【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

59 / 93
 放課後、いつもの屋上で

 

始業式の放課後。

 

といっても授業はなかったので、放課後だがまだ昼過ぎだ。

 

部活のある生徒はお弁当を持ってきて午後から部活、そうでない生徒は下校して行く。

 

俺は今、用事があって校舎の屋上へとやって来た。

 

その用事とは、吹奏楽サークル(幽霊部員)の(サークル設立を提案した)水谷(みずたに)先輩に会うためだ。しかし、先輩に会うために屋上に来るとか、普通じゃ考えられない話だよなぁ……。

 

 

 

屋上への扉を開く。

 

「水谷先輩、居ますか~?」

 

そう言いながら辺りを見渡す。

 

彼女が居るとしたら、そこのパイプ椅子か、給水タンクの上だ。しかし、パイプ椅子は裳抜(もぬ)けの殻。

 

屋上へ出て、扉を閉める。

 

純一(じゅんいち)?」

 

俺の名を呼ぶ声がし、顔を上げると、先輩がタンクの上から顔を見せていた。

 

「アタシに何か用?」

 

「先輩、お土産買ってきましたから、どうぞ」

 

「ああ、ラインしてた奴ね。今行く」

 

そう言うと、ハシゴを降り始める。

 

俺は咄嗟に視線を外す。スカートの中が見えてしまうからだ。

 

……というか、一瞬見てしまった。

 

因みに、先輩には以前この事を指摘したんだけど、『別に構わないよ。ハシゴの昇降で見えちゃうのは仕方無いし、見られるのが嫌ならそもそもあんなところに昇らないから』だってさ。

 

「どうしたの、純一?」

 

降りてきた先輩が俺の横に立った。

 

「いえ、何も」

 

余所(よそ)見してたよね?」

 

「じゃなきゃ。見えちゃいますから……」

 

「別に良いのに」

 

そう言い、ホップ ステップ ジャンプみたいな感じで飛び跳ねて行って一回転、再び跳ねながら戻ってくる。

 

跳ねる度にスカートがひらひらと揺れた。

 

「見えたでしょう?」

 

「今のでは見えてません」

 

「さっきは見えたんだ?」

 

「……見えました……」

 

「何だった?」

 

これ、言わせるのかよ。いつもの事だけどさぁ。

 

「緑の縞模様……」

 

「正解♡」

 

「よしてください。その変なハートマーク」

 

「良いじゃん。アタシは減るものないし、純一だって損でないでしょ?」

 

そういう問題ではないんだけどなぁ……。

 

そう思いつつも言い出したらきりがないので、鞄からお土産を取り出す。

 

「はい。先輩へのお土産です」

 

「ありがと。何処行ってきたの?」

 

「浜松行って、恵那や豊田の方を回るツーリングに行ってきました」

 

そう答えると、よくある反応が返ってきた。

 

「浜松! いつも思うけど、純一の行動力には驚かされっぱなしだよ」

 

そう言う先輩の行動にも驚かされるけどさぁ……。

 

屋上のタンクに登るのは日常茶飯事だし、雨の中傘も差さずに校庭を走っていた時もある。

 

「何これ?」

 

お土産を開封した先輩がそう呟く。

 

韃靼(だったん)そばふりかけ です」

 

ささゆりの湯 で見つけて、何となく先輩に合いそうだと思って買った奴だ。ご飯に掛けて食べる蕎麦の実。

 

「って早速……」

 

既に封を開けて味見をしている。

 

ふりかけだから、大量にではなく少量だけ。

 

「うん。良いねぇ。美味しいよ」

 

それは良かった。

 

「所で……」

 

そう尋ねようと思った時だ。

 

屋上の扉。さっき俺が入ってきた扉の開く音がした。

 

太志(たいし)!」

 

そちらを見ている先輩がそう言うので、俺は振り向く。

 

「あ、成田(なりた)先輩!」

 

「純一くん。あけおめ~」

 

あ。そう言えば、水谷先輩に年始の挨拶をするのを忘れてた!

