俺を見て首を傾げる。

 

「あ。はい……。先日、本栖湖(もとすこ)で寝ていた女の子に、風邪ひくと大変だからって、掛けておいたんです。何度起こしても起きなかったから……」

 

「それ、私の妹です。良かったわ。これを返せて」

 

どうやら持ち主を探していたらしい。

 

「あ、いや。あの子が同じ学校なのは気付いていたので、いつか返ってくるだろうと思ってましたから……」

 

返ってこなくても気にしないけど。

 

「あら、そうなの? ……こんな所じゃあれだし、急いでなければお茶でもどう?」

 

 

 

 

美人の誘いを断れる訳もなく(?)、そのお姉さんの先導で一度北上し始めた道を南下し、更に南にある施設に入った。

 

【挿絵表示】

 

『まかいの牧場』……? 『魔界』じゃなくて『馬飼』を充てるのか。漢字で書くのなら『馬飼野牧場』だ。

 

そこの喫茶店みたいなお店に入る。

 

「何にする? 奢るわ」

 

そう言い、メニューを差し出された。

 

「あ、いえ。そんな。自分のは払いますよ」

 

とりあえずメニューは受け取る。

 

「良いのよ。妹助けてくれたんだから」

 

「助けたなんて大袈裟ですよ」

 

ブランケットを掛けた、とはいえ放置してきたんだから……。

 

「謙遜しなくて良いのよ。お陰であの子、風邪ひかずに済んだんだから。……決まった?」

 

えっと。

 

色々あるけれど、無難にコーヒーにしよう。

 

「はい」

 

「すみませーん」

 

お姉さんが店員を呼ぶと、すぐにやって来る。

 

「お待たせしました。ご注文どうぞ」

 

「ブレンドコーヒを」

 

「じゃあ、それを2つで」

 

「かしこまりました。お待ちください」

 

「遠慮しなくていいのに。お腹すいてない?」

 

「大丈夫です。コーヒーご馳走になります」

 

実は、さっきYMCAで待たされている間、昼食をご馳走になった。

 

聞こえてきた話だと、研修棟利用者にキャンセルが出て、余っていた夕食らしい。

 

「名乗ってなかったわね。私は、各務原 桜(かがみはらさくら)です。妹……なでしこがお世話になったみたいで、あの時はありがとう」

 

桜さんか。

 

しかし、本当に俺はなにもしていない。とはいえ、これ以上謙遜するとかえって嫌味になるので、もう言わないようにしよう……。

 

「俺は滝野 純一(じゅんいち)といいます。本栖高校の二年生です」

 

「じゃあ、あの子の一つ上ね」

 

「そうですね……」

 

美人相手だから緊張してしまう。今は自己紹介みたいなものだから良いけれど、これが終わったあと、話が続くだろうか。

 

「さっき、同じ学校なのは知ってる、って言っていたけど、学校であの子に会ったの?」

 

あー。あれは……。

 

「会ったという訳ではないです。学校の中庭でテントを組み立てていた人の中に、妹さんが居たのを見掛けただけで……」

 

「そうなの」

 

俺が答えると、そう言って窓の外へ視線を移した。

 

「テント……テントか……」

 

何か思うことがあったらしく、小さく呟いている。

 

何を見てるんだろう? と思って視線を追うが、

 

「お待たせしました」

 

そこで注文の品が届いた。

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

ホットコーヒーが俺たちの前に置かれた。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

さて、砂糖とフレッシュを……って、桜さん砂糖入れすぎじゃない? 3本も入れるの?

 

まあ、人の好みは其々(それぞれ)

 

さて、いただきます。

 

「ふうー。温まる……」

 

バイクで風を切って走って凍えている身体に、暖かいコーヒーが染み渡る。年寄り臭いかな?

 

「テントね……」

 

まだ言ってる。

 

「そういうことか……」

 

お。合点がいった様子。

 

「なんでしょう?」

 

今のは独り言のようだったけど、気になるのでそれとなく尋ねてみる。

 

だって、ずっと『テント』連呼してたんだもん、気になる。

 

「あー。あの子今日ね、本栖湖でご馳走になったカレーめんのお礼にって、鍋とコンロ抱えて出掛けようとしてたのよ。偶々(たまたま)私も出掛けるところだったから、途中まで乗せてって言われてね」

 

本栖湖のカレーめん。なるほど。

 

つまり、そういうことか。

 

「それじゃあ、今頃妹さんは麓キャンプ場で、リンちゃんとキャンプしてるんですね」

 

……。

 

あ……。

 

「何故それを?」

 

俺の言ったことに桜さんは、一瞬動きを止め、険しい表情でこう尋ねてきた。

 

