【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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お待たせ致しました。

挿絵と脚注多めでお送りします。読みづらかったらごめんなさい。



 ツーリング三日目 後編

 

大正村に到着した。

 

駐車場にバイクを入れる。無料駐車場とは有り難い。

 

「ところで、大正村ってどんなところ?」

 

先にバイクを止め、ヘルメットやヘッドセットを外していた綾乃に、俺はこう声を掛ける。

 

「さて?」

 

「はぁ?」

 

今の返事に、外そうとヘルメットを持ち上げていた手から力が抜けた。

 

「いてっ!」

 

頭上にヘルメットが落下。痛いんだけど!

 

「大丈夫ですか!」

 

「まあ……」

 

痛いが、大したことはない。

 

 

 

綾乃が近くの案内板を見ている間、俺はスマホで軽く検索。

 

どうやら、テーマパークや博物館などとは違い、特定の区画があるわけではなく、町一帯が『大正村』として扱われており、古い建物が町内に点在しているらしい。

 

しかし、

 

「まあ、年末年始の宿命ですね……」

 

綾乃が残念そうに呟く。

 

「仕方ないさ」

 

新年の営業は明日から*1らしく、有料の施設は開いていなかった。

 

「どうしますか? 次行きますか?」

 

「……行くか」

 

長居は無用。待っていたって開く訳じゃないし。

 

「次は何処へ行きますか?」

 

「考えてあるよ、面白いのを見つけたから。こっからは俺が前走るよ。その前に」

 

そう言い、向かいのスーパーを指差す。

 

「飲み物の補給とトイレ」

 

この近くに自販機はあるが、スーパーがあるならそちらの方が安い。バイトしているとはいえ、こういうところで節約しないとね。

 

 

 

 

 

トイレ休憩等を済ませ、大正村を出発。国道363号線を進む。ここからは西へ向かって進路を取る。

 

『なんか、こうして走ってると面白いですよね』

 

ふと、綾乃の声が届いた。

 

「何が?」

 

別に珍しいものがあったわけではないけれど……。

 

『町があって、山の中へ入って、再び町が現れて、田園風景になって……』

 

ああ。そういうことか。

 

「まあ、こういった道路は、古くからの街道に沿って整備されていたりするからな。人が歩いて往来していた頃からの街道だから、集落に沿って作られてるんだよ」

 

『なるほど……』

 

「あ、ちょっと脇道にそれるよ。さっき話した面白いのを見れるからさ」

 

そう言いながら、国道を外れ県道へ。

 

『面白いの、ですか?』

 

「ああ。見てのお楽しみ」

 

田園風景のど真ん中。バス停の前で止まる。

 

「このバス停が面白いのだよ。停名見てみ」

 

そう言いつつ、右手を示す。

 

『えっ? 停名…………なんですか、これ』

 

あ、それ俺の台詞。*2

 

さておき、バス停の停名を見た綾乃が、呆れたように呟く。

 

【挿絵表示】

 

「一見、人の名前みたいだろ? もちろん、地名なんだけどさ」*3

 

『珍停名って奴ですね』

 

そういうこと。

 

 

 

バス停を出発し、ちょっとした峠を越え、国道へ復帰。そのまま西進を続ける。

 

市境を通過、瑞浪市へ入った。

 

脇道にそれ、道なりに走って行くと、次の目的地へ到着。

 

道の駅 おばあちゃん市・山岡

 

 

 

 

 

「大きい水車ですねぇ……」

 

道の駅のランドマーク。巨大な水車がある。

 

駐車場からも見えていたが、近くで見ればなお大きく見える。

 

【挿絵表示】

 

「大きさが日本一の水車だってさ」*4

 

本来、水車とは名前のごとく水で動かすものだが、凍結防止の観点から、この時期は動かしていないらしい……。

 

「ちょっと早いけど、お昼にするか」

 

「了解です」

 

というわけで、売店の奥にあるレストランへ。

 

せっかくここまで来たんだから、その地の物を選ぶのが良いだろう。

 

「それで寒天ラーメンですか……」

 

「悪いか?」

 

「いえ。むしろその方が良いです」

 

二人とも選んだのは、寒天ラーメンだ。

 

普通のラーメンと違い、麺が寒天になっている。

 

【挿絵表示】

 

「これはヘルシーですね」

 

「だな」

 

 

 

