【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 綾乃の家へ。棚ぼたツーリング

 

適当なところにビーノを停車させ、スマホを操作する。……どれどれ。

 

浜松基地広報館・エアパーク、うなぎパイファクトリー、舘山寺(かんざんじ)ロープウェイ、夢工場直売店*1、浜名湖パルパル、舘山寺温泉……。観光名所や遊園地、博物館なんかが点在しているんだ。

 

まあ、今日は元日だから営業していないところもあるみたいだけど。

 

 

 

「おっと!」

 

スマホを操作していたら、着信が。

 

ライン電話だ……綾乃から?

 

「もしもし?」

 

ホルダーからスマホを取り外し、耳に当てる。

 

「綾乃? どうしたの?」

 

『あ、お兄さん。お久し振りです。明けましておめでとうございます』

 

「こちらこそ、今年もよろしく。で、どうしたの? 急に」

 

電話口はいつもののほほんとした声色、急な用件ではないみたいだが。

 

『お兄さん、今どの辺りですか?』

 

「えっ? えっと……」

 

どの辺り、と言われてもなぁ……。良く分からないんだが。

 

あ。

 

前方を見ると、バス停が立っている。

 

舞阪(まいさか)協働センター……? の近く」

 

停名を見て、そう答える。

 

『えっ? もう浜松来ているんですか! 昼に出発するって聞いてましたけど』

 

「まあ、色々あってね……」

 

と言うほど深い理由でもないが。

 

『じゃあ、一度家に来ますか? あたしがバイトの間、もし何処かへ行くとしても、荷物置いていけば楽ですよね?』

 

「確かに」

 

さっき、福田(ふくで)海岸に行った時も軽くて走りやすかった。それが可能ならその方が良いだろう。

 

「じゃあ、今から綾乃の家行くわ」

 

『了解です。そこからなら5分くらいですね。待ってます』

 

「よろしく」

 

電話を切る。

 

 

 

さてと。

 

スマホをホルダーにセットし…………ん?

 

あれって、もしかして……いや、間違いないよな?

 

俺は今、協働センターの前に止まっていて、ここは国道から外れた脇道なんだけど、国道を見覚えのあるバイクが通過して行った。

 

「あれって……」

 

\シマリンビーノダヨ/

 

やっぱり。

 

しかし、なぜこんな所に? 山梨へ帰るって言ってたけど。

 

時間があるからかなり大回りをして行くのだろうか?

 

まあいいか。困ったことがあれば連絡がくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾乃の家に到着。

 

前に来てから1ヶ月も経っていない。来るのは二度目だが、不思議と『久し振り』という感じがしない。何故だろう……。

 

インターホンを鳴らす。

 

『はい』

 

この声は、確かお母さんだ。

 

「こんにちは、滝野です」

 

『ああ、純一くんね。いらっしゃい、今行くわ』

 

少し待つと、玄関が開いた。

 

「いらっしゃい。遠路遙々お疲れ」

 

話振りからお母さんが出てくるかと思ったが、出迎えてくれたのはお父さんだ。

 

「明けましておめでとうございます。今日はよろしくお願いします」

 

「明けましておめでとう。さ、上がって上がって」

 

お父さんに促され、上がらせてもらう。

 

さっき、ガレージに停めたビーノを二度見していた。とはいえ、何も言われないということは、停めた場所は問題ない、ということだろう。

 

この流れ、お父さんもバイクに詳しいのかな?

 

 

 

 

食卓に通される。

 

「あ、いらっしゃい。明けましておめでとう」

 

「お兄さん、あけおめことよろです」

 

綾乃のお母さんと綾乃からだ。

 

「こちらこそ。明けましておめでとうございます、本年も宜しくお願いします」

 

テーブルを見ると、おせち料理が並んでいる。

 

「あ、滝野くんも食べる?」

 

「あ、じゃあ少し……」

 

叔父さんのところで既にいただいているから、そんなにお腹はすいていない。

 

あ、でももうすぐ昼か。

 

「お兄さん、あたしはこのあとバイト行きますけれど、お兄さんはどうしますか?」

 

「ん? どうしようかな……あ~」

 

欠伸(あくび)が出てしまった。

 

「ははは。滝野くんはお疲れのようだね。今日は家でゆっくりすると良い」

 

お父さんに笑われてしまったが、もっともな話だ。

 

久し振りの長旅で疲れている感じだから、少し寝させてもらおう……。

 

「それでしたら、お言葉に甘えて……」

 

「前の時の部屋にお布団準備してあるから、自由に使って良いわ。数日泊まるんでしょう?」

 

そういう話になってるの?