ヤバい。目が怖そうだけど、コーヒーの湯気(?)で眼鏡が曇ってて見えない。

 

「あ。えっと……今までの情報をまとめた結果です……」

 

 

 

 

 

この前、中庭でのやり取りから、本栖湖でなでしこちゃんを助けたのはリンちゃん、ということが分かっている。恐らく、カレーめん はその時ご馳走になったのだろう。

 

そして、今日リンちゃんと会い、麓キャンプ場に行くことを聞いた。というか、ラインでのやり取りを見ているから、麓キャンプ場に居ることは分かっている。

 

その事をなでしこちゃんにリークしたのは、恐らく恵那ちゃんだろう。

 

 

 

「……と、いうわけです」

 

簡潔に説明した。

 

「なるほど。ところで、あなたも本栖高校に通っているということは、家はこの辺りではないわよね? バイクに乗ってるけど、あなたもバイク、好きなの?」

 

さっきの険しい表情。別に怒っているわけではないみたいだ。

 

「あ、いいえ。別に好きと言うわけでは無いです。バイクが無いと高校に通えないので……」

 

四尾連湖(しびれこ)から本栖高校……。徒歩は絶対無理。自転車も厳しい。

 

そうなると、高校生が自力で通学するとなれば、バイクに限られる。

 

まあ、京都とは違い山梨でバイク通学というのは、別に珍しくはない。

 

「そう……」

 

俺の言葉を聞いた桜さんは、何となく寂しそうに呟いた。

 

あ。今『あなたも』って言った。この人バイクが好きなんだ……。失敗したかな。

 

「あ、そうだ。連絡先交換しましょう」

 

「えっ?」

 

なんで急にそうなった?

 

疑問に思いながらもスマホを差し出すと、あっという間にラインの交換が終わった。

 

「なでしこ助けてくれたお礼よ。もし、困ったことがあったら、なんでも言って頂戴。駆け付けるからね。怪我したときはあの子に手当てさせるから」

 

「あ……ありがとうございます。でも、最後のは起きないように気を付けます」

 

「そうね。その方が良いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 へやキャン△

 

 

 

富士山YMCAグローバルエコビレッジに着いて、受付で預かっていた書類を渡した。

 

すると、書類を確認するから少し待っていて欲しい。そう言われて、待つこと30分。

 

用意された椅子に座ったまま、時間だけが過ぎてゆく。

 

確認するのに何時(いつ)まで掛かるんだろう……おや?

 

スマホにラインの通知が。

 

どれどれ……恵那(えな)ちゃんか。

 

 

 

恵那:リン、今週はどこ行ってんの?

 

リン:富士山の目の前の麓キャンプ場ってとこ

 

恵那:写真撮ったら送ってねー

 

リン:うい

 

 

 

リンちゃん無事にキャンプ場に着いたんだ。

 

良かった……。って、なんで二人のやり取りが俺のところに?

 

あ、これ。いつの間にか作成されていたグループラインの方じゃん。俺とリンちゃん、恵那ちゃんの三人のグループだ。

 

見たところ二人だけのやり取りだと思うけど、場所を間違えているのだろうか?

 

 

 

恵那:ついでにお昼ゴハンも買ってきてねー

 

リン:くたばれ

 

恵那:死ぬのはお前だ相棒

 

恵那:貴様のいるキャンプ場に熊とトラとチワワ100匹を放った

 

リン:うわなにをするくぁwdrftgyふじこlp

 

リン:死んじまったじゃねーかバカヤロウ

 

恵那:こっちも空腹で死んじまったぞこのやろう

 

 

 

なんですか、これ?

 

 

 

滝野:お二人さん。場所間違えていませんかね?

 

恵那:あ、これ先輩も居るグループの方でしたね。間違えました

 

恵那:今のは忘れてください。

 

リン:せんぱい。今のくたばれは先輩に対して言ったことではないので!

 

リン:木にしないでください

 

滝野:分かってるよ。リンちゃん慌てすぎ、誤字ってる

 

リン:え?

 

恵那:ほんとだ。何を木にするの?

 

リン:間違えました(汗)

 

 

 

しかし面白いな、この二人は。本当に母娘(おやこ)みたいだ。

 

「大変お待たせしました」

 

お、受付の人が戻ってきた。これで帰れるな……。

 

「お預りした書類の確認が終わりました。ですが、実は持って帰っていただきたい書類があるので、もう少しお待ちいただけませんか?」

 

 

おい、まじか。

 

 





LINEでのやり取りは、本文中に割り込ませるか、別の話として投稿するか迷いました。

ですが、せっかく『へやキャン△』があるのだから、と思い、へやキャン△形式で入れてみました。如何でしょう?

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