長らくお待たせしました。
中々筆が進みません。書こうとは思ってるんですが、そう思えば思う程書けないんですよね……。
最低でも月に一回は更新しようと思いますので、よろしくお願いします。
〈24年1月6日追記〉
ささゆりの湯キャンプ場の料金について。
公式ホームページに記載がなかったため、現地で再確認したところ、単車の料金の記載がありました。該当部分を修正しました。
道の駅
最初のうちは後ろの綾乃から散々文句を言われていたが、いつの間にか静かになっていた。
国道153号線を西進し、途中で県道101号線に入る。道幅は狭いが、岐阜県・愛知県・長野県と、三つの県を跨ぐ珍しい県道らしい。
携帯の電波も届かないんじゃないか? と思うような道を進み、愛知県豊田市に入ってから……。
「綾乃、いよいよだぞ」
『はい……』
岐阜県
恵那市
『岐阜県初上陸!』
後ろから聞こえてくる嬉しそうな声。
『まさかこんなところまで来るとは思いませんでした』
「昨日、自分で言っておきながら?」
『あたし、何か言いましたっけ?』
「この辺りなら恵那市とかなら近い、って言っただろう?」
『言ったっけ……そんなこと?』
おいおい。
しかし、声に疲れが感じられる。
流石に無茶しすぎただろうか。
「綾乃、あと一時間位で今日の目的地に着くから、もう少し頑張って」
『えっ? はい。分かりました』
余談だが、この県道の北側を並行して通るのが、
県道101号線を抜け、国道257号線へ。昨日も走ったのと同じ国道だが、場所は違う。確か、この道路を走り続ければ、北は
しかし、すぐに国道から別の道へと入る。
おお。大型車通行不能 って書かれた看板が立ってる……。道幅の狭い道ばっかり走ってる気がするなぁ。
その後も乗用車同士だと離合に困るような道を通る。通話は繋いだままでも殆ど会話はない。
「次の角を左」
『はい』
交わされるのは僅かな指示のみ。
「右曲がるよ」
『了解』
そして細い坂道を登って行くと……。
「目的地到着だよ」
『やっと着いたぁ~?』
マレットハウス……要は管理棟だ。その前へバイクを止める。
俺の隣に綾乃のバイクが止まり、バイクを降りると……。
「…………駄目だぁ~」
あ、腰抜けた? 綾乃がその場にへなへなと座り込む。
「た、大丈夫か?」
座ったまま右手の親指と人差し指で丸を作った。大丈夫、ということだろう。
「と、とりあえず受付してくるから、それまで休んでて」
「受付……? 今日ここに泊まるんですか?」
そう言って余力を振り絞り(?)立ち上がった綾乃は回りを見回す。
「ここは……? キャンプ場みたいですけど」
「そう。『ささゆりの湯オートキャンプ場』」
「キャンプ場ってことは、今日はキャンプするんですか?」
「うん。ほら、綾乃前に展望台行ったとき、ああ言っただろう?」
『こんな寒い時期にキャンプって、何やってんだよ? って思った』。そう言っていた。
「だから、綾乃もキャンプしてみれば、何か分かるんじゃないかな……って思ったんだよ」
百聞は一見に如かず。何事も経験してみるのが一番だ。
「凄いですね……。その話は展望台で聞きましたけど、本当にキャンプするなんて……」
驚いているのか、呆れているのか。何とも言えない表情でこちらを見ている。
「それはそうと。道具はどうするんですか? テントや寝袋無しにキャンプは出来ないでしょう?」
「そこは抜かり無く。新城さんの所から借りてきた」
あ、綾乃の頭上に巨大な『?』マークが浮かんでる……。
「朝食のあと、綾乃家に電話してただろ? あの時にマミさんに相談したんだよ。そういう訳だから、必要な道具を貸して欲しいって」
貸して貰えるから分からなかったけど、相談だけでもしてみよう。そう思って話してみたら、二つ返事で了承してくれた。
『親戚なんだから、それらしいことさせて』って。今まで疎遠になってしまったことへの罪滅ぼしみたいなものだろうか。
「ああ。だから電話持っていったとき、驚いていたんですね」
綾乃が家からの電話に出るため、スマホ片手にリビングを出ていったので、今がチャンスと思ってマミさんにその話をした。
それで了解を貰って、借りるものを取りに……と思ったタイミングで綾乃が戻ってきて焦ったんだ。
『泊めて頂いたお礼に、お父さんがマミさんと話がしたい』ということだったけれど、綾乃に内緒で進めたかった話だったから……。
電話の最中に
「とりあえず、受付してくるからここで待ってて」
「は~い」
受付を終え、マレットハウスを出る。
