【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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今朝はご迷惑お掛けしました。


実は、本作の息抜きとして、他名義で短編(から発展した)小説を書いていまして、それを投稿する際に誤って此方に投稿してしまいました。

『最新話が投稿された』と表示されたと思います。紛らわしいことをしてしまい、申し訳ありません。


お詫びとしまして、次のお話を前倒ししてお送りします。

回想シーンになります。たぶん、滝野の初夢です。



 □先輩との出会い

 

俺がここ、本栖(もとす)高校に転校してきて、早いもので二ヶ月が過ぎた。

 

山梨での生活も慣れ、至って普通の学校生活を、順調に送っている。

 

ある一点の問題を除けば……。

 

 

 

 

放課後。ケースに入ったトランペット片手に校舎の階段を昇って行く。

 

最上部。屋上への扉を開け放つ。

 

「暑っ!」

 

もう9月だというのに、相変わらず気温は高い。今度の雨でがくっと下がるらしいが、その後はまた暑くなるらしい。

 

水分補給を(おこた)ると熱中症でぶっ倒れるな……。

 

「さてと」

 

(何故(なぜ)か置いてある)パイプ椅子に座り、ケースからトランペットを取り出す。

 

構え、マウスピースを唇に当てる。

 

 

♪~

 

 

軽く試し吹き。チューニングは大丈夫だな。

 

さて、何を吹くか。……よし。

 

 

♪~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一曲吹き終え、一度ペットを下ろす。

 

「う~ん?」

 

椅子から立ち上がり、ペットを椅子に置いて歩き出す。

 

金網越しにグラウンドを見下ろした。

 

運動部の大会は夏休みまでに終わっているからか、部活中の生徒の数は少ない。

 

どのみち、3年生はもう引退しているはず。そもそもの部員数が少ないのだろう。

 

「さて、また吹くか」

 

そう思って振り返る。

 

「えっ?」

 

椅子の横に誰か立っていた。

 

「これ、キミの?」

 

制服姿の女性。この学校は制服で学年を判断できないから、先輩か同級生か……分からん。

 

「あ、いや。俺のやのうて、学校のやつです……」

 

念のため、丁寧な言葉遣いにする。

 

「ふうん? キミ、面白い喋り方だね」

 

「夏休み前に京都から越してきたばかりで、京都弁が抜けとらん……抜けてないんです」

 

「そっかー。今、これ吹いてたのキミだよね? あれ、なんて曲?」

 

「『Wednesday Night』*1です。知ってます?」

 

「知らないや。でも、良い曲だね」

 

「ありがとうございます」

 

しかし、この人は一体誰なんだ? 同級生ではない気がする。根拠はないけれど。

 

「キミ、トランペット得意なんだ?」

 

「まあ。小さい頃からずっと、吹いとるんで」

 

「じゃあ、他にも演奏してもらえるのかな?」

 

お?

 

「構いませんよ。あ、今楽器どけますんで、椅子にどうぞ」

 

「そう? ありがと」

 

俺がトランペットを取ると、彼女は椅子に腰掛けた。

 

「えっと、何かリクエストありますか?」

 

「そうだな……、必殺仕事人、とか?」

 

中々渋い曲だな。

 

「ダメだった?」

 

「いえ。大丈夫ですよ。ほな」

 

構え、息を吐く。

 

 

♪~

 

 

 

 

「お見事!」

 

吹き終えると、拍手してくれた。

 

「キミ、上手い……というか、プロみたいだね」

 

「ありがとうございます。まあ、一応人生の半分以上、トランペットと一緒に過ごしてきましたから……」

 

「流石だね。じゃあ、今度は……運動会とかで流れるトランペットの曲。曲名分かんないけど」

 

運動会のトランペット。

 

「おそらく『トランペット吹きの休日』ですね。これですか?」

 

そう言って、冒頭部分を吹く。

 

 

♪~

 

 

「そう! それ。いける?」

 

勿論(もちろん)十八番(おはこ)だ。

 

 

♪~

 

 

 

 

「凄い! 本当にプロみたいだよ!」

 

割れんばかりの拍手。彼女一人からのものだが、俺にはとても大きく聞こえてきた。

 

「そういえばさ。何でキミはここで一人で吹いているのかな?」

 

「そういうあなたこそ、こんなところで何していたんですか?」

 

