お待たせしました。
お待たせしたわりに短いです。ごめんなさい。
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新学期の朝。いつも通り音楽室で
冬休みが終わり、今日から新学期だ。
いつも通りの時間に起きる。
制服に着替え、教科書や必要な道具、宿題を入れた鞄を手に、食卓へ下りる。
「おはようございます」
「ああ、純一くん。おはようございます」
食卓へ行けば、朝食の準備を終えた
俺の持つ鞄に目が行く。
「今日から学校ですか?」
「はい。冬休みは昨日までなので……」
どうしてこのやり取りが、というと、俺は浜松から帰った翌日から毎日、部活の為に学校へ行っていた。ただ、授業が無いから制服は着ても鞄を持って来なかったので、それで気付いたようだ。
「それでは行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
「気を付けてな!」
途中で起きてきた父と共に朝食を済ませ、学校へ向け出発。
途中、わざとリンの家を経由してみたが、ビーノはいつもの場所に止まったままだ。彼女は部活が無いのでこんな早く登校する必要は無いから、まだ寝ているのだろう……。
いつも通り、『朝一番乗り!』と言えるような時間に、学校へ到着。
駐輪場へバイクを停める。
前二輪の三輪バイクとはいえ、自立する訳ではないので、倒さないように慎重に……。スタンドを下ろし、鎖を用いて施錠。
えっ? 何か変だって?
そう。今日乗ってきたバイクは、俺の相棒『ヤマハビーノ・125』ではなく、新入りの『トリシティ155』だ。
勘の良い方はお気付きだろうか? お察しの通り、以前借りた代車だ。
遡ること数日前、浜松から帰宅して、ビーノをガレージに仕舞おうと思って驚いた。
というのも、ガレージにこのトリシティが停まっていたからだ。
ナンバープレートを確認しても、あの代車に間違いなかった。
何でここにあるのか尋ねたところ、父は『一万円で買った』と言った。
その経緯を簡単に纏めると、そもそもこのバイクが整備を頼んだ店の店長の私物らしく、買ったばかりの新車で、その店長以外に乗ったのが俺だけだったらしい。
しかし、貸して早々に浜松でトラブル(パンク)が発生して、俺に迷惑を掛けてしまった。そのお詫びと、『新車でトラブル(初期不良の類いは除く)を経験した相手とは、良い関係を築ける』というのがその店長の持論らしく、元々乗る予定がなかったバイクなので、俺に譲ることにした。とのことだ。
店は店で正規の代車用のバイクを所有しているので、これを手放しても不都合は無いらしい。
因みに、このバイクが俺に貸し出された理由は、その正規の代車を他の人に貸していたため。
急遽店長の私物バイクを俺に貸したわけだが、先述のこともあった訳で、譲ってくれたということだ。
余談だが、『一万円で買った』とは言ったが、それは書類上のやり取りで、実際は殆どタダで貰い受けたらしい……。
そんな経緯で、この歳にして複数のバイクを所有することになった。
しかし、一方にだけ乗車していたら、もう一方が拗ねてしまうだろう。平日は交互に乗ろうと思っている。
因みに、俺が乗らない方のバイクは、父やうちのスタッフが必要あれば乗る予定だ。
妬かなきゃ良いんだけど……。
というわけで、今日はトリシティで登校した。
昇降口で靴を替え、まずは職員室へ。
「失礼します。吹奏楽サークル滝野です。音楽室の鍵を借りに来ました」
「お。滝野くん、おはよう」
入室早々、先生方から声が掛かる。
「おはようございます」
「滝野早いな」
「おはようございます。いつも通りですよ?」
「それもそうか」
挨拶しながら鍵のある場所へ向かう。
年賀の挨拶は交わさない。何故かって? 既に、昨日・一昨日のうちに済ませてしまったからだ。
今日から新学期とはいえ、先生方は準備やら何やらで、既に何度か学校に来ている。俺も、浜松から帰った翌日から、毎日学校に来ている。その時に挨拶してしまった。
鳥羽先生や大町先生へのお土産も、そのついでに渡しておいた。
鍵を持って音楽室へ。
しかし、今は演奏しない。その理由はって?
