お待たせしております。
いやあ、先日の土用丑は大忙しでした。
私は直接うなぎに係わる仕事はしていないんですけれど、本当に忙しくて結局朝から夕方まで休憩無しでしたよ……。
でも、うなぎ は一切しか食べてないんですよね(汗)
さて、うなぎ回が終わったら次はツーリングですね。
……の前に。
今回はリンちゃんがとある行動に出ます。
綾乃と
来たまでは良かったが、遅くなってしまった関係で、バイトがある綾乃は先に帰って行った……。
家に残されたのは俺一人。
「どうぞ」
居間へ通された。
「改めまして、私は各務原 真知子です。孫たちがいつもお世話になってます」
「いえいえ。お世話になってるのは俺の方です」
座る前に挨拶。俺は既に玄関で名乗ったから、ここで言う必要はないだろう。
しかし、お世話になっているのは俺の方なんだけどなぁ……。
「なら、そういうことにしておきましょう。さ、おこた入りなさい。外は寒かったでしょ? 今お茶入れるから」
「あ、でしたらこちらを。つまらない物ですが……」
持ってきているお菓子を差し出す。
各務原さんの口に入るよう、賞味期限の長いもの、そして
「あらまあ。ご親切にありがとう。せっかくだし、頂きましょうか」
…………。
俺の持ってきたお菓子をお茶請けに、お茶を戴く。
「孫たちから聞いているけれど、
「はい。一つ上になります」
「同じ部活に所属してるって聞いているけど」
「そうですね。俺は別で『吹奏楽サークル』に所属してますが、各務原さんも居る『野外活動サークル』にも属しています」
「なるほどねぇ……」
これ、どういう話になるんだろう?
「えっと……その『野外活動サークル』? で、キャンプに行ったりしてるって聞いてるの。あなたも一緒に行ったのかしら?」
「そうですね。同じサークルですから。楽しんでいますよ、各務原さんも」
そうして、俺は各務原さん……基 野クル で行ったキャンプの時の、各務原さんの話をした。
パインウッドでの話、一緒に夜景を見に行ったこと。
リンちゃんと一緒にうちで焼肉キャンプした話。
クリキャンでの子ども達と仲良くなった話、翌朝のご飯の話。
これとは別に、年末年始に働けることになったときの話もした。
「それは良かった」
俺が話終わるまで黙って聞いていたお祖母さんが口を開いた。
「なでちゃんのことだから、山梨行ってもすぐに友だちが出来るとは思っていたけどね。アヤちゃんと別れる時のことを考えると、ちょっと心配だったのよ」
「各務原さんは凄いですよ。色々な人とすぐに仲良くなりますし、野クルにとっても良い意味で起爆剤でしたから……」
『キャンプがしたい!』という思いで、大垣さんと犬山さんが立ち上げた野外活動サークル。4月から10月迄の間、何もしていなかったのが、各務原さんが入部して、俺も(当初は名前だけのつもりで)入部して……。ようやくキャンプへと至ったのだ。
別に発足人二人がダメだ、と言うつもりはないが、各務原さんがいなかったら未だにキャンプしていなかったのでは……と思ってしまうほどだ。
「そう言ってくれると嬉しいわね」
お祖母さんがお茶を啜る。絵になるなぁ……。
と、思った矢先、真面目な顔つきになった。
「滝野くんはなでちゃんのこと、どう思っているの?」
来ましたよ。この質問。
何となく警戒していたけれど、聞かれますよね。
「可愛い妹、って感じですね。まあ、野クルのメンバー全員妹みたいな感じですからね、『妹増やしすぎ!』って、本当の妹に怒られてますけど」
苦笑いしつつ、お茶を啜る。
「そう……。良かった」
優しく微笑んだ。
う~ん。これはどういうことだ?
「えっと……」
「そういえば、リンちゃんとも仲が良いのね」
あれ、話を逸らされた。
って、リンちゃん!
