「一昨日は本当に」
「「「ありがとうございました~!」」」
月曜日の朝。
いつも通り登校し、音楽室で一人吹いていたら、野クル部の二人+一人がやって来て俺にこう言い、頭を下げた。
「何か、こうやって三人の無事な姿見たらホッとしたよ。電話で何度無事やって言われても、見てみんことには分からないからさ」
見た感じ、
「ほんまにありがとうございます。先輩おらんかったら、ダメやったかもしれません」
「それは流石に大袈裟やって。俺はなにもしてないよ」
そもそもリンが
「所で、どうしてあんなことになったの?」
「あたしのミスなんです。あんなに寒くなるなんて思ってなくて……」
原因は
「冬キャン慣れたと思って油断してました!」
「私も。山中湖って聞いた時点で、もう少し下調べしていれば……。キャンプって言葉に、考えもせずに飛び付いてしまって……」
結局、三人それぞれに原因があった訳だ。それが合わさった結果があれ。
「「「本当にすいませんでした!」」」
「まあまあ……。事情は分かったで、この話は止め。頭上げや。次に生かせばええんやで」
俺の一言に、三人とも意外そうな表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「先輩、叱らんのですね」
「俺まで叱ってどうするの? 山中湖で鳥羽先生に叱られたやろ?」
「はい……」
思い出して恥ずかしくなったのか、顔が少し赤くなった。
「それで充分や」
同じ過ちを繰り返さなければいい話だ。
もちろん、これが二度目や三度目ならば、俺も怒っただろうけど。
余談だが、この後大垣さんに京都弁を指摘され、俺の顔まで赤くなってしまうのだった……。
「所で、トラ先輩は
「あの人、ラジコン飛行機飛ばしてただろ?」
「はい。見てました」
「前は河口湖でも飛ばしてたらしいんだけど、富士山が世界遺産に登録されて、飛行禁止になったんだって。それで新たな場所を求めて
「「「なるほど」」」
「先週、うちに来とって、その時に来週山中湖行くって聞いてね。だから、何処かでみんなを見掛けてないかな……って思って電話したんだけど……。まさか同じキャンプ場とはね」
運が良かったのだろう。それか、日頃の行いが良いからかな? ……誰が、って?
それは気にしたら負け。
「名前呼ばれた時はびっくりしましたよ。チョコちゃんのお陰で挨拶程度に会話はしていたんですけれど、名前言った記憶は無かったので……」
だろうね。知らない人からいきなり名前呼ばれたら、誰しも驚くだろう。
「俺が教えたんだよ。探してもらうならその方が都合が良いし」
もし、不審者に絡まれていた場合でも、その方が対抗しやすいだろう。
「どんな状況だったの? 飯田さんに会った時は」
三人、顔を見合わせる。
「岬の先に椅子を出して寛いでいたんですね」
「そうしたら、どんどん寒くなってきて、マグカップに氷が張りました」
「それで、夜なったらどれぐらい寒なるんやろうと思って、調べようとしたらスマホが電池切れになってしまいました」
なるほど。寒いとバッテリーの減りが早いと聞く。
今度からはモバイルバッテリーも携帯した方が良いだろう。
「それで、あたしが高温カイロを買いにコンビニへ向かって」
「そのすぐ後やったね?」
「うん。薪買ってないから管理棟へ向かおうと思ったら、名前を呼ばれて……」
「それで、飯田さんに助けられたって訳だ」
「「はい」」
「大垣さん、運悪かったね」
もう少し早ければ、コンビニに走る必要なかった訳だ。
「いや、もとを辿ればあたしのせいですから、これぐらい大したことないっすよ」
「でもまあ……。本当に良かった。鳥羽先生やリンにもちゃんとお礼言いなよ? あ……先生には言ったか」
そもそも助けに行ったのは先生だ。その時に済ませているだろう。
「はい。リンには今からお礼言いに行こうと思ってます」
「了解。じゃあ行ってらっしゃい。次のキャンプは俺も誘ってよ?」
俺の一言に、音楽室を出ていこうとしていた三人は立ち止まり、再び顔を見合わせてから深く頭を下げるのだった。
そう。実は今回のキャンプ、鳥羽先生は仕事で、リンと