 

 

 

 

この道の駅の隣にはダムがある。

 

ダム内部が公開されており、堤体の上部から下部へ行けるようになっているが、まあ年始故営業していない。

 

しかし、ダム下部へは別のルートで向かえるため、そちらへとバイクを走らせる。

 

道の駅を出発し、ダムを横に見つつ通りすぎ、トンネルと橋を越えると下り坂になった。ダムの高さ分下るのだろう。

 

『お兄さん、さっきあの橋を渡ったんですよね?』

 

目の前に、高いところを通る橋が見える。小里城(おりじょう)大橋という橋だ。

 

ぐるっと の を描くように回ったので、橋の下へやって来た。

 

【挿絵表示】

 

「その通り。あの上を通ったんだよ」

 

『結構な高さがありますね』

 

「ああ。高いなぁ」

 

走っている時にも気づいたが、下まで来ると橋がS字を描いているのが分かる。

 

『これだけ高いところにあるなら、景色が良いはずなんですけどね……。正直、上からの景色が記憶にございません』

 

「仕方無い。フェンスがあるんだから」

 

安全対策。生々しい言い方をすれば、自殺対策だろうか。欄干には高いフェンスがあって、橋上から景色は見えなかった。

 

『小里城大橋って名前でしたよね?』

 

「ああ。橋の所に看板があったから、この名前で間違いないよ」

 

『ということは、この近くにお城が?』

 

「あるのか? 城跡のような気もするけど……。後で調べてみるか」

 

『お願いします』

 

「次曲がるよ」

 

『はーい』

 

 

 

 

丁字路を左折。看板には、この先行き止まり と書かれているが、ダムへは行ける。ダム完成前はこちらの道を通っていたらしい。この道が通れなくなるから、あの橋を架けた訳だ。

 

『あっ! 山岡町の標識だ!』

 

左前方に 山岡町 と書かれたカントリーサインが立っている。それに綾乃が気付いたみたいだ。

 

【挿絵表示】

 

この道路が通り抜けできなくなってから、市町村合併が行われているので、交換しなかったのだろう。

 

『これはつまり、あたしの予想通り、合併があったんですね!』

 

「ああ。そうらしい」

 

実は、さっき調べておいた。

 

綾乃が言った通り、元々の恵那市に岩村町・串原村・上矢作町の他、明智町と山岡町が合併して新たな恵那市となった。浜松市や市川三郷町と同じで、所謂(いわゆる)平成の大合併の頃に行われたものだった。

 

故に、綾乃が言っていたことも強ち間違っていない。なお、身延町*5・南部町*6も同時期に合併が行われているため、本栖高校の生徒はほぼ全員が綾乃の言う 合併兄妹 ということになる。

 

 

 

通り抜け出来ない道だが、交通が皆無というわけではなさそうで、ある程度管理されている様子だ。舗装も悪くない。

 

「綾乃、ダムが見えてきたぞ」

 

車止めがあったが、バイクなら通れるので脇を通過。本当は宜しくないことだが。怒られたら素直に謝ろう。

 

それを過ぎれば眼前にダムが現れる。

 

【挿絵表示】

 

『うわぁ……。大きいですね』

 

「これが小里川ダムだよ」

 

ダムの前に歩行者用の橋が架かっている。

 

【挿絵表示】

 

流石にこれをバイクで渡るわけにはいかないので、下車する。

 

「やっぱり大きいですね。前で見ると」

 

「ああ。ダムの天辺と道の駅がある場所が同じ高さだから、まあ、それくらいの大きさってことだな」

 

いかん。自分で言っておきながら、途中から何言ってるのか分からなくなってきた……。

 

「ってお兄さん! この橋足元丸見えじゃないですか!」

 

「うわっ! 本当だ!」

 

言われるまで気付かなかったが、橋の足元は網目状になっていて、下が見えている。

 

【挿絵表示】

※閲覧注意※

 

「これ、高所恐怖症の人には危ないなぁ……」

 

とはいえ、吊り橋から下を覗き込むのと大して変わらない。この程度なら大丈夫だ。しかも、普通に歩くだけなら、この橋は全然揺れないから尚平気。

 

「お兄さんは平気なんですか?」

 

「このくらいならなら」

 

「え~! 怖がってくださいよ」

 

「何でだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

再び国道363号線へ入り、西進を続ける……。つもりだったんだが……。

 