 

「成田先輩。明けましておめでとうございます、今年も宜しくお願いします……」

 

そう言って頭を下げれば、彼方(あちら)もそうした。

 

「あと、水谷先輩も」

 

それだけ言って水谷先輩にも頭を下げる。

 

此方(こちら)こそ」

 

「ちょっと、アタシには礼だけって酷くない?」

 

 

 

パイプ椅子は一つしかないので、水谷先輩が座り、俺と成田先輩はそれぞれ両脇に立つ。

 

「そういえば、さっき純一何か言いかけてたよね?」

 

「ああ。成田先輩が来るか、聞きたかったんです。先輩へのお土産も買ってましたから」

 

「これだよね。ありがとう」

 

このやり取りの前に渡していたそれを、先輩が掲げて見せた。

 

この人は、成田 太志先輩。

 

水谷先輩とお付き合いしている人で、俺とも親しくしてもらっている。

 

成田先輩はご覧のように(見れないよね)背が低く、回りからバカにされないように、普段はツンツンした態度を取っているのだが、俺には水谷先輩と同じような態度で接してくれている。

 

因みに、成田先輩には とちの実せんべい だ。

 

何となく、彼にはこれが似合う気がしたので……。

 

「純一くん、何処行ってきたの?」

 

ああ。水谷先輩には言ったけど、その後に成田先輩が来たんだ。まだ言ってない。

 

「大晦日から6日まで。浜松の方へ行ってました」

 

「浜松か。……でも、貰ったこれって浜松の物じゃないよね? どの辺りまで行ったんだい?」

 

流石。成田先輩は詳しい。

 

最初にそれしか言わなかったのもあるけど、水谷先輩は渡したお土産は浜松のものだと思っていた。

 

「最初に御前崎に住んでいる親戚の家にお世話になって、近くの海岸で初日の出を見ました」

 

「海岸で初日の出か。良いね。僕と渋谷(しぶや)高下(たかおり)でダイヤモンド富士初日の出を見てきたよ」

 

「うん。太志のお母さんに車出してもらって行ってきたよ。綺麗だったね」

 

高下? 各務原(かがみはら)さんもそこに行ってたよな……。会ってる? といっても面識無いか。

 

「まあ、渋谷の方が綺麗だけどさ」

 

「太志、変なこと言わないの。褒めても何も出ないよ♡」

 

全くこの二人は……。人前でイチャつくとは。これもいつものことだから慣れてるけど。

 

まあ、俺の前は例外として、普段人前では絶対にイチャイチャしないらしい。同じクラスの人にこの事を言ったら、腰抜かしていた位だ。『嘘言うな! あの二人が付き合ってるなんて、ただの都市伝説だよ!』とも言われたなぁ。本当のことなのにさ……。

 

あの様子だと、クラスの人たちはそもそもこの二人が付き合っていることすら知らないみたいだ。

 

「その後は?」

 

「それから浜松のツーリング仲間の所へ行って、その日は泊めてもらって……」

 

えっと、これが元日の話だよな。

 

「3日から5日にかけてツーリングに行きました」

 

そして、その内容を掻い摘まんで話す。

 

綾乃の家を出発し、天竜川沿いに北上。『月まで3㎞』の看板の写真や、親戚(新城さん)の家にお世話になったこと。翌日はキャンプ場でテント泊したことに、三日目に回った名所の話や写真。入った二つの温泉の話……。

 

適当な相槌をうちながら、二人は俺の話を遮ることなく聞いてくれた。

 

「楽しかった?」

 

言い終えると成田先輩がそう聞いてくる。

 

「はい。とても楽しかったです」

 

些細なことかもしれないが、これが一番大切なことだと思う。

 

「良かったじゃん。話聞いていたら僕も何処か行きたくなってきたよ」

 

「ところで、純一」

 

ん?

 

水谷先輩がいつにない真剣な顔で話し掛けてきた。

 

「その、一緒にツーリング行った子。綾乃って言ってたけど、女の子?」

 

やっぱりそこを指摘するつもりなのか……。

 

「はい。一つ年下の女の子ですけれど」

 

「綾乃って呼んでるよね?」

 

「はい……」

 

「名前。しかも呼び捨て……」

 

ん? そっちの話か?

