【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

62 / 93
 説明不足の図書委員

 

「無理だって!」

 

「そこをなんとか~!」

 

ある日の放課後。

 

教室で、他人の目も(はばか)らず飛び交う叫び声。

 

その主は、一人の女の子と男の子。後者は俺だ。

 

どうしてこうなったか、というと……。

 

 

 

 

 

新学期に入ってすぐ、俺のクラスでは席替えが行われた。

 

担任教師の気まぐれで、前回は期末試験の成績順で後ろから順に配置されたが、今回はその順でくじ引きだった。

 

かくして俺は窓際最前列という一番良い席を手に入れた訳だけど、そこはファンヒーターのすぐ後ろなので、この時期は休み時間や放課後に溜まり場となってしまう。

 

離席するタイミングを見誤れば、机に腰掛ける輩が現れるほどだ。

 

 

 

今日も、例のごとく放課の合図と共に、数人が俺の席の前へやって来て、お喋りタイム。

 

俺はこれから部活だから、気にせずに荷物をまとめる。

 

「あ~!」

 

しかし、その中の一人が俺の顔を見るなり、なにかを思い出したように声を上げる。

 

彼女は……揖斐川 志穂(いびがわしほ)。女子だが背が高く、俺と同じくらいある。

 

肌は白いけれどアウトドア系らしく、キャンプもよく行くらしい。

 

だから、入学当初のこの学校にはアウトドア系の部活動が登山部しかなく、帰宅部を選択した。野クル部の存在は設立当初(野外活動サークルだった頃)から知っているものの、大垣(おおがき)さんのキャラを理由に敬遠しているらしい……。

 

接点は多くないが、同じクラスの仲間として、顔を見れば一言二言話すことはある。

 

そんな彼女が俺を見て声を上げた。一体何故?

 

滝野(たきの)くん。お願いがあるんだけど」

 

「何?」

 

嫌な予感しかしない。

 

「バイト、しない?」

 

……。

 

…………?

 

「バイトって、アルバイト……仕事のこと?」

 

「うん」

 

「待ってくれ。どうしてそういう話になったのか、順を追って説明して欲しいんだが?」

 

何故、俺がバイトしなければならんのだ?

 

「私、帰宅部だけど図書委員やってるのは知ってるよね?」

 

「ああ」

 

「だから、私の代わりに働いて欲しいんだよ」

 

「待て待て待て! 俺の求めている説明には事足りないんだが。それに、俺には無理だぞ」

 

「でも、お姉ちゃんから頼まれてるんだよ~。バイトの子が蒸発して、人手が足りないって」

 

えっと? 図書委員の仕事を代わって欲しい訳ではなく、姉がバイトを探しているから代わりに働いて欲しい。ということか。

 

「揖斐川のお姉さんって、何処(どこ)で働いているんだ?」

 

「身延のカリブーだよ」

 

あー。あの店か。

 

……つまり、揖斐川さんの妹なのか! こいつ。

 

「事情は分かった。だがな、俺も吹奏楽サークルと野クル部掛け持ちしてるし、場合によっては家の手伝いもあるからな。これ以上仕事増えたら、わりと真面目に死ぬ」

 

「え~。大丈夫だと思うけどなぁ」

 

「大丈夫じゃないよ。だから、図書委員の代わりは他の人に頼んでくれ。そして、揖斐川が働け」

 

「私、キャンプ知識皆無だから無理だよ」

 

「嘘つけ。キャンプが趣味だって言ってたじゃないか。それに、うちのキャンプ場利用したこともあっただろうが!」

 

転校初日、俺の自己紹介(家がキャンプ場)を聞いて、キャンプ場ということに喰い付いてきた唯一人のクラスメイトだ。まあ、進級と共にクラス替えがあったから、教室の顔ぶれはその時とは異なるが……。

 

「『利用者』と『運営側』に求められる知識は天地の差だよ? 私にあるのは利用者の知識だけ」

 

「無いよりかマシだろ」

 

「良いじゃん。働いてよ~」

 

「無理だって!」

 

「そこをなんとか~!」

 

大きな声で言い争っていることに気付き、ふと回りを見渡すと、注がれているのは、冷たい視線だったり、驚きの表情だったり、様々だった。

 

冷たい視線の理由は『こんなところで騒ぐな』だろう。驚きの理由は『この二人はこんな仲だったっけ?』辺りか……。

 

 

「他の奴に聞いてみたのか?」

 

