※今話に限り、体育館内の館内放送(つまり、スピーカーから流れる声)は、〔〕で表記します。
※『本栖高校 校歌』のメロディーは、アニメ けいおん! 挿入歌『桜が丘女子高等学校校歌』と同じです(※Rock ver.ではない)
卒業式
一ヶ月という月日は、あっという間に過ぎ去った。
2月末の期末試験、例のごとく
前回、クリキャン前は『必勝』と書かれたハチマキを締めていた大垣さんは、今回『必笑』と書かれたハチマキを締めていた。
必ず笑う。意味としては必勝に似た言葉だと思う。しかし、そのハチマキはどこで入手したんだろう?
その甲斐あってか、そこそこの点数だったらしく、問題なく伊豆キャンを迎えられそうだ。
そんなことがありながらも、今日は3月1日。
〔卒業生、入場〕
伊豆キャン二日前だが、その前にあるのが卒業式だ。
厳かな雰囲気の中、卒業生が体育館後方から入場してくる。
体育館前方に三年生の席があり、その後ろに通路を挟んで二年生と一年生の席。更に後ろには保護者の席が通路の両側に配置されている。
本来なら俺も二年生の席に座るはずなんだけど、指揮があるため脇の職員(先生)の席に座っている。
隣には可児が座っているものの、更に隣には先生方。緊張するなぁ……。
〔只今より、平成29年度、山梨県立本栖高等学校。卒業式を開始します〕
卒業生全員の入場が終わると、教頭先生が開会を宣言。
全員起立のまま国歌斉唱へ。
国歌の次は校歌だ。壇上の高山先生が降りてきて、保護者と来賓の方々が着席。
〔校歌、斉唱〕
俺の出番だ。
可児がピアノへ向かう一方、俺はステージへ登壇。保護者席や来賓席が俄にざわめく。
まあ、本来であれば教員が行うだろうことを、一生徒である俺たちがやるんだから、気持ちは分かる。
ステージから全体を見渡す。
すぐ目の前の先輩方、その後ろの同級生・クラスメイト、後輩の姿。
おお、既に目元が真っ赤な人も。泣くの早いよなぁ……。
構え。手を振り降ろす。
♪~
まずは前奏。
そして歌い出し。
「本栖の
「五条ヶ丘に聳え立つ」
「白磁の建屋の学舎は」
「ああ、私たちの集いし本栖高」
リンや
~♪
校歌が終わり、手を止める。
構えた手を降ろす。
降壇。自分の席へ戻る。
なんというか。俺が卒業するわけでもないのに、野クル部他いつものメンバーの姿を見て、感傷に浸ってしまった。危うく泣くところだったよ……。
しかも、それに目敏く気付いた可児が、悪戯っぽく微笑みながら俺をつついてくるし!
『先輩、泣きそうですよ?』
『泣かへんわ!』
『本当ですか?』
『ホンマや……』
からかってくるし。
からかい上手なのは恵那ちゃんだけで充分だよ。全く。
卒業証書授与は、全生徒が登壇するわけではなく、各クラス代表一人だけが登る。それでも名前は全員呼ばれる。
〔水谷
「はい!」
一年半、お世話になった先輩の声だ。
考えてみれば、彼女が吹奏楽サークルの設立を発案・協力してくれなかったら、俺がサークルを立ち上げることも無かっただろうし、それ故に可児と出会うことも、野クル部の面々に巻き込まれることもなく。野外活動サークルの部活化もこんなに早くなかっただろう。
良くも悪くも、俺の本栖高校での生活に彩を加えてくれたのは、この人のお陰だ。
〔成田
「はいっ」
そして、その水谷先輩の隣には、成田先輩がいた。水谷先輩があんな風に自由で気儘に動き回れたのは、成田先輩が手綱をしっかり握っていたからだろう。
しかし、この二人の関係を知るのは、俺を含めて数少ない。いつまで隠すつもりなのかな……?
