【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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※時間軸は操作しています。原作・アニメそのままの時間で読むと、狂ってきますのでご了承ください。※



 野クル部三人の行った先は……

 

練習を終わらせ、職員室へ鍵を返しに行く。

 

借りたのが可児(かに)だから、返すのは俺の役目だ。

 

「失礼します。音楽室の鍵を返しに来ました」

 

職員室には鳥羽(とば)先生が残っている。時計を見れば4時半を過ぎている。まだ仕事中なのか?

 

「あら、滝野(たきの)くん。お疲れ様です」

 

「先生もお疲れ様です。仕事終わりましたか?」

 

「ええ。もう終わります…………おや?」

 

先生がスマホを取り出した。誰かから連絡でもあったのだろうか。

 

「えっ! 山中湖!」

 

突然、そう言って立ち上がった。

 

「どうしました?」

 

何か、まずい状況なのだろう。先生の表情がそう言っている。

 

「い、今、志摩(しま)さんからラインが来て……。大垣(おおがき)さんたちが、山中湖にキャンプに行っているらしいんです」

 

山中湖?

 

…………って、山中湖!

 

「この時期の山中湖の気候は、滝野くんもご存知でしょう? 志摩さんが言うには彼女達に連絡しても繋がらないそうなんです」

 

「マジで!」

 

先生がスマホを見せてくる。

 

画面は……ラインか。

 

『ラインは既読が付かないし、電話も圏外か電源が切れている感じです』と、リンから送られてきている。

 

山中湖の湖面標高は約1,000m。この時期気温が氷点下になることはざらだ。キャンプ、ということは勿論屋外でのテント泊。装備次第では冗談抜きに凍死も有り得る。

 

連絡がつかない、ということは、何か事故に巻き込まれた可能性もあるってことだ。

 

山中湖……。あれ? 今日って確か。

 

「先生。山中湖って言いましたよね?」

 

「ええ」

 

「ちょっと待ってください。俺に心当たりがあります。もしかしたら三人が見付かるかもしれません」

 

そう言いながら、俺は自分のスマホを取り出す。

 

えっと……『あ行』だからすぐに見付かった。

 

………………。

 

『はい。飯田(いいだ)です』

 

繋がった。

 

「突然すいません、滝野です」

 

『ああ、純一(じゅんいち)くん。美晴(みはる)です。どうしました?』

 

そう。先日うちに来た飯田さんだ。

 

「飯田さん、今日は山中湖でしたっけ?」

 

『はい。今、大間々岬のキャンプ場ですよ。何かありました?』

 

ビンゴ!

 

「実は、俺の部活仲間……後輩が今日、山中湖にキャンプに行っているんですね。その子達と連絡がつかないんです」

 

『部活仲間……。ひょっとして、チワワを飼っている女の子ですか?』

 

「チワワ! その子って黒髪ショートヘアの女の子ですか? 見たんですか!」

 

『はい、チョコ散歩しているときに会いましたよ。他にも二人の女の子が一緒でしたね』

 

これまたビンゴ!

 

「その子達です! 今、山中湖ってそれなりに寒いですよね」

 

『……氷点下ですね。私たちは今、テントの中に居ますから暖かいですけれど』

 

『うちには薪ストーブがあるでよ!』

 

おお、ご主人の声も聞こえてきた……。

 

ん? 鳥羽先生が俺の肩をつついている。

 

「あ。ちょっと待ってください」

 

電話から耳を離す。

 

「見付かりましたか?」

 

「はい。大間々岬キャンプで三人を見たって人が」

 

「大間々岬ですね。すぐ向かいます!」

 

俺が電話している間に準備をしていたのだろう。鳥羽先生がそう言って職員室を飛び出して行く。

 

「あ! 何か分かったら連絡しますから!」

 

「お願いします!」

 

早い……。

 

「あ、すいません。今から顧問の先生がそちらに向かいますので、探して助けてあげて欲しいんです」

 

『構いませんよ。今から探しに行きますから、何か分かりましたら連絡します』

 

「お願いします。あ、チワワの子が斉藤(さいとう)さん、眼鏡の子は大垣さん、もう一人の子は犬山(いぬやま)さんって言います」

 

『斉藤さん、大垣さん、犬山さんですね。分かりました。では』

 

電話が切れた。

 

 

 

 

 

 

あれ……?

 

鳥羽先生が出て行ったということは、学校に居るのって俺だけか?

 

戸締まりとか、どうするんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

どれぐらいの時間がたったのだろう?

