【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 12月11日追記
サブタイトル変更しました。

 3月4日追記
一部、括弧の使い方を誤っていた部分がありましたので、訂正しました。「」と『』が逆でした。



 ツーリング三日目 前編

 

目が覚めた。もう朝だろうか?

 

……あれ? 辺りが真っ白だ。なにも見えないし、誰もいない。

 

「えっと……?」

 

確か、俺は綾乃と一緒にツーリングへ行っていて、今は岐阜県恵那市のキャンプ場でテントに泊まっている筈だ。

 

「どうして……?」

 

視線を落とすと、俺は学校の制服を着ている。

 

色々考えてみるが、原因は分からない。

 

「あ、滝野(たきの)先輩!」

 

後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。この声は……、

 

「犬山さん?」

 

振り向けば、同じく制服を着た犬山さんの姿が。

 

「先輩、ここは何処なんでしょう?」

 

「さあ? 俺も聞きたい」

 

状況は犬山さんも分からないらしい。

 

と、いうか。犬山さんを見ていたら、次第になにか違和感を感じてきた。

 

「犬山さん、だよね?」

 

「はい」

 

しかし、どうもおかしい。

 

何がおかしいんだろう?

 

下から順に彼女の姿を見てゆく。

 

靴……は、学校指定のローファー。

 

冬だからタイツを着用している。だから、太股の肌は見えない。

 

スカートも学校指定のもの、極端に短くしているなどの校則違反は見られない。

 

上は……、

 

「あっ!」

 

違和感の正体が分かった。

 

「君本当に犬山さんだよね?」

 

「はい」

 

「犬山 あおいさん?」

 

「そうですよ。どうしたんですか、先輩?」

 

「だって、犬山さん……」

 

胸が……無い。

 

制服を着ていたって隠せない、あの主張していた巨峰が。まっ平らになっている……!

 

「先輩?」

 

しかし、それを言うことは難しい。

 

男の俺が胸の指摘をしたら、『普段から見とったんですか?』とか『先輩、いやらしい人やな』とか言われるかもしれない。セクハラ、ダメゼッタイ! な時代だから。

 

「それ……」

 

直接言えないから、指を差す。

 

「……? あ!」

 

俺が指差す場所が分かったのか、自分の足下へ視線を下ろし、声を上げた。

 

「ない……?」

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。

 

飛び起きる。

 

……まだ辺りは真っ暗らしい。

 

時刻は……5時。

 

さっきのは何だったんだろう? 夢か?

 

だとしても、変な夢だったな……。

 

 

シュラフから這い出て着込み、テントを出る。

 

夏なら日の出の時間を過ぎているが、この時期は真っ暗だ。街灯の灯りが幾つか見えているだけ。

 

このキャンプ場のフリーサイトには『チェックイン・チェックアウト』というものが事実上無くて、いつ帰っても大丈夫らしい。とはいえ、まだ早いけれど。

 

今日帰るわけだが、真っ直ぐ帰っても四時間位の距離だから、少し遠回りしても問題ないだろう。綾乃の希望があればその通りに、無ければ俺が適当な道を選んで走るのも面白い。

 

いかんせん、まだ早い時間だ。トイレに行ってきてから、もう少し眠るかな……。

 

そう思ってスマホを取り出す。足下を照らすためのライトにするためだ。

 

あれ? ラインの通知が。

 

えっと……綾乃だ。

 

 

 

綾乃:ちょっと出掛けてきます

 

綾乃:心配しないでください

 

綾乃:一時間も掛からないはずです

 

 

 

ん?

 

テントを覗き込む。

 

あ。綾乃のシュラフは空だ。

 

出掛けるって、こんな時間に?

 

送信された時間はだいたい三十分前だから、あと三十分ぐらいで帰ってくるつもりなのか。

 

まあ良いや。本人が心配するなって言ってるんだから大丈夫だろう。

 

トイレに行ってもう一度寝よう。

 

 

 

 

……?

