※時間軸は操作しています。原作・アニメそのままの時間で読むと、狂ってきますのでご了承ください。※
練習を終わらせ、職員室へ鍵を返しに行く。
借りたのが
「失礼します。音楽室の鍵を返しに来ました」
職員室には
「あら、
「先生もお疲れ様です。仕事終わりましたか?」
「ええ。もう終わります…………おや?」
先生がスマホを取り出した。誰かから連絡でもあったのだろうか。
「えっ! 山中湖!」
突然、そう言って立ち上がった。
「どうしました?」
何か、まずい状況なのだろう。先生の表情がそう言っている。
「い、今、
山中湖?
…………って、山中湖!
「この時期の山中湖の気候は、滝野くんもご存知でしょう? 志摩さんが言うには彼女達に連絡しても繋がらないそうなんです」
「マジで!」
先生がスマホを見せてくる。
画面は……ラインか。
『ラインは既読が付かないし、電話も圏外か電源が切れている感じです』と、リンから送られてきている。
山中湖の湖面標高は約1,000m。この時期気温が氷点下になることはざらだ。キャンプ、ということは勿論屋外でのテント泊。装備次第では冗談抜きに凍死も有り得る。
連絡がつかない、ということは、何か事故に巻き込まれた可能性もあるってことだ。
山中湖……。あれ? 今日って確か。
「先生。山中湖って言いましたよね?」
「ええ」
「ちょっと待ってください。俺に心当たりがあります。もしかしたら三人が見付かるかもしれません」
そう言いながら、俺は自分のスマホを取り出す。
えっと……『あ行』だからすぐに見付かった。
………………。
『はい。
繋がった。
「突然すいません、滝野です」
『ああ、
そう。先日うちに来た飯田さんだ。
「飯田さん、今日は山中湖でしたっけ?」
『はい。今、大間々岬のキャンプ場ですよ。何かありました?』
ビンゴ!
「実は、俺の部活仲間……後輩が今日、山中湖にキャンプに行っているんですね。その子達と連絡がつかないんです」
『部活仲間……。ひょっとして、チワワを飼っている女の子ですか?』
「チワワ! その子って黒髪ショートヘアの女の子ですか? 見たんですか!」
『はい、チョコ散歩しているときに会いましたよ。他にも二人の女の子が一緒でしたね』
これまたビンゴ!
「その子達です! 今、山中湖ってそれなりに寒いですよね」
『……氷点下ですね。私たちは今、テントの中に居ますから暖かいですけれど』
『うちには薪ストーブがあるでよ!』
おお、ご主人の声も聞こえてきた……。
ん? 鳥羽先生が俺の肩をつついている。
「あ。ちょっと待ってください」
電話から耳を離す。
「見付かりましたか?」
「はい。大間々岬キャンプで三人を見たって人が」
「大間々岬ですね。すぐ向かいます!」
俺が電話している間に準備をしていたのだろう。鳥羽先生がそう言って職員室を飛び出して行く。
「あ! 何か分かったら連絡しますから!」
「お願いします!」
早い……。
「あ、すいません。今から顧問の先生がそちらに向かいますので、探して助けてあげて欲しいんです」
『構いませんよ。今から探しに行きますから、何か分かりましたら連絡します』
「お願いします。あ、チワワの子が
『斉藤さん、大垣さん、犬山さんですね。分かりました。では』
電話が切れた。
あれ……?
鳥羽先生が出て行ったということは、学校に居るのって俺だけか?
戸締まりとか、どうするんだろう?
どれぐらいの時間がたったのだろう?
