今朝はご迷惑お掛けしました。
実は、本作の息抜きとして、他名義で短編(から発展した)小説を書いていまして、それを投稿する際に誤って此方に投稿してしまいました。
『最新話が投稿された』と表示されたと思います。紛らわしいことをしてしまい、申し訳ありません。
お詫びとしまして、次のお話を前倒ししてお送りします。
回想シーンになります。たぶん、滝野の初夢です。
俺がここ、
山梨での生活も慣れ、至って普通の学校生活を、順調に送っている。
ある一点の問題を除けば……。
放課後。ケースに入ったトランペット片手に校舎の階段を昇って行く。
最上部。屋上への扉を開け放つ。
「暑っ!」
もう9月だというのに、相変わらず気温は高い。今度の雨でがくっと下がるらしいが、その後はまた暑くなるらしい。
水分補給を
「さてと」
(
構え、マウスピースを唇に当てる。
♪~
軽く試し吹き。チューニングは大丈夫だな。
さて、何を吹くか。……よし。
♪~
一曲吹き終え、一度ペットを下ろす。
「う~ん?」
椅子から立ち上がり、ペットを椅子に置いて歩き出す。
金網越しにグラウンドを見下ろした。
運動部の大会は夏休みまでに終わっているからか、部活中の生徒の数は少ない。
どのみち、3年生はもう引退しているはず。そもそもの部員数が少ないのだろう。
「さて、また吹くか」
そう思って振り返る。
「えっ?」
椅子の横に誰か立っていた。
「これ、キミの?」
制服姿の女性。この学校は制服で学年を判断できないから、先輩か同級生か……分からん。
「あ、いや。俺のやのうて、学校のやつです……」
念のため、丁寧な言葉遣いにする。
「ふうん? キミ、面白い喋り方だね」
「夏休み前に京都から越してきたばかりで、京都弁が抜けとらん……抜けてないんです」
「そっかー。今、これ吹いてたのキミだよね? あれ、なんて曲?」
「『Wednesday Night』*1です。知ってます?」
「知らないや。でも、良い曲だね」
「ありがとうございます」
しかし、この人は一体誰なんだ? 同級生ではない気がする。根拠はないけれど。
「キミ、トランペット得意なんだ?」
「まあ。小さい頃からずっと、吹いとるんで」
「じゃあ、他にも演奏してもらえるのかな?」
お?
「構いませんよ。あ、今楽器どけますんで、椅子にどうぞ」
「そう? ありがと」
俺がトランペットを取ると、彼女は椅子に腰掛けた。
「えっと、何かリクエストありますか?」
「そうだな……、必殺仕事人、とか?」
中々渋い曲だな。
「ダメだった?」
「いえ。大丈夫ですよ。ほな」
構え、息を吐く。
♪~
「お見事!」
吹き終えると、拍手してくれた。
「キミ、上手い……というか、プロみたいだね」
「ありがとうございます。まあ、一応人生の半分以上、トランペットと一緒に過ごしてきましたから……」
「流石だね。じゃあ、今度は……運動会とかで流れるトランペットの曲。曲名分かんないけど」
運動会のトランペット。
「おそらく『トランペット吹きの休日』ですね。これですか?」
そう言って、冒頭部分を吹く。
♪~
「そう! それ。いける?」
♪~
「凄い! 本当にプロみたいだよ!」
割れんばかりの拍手。彼女一人からのものだが、俺にはとても大きく聞こえてきた。
「そういえばさ。何でキミはここで一人で吹いているのかな?」
「そういうあなたこそ、こんなところで何していたんですか?」
一応、屋上は立入禁止ではないが、
「アタシ? アタシはそこのタンクの上に寝転がって、空眺めてたのさ」
タンクって、あの給水塔のことか。
……
「あ、別に授業サボって居た訳じゃないよ?」
「いやいや。それはアカンやろ!」
「当然。それで、キミはどうしてここに? 部活は?」
この人知らないのか。
「この学校、吹奏楽の部活がないんですよ」
「あ、そういえばそうだっけ」
…………。
「でも、ないなら作れば良いんじゃない?」
あっさり。俺の苦労も知らないで……。いや、名前も知らない相手の苦労を把握していたら、それはそれで怖い。
「簡単に言いますね」
「簡単だよ。この学校には、『部活』と『サークル』の二種類があって、前者は『二学年・四人以上』が条件だけど、後者は『二人』だけだよ。誰か誘ってサークル作れば良いじゃん」
その通り。その通りなんだけど……。
「誘う相手が居らんのです」
クラスの皆や、担任の
「1学年2クラス。200人以上の生徒が居るのに、楽器吹けるのが俺一人って、けったいな話*2や……」
泣けてくる。
「そっかー。それは大変だったね」
椅子に座ったままだった彼女が立ち上がった。
「ならさ。こういうのはどう?」
「はい?」
俺の顔を真っ直ぐ見ている。
「アタシも楽器はさっぱりなんだけどね。名前貸してあげるからサークル作る、っていうのは?」
「えっ?」
「部室として音楽室が使えるかは分からないけど、形だけでもサークルがあった方が何かと便利だと思うよ」
それは一理あると思う。
現に、夏休み中もほぼ毎日学校に来て、トランペット吹いていたけれど、それは部活動として扱ってもらえず、体裁として『音楽の授業の補講』という形になった。
だから、体裁を整えるため、簡単なレポートを書いて提出してある。
今のこれも、補修扱い。これでもレポートを書くことになっている。
サークルが出来れば、部活動として扱われるから、それらが一切無くなる。
俺としては有り難い。しかし、
「あなたはそれで良いんですか?」
渋っている理由はさっきの通り。
「良いも何も。アタシが提案してるんだよ?」
「あっさり……」
それを、いとも簡単に蹴り飛ばしてしまった。
そんな、真剣な眼差しを向けられると、否とは言えないじゃないですか。とはいえ、ここまで言われたら断る理由なんて無くなっている。
「……それじゃあ、よろしくお願いします……」
頭を下げる。
すると、俺の前まで彼女が歩いてきていた。
右手を差し出されている。
ああ、そういうこと。
その手を握り返す。
「オッケー。じゃあ、申請書はキミが書いて提出しておいてね。アタシの名前使ってさ」
悪戯っぽく微笑む。ここ、そういう場面か?
あ……。名前使ってって言われても。
「俺、貴女の名前知らないんですけれど……」
「ああ。そういえば名乗ってなかったね」
手を離すと、彼女は歩き出し、フェンスを背にしてもたれる。
そして、口を開く。
「アタシは
水谷先輩か……。
「俺は、一年の
これが、俺が初めて水谷先輩に出会った時の出来事で、『本栖高校吹奏楽サークル』のスタートだった。