 

てっきり、『女の子とツーリングに行って同じテントに泊まった』ことを指摘されると思ってたけど、違うらしい。

 

「純一が女の子の名前呼び捨てで呼ぶの、その子位じゃない?」

 

綾乃とリン。可児……は苗字だな。確かに少ない。

 

「えっと……つまりそれは、先輩方も名前で呼べと言っている訳ですか……?」

 

「その通り! 察しがいい子は好きだよ♡」

 

だからその怖い♡止めてください! いつか誰かに殺されかねないから!

 

「えっと、し……渋谷(シービー)先輩……?」

 

やべ、少し詰まって変な発音になった。

 

「それ、呼び捨てじゃない……」

 

「勘弁してください! 先輩相手に名前を呼び捨てできるほどの度胸はありませんから!」

 

「だってさ。太志」

 

「今僕何も言ってないけど?」

 

二人から賛同を得られなかった水谷先輩は、不貞腐れたように頬を膨らます。しかし、それさえ可愛い。

 

「じゃあさ。純一、今度バイクに乗せて欲しいなぁ……。交換条件として」

 

「交換条件として?」

 

「名前呼び捨てで呼ばない代わり」

 

それで良いの?

 

「ところで。ね」

 

水谷先輩が成田先輩の方を向く。

 

「渋谷?」

 

「今純一の話聞いてて思ったんだけどさ」

 

「うん」

 

「アタシらの卒業旅行、バイクで行くのはどう? まだ何も決まってないことだし」

 

えっ?

 

「どうせ受験終わったら二人とも教習所行って免許取るんだし、原付なら車の免許で乗れるんだからさ」

 

ああ、確かに。普通免許なら、小型特殊と原付がオマケで付いてくる。

 

勿論、オマケなので免許証にその文字は入らない。入れたければ先に取る必要がある。

 

「それで、原付買うか借りるかしてさ。二人で交互に運転するのはどうかな?」

 

「おお。良いじゃん!」

 

なるほど。それは楽しそうだ。

 

しかし、車の免許を取ってわざわざバイクというのも面白いなぁ……。

 

 

 

うん? 待てよ。

 

交互に運転って言ったよな? 原付の場合二人乗りは出来ない。例え普通二輪を取ったとしても、一年経たなければ二人乗りは違反になる。

 

だから、交互に運転するということは、一台のバイクに交互に乗る。という意味だろう。

 

そうなると、バイクに乗らない時のもう一人はどうするんだ?

 

……荷物もあるだろうし、車かな?

 

「それで」

 

……?

 

そう言って俺の顔を見る水谷先輩。今日一番の悪い顔だ。滅茶苦茶ニヤニヤしている。

 

嫌な予感がする。

 

「純一も一緒に来てね。バイク運転しない時は後ろに乗せてもらうからさ!」

 

なるほど。先輩方は一台の原付を交互に運転し、自分で運転しない間は俺の後ろに乗る、ってことか。

 

…………。

 

……………………は?

 

 

 

はぁ?

 

 

 

「二人で行ってください! 俺を巻き込む必要何処にも無いでしょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

へやキャン△

 

 

始業式の朝、ラインにて。

 

 

 

滝野:先輩、今よろしいですか?

 

水谷:良いよ? どったの?

 

滝野:始業式の日の放課後、用があってお会いしたいのですが

 

水谷:オッケー。どんな用? サークル関連?

 

滝野:いいえ。野暮用……というと言い過ぎですが、大した用では

 

水谷:了解。じゃあいつもの屋上で

 

滝野:分かりました

 

 

 





活動報告 の方にも書きましたが、毎年恒例の 年末年始・節分 という繁忙期が終わったので、執筆ペースを戻したいと思います。


先月、正月明けすぐにコロナ陽性となり、その療養期間で数話更新しました。

でもまあ、コロナの間は流石に執筆できませんでしたね……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。