 

まあ、今更だし気にしない。

 

「ま、まずはご飯にしましょう。雑煮もあるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご飯を頂いて用意された部屋で寛ぎ……寝てたけど。

 

目が覚めたのは夕方近く。そろそろ綾乃のバイトが終わる時間だ。

 

せっかくだし、散歩も兼ねて迎えに行くか。

 

部屋を出て食卓へ向かう。

 

綾乃のご両親はテレビを観ていた。

 

「ちょっと歩いてきますね」

 

そう声を掛ける。

 

「了解」

 

「気を付けてね」

 

「ありがとうございます。行ってきます」

 

玄関を出て、ガレージを覗く。

 

綾乃のバイクは停まったままだ。歩いて行ったらしい。

「さて。では散歩に行きますか……」

 

\キヲツケテナ!/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩いても数分のところにあるコンビニへ到着。

 

「いらっしゃいませ~」

 

自動ドアを潜ると、店員から声が掛かる。

 

「あ、お兄さん」

 

入ってすぐのところに綾乃が立っていた。仕事が終わった後らしく、着替え終えている。

 

「綾乃、お疲れ様」

 

「お、土岐ちゃん終わりだっけ。……ん? 何方?」

 

俺が綾乃に声を掛けるのと同時に、私服姿の男性が声を掛けた。

 

「あ、店長。今日はこれにて失礼します」

 

店長のようだ。

 

「えっと、彼はツーリング仲間です。明後日の休みで一緒に走りに行くんですよ」

 

「そうか。因みに、君は何処から来たんだい?」

 

「山梨の市川三郷町からです」

 

こう答えると、店長は一瞬目線を逸らし考える素振りを見せてから、驚きの声を上げる。

 

「うわぁ……。遠いところからわざわざ来てくれたんだねぇ。可愛い彼女のために……」

 

…………えっ?

 

「いやいやいや! そういう関係では無いですよ!」

 

慌てて否定する。飛躍しすぎ。

 

「あらら? 違うのか」

 

「そうですよ店長。彼氏というよりは、お兄ちゃんといった感じですよ」

 

綾乃も否定した。しかし、それで良いのか?

 

「そうか、まあいいや。土岐ちゃん、明後日の休みがツーリングか……」

 

「はい。その予定です」

 

「……あっ! そうだ。そうだった!」

 

急に、店長が声を上げる。あまりにも大きな声だったから、店内の視線が集まった。

 

俺と綾乃は驚いてしまったが、店長は大して気にしていない様子。

 

「土岐ちゃん。実は俺、シフトミスしててね。3日だけ休みにしていたけどさ、4日も休んでもらって大丈夫だよ」

 

「えっ? ……すると、あたし三日間休みですか?」

 

「うん、そういうこと。急で申し訳ないんだけど、宜しくね。だからまあ、楽しんでおいで」

 

店長に目配せされる。なるほどそういうことか。

 

シフトミスが、本当なのか建前なのか別として、ツーリングに行く時間をくれた、ってことだろう。

 

棚から牡丹餅って感じだな。

 

()()()()()()()()……とか?

 

 

 

 

 

店長へのお礼も兼ねて、お菓子を買えるだけ買って、綾乃と共に店を出る。

 

「そんなに沢山お菓子買ってどうするんですか?」

 

両手に提げたレジ袋を見て、呆れた声でそう言われた。

 

「休み増やしてくれた店長へのお礼も、って。それに、これを明日行く各務原(かがみはら)さんのお祖母さん家に持っていけば、ゆくゆくは各務原のお腹に入る」

 

「なるほど……!」

 

あれ? 納得してもらえた?

 

「それで? 明日は各務原さんの家に行くとして、明後日の予定は決まっているのか?」

 

「ん~。正直未定ですね。ただ、国一*2の方は混雑すると思うので、山の方へ行こうかな……って考えてます」

 

山の方か。新城さんの家も、ここから見れば山の方だな。

 

とはいえ、彼は明後日山梨へ行くわけだから、訪ねて行っても会えない。

 

「まあ、ゆっくり考えれば良いんじゃないか? 明後日だし」

 

二人並んで歩いて行く。

 

「そういえば、お兄さんバイク変えました?」

 

「いや、変えてないよ。あのトリシティは代車だったんだよ」

 

「代車?」

 

「そう。オイル交換に出したら、重要部品の交換が必要だったらしくて。その間の代車が、あのトリシティだったわけ」

 

そう答えるなり、綾乃がにやける。

 

「え、つまりその代車がパンクしたってことですよね~?」

 

「そういうこと。勘弁してくれって話だよ。まあ、そのお陰でこうして綾乃と知り合えたんだから、今となっては感謝だよな」

 

きっかけなど、些細なものだったりする。

 

「さて。家に着きましたよ」

 

「あ、本当だ」

 

話していたらあっという間だった。

 

 

\オカエリー/

 

 

 

*1
『ブラックサンダー』で有名な有楽製菓の直売店。この中では唯一愛知県豊橋市にある。

*2
国道1号線





書きたい・書こうと思っていること が多すぎて、うまく纏まらない……。

これ、原作だと5話(24話~28話 コミック5巻)で終わっている話が、まだ半分も終わっていない感じです(汗)

まあ、これはすなわち、綾乃の出番が沢山あるわけですから、お楽しみいただけると嬉しいです。
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