そう言いつつ、再び回りを見渡す。幸いなことに野次馬が何人も居るのだ。

 

あ、露骨に目逸らしやがったのも数人。

 

「といっても、『キャンプ場関係者』か『キャンプ用品店バイト経験者』が、滝野くん以外に易々見付かるとでも?」

 

う……。ご尤もな意見に反論できない。

 

「『未経験者歓迎』って訳ではないのか。突発的な話らしいし……」

 

「そうだよ」

 

ここはいっそのこと、野クル部のメンバーに……。駄目なんだ。

 

各務原(かがみはら)さんも先日バイト先が見付かったし、他の二人も既にバイトを持っている。

 

「そう言ってもなぁ……。あ……」

 

「あ?」

 

ふと、視線を教室の外へずらして固まる。

 

何時(いつ)から見ていたのか分からないが、ヤバい奴にヤバい状況を見られてしまったらしい。

 

「あれ。あんなところに君の可愛い後輩が」

 

呑気な事を言う揖斐川。

 

ほれ。今の言葉を入室許可と思ったのか、可児(かに)が教室に入ってきた。上級生の教室ても物怖じせず、堂々としている。

 

「先輩! 遅いと思ったらこんなところに居たんですね!」

 

満面の笑みでそう言いながら歩いてくる。

 

恐らく、というか絶対。見た目は笑っていても内心怒っている。

 

「仕方無いだろ。揖斐川に捕まったんだから」

 

「こんなところで痴話喧嘩(ちわげんか)したら周りに迷惑ですよ」

 

「「そんな関係じゃないから!」」

 

「お、声が重なりましたたね」

 

そこ、感心するところと違う。

 

「揖斐川先輩、話は聞きました。私に提案があります」

 

 

 

可児が出した提案とは、

 

『リンと可児のクラスの図書委員に、可能な限り図書当番を代わってもらう』ことにより、『揖斐川先輩自身が、カリブーでバイトをする』ことだ。

 

代わってもらうだけで大丈夫なのか聞いたら、可児のクラスの子は、既に本人に話してあるのか否か分からないが、『本が大好きだから、見返りは何も要らない』らしい。リンの方は、散々渋った様子だったが、『滝野先輩とのツーリングで手打ちにしますよ』ということだった。俺を巻き込みやがったよこいつら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、宜しく~♪」

 

「はいよ」

 

話が(まと)まったと思ったら、これから面接があるからカリブーまで乗せて行け、と揖斐川に言われた。

 

これ以上何か言って『なら、働け』と言われるのが怖く、黙って載せることにした。えっ? 文字がって? 本人には聞こえないだろうから、気にしない。

 

バイクに乗れるのが楽しみなのか、ノリノリの揖斐川を連れて昇降口を出る。

 

\ドウシタ?/

 

駐輪場に到着。今日はビーノだ。

 

柱に回しているチェーンを外す。

 

「はいよ」

 

「ありがとう」

 

自分のヘルメットを被りながら、予備のヘルメットを揖斐川に渡す。サイズは……問題無さそうだ。

 

スタンドを上げ、駐輪場から引っ張り出し、校門へと向かう。

 

「滝野くん、このバイクとは長いの?」

 

……付き合いのことだろうか。

 

「ああ。俺が免許取ってからずっとこれだよ」

 

「へぇ~。相棒、って感じだね」

 

「まあな。冬休みには浜松までこれで行ってきたよ」

 

「頑張るねぇ。でも、こういうバイクって30キロで走らなきゃ駄目なんでしょう?」

 

お? 勘違いしていらっしゃる。

 

「いや、この規格なら大丈夫だよ。ナンバープレート見てみ」

 

市川三郷町……桃色?」

 

「そう。市区町村名のナンバーで白色のやつは、今揖斐川が言った通り、30キロ制限なんだけど、黄色やピンクのナンバーのなら、それは関係ない。普通の大きなバイクや自動車と同じように走れるんだよ」

 

「そうなんだ。知らなかった」

 

「さ。校門出たから乗るよ。先乗るから待って」

 

校門を出たので一旦停まる。

 

俺が先に跨がり、エンジンを始動。

 

「乗って。手は腰に回すか、シートの脇を持ってくれれば良いから」

 

「了解。こう?」

 

揖斐川が後ろに乗り、シートの脇をつかんだのを確認。

 

「動くよ」

 

「了解」

 

ゆっくり発進させる。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。