実は、年末年始浜松へ行った間、一週間もトランペットが演奏できなかったんだよね。
その反動(?)で、このところ毎日何時間も一心不乱に演奏した。それゆえそろそろ唇が危ない。
リップで保湿に努めているとはいえ、乾燥しやすいこの時期だ。気を付けないと割れてしまう。
なので、今回はCDでも聞いていようと思う。
丁度、昨年(今年度)のコンクールのCDがある。
以前、恵那ちゃんが居たときに、可児が勝手に流した奴だ。
「えっと……、北宇治は何曲目だっけ……」
CDのケースを見ながら、曲をスキップして行く。
「あ。これだ」
けたたましいともいえる、トランペットの音に始まる曲、『三日月の舞』。
曲が進んでゆくと、ソロパートに突入する。
トランペットソロ。絶対に失敗は許されぬ、しかしソロを任された者の独擅場。
もちろん、失敗が許されないのはソロに限ったことではないが。
「しかしまあ……ドロドロなソロだよなぁ……」
一人呟く。
これ、『余所見するな、私だけを見ろ!』とでも言いたげな演奏に聞こえてくる。彼女……
吉川に聞いてみれば良かったなぁ……。まぁ、こういう話は知っていたとしても俺には教えてもらえなかっただろう。
北宇治の演奏が終われば、そのまま次の学校の演奏が始まる。
そのまま放置していたら、いつの間にか浜松海浜高校の演奏が始まっていた。
「そういえば、
年功序列・三年生優先で選んでいたら無理だろうが、実力主義・オーディション方式だったら間違いなくコンクールメンバーの筈だ。
「凪はこの中に居るのかなぁ……?」
聞こえてくるトランペットの音に耳を凝らしてみるが、イマイチピンと来ない。
コンクール出場者の名簿でもあれば分かるんだけど、このご時世そんなものが公開されている訳がない。
「凪……か」
「先輩、凪って誰ですか?」
突然、頭上へ聞き覚えのある声が降り注ぐ。
……?
ゆっくり、首を後ろへ回す。
「先輩、おはようございます」
可児が立っている。
驚いた。
マジで驚いた。
心臓止まるかと思った。いや、実際3秒くらい止まったんじゃないか? 本当にビビった。
しかし、驚きつつも急な動作はしない。まあ、固まって動けなかった、というのが正しいかもしれないが。
音楽室には、普通の教室同様、机椅子が並んでいる。
俺は今、そのうちの一つに腰掛けているのだ。机上にはCDプレーヤー。
もし、驚いて急に立ち上がったら、足……膝を机に強打して痛い思いをするところだった。
そして、その拍子に机を倒してしまったら、いや倒さずとも机上のプレーヤーを落としてしまったら……。
弁償することになれば痛い出費だし、色々と面倒なことになるだろう。
これはこれで良かったのかもしれない。
「先輩、何黙ってるんですか?」
「いや、急に可児が現れたから驚いて固まってた」
「急に? ノックしましたよ。返事無かったから。三回ぐらい……?」
マジで?
「ごめん、CD流してたから聞こえなかったんだと思う」
って、あれ? CD止まってる。俺止めたっけ?
……否。プレーヤーの電池切れだ。勝手に止まったんだ。
「それなら……まあ、仕方無いですね」
「すまん、許せ」
「別に構いませんよ。今日が初めてでは無いですし」
本当にすまん!
「それはそうと……」
ん? 嫌な予感。
「さっき先輩が言った『凪』って誰ですか?」
あ、これ絶対面倒な奴だ。
全然良くなかったじゃん!
へやキャン△
優子から届いた手紙
滝野純一様
元気にしてる? 私や香織先輩に笠野先輩他、トランペットパートの子はみんな元気です。
あんたも知ってるあの北宇治高校吹奏楽部が……といっても、今はあの頃の吹部とは全く違うんだけど。
その吹部が府大会、関西大会と突破し、全国大会に出場した。
何があったか、それは前にラインしたからここには書かないけど、滝先生のお陰で、私たちは全国に行けた。
結果は悔いの残るものにはなったけど、先輩方が言った通り、後悔はしていない。あれが今の北宇治の実力だったってことだから。
段々と自分でも何を言いたくてこの手紙を書いているか、分からなくなってきたから、この辺で締めるわね。
全国大会のCDを同封します。一度聞いてみて。
因みに、ソロは高坂麗奈という一年生。知ってる? 知らないわよね。
聞けば分かると思うけど、びっくりするほど上手いんだから。
追伸、この手紙は何秒後とかに自動で発火・爆発しませんので、煮るなり焼くなり破り捨てるなり……、ご自由に。
これから寒くなるし、山梨は京都より寒いだろうから、お身体に気を付けてお過ごしください。
吉川優子