「はい。えっと……玄関前にリンちゃんのバイクが止まってるのを見ましたけど、来ているんですか?」
「ええ。今晩はここに泊まるの」
お祖母さんから聞いた話だと、
リンちゃんは年越しを磐田のキャンプ場で迎えたものの、身延が積雪で路面凍結し、自力で帰宅できなくなったらしい。
それで、咲さんから『三日にお父さん*1が山梨来るついでに、ビーノごと拾うから、それまでゆっくりしてきなさい』という話になった。
そして、ネットでこの辺りのキャンプ場を調べたところ、弁天島近辺で格安のキャンプ場を見付け、そこで一泊。
もう一泊はどうするか……? と、迷っていたところ、その事を知った各務原さんから、お祖母さんの家を勧められた。
とのこと。
「なるほど。そういうことなんですね……」
昨日、舞阪で見掛けたのは、弁天島のキャンプ場に宿泊するためだったのか。
しかし、当の本人は見当たらない。
「リンちゃんは今……」
「ところで滝野くん」
話を遮られてしまった。
「お昼ご飯は食べてきたの?」
話が逸れた?
「はい。来る途中のうなぎ屋さんで……」
「あら。それって佐久米駅近くのうなぎ屋かしら?」
「はい。ご存知なんですね」
「勿論よ。あそこは元日から営業しているからね。リンちゃん、そのうなぎ屋さんに夕御飯に行ってるよ」
なるほど。じゃあ、ここには来ているけど、今家には居ない、ということになるな。
「あなた達が訪ねてくる30分くらい前に出掛けて行ったけど、何処かで会わなかった?」
丁度、駅でゆりかもめと戯れていた時だな。タッチの差 とはこの事だろう……。
「すれ違っちゃってますね。綾乃に誘われて駅でゆりかもめと遊んでいたので」
「そうなのね。驚いたでしょう?」
「はい。人馴れしていたので、びっくりしました」
「昔から餌をあげている人が居るのよ。その人のお蔭なの」
「なるほど……」
しかし、いくらお正月とはいえうなぎを食べに行くとは。お金持っているなぁ……って、俺が言ったら嫌味になってしまう。
「帰りました」
玄関の方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あら、帰ってきたみたいよ」
「あ、滝野先輩。来ていたんですか」
お祖母さんがそう言うと、すぐにリンちゃんが入ってきた。俺に気づいても、ここに居たの? という反応。全然驚いていない。
浜松にいく話はしていたし、なにより玄関先、リンちゃんのビーノの隣に俺のビーノが止まっている。気付かない方がおかしい。
「まあね。綾乃とご挨拶に来たんだよ。その綾乃はバイトで帰っちゃったけどさ……」
「元日からバイトですか」
「コンビニに盆も正月も無いんだってさ」
「なるほど……」
何となく寂しそう。会いたかったのだろう。
「また機会あるだろうし、いつか会えるよ」
「そうですね」
ふと、外を見ると既に日が傾いていて、段々暗くなるところだ。
そうだ!
「リンちゃん。今からちょっと出掛けない?」
「えっ? 今からですか?」
「ここからならすぐのところだよ。行って損はないと思うから、どうかな?」
「着いたよ」
昨日の夜も来た、奥浜名湖展望公園へ。
『こんなところ、よく知ってますね』
リンちゃんは驚いているみたいだ。インカム越しでも分かる。
「昨日、綾乃と来たんだよ」
昨夜は暗くて道を覚えられなかったけど、今日も途中まで同じ道を走ったので、今回はどこを曲がれば良いのか分かっていた。
『あー。そうですか……』
ん? 声色が変わったぞ?