手持ち無沙汰なので、隅のパイプ椅子に座ってスマホとにらめっこ。
時計を見る限り、10分も経っていないんだけど、いつもの何倍にも感じられた。
あ、飯田さんから電話だ。
「はい、滝野です」
『あ、滝野先輩ですか?』
この声、犬山さんか。
「犬山さん、大丈夫だったのか!」
『ご心配お掛けしました。寒さでスマホの電池が切れまして……。怪我とかはありません』
なるほど。リンが連絡がつかないっていってたのは、それが原因か。
『お姉さんから話は聞きました。ご心配お掛けし申し訳ありません』
「謝らんでええよ。無事ならそれでええから。
『あきは今、コンビニに行ってます。恵那ちゃんは隣に……』
『滝野先輩?』
「恵那ちゃん? 大丈夫なん?」
電話を代わったのか、電話口の声が恵那ちゃんに変わった。
『ご心配お掛けしてごめんなさい。私もバッテリー切れました……』
こちらも原因は同じらしい。この様子だと大垣さんもだろう……。
「恵那ちゃんも謝らんでええから、無事で良かった。あ、鳥羽先生に連絡入れなかんから一回切るよ」
『はい』
えっと……。
『はい。鳥羽です』
すぐ繋がった。
「あ、先生。滝野です。今電話しても大丈夫ですか?」
運転中だと思うんだけど。
『ハンズフリーになってますから大丈夫ですよ。連絡ありましたか?』
その手があるのか。
「はい。山中湖でキャンプ中の飯田さんって人からです。さっき、学校で俺が電話をした人ですね」
『その方はどんな方ですか?』
「伊東市で酒屋を営んでいる方です。ご主人が飯田
『お酒…………』
おいおい、こんな時まで。流石はグビ姉。
『分かりました。飯田さんですね! ありがとうございます』
「犬山さんと恵那……斉藤さんは見付かりました。大垣さんは今、コンビニに行っているとのことです」
『分かりました。すぐ向かいます!』
電話を切る。
とりあえず、犬山さんと恵那ちゃんが無事なのは確認できた。大垣さんはコンビニに行っているらしいが、じきに戻るだろう。そうすればまた連絡が入るだろうから、それを待とう。
今の状況は鳥羽先生に伝えたから、先生が何とかしてくれると思う。
三人の身に何が起きたのか、今は分からないけれど、何とかなりそうだ。
あのあと、大垣さん(美晴さんの携帯)から二本目の連絡があり、一時間半程経ってから、鳥羽先生からの連絡があった。
どうやら、
・三人とも寒さが原因で、スマホの電池が切れた。
・山中湖の寒さを甘く見ていて、装備不足だった。
・のんびりし過ぎて薪を買いそびれ、火を起こすことも出来ず、危なかった。
・取り得る最善策を取るため、大垣さんがコンビニへ行った。
ということだった。
下手すると事故に繋がる可能性もあった。この事は鳥羽先生の方からお説教があったらしいので、俺はなにも言っていない。
三人の用意した装備では夜を越すことは危険なので、今夜は鳥羽先生の車で車中泊をするらしい。
因みに、鳥羽先生はすっかり出来上がってしまった様子だ。朝まで残らなけりゃ良いんだけど。
「お疲れ様です。ご迷惑お掛けしました」
職員室の扉が開いて、教頭先生が入ってきた。
「いいえ。そんなことはありません。むしろ、俺の後輩が皆さんにご迷惑というか、心配お掛けしたようなものですから。ごめんなさい」
学校の施錠をする鳥羽先生がこういう形で出てしまったので、代わりに教頭先生がやって来た。
鳥羽先生が学校に戻れなくなってすぐに連絡したらしい。
謝られてしまったが、それはむしろこちらがすべきことなので、謝る。
長い間待たされたが、この際それはどうでも良い。
「詳しい話を聞いていないのですが、簡単にいうと何があったのですか?」
「聞いてないんですか」
「ご承知のとおり、鳥羽先生はあのご様子でしたから……」
酔った状態で教頭に電話したのかよ!
そうなる前に一報入れるべきだったんじゃないのか……?
「纏めると、大垣さんたち三人が山中湖でキャンプをしていたのですが、装備が足りておらず、凍死の危険もある状況でした。連絡が取れないことを心配した志摩さんが、鳥羽先生に連絡して、発覚しました」
「なるほど。……それでは鍵閉めは私が行いますから滝野くんは帰ってください。お待たせしました」
「あ、はい。分かりました。それでは失礼します」
教頭先生に声を掛け、職員室を出る。
さてと。ようやく帰れるな。もう6時半だ。
明日は部活が休みだし、富士吉田のカリブーへ行く予定だから、早く帰ってゆっくり休もう……。