このキャンプ場は、予約が必要な区画サイトと、同じく要予約の電源サイト。それ以外は全てフリーサイトとなっている。
凄いのが、このマレットハウスと同じ高さの平地だけでなく、この周辺の土地殆どがフリーサイトというところだ。
名前の由来でもある ささゆりの湯 が小高い丘の上にあるのだが、その周辺の斜面一体もテントを張って良いという……。
「お待たせ。受付終わったからテント張りに行くぞ」
バイクに固定しているロープを解き、地面に下ろす。
バイクに鍵を掛け、荷物を幾つか残して持つ。
そして、綾乃に目配せ。
「え~。私も手伝えって言いたいんですか?」
よほど疲れているのか、あかるさまに嫌だと声を上げる。
「軽いのしか残してないんだから、少しは持ってください。これ終わらせれば温泉が待ってるんだから」
あ、目の色が変わった。
「分かりました! 手伝います! ってか、その荷物全部持ちます!」
いや、そこまでやらんで良いから……。
説明書を見ながら悪戦苦闘しつつ、何とかテントを張り終える。
「意外と広いんですね~」
完成したテントに入り、綾乃が感嘆の声を上げる。
「詰めれば三人入れる奴だから、二人には少し広い感じだよ」
大きさは 野クル部の980円(税込)テント と同じ位だ。
「これがあたしの寝袋ですか?」
「そうだよ」
テント共々今は使っていないから、と、貸してもらった。綾乃が凪ので、俺が肇さんのだ。
他人のシュラフを使うのは、何となく申し訳ない気がして抵抗があるが、この際贅沢は言ってられない。
「あとは……。バーナーを展開して、その上にアタッチメントを乗せて……。ガス缶に繋ぐのは、使う直前で良いから。あと、ランタンを吊るせば……。はい、完璧」
設営完了。
「お兄さん、これは何ですか?」
「どれ?」
綾乃が指差すのは、バーナーとアタッチメント。今言っても良いが、実際に使いはじめた所で驚いてもらう方が面白そうだ。
「まだ秘密だよ。それより温泉入りに行こう。今度こそリベンジだよ」
「はい! 行きましょう!」
温泉と聞いた途端これだ。
「タオルと貴重品持っていくのを忘れないようにな!」
「分かってますよ」
温泉の建物は、キャンプサイトから見て二段くらい高い場所にあるのだが、そこへ向かう途中の道路(坂道)の脇もフリーサイトになっている。
「ここもテント張って良いんですね」
「だな。本当に名前の如く『フリーサイト』って感じだな」
温泉に到着。
自動ドアを潜り、下足箱に靴を入れる。
受付が二階らしいので階段を昇っていくと受付があった。
「1人600円です」
受付で下駄箱の鍵と引き換えでロッカーの鍵を受け取る。
「それじゃあ」
「はい。行って来ます」
綾乃と別れ、浴室へ向かう。
脱衣所で服を脱ぎ、タオルを持って浴場へ。
「お~」
扉を開くと、洗い場があって大浴槽があり、その向こうにキャンプ場が見えている。
体を洗ってから浴槽に浸かる。
あ、俺には丁度良い湯温だ。
熱い温泉が苦手な俺にはこの位が良いんだよなぁ……。
「お兄さん、何処から来たの?」
ふと、声が聞こえてきだ。俺に話し掛けられている感じ?
「俺ですか?」
回りを見渡しつつ声がした方を向く。
大浴槽には5人位入浴している人がいるが、声の主の見る方向には俺しか居ない。
「うん」
俺に対して『お兄さん』と言ったが、彼の方が年上だと思う。短髪の人で、座っているが背丈は俺と同じくらいだろう。
「山梨県の市川三郷町からです」
「……甲府の近くだっけ?」
あ、これ何処か分かっていないな。
「えっと、昔は市川大門町って名前だったらしいです」
「ああ! あの辺か……って、山梨から来たの! 帰省か何か?」
「いいえ。ツーリング仲間と二人で、浜松市から」
「……?」
そのお兄さんの頭に『?』が浮かんでいるので、簡単に説明。
俺は山梨県に住んでいるが、ツーリングのために浜松市の仲間の家を訪ね、そこから知人宅での一泊を経てここまで来たことを……。
「なるほどね」
納得してもらえたらしい。
「しかしまあ、それでも頑張るねぇ……。どんなバイクなの? あ、私別にバイク詳しい訳じゃないんだけどね」
「ヤマハのビーノ、125CCのです」
あ。お兄さんの頭上に再び『?』が。
「法定速度で走れますが、高速は乗れないですね」
「つまり、市川三郷町から一般道で?」
「はい」
「本当、頑張るねぇ……。今いくつ?」
「高校二年生です」
「高校生かあ……。そっかぁ。県の違いだろうねぇ」
どういうことだ?