何だろう? さっきの感動を返せとでも言いたげな感じ。
まあ良い。
「登ろうか」
「弁天島があの辺り。あれは浜名湖サービスエリア」
「あの明るい所は、どの辺りですか?」
「浜松駅だな」
展望台へ登ると、リンちゃんはその景色に昨日の俺と同じ、いやそれ以上に感動している。
「各務原さんがここから見る浜名湖が大好きで、綾乃と一緒によく来ていたんだってさ」
「あの坂道登ってきたんですか……。しかも自転車で。そりゃあ本栖みちチャリで登る体力つきますよ」
「だろうね」
加えて、桜さんによる浜名湖自転車ぐーるぐる。
「リンちゃん。今回のキャンプはどうだった?」
「そうですね。色々あったけど良かったです」
「色々っていうと、突然二日も自由になったこと?」
「それも含めてです。私、クリスマスキャンプの後、初めてソロキャして改めて思いました。同じ『キャンプ』でも一人だと全く別のアウトドアだって。何て言うか……ソロキャンは寂しさも楽しむものなんだって」
「寂しさ、かぁ……」
何となく分かる。
吹奏楽って『ブラスバンド』という言い方もある通り、複数人で複数の楽器を演奏……合奏するのがメインだから、前の俺みたいに一人トランペットを吹いていた頃は、寂しさを感じる時があった。
今は可児のお陰で、むしろ『一人にしてくれ!』と思うときがあるぐらいだ。その点可児には感謝している。
「先輩、ココア飲みますか?」
「ん? じゃあ、戴くよ」
そう言ってリンちゃんが一度バイクへ戻り、バーナーとコッヘルを持ってきた。
「これ、もしここに各務原さんがいたら、『かれーめん、かれーめん!』とか言いながら、カップラーメン出すよな?」
「あ、何となく分かります。普通に太ると思うんですけどね」
そんな他愛ない話をしていると、お湯が沸いた。
手際よくリンちゃんがココアを入れる。
「先輩、どうぞ」
「ありがとう」
熱っ! しかし、暖まる。
「今頃、みんな大忙しなんだろうな……」
ふと、リンちゃんが呟く。
犬山さんは休みで今頃高山だろう。
恵那ちゃんは休みではないけれど、もう仕事は終わっているだろう時間だ。
そうなると、各務原さんと大垣さんはまだ仕事中かもしれない。
「まあ、それぞれ仕事が違うから、休みも合わなくても仕方無いさ」
「ですよね」
「この先、高校を卒業して、大学行って。大学も卒業して、それぞれ就職したら、尚そうなるだろうし。まだまだ先の話だけど、今こうして自由に使える時間が多い間に、やりたいことをやれるだけやっておくのも、大切だと思う」
就職すれば、自由に使えるお金は増えるし、今は出来ないこと(飲酒喫煙・自動車の免許 等々)も出来るようになる。
代わりに、当然だが自由に使える時間は減る。
「ですよね。今しかないこの時を大切に……」
そう言ったリンちゃんは、何処か遠くの方を、何かを決意したような表情で見つめていた。
「そろそろ俺は帰るよ」
だいぶ話し込んでしまい、遅い時間になってしまった。
「各務原さんのお祖母さんによろしくね」
不躾ながら、このまま帰らせていただこう。
あまり遅くなると綾乃のご両親に迷惑かけてしまうから。
「分かりました。気を付けて」
「うん、新城さんによろしく。それじゃあ、休み明けに」
そして、ビーノのエンジンを始動し、出発しようとすると……。
「あ! 下までは一緒に走りませんか?」
「えっ? ……そうだね。そうしようか」
結局、ライン通話を繋いで一緒に下山して行く。
『先輩』
「どうしたの?」
『前から気になっていたんですが……』
……?
『土岐さんは呼び捨てなんですね』
「えっ?」
急に?
「本人がそう呼べって、最初会った時に言われたから……」
急にどうしたんだろう?
後方にいるリンちゃんの表情を窺おうにも、カーブが続く道を走っているから余所見が出来ない。
『何だかフェアじゃない気がするので、私も呼び捨てで良いですよ』
フェア、か……。
「了解。じゃあこれからはそう呼ぶよ、リン」
『はい』
返事は満足そうな声だった。
踏切の交差点まで降りてきた。
俺は左折、しかしリンは右折だ。
「それじゃあ。今度こそ」
『はい。今日はありがとうございました。楽しかったです』
左折して国道を走って行く。
反対へ向かって行くリンの姿はすぐに見えなくなった。
「ところでさぁ……」
『ブヘアッ!』
あ、変な声が聞こえてきた。
『せせせせ先輩! どうしてっ!』
「どうしてって。これ、ライン通話だからどちらかが切らない限り延々と繋がったままだよ……」
失念していたようだ。
『で、何の用ですか?』
「いや、いつ切るのかなって……あ」
返事の代わり(?)に、通話が途切れた。