『お兄さん。世界一のこま犬 がどうとか書かれた看板ありますよ』

 

確かに。この先左手にあるらしい。

 

丁度、国道363号線と419号線のぶつかる丁字路に出た。

その左側……って。

 

「なんじゃこりゃ!」

 

『うわぁ……。大きいですねぇ』

 

大きい。普通、こま犬といえば神社にあるものだが、それと同じような形なのに、大きさが全く違う。

 

言葉で説明しても分かりづらいだろう。

 

 

実物をご覧あれ↓

 

【挿絵表示】

 

すぐ近くに駐車場があるので、そこにバイクを止めて歩いて行く。

 

どれどれ。説明文の書かれた看板だ。

 

…………なるほど。

 

ここが国道419号線の起点であり、この国道の終点にある愛知県高浜市との交流の一環で作ったらしい。

 

何でこんな場所に? と思ったが、それが理由か。

 

高さ約3メートル。使用した粘土は15トン、2つ合わせれば30トン。

 

作成された時の写真もある。

 

こんなものをどうやって運んだのか? 否、元々この場所で作ったらしい。焼成に使った窯も全部解体せず、一部が残っているとのこと。

 

「瑞浪市と高浜市の姉妹都市提携で……。それでこんなに大きいこま犬作ったんですね……」

 

綾乃がこま犬を見上げながらそう呟く。

 

「ギネス記録ですかね……?」

 

そう言いながら、スマホを操作している。

 

「やっぱり。ギネス認定されてます」

 

「なるほど。まあ、世界一謳ってるし、それにこれより大きいのがあるとは思えないからなぁ……」

 

他の人たちは作ろうとも思わないだろう。

 

調べ終えた綾乃は、しきりに写真を撮っている。

 

「うーん。自撮りじゃあ全体が写らないなぁ……。お兄さん、撮ってください!」

 

「えっ? ああ、良いよ」

 

これだけ大きければ当然だろう。

 

ん? スマホを渡されると思ったのだが、綾乃は既にこま犬の前でポーズを取っている。

 

そういうこと。

 

「撮るよ」

 

俺は自分のスマホを構え、何枚か撮った。

 

ラインを開いて送信……っと。

 

「良い感じに撮れてますね。ありがとうございます」

 

すぐに確認して、こう言った。

 

その後もスマホの操作を続けている。各務原(かがみはら)さん辺りに送っているのだろう。

 

 

 

 

 

トイレを済ませ、出発。

 

このまま国道419号線を南下する。今度は綾乃が前を走っている。

 

愛知県豊田市に入りトンネルを通過し、山の中を走って行く。

 

こちらも、さっき綾乃が言ってきたのと同じ感じの道路だ。山と町が交互にある。

 

30分も走れば、豊田市の市街地に出る。これぞ 車の町 といった感じで、交通量が多いし所謂 名古屋走り が目立って危ない。

 

『うわ~! お兄さん、前後交代しませんか?』

 

前を走る綾乃が半泣きで俺にこう提案してきた。

 

今、ウインカーも無しに突然左折した車に追突しかけた。それで怖くなったのだろう。

 

後方を確認すると、丁度後ろには車が居ない。

 

「オッケー」

 

『じゃあ、そこの路側帯に入るので、抜いてください』

 

そこの、って。バス停じゃないか……違った。

 

綾乃が路側帯に入ったのを確認し、追い越す。

 

後続車が居ると抜かれてしまう可能性もあったが、大丈夫だった。

 

「さて、それでは。見せてあげよう、先輩としての貫禄を」

 

『何ですか? それ。ってか、一年しか違わないじゃないですか』

 

「冗談だよ」

 

余裕こいたら事故る。

 

 

 

国道419号線から248号線に入る。

 

トヨタ自動車の本社や周辺の工場を眺めながら進むと、矢作川を渡って岡崎市へ。

 

段々と、観光より早く帰りたい気持ちが勝り、一瞬見えた岡崎城は横目に素通りし、国道1号線へと入る。

 

 

 

途中、道の駅やコンビニでの休憩を挟みながら進む。

 

『豊橋市ですよ!』

 

「ああ」

 

豊橋市のカントリーサインを潜る。前を任せている綾乃は何処を通るつもりか分からないが、愛知県最後の町 となるだろう。

 