「それ、なんの話ですか?」
「ああ。私、この近辺ではないんだけど、岐阜県の高校を卒業しててね。この辺りには『四ない運動』*1ってのがあって、在学中は運転免許が取れないんだよね」
なるほど……。そんな決まりがあるのか。
ん? そういえば、京都にも『三ない運動』というのがあった! 似たようなものだろうか……?
「お兄さんはここ良く来るんですか?」
「私? 私はねぇ、ここの温泉が好きなんだよ。私長湯が出来ない質だからさ、ここは浸かっても肩まで浸からないでしょ? だから長く入れるんだよね」
確かに。
今は浴槽の段になっているところに腰掛けて半身浴の状態だ。それでも浴槽が深くなくて、俺の背丈だと肩まで浸からない。
「だからね。往復二時間位掛かるけど、時々来るんだよ」
「二時間! 頑張りますね……」
「それ、君が言う?」
……。説得力ないか。
「露天風呂行った?」
「まだです」
「あっちも良い景色だから、行ってみたら? 私はそろそろ上がるから」
「あ、ありがとうございます」
露天風呂の景色も良い感じだった。と言っても、回りの山ばかりが見えていたけれど。
お風呂を出て、休憩スペースで寛いでいると、綾乃が出てきた。
「お兄さん、お待たせしました」
「そっちのお風呂はどうだった?」
「露天風呂は山しか見えませんね……」
やっぱりそうくるか。
「山の中だからなぁ……」
そういえば、ほったらかし温泉は、山の中だけど甲府盆地の街並みと富士山が見えたっけ……。
立地の問題だろう。ここから富士山見えたとしたらオカルトだからなぁ……。
「景色はどうにもならないから置いておくとして、お湯はどうだった?」
「丁度良い湯加減でしたね。温すぎず、熱すぎず」
「そっか……。あ、隣で晩ご飯食べてくけど、何にする?」
そう言いながら立ち上がり、食事処へ。
食券式だ。券売機がある。
「『ヘボ飯』に『信州牛ステーキ』ですよ」
「高けえよ。それにヘボ飯は20分掛かるって。『入浴より先に注文してください』って書いてあるじゃないか」
「あ、本当だ。じゃあ、無難にラーメンですかね。あ、ライスも付けよっかな」
「それじゃあ、俺は唐揚げ定食」
順番に食券を買う。
どちらかが出す、ということはなく、それぞれ自分の飲食代・入浴代にガソリン代を払っている。高校生とはいえ、働いて自分で稼いでいるのだから、これが当たり前だと思う。
じゃあ、あの日の鰻代は? って?