『生徒の呼び出しをします。2年生
丁度、4限目が終わり、これからお昼休みという時だった。
校内放送のチャイムが鳴ったと思えば、呼び出されたのはまさかの二人……。
ふと、教室を見渡せば数人の視線が刺さっている。
『なにしたの?』そう言いたげな、
とりあえず、片手を上げ首を傾げる。『分かりません』のポーズだ。
「あ! 先輩待ってましたよ!」
職員室に向かうと、入口で待っている可児の姿があった。
「可児、お前教頭に呼び出されるなんて、何しでかしたんだよ?」
呼び出されているのは俺も同じなんだけど、とぼけて言ってみる。
「あれ? 先輩何も知らないんですか?」
「は?」
「今朝、私は担任から『教頭が卒業式の件で相談あるから、昼休みに呼ぶ』って聞いたんですけど?」
何それ聞いてない。
「吹奏楽サークルとして呼び出されたんですよ。先輩、しっかりしてくださいよ」
「と、言われてもなぁ……。俺は何も聞いてないんだが」
まあ良い。この事はこの際置いておく。教頭先生を待たせているからそちらが優先。
「「失礼します」」
ノックしてから扉を開く。
「あ、滝野くんと可児さん。
俺たちに気付いた教頭先生が呼んでいる。
「お待たせしました」
教頭先生のもとへ。
可児の態度はいつも通りだ。
普通、用件が何であれ、教頭先生相手なら多少は緊張するものだが、可児にはそれがない。
「いえ。貴重な昼休みに呼び出してしまいごめんなさい」
「大丈夫です。えっと、可児は多少担任の先生から話を聞いているみたいですが、俺は何も聞いていないので、最初から説明お願いします」
「分かりました。それでは順に説明していきましょう」
教頭先生が言った話を
・吹奏楽サークルとして、卒業式で何かを行えないか。
・他の学校の吹奏楽部だと、入退場行進の曲を演奏したりしている。
・卒業式では、国歌と校歌の斉唱、卒業生による『旅立ちの日に』*1の合唱がある。
という話だった。
「流石に、俺と可児の二人で行進曲は無理ですよ。
「先輩はトランペットしか吹けませんからね」
「うるさいよ?」
教頭先生も腕を組んで考えている。
「私は別に、定期演奏会だけで良いと思っているんですが、校長が首を縦に振らないんですよ。もう一つ、卒業式に華を添える何かが欲しいと」
校長先生が? あの人式典以外に顔出さないのに……。一丁前に意見は言うらしい。
「そうは言ってもなぁ……。えっと……」
室内を見渡す。
昼休み中だから、殆どの先生が在室だ。さっきはあんな顔をした鳥羽先生も、事情が分かったからかいつも通りの表情だ。
「あ、
音楽の伊那先生を見付けた。
「どうしました?」
「国歌と校歌は先生が伴奏ですか?」
「はい。私が伴奏で、
なるほど……。
「因みに、旅立ちの日に の指揮と伴奏は決まってますか?」
普通なら卒業生が担当するだろう。
「いいえ。お願いしようと思っている子はいますが、まだ声掛けていませんよ」
決まりだな。
「先生、それ全部引き受けても良いですか?」
「は? えっ? まあ、校歌と卒業生の曲なら……。国歌は私たちがやらなきゃダメなはずですから、それ以外なら」
視線を先生から隣に移す。
「可児、お前ピアノ弾けるよな?」
「私を誰だと思っているんですか?」
おお。可児の真剣な眼差し。久し振りに見るなぁ。
「教頭先生。そういう訳で、卒業式の校歌と旅立ちの日に の指揮と伴奏。これを俺たちでやります。これなら文句はないでしょう?」
こう言うと、教頭先生は笑った。
もちろん、大きな声で笑うとか、そういうのではない。
「分かりました。お願いします。もし、校長が更に何かを要求するようであれば、私が説得します」
「決まりだな」
「ですね」
決まったのなら、早く教室へ戻ろう。ただでさえ貴重な昼休み。
流石にお腹も空いている。
因みに、教室へ戻ったら、揖斐川をはじめクラスの連中に取り囲まれてしまった。
もちろん、事情を説明したら、納得してもらえたけれど、何故か拍手された……。
原作では、『本栖高校の校歌』は存在していない(作られてない)感じですが、本作ではちゃんと私が作詞しましたので、卒業式の回をお楽しみに。