『お兄さん、準備は宜しいですか?』

 

「準備って何だ?」

 

『黄色い矢印信号で進んじゃ駄目ですよ』

 

ああ。豊橋市といえば、東海地方で唯一路面電車が走っている町だ。黄色い矢印は路面電車向けの信号で、車がそれで進んだら信号無視になるんだっけ。

 

教習で習ったが、実際にその道路を走るのは初めてだ。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと覚えてる」

 

『こんなところで切符切られたら大変ですからね』

 

「分かってる。そう言う綾乃こそ気を付けろよ」

 

豊橋市役所を左に見て、交差点を左折。

 

ここが日本に唯一残る 国道1号線上を走る路面電車 だ。

 

そして、国道を外れ県道4号線に入った。ここも路面電車が走っている。

 

しかし、さっきまでは少々小洒落た感じの路面電車だったのが、こちらは これぞ路面電車 といった感じがする。

 

レールと道路を区切るものは無く、架線の関係で電線もごちゃごちゃしている。

 

『お兄さん、路面電車ですよ! こうして見ると可愛いですよね』

 

綾乃の声に、視線を右前方に向ける。一両の電車がやって来る。

 

行先表示は単に 駅前。市内電車といった感じだ。 

 

「ああ。そうだな」

 

『あれ? 反応薄いですね……』

 

「そりゃあ。京都にも路面電車あるからな」

 

嵐山方面に向かう嵐電*7がそうだ。

 

俺が産まれる前、平成入った頃は、東山の辺りの京阪電車も路面電車となる区間があったらしい*8

 

つまり、バイクで走るのが初めてでも、見るのは初めてではないということだ。

 

 

 

路面電車との並走区間が終わると、峠越えの山道へ入る。

 

頂上の 多米トンネル を抜ければ……。

 

『帰ってきましたよ~!』

 

静岡県湖西市

 

静岡県へ戻ってきた。

 

 

 

*1
今日は1月5日

*2
滝先生の台詞であり、滝野の十八番というわけでない

*3
上 田良子かみたらこと読む

*4
大きさ日本一は2018年時点。現在は二番目。

*5
身延町・中富町・下部町

*6
南部町・富沢町

*7
京福電鉄嵐山本線の一部区間

*8
京阪京津線の一部区間、1997年廃止。なお、滋賀県大津市には今も併用軌道が残っている。





長く続いた(?)、純一と綾乃のツーリングが、ようやく終わりました。これ、作中では三日の話なんですよね……なげぇよ。

一応、今回のツーリングで通った道は、私が通ったことのある道(自分で運転したかは問わない)を選んでいます。とはいえ限界はありますので、一部はそうではないところもあります。

参考までに、今回のツーリングで通った道を簡単に記しておきます。備忘録 という形ですが……。






純一・綾乃 ツーリングルート


 初日

綾乃の家
↓静岡県道49号
↓県道364号
航空館
↓国道152号
月まで3㎞
↓県道360号
↓県道295号
↓県道9号
愛知県へ
↓国道151号
↓愛知県道524号(鳳来寺山パークウェイ)
流花と遭遇
↓県道32号
↓国道257号
道の駅 どんぐりの里いなぶ・どんぐりの湯
↓国道257号
道の駅 アグリステーションなぐら
↓国道257号
↓国道473号
新城さんの家

移動距離 約171km


 二日目

新城さんの家
↓国道473号
↓国道151号
新野峠・長野県へ
↓国道151号
↓国道418号
道の駅 信州平谷
↓国道153号
↓県道101号
愛知県へ

岐阜県へ
↓国道257号
↓岐阜県道33号
↓市道
くしはら温泉

移動距離 約76km


 三日目

くしはら温泉
↓市道
↓県道33号
↓国道257号
新木ノ実トンネル

岩村の街並み
↓国道363号
大正村
↓国道363号
珍名バス停
↓国道363号
↓市道・県道33号
道の駅 おばあちゃん市・山岡
↓県道33号 小里城大橋
小里川ダム
↓国道363号
世界一のこま犬
↓国道419号
↓国道248号
↓国道1号
↓愛知県道4号
多米トンネル 静岡県へ
↓国道301号
綾乃のバイト先

移動距離 約162km 3日間計 約409km


※経路を示す ↓○○号 の文字が青色のところは、作者が通ったことのない道路を示しています。

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