 

テントのジッパーが開けられる音だ。

 

「お兄さん。戻りましたよ?」

 

綾乃の声。帰ってきたらしい。

 

「お兄さん? ……寝てるのかな……。既読付いてたけどなぁ」

 

寝たフリのつもりはなかったけど、起きるタイミングを逃した。どうしよう。バレるか?

 

「あたしの我儘(わがまま)聞いてくれて……。ここまで連れてきてくれて……」

 

うーん?

 

「お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな。でも、本当の兄妹ならこんなに優しくしてくれないのかも……」

 

俺が綾乃に付き合ってツーリングやキャンプをしている理由。問われれば少し言いにくい。

 

ただ、綾乃が各務原(かがみはら)さんと会えなくなって、両親にはその姿を見せてないものの、淋しさ故か泣いていることもあったらしい。

 

親しい友人と会えなくなるというのは、俺も経験があるが、やっぱり淋しいものだ。

 

だから、一緒にツーリングすることで、その淋しさを少しでも紛らわせれば良いと思ったのと、これで長距離を走るのに慣れてくれれば、本当に山梨へ行くことも可能になるかもしれない。そう思ったからだ。別に見返りを求めているわけではない。

 

「お兄さんが本当の兄だったら良いのに……」

 

ジッパーの閉じられる音。綾乃が中に入ったということか。彼女もまた眠るのだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び目が覚めた。今度は外が明るい。

 

起き上がると、荷物を挟んだ反対側にシュラフ虫の姿が。

 

「綾乃、朝だぞ」

 

「……ん? お兄さん?」

 

綾乃が目を擦りながら起き上がる。

 

「朝ですね……」

 

「ああ。そういえば、何処行ってたの?」

 

「それですよ、お兄さん」

 

視線を自身の枕元に向ける。

 

「なんだそれ?」

 

ビニール袋。中に入っているのもは見えない。

 

「コンビニ行ってきました。朝御飯です」

 

コンビニ? だから一時間って言ってたのか。

 

確か、一番近いコンビニまで往復でそれ位掛かる筈だ。

 

「で、何を買ってきたんだ?」

 

「見てください!」

 

自慢気に中身を出す。って、袋逆さまにするんかい。

 

「えっ? ああ。そういうことか」

 

出てきたものは、カップ麺とペットボトルの水。つまり、お湯を沸かして食べるってことだろう。

 

「まずはお湯ですね」

 

「了解」

 

バーナーとアタッチメントをセットし、コッヘルに水を注ぎ、乗せる。

 

テントの天井の空気穴を開き、火をつける。

 

「あとは沸くまで待つ」

 

テントの中は寒くなっているが、これでまた暖かくなるだろう。

 

「ところでお兄さん。どれを食べますか?」

 

そう言いながら、自身の前に置いてあるカップラーメンを示す。

 

お湯を入れるだけの楽チンな有名カップ麺。それのBIGが四つもある。まさか、今二つ食べるつもりではあるまいな?

 

「綾乃が買ってきたんだから、好きなの取って。俺はそれから選ぶ」

 

「じゃあ、私は……カレーで」

 

「なら俺はシーフード」

 

包装を破り、蓋を開く。あ、蓋止めのテープは残しておかないと……。

 

「綾乃、コンビニ遠かった?」

 

「そこそこでした。まあ、この辺りに住んでいる人は、『ちょっとコンビニ行ってくる』って言って、あの道を行くわけですから、遠いなんて言ったらダメですよ。ね?」

 

「そんなもんか?」

 

「だと思いますよ?」

 

……。

 

まあ、俺の家からも一番近いコンビニまで、往復四十分くらい掛かるけど。

 

「あ、お兄さん。途中に『大正村』って所がありましたよ。あれ何ですかね?」

 

「大正村? 大正時代の建物とかがあるんじゃないか? ほら、犬山市には明治村もあるんだし」

 

博物館明治村。名前の如く明治時代の建物が移築・保存展示されている。しかも、そのほとんどが文化財だ。

 

何故知っているかって? 所在地が犬山市だから……。*1

 

「なるほど。このあと寄ってみますか」

 