それは前にも話した通り……。
食券をカウンターに出し、適当な席へ。
「ありがとうございます。あ、そうだ」
お茶とお水はセルフサービスなので、綾乃を先に座らせて、俺が二人分のお茶を持って行く。すると、綾乃が何かを思い出したように切り出した。
「キャンプ場の料金、幾らでしたか?」
「1,500円。後で良いからな」
「はい」
因みに、車一台一泊なら3,000円だ。
「しかし、良いところですね。他のキャンプ場利用したことないから分かりませんけれど、温泉が隣で、文字どおりの『フリーサイト』で」
「だな」
綾乃が窓の外を見ているので、俺もそちらを見る。
キャンプ場が見えている。俺たちのテントもだ。
「色々なキャンプ場があるからね」
ここの場合、直火禁止・ゴミは消し炭含め全て持帰り。予約不要*2。
「まあ、今日テントで寝てみて、キャンプ気に入ったら他のキャンプ場にも行ってみたら良いさ。たぶん、はまるから」
そう言って微笑み掛けると、綾乃ははにかんだ表情で返してきた。
「そうですか? あたし、寒いの得意じゃないんですけどー?」
「大丈夫。その為の秘密道具を借りてきてるから」
「えっ? 何ですか、それ?」
「さっき見ただろ……」
「お待たせ致しました」
こんな話をしていたら、注文した商品が届いた。
綾乃のラーメンが先に届いて、俺の定食は少し遅れてきた。
ラーメンだから麺が伸びると思って先に食べ始めるよう勧めたが、律儀に待ってくれた。
「それでは」
「「頂きます」」
食事を終え、再び休憩スペースで寛ぐ。
「それで。この後どうする?」
新城さんの家を出て、
「どうしましょう?」
ここに来る途中、走っていて気付いたが、街灯は少なく道が狭い。これからの時間にバイクで出掛けるのはリスクが高いだろう。
ここから動かずに、何か暇潰しになることは……。
「やれること、特にありませんねぇ……」
幸い、ここならテレビがあるし、このスペースもある。入館料方式だから、お風呂は何度でも入れる。21時の閉館時間ギリギリまで居るのも手だろう。
「もう少し、ゆっくりしていくか」
「はい」
温泉に入り直したり、休憩スペースで寛ぎ、そろそろ戻ろうということになった。
「忘れ物ない?」
「大丈夫です」
受付でロッカーの鍵を返して下駄箱の鍵を受け取る。
靴を履いて外へ。
「わあ。流石に外は寒いですね」
「ああ。この辺り……もう少し北の
「寒天って、海草から作るんですよね? 確か。なのにこんな山の中で?」
「そう思うだろ? でも、寒天作りには、『冬の夜間はある程度寒く、逆に昼間は暖かい地域』が適してるんだよ。『そんな場所なら他にもあるじゃないか?』って思うかもしれないけど、これに加えて『降水量が少ない』ってのも大切でね。これらの条件を満たす場所、となると山岡町が良いらしい」
「なるほど……」
自分達のテントへと戻ってきた。
回りを見渡すが、遠く離れた所にテントが一つ、AC電源のあるサイトにキャンピングカーが一台止まっているだけ。要するに、今日の利用者は俺たち含め、三組だけだ。
テントに入る。
天井から吊るしているランプを点灯。これを懐中電灯の代わりに持っていくべきだったな……。
温泉に行く前にシュラフは用意しておいたので、諸々の準備を……。
遮熱板を用意し、バーナーの五徳にアタッチメントを差し込む。
えっと……天井の空気穴を開いて……。
素早く点火。よし、点いた。
「さあ、綾乃が気になっていた奴、稼働したぞ。何だか分かるか?」
「えっと……」
首を傾げつつ、それを眺めている。
段々暖かくなってきた。そろそろ答えが分かるんじゃないかな?
「ああ! ヒーター。暖房ですね!」
「その通り! しかもこれ、この上にコッヘル載っけてお湯を沸かすことも出来るんだって」
「一石二鳥じゃないですか。それ、便利ですね」
その通り。
まあ、今お湯を沸かしたところで使い道はないけれど。マレットハウスでカップラーメンでも買っていたら別の話だったが。
今回の旅では、食事はゆく先々にあるコンビニに頼っているので、おにぎりやパンが殆ど。コンビニが見当たらなかった場合の非常食も用意してはいるけれど……。
もっとコンパクトなやつもあるし、こういう場合に備えて一つ買っておくのも手だな……。そうすれば、食のレパートリーが広がる。
「あ、そういえば家に連絡入れてあるか?」
「しま……したよ……」
ん? 返事が眠そうだ。
そう思って綾乃の方を見ると、シュラフに潜り込んでいた。いつの間に……。
「寝るなら念のため足下にカイロ入れとけよ。寒さで目が覚めるから……」
「大丈夫……入れました……」
あ、枕元にはカイロの空袋が幾つか。本当、いつの間に。
「一応確認しとくけど、明日には帰るからな。綾乃明後日は仕事だろ?」
…………。
「寝ちゃったか」
流石に疲れただろう。馴れない道、しかも長距離を走ったんだから。
明日は昼頃には綾乃の家へ帰る予定だ。そして俺はそのまま山梨へ帰る。
まだその事は綾乃に言っていないが、恐らく引き止められるだろう。まぁ、その時はその時だ。
ヒーターの火を消し、空気穴を閉じる。
さてと。俺も寝るか。
挿絵に使っている写真の季節が実際と合っていなくてすみません(汗)。