 

手持ち無沙汰なので、隅のパイプ椅子に座ってスマホとにらめっこ。

 

時計を見る限り、10分も経っていないんだけど、いつもの何倍にも感じられた。

 

 

あ、飯田さんから電話だ。

 

「はい、滝野です」

 

『あ、滝野先輩ですか?』

 

この声、犬山さんか。

 

「犬山さん、大丈夫だったのか!」

 

『ご心配お掛けしました。寒さでスマホの電池が切れまして……。怪我とかはありません』

 

なるほど。リンが連絡がつかないっていってたのは、それが原因か。

 

『お姉さんから話は聞きました。ご心配お掛けし申し訳ありません』

 

「謝らんでええよ。無事ならそれでええから。恵那(えな)ちゃんと大垣さんは!」

 

『あきは今、コンビニに行ってます。恵那ちゃんは隣に……』

 

『滝野先輩?』

 

「恵那ちゃん? 大丈夫なん?」

 

電話を代わったのか、電話口の声が恵那ちゃんに変わった。

 

『ご心配お掛けしてごめんなさい。私もバッテリー切れました……』

 

こちらも原因は同じらしい。この様子だと大垣さんもだろう……。

 

「恵那ちゃんも謝らんでええから、無事で良かった。あ、鳥羽先生に連絡入れなかんから一回切るよ」

 

『はい』

 

えっと……。

 

『はい。鳥羽です』

 

すぐ繋がった。

 

「あ、先生。滝野です。今電話しても大丈夫ですか?」

 

運転中だと思うんだけど。

 

『ハンズフリーになってますから大丈夫ですよ。連絡ありましたか?』

 

その手があるのか。

 

「はい。山中湖でキャンプ中の飯田さんって人からです。さっき、学校で俺が電話をした人ですね」

 

『その方はどんな方ですか?』

 

「伊東市で酒屋を営んでいる方です。ご主人が飯田 和夫(かずお)さんで、娘さんの美晴さんと一緒です」

 

『お酒…………』

 

おいおい、こんな時まで。流石はグビ姉。

 

『分かりました。飯田さんですね! ありがとうございます』

 

「犬山さんと恵那……斉藤さんは見付かりました。大垣さんは今、コンビニに行っているとのことです」

 

『分かりました。すぐ向かいます!』

 

電話を切る。

 

 

 

とりあえず、犬山さんと恵那ちゃんが無事なのは確認できた。大垣さんはコンビニに行っているらしいが、じきに戻るだろう。そうすればまた連絡が入るだろうから、それを待とう。

 

今の状況は鳥羽先生に伝えたから、先生が何とかしてくれると思う。

 

三人の身に何が起きたのか、今は分からないけれど、何とかなりそうだ。

 

 

 

 

 

あのあと、大垣さん(美晴さんの携帯)から二本目の連絡があり、一時間半程経ってから、鳥羽先生からの連絡があった。

 

どうやら、

 

・三人とも寒さが原因で、スマホの電池が切れた。

 

・山中湖の寒さを甘く見ていて、装備不足だった。

 

・のんびりし過ぎて薪を買いそびれ、火を起こすことも出来ず、危なかった。

 

・取り得る最善策を取るため、大垣さんがコンビニへ行った。

 

ということだった。

 

下手すると事故に繋がる可能性もあった。この事は鳥羽先生の方からお説教があったらしいので、俺はなにも言っていない。

 

 

三人の用意した装備では夜を越すことは危険なので、今夜は鳥羽先生の車で車中泊をするらしい。

 

因みに、鳥羽先生はすっかり出来上がってしまった様子だ。朝まで残らなけりゃ良いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。ご迷惑お掛けしました」

 

職員室の扉が開いて、教頭先生が入ってきた。

 

「いいえ。そんなことはありません。むしろ、俺の後輩が皆さんにご迷惑というか、心配お掛けしたようなものですから。ごめんなさい」

 

学校の施錠をする鳥羽先生がこういう形で出てしまったので、代わりに教頭先生がやって来た。

 

鳥羽先生が学校に戻れなくなってすぐに連絡したらしい。

 

謝られてしまったが、それはむしろこちらがすべきことなので、謝る。

 

長い間待たされたが、この際それはどうでも良い。

 

「詳しい話を聞いていないのですが、簡単にいうと何があったのですか?」

 

「聞いてないんですか」

 

「ご承知のとおり、鳥羽先生はあのご様子でしたから……」

 

酔った状態で教頭に電話したのかよ!

 

そうなる前に一報入れるべきだったんじゃないのか……?

 

「纏めると、大垣さんたち三人が山中湖でキャンプをしていたのですが、装備が足りておらず、凍死の危険もある状況でした。連絡が取れないことを心配した志摩さんが、鳥羽先生に連絡して、発覚しました」

 

「なるほど。……それでは鍵閉めは私が行いますから滝野くんは帰ってください。お待たせしました」

 

「あ、はい。分かりました。それでは失礼します」

 

教頭先生に声を掛け、職員室を出る。

 

 

 

 

さてと。ようやく帰れるな。もう6時半だ。

 

明日は部活が休みだし、富士吉田のカリブーへ行く予定だから、早く帰ってゆっくり休もう……。

 

 

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