「そうだな。それで、その事なんだけど、帰りはどうやって帰るか?」

 

「えっ? このテントとか返さなきゃだから、来た道を戻るんじゃないんですか?」

 

そう思うのは当然だろう。

 

しかし、そこはちゃんと段取りしてあるのだ。

 

「その心配はないよ。新城(しんしろ)さんがしばらく山梨に居るから、あっちで返すことになってる」

 

そう。

 

マミさんと借りる時に相談して、山梨に滞在中の新城さんに返すという約束になっている。荷物が多くなってしまうが貸して貰った手前、贅沢は言わない。

 

「なるほど。それなら帰り道は自由ですね」

 

「そういうこと。だから、どうやって帰るか決めようって……。あ、お湯沸いたよ」

 

「はーい」

 

それぞれ、規定の線までお湯を入れ、蓋を閉じる。底に付いていたテープを貼っておく。

 

「あ! あたしテープ剥がすの忘れてた~」

 

何事かと思ったら、包装をテープごと捨ててしまったらしい。

 

「まあ、無くても大丈夫だろ」

 

「まあ……。さてと。三分間待ってやる!」

 

ラーメンに向かって御決まり(?)の台詞を吐綾乃。

 

「えっと。どうやって帰るかって話でしたよね?」

 

「ああ。綾乃が明日はバイトだから、今日中に帰らなきゃいけないけど、真っ直ぐ向かっても四時間位だから、多少遠回りをしても大丈夫。というわけで、どこを通るかって話だ」

 

「じゃあ、あたし岩村(いわむら)の方に行ってみたいです」

 

岩村……。ああ、岩村城のあの岩村か。

 

「四月から始まる朝ドラ*2のロケ地だって。お母さんが行ってみたがってます。あたしが先に行って自慢してやるんです」

 

そうですか……。朝ドラっていうと、NHKの連続テレビ小説か。

 

正直、放送時間が学校と被るから、夏休みや冬休みといった長期休暇でしか観たことがない……。

 

えっと。大正村に岩村。で、浜松へ帰ることを考えると……。

 

「じゃあ、とりあえず昨日来た道を戻って岩村に行って、大正村に行って……。その後はまた考えるか」

 

「賛成~」

 

 

 

 

 

テント等を片付けバイクに積み込み、撤去完了。

 

「それじゃあ出発するよ」

 

『了解』

 

それぞれバイクに跨がり、出発。

 

「それじゃあ、昨日の道を上矢作(かみやはぎ)まで走って、そこから岩村に向かうよ」

 

『はーい。あ。同じ道行くのなら、途中まで前走っても良いですか?』

 

「了解」

 

前後が入れ替わり、綾乃が前になって走る。

 

 

 

 

 

 

昨日走った県道を戻り、国道257号線を北上。本当に今回の旅で縁がある国道だな。

 

道の駅の看板が現れた。ラフォーレ福寿の里……?

 

【挿絵表示】

 

『お兄さん、道の駅は通過しますが大丈夫ですか?』

 

綾乃から確認される。

 

「オッケー」

 

出発して間もない。長旅では出発した最初の一時間にトラブルが起こり易く、その一時間を無事に通過できれば大丈夫だ。と言われている。

 

まだその一時間にも満たないから、通過で良いだろう。それに、売店もまだ開いていないと思うし。

 

『そういえば、一つ気になったんですけど』

 

「ん?」

 

『上矢作って地名、あるじゃないですか』

 

「ああ」

 

『キャンプ場があったのは串原(くしはら)で、これから向かうのが岩村。でも、全部恵那市ですよね?』

 

言われてみれば。

 

でも、これって確か……。

 

「市町村合併じゃないのか? 詳しくは知らないけど」

 

『ああ。合併ですね。納得です』

 

「あ、いや。合ってる保証はないぞ?」

 

『浜松市も合併で倍以上の面積になってるんですよ。私たちが小さい頃の話ですけど』

 

ああ。浜松市もそうだったな。浜北市や天竜市もくっついて大きくなったんだ。

 