一応、屋上は立入禁止ではないが、易々(やすやす)入って良い場所ではないはず(俺は先生に声掛けてあるので大丈夫……なはず)。

 

「アタシ? アタシはそこのタンクの上に寝転がって、空眺めてたのさ」

 

タンクって、あの給水塔のことか。

 

……梯子(はしご)で登る奴じゃないか。ここの制服スカート短いから、下から…………おっと。これ以上は。

 

「あ、別に授業サボって居た訳じゃないよ?」

 

「いやいや。それはアカンやろ!」

 

「当然。それで、キミはどうしてここに? 部活は?」

 

この人知らないのか。

 

「この学校、吹奏楽の部活がないんですよ」

 

「あ、そういえばそうだっけ」

 

…………。

 

「でも、ないなら作れば良いんじゃない?」

 

あっさり。俺の苦労も知らないで……。いや、名前も知らない相手の苦労を把握していたら、それはそれで怖い。

 

「簡単に言いますね」

 

「簡単だよ。この学校には、『部活』と『サークル』の二種類があって、前者は『二学年・四人以上』が条件だけど、後者は『二人』だけだよ。誰か誘ってサークル作れば良いじゃん」

 

その通り。その通りなんだけど……。

 

「誘う相手が居らんのです」

 

クラスの皆や、担任の安曇野(あづみの)先生にも相談したが、吹奏楽経験者は見付かっていない。流石に、全くの未経験者に声掛けて、名前だけ借りるのは失礼だろう。先方がそれを提案したのならまだしも。

 

「1学年2クラス。200人以上の生徒が居るのに、楽器吹けるのが俺一人って、けったいな話*2や……」

 

泣けてくる。

 

「そっかー。それは大変だったね」

 

椅子に座ったままだった彼女が立ち上がった。

 

「ならさ。こういうのはどう?」

 

「はい?」

 

俺の顔を真っ直ぐ見ている。

 

「アタシも楽器はさっぱりなんだけどね。名前貸してあげるからサークル作る、っていうのは?」

 

「えっ?」

 

「部室として音楽室が使えるかは分からないけど、形だけでもサークルがあった方が何かと便利だと思うよ」

 

それは一理あると思う。

 

現に、夏休み中もほぼ毎日学校に来て、トランペット吹いていたけれど、それは部活動として扱ってもらえず、体裁として『音楽の授業の補講』という形になった。

 

だから、体裁を整えるため、簡単なレポートを書いて提出してある。

 

今のこれも、補修扱い。これでもレポートを書くことになっている。

 

サークルが出来れば、部活動として扱われるから、それらが一切無くなる。

 

俺としては有り難い。しかし、

 

「あなたはそれで良いんですか?」

 

渋っている理由はさっきの通り。

 

「良いも何も。アタシが提案してるんだよ?」

 

「あっさり……」

 

それを、いとも簡単に蹴り飛ばしてしまった。

 

そんな、真剣な眼差しを向けられると、否とは言えないじゃないですか。とはいえ、ここまで言われたら断る理由なんて無くなっている。

 

「……それじゃあ、よろしくお願いします……」

 

頭を下げる。

 

すると、俺の前まで彼女が歩いてきていた。

 

右手を差し出されている。

 

ああ、そういうこと。

 

その手を握り返す。

 

「オッケー。じゃあ、申請書はキミが書いて提出しておいてね。アタシの名前使ってさ」

 

悪戯っぽく微笑む。ここ、そういう場面か?

 

あ……。名前使ってって言われても。

 

「俺、貴女の名前知らないんですけれど……」

 

「ああ。そういえば名乗ってなかったね」

 

手を離すと、彼女は歩き出し、フェンスを背にしてもたれる。

 

そして、口を開く。

 

「アタシは水谷(みずたに) 渋谷(しぶや)。二年生。よろしくね」

 

水谷先輩か……。

 

「俺は、一年の滝野(たきの) 純一(じゅんいち)です。よろしくお願いします」

 

 

 

これが、俺が初めて水谷先輩に出会った時の出来事で、『本栖高校吹奏楽サークル』のスタートだった。

 

 

 

*1
1972年4月から、1985年9月まで放送されていた『水曜ロードショー』のオープニング曲。『水曜日の夜』とも。

*2
妙な話・不思議な話 という意味

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