それを言うなら市川三郷町もだが。

 

『私たち、合併兄妹ですね』

 

なんだそれ。

 

「変な名前付けるなよ。それに、俺たち兄妹じゃないし、そもそも俺は宇治市の出身だ。宇治市は平成の大合併には関わっていない筈だし」

 

『まあ! 妹自称しちゃいけないんですか?』

 

「……勝手にしやがれ」

 

『思い出かき集め~鞄につめこむ気配がしてる~!』

 

おいおい。

 

「歌うなよ。カラオケじゃないんだから」

 

『はーい』

 

 

 

 

 

 

257号線に入ってからは登り坂が続いていたが、少し長いトンネルを抜けると下りに転じた。あのトンネルが峠の頂上だったらしい。

 

『今のトンネル、新木ノ実トンネルって名前でしたよ。新ってことは、ただの木ノ実トンネルもあるんですかね?』

 

そういえば、トンネル手前に側道があったな。高さ制限の予告が見えたから、そうかもしれない。

 

「あるかもな。ただ、山梨の場合、新しいトンネルが出来ると、古いトンネルは封鎖される傾向にあるからな。岐阜はどうなんだろう?」

 

俺の家からリンの家に向かう場合の最短ルートの県道404号線や、市川三郷町の市街地へ向かう409号線にも古いトンネルがあるが、どちらも埋め戻されている。本栖湖(もとすこ)の中ノ倉トンネルもそうだ。

 

『あとで調べてみましょう。お兄さん、トンネルの名前覚えててくださいね』

 

「自分で覚えろよ……」

 

 

 

 

 

下り坂を降りきると、市街地に出た。

 

「そこの交番の所を右折だ」

 

『はい。って、大きい交番ですね。警察署かと思いましたよ』

 

確かにデカイ。

 

まあ、大中小関わらず、警察署・交番・駐在所とは縁のない生活を送りたいなぁ……。もちろん、素行の面だけでなく、交通事故を含めてだ。

 

「そこを右折してみ」

 

『ここですね……。わあ~!』

 

【挿絵表示】

 

曲がった先が、岩村の古い町並み だ。四月から始まる連続テレビ小説のロケ地らしい。

 

「一度、通話切るよ」

 

『あ、はい。了解しました』

 

スマホで写真を撮るんだと、ライン通話は切った方が良い。

 

……おお。早速、バイクを一時停止してはスマホを構えている。

 

片手運転・ながら運転にならないように気を付けて進んでいる。

 

 

 

 

 

古い町並みを抜けると、再びライン通話を繋ぎ、国道257号線から363号線へ入る。

 

【挿絵表示】

 

今回の旅で三日間ともお世話になった国道とはここでお別れだ。

 

「このまま、この363号線を南下だ」

 

『はい』

 

田園風景の中を走って行く。

 

「綾乃、左側見てみぃ」

 

『左ですか? ……ああ。寒天』

 

「その通り、ここで寒天を作るんだよ」

 

国道沿いのすだれで囲われた区画の中に、寒天を作るための場所があった。

 

『ということは、この辺りが山岡ですか』

 

「だろうな。でも、もうすぐ明智だよ」

 

峠と思われる山を越え、上りが下りに転じる。

 

再び田園風景となった道を進み、鉄道と思われるガードをくぐる。

 

『あ。ここあたしが今朝来たコンビニです』

 

左手にコンビニが建っている。ということは、

 

「その交差点を右折だな」

 

『はい。今朝通った所ですね』

 

交差点を曲がって少し進んだところに看板が立っている。

 

『大正村到着~!』

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

*1
同じ部の後輩、犬山 あおいと同じ名前の犬山市という意味

*2
NHK連続テレビ小説、2018年上半期『半分、青い。』のこと。





大変長らくお待たせ致しました。いやぁ、アニメseason3の放送時期が決まりましたね。

season3のPVも公開されました。まあ、だいぶ前ですが(汗)

そのPVを見て思ったことを、冒頭に差し込みました。イヌ子の胸部の違和感に気付いた方、多いと思います……。
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