卒業証書授与が終わると、校長先生や来賓の方、PTA会長他、お偉い方々の有り難い御言葉を頂戴する。正直、今卒業するわけでない俺たちが『卒業おめでとうございます』って話を聞いても、ピンとこないんだけどなぁ……。
まあ、文句を言っても仕方がない。話半分でも聞いていよう。
……やはり、
少子化故仕方の無いこと。都府などの都市部でもこの流れが進んでいるんだから、こういった地方は尚更。
しかしこの統合話、なんで本栖高校だけ関係ない話で終わったんだろう? 謎は深まるばかり……。
おや? 首が変な角度の人がちらほら。寝てんのか……。
話を聞いた後は、在校生による送辞だ。担当するのは生徒会長。
生徒会とは縁の無い学校生活だからなぁ……。正直、会長の顔と名前ぐらいしか知らない。
何か喋っている。しかし、顔しか知らないから話の内容は、左耳から入って右耳から出て行く……。
送辞の次が、卒業生による答辞だ。
この終わりがけに合唱がある。俺と可児は今のうちにスタンバイ。
在校生から卒業生への送る言葉が送辞なら、答辞は卒業生から在校生へのお礼の言葉に当たる。
だから、この間は三年生も後ろを向いて居るわけだ。
で、俺が今立っているのは三年生と一年生・二年生の間にある指揮台の横。
つまり、どちらを見ても俺は皆の視線の先にいる、ということ。
別にそれで緊張するってことはないんだけど、何となく恥ずかしい……。
…………。
〔そして!〕
よし。これが合図だ。
指揮台に上がる。
〔この歌を歌います〕
構える。ピアノを一瞥、可児のスタンバイを確認。オッケー。
そして、ゆっくり手を動かす。
♪~
この曲は前奏が長い。
このメロディーも、門出を祝っているような優しい音。自然と足が動いてしまう。
ピアノの方を見れば、可児と目が合う。
うわー。可児、楽譜や自分の手元を見てない。俺の手しか見てないよ。流石だなぁ……。
さあ、そろそろ前奏が終わる。
「白い光の中に、山並みは萌えて。はるかな空の果てまでも、君は飛び立つ」
何となく、この辺りのことを歌っているかのような歌詞だ。
「限りなく青い、空に心ふるわせ。自由をかける鳥よ、振り返ることもせず」
ここからがサビだ。
「勇気を翼に込めて。希望の風に乗り。この広い大空に、夢を託して……」
一番が終わり、間奏に入る。
次は二番。
「懐かしい友の声、ふとよみがえる。意味もないいさかいに、泣いたあの時」
「心通った嬉しさに抱き合った日よ。みんな過ぎたけれど、思い出強くだいて」
抱き……。いかん。水谷先輩の顔しか浮かばない……。
「勇気を翼に込めて 希望の風に乗り。この広い大空に、夢を託して」
「今、別れの時。飛び立とう 未来信じて。はずむ 若い力信じて、この広い この広い 大空に……」
終わった。後は後奏がしばらく続く。
こら、そこ。歌い終わったからって気を抜くなよ。
~♪
手を止める。
手を下ろし、指揮台から降りる。
この曲の終わりは即ち答辞の終わり。
俺は急ぎ足で自分の席へ戻る。
〔着席〕
とりあえず、俺のやるべき大仕事が終わった。
もちろん、卒業式はまだ続いている。気を抜いてはいけない。
それでも、やはり やりきった という思いの方が強い。
脱力感半端ない……。
卒業式は恙無く進行し、いよいよ残すは……。
〔卒業生、退場。卒業生、起立!〕
そう、卒業生の退場だ。
「えっ?」
突然、可児が立ち上がりピアノへ駆け寄る。こんな話聞いてないけど?
ピアノの前に座るなり、譜面も広げずにピアノを弾き始める。
♪~
『旅立ちの日に…』じゃないか。
退場するときにBGMが無いのは寂しいとは思っていたが、こんなサプライズ企ててたのか。
卒業生が退場し、保護者・来賓も退場。在校生と先生方総出で片付けを行った。
終わってしまえば解散だ。
それぞれ、卒業する先輩との歓談だったり、部活で集まって送別したり。思い思いに過ごしている。
俺は? って?
俺が行く場所は一ヶ所しかない。分かりきっている。
階段を登って行き、屋上に出る扉を開け放つ。
「純一」
「渋谷先輩」
いつもの給水タンク上ではなく、パイプ椅子の横に立ってグラウンドを眺めていた。
俺が扉を開くと、此方側を見て、名前を呟いた。
「御卒業、おめでとうございます」
「ありがと。しかし、あっという間だったね。一年と少し」
俺がこの学校で水谷先輩と一緒に過ごしたのは、僅か一年。
この場所で初めて知り合い、サークルを設立。
名前貸しだったから、先輩は極稀にしか顔は出さなかった。
それでも、昼休みや放課後にここへ来れば会うことは出来た。
「寂しい?」
先輩が俺の前までやって来て、上目遣いで俺の顔を覗き込む。
「そりゃあ、寂しいですよ。先輩が居なければ、俺のここでの高校生活、灰色でしたからね。先輩のお陰で虹色になったわけですから」
「それは良かった」
「良くないですよ。多少色が付くだけで良かったのに。しっちゃかめっちゃかです」
虹色と言われれば、殆どの人が七色だと答えるだろう?
しかし、実際は何色あるか分からない。八色かもしれないし、十色、十五色、もっと沢山?
「まあ、確かにそうだね。純一の周り見てれば分かるよ」
「全くです。ところで、成田先輩は?」
「まだ教室じゃない? アタシたちの関係、打ち明けることにしてるから、今頃集中砲火喰らってるんじゃないかな?」
は?
「言ったんですか!」
「最後だし」
それじゃあ、先輩方の教室は今頃大変なことになっているな。近づかない方が良いだろう。
「純一はこれからどうするの?」
急に話が変わった。
「これから?」
「吹奏楽サークルの今後、と言った方が分かりやすいかな?」
「ああ。まあ、元々そうでしたけど、今月中は可児と二人で頑張りますよ。新入生、何人入ってくれますかね?」
「それはまだ分からないね。あ、7日の演奏会は行くから、頑張れ♡」
「ありがとうございます。先輩は?」
「アタシたちは、とりあえず明日試験場へ行って免許取るよ」
免許?
「二人共ですか?」
「うん。卒業試験は合格してるから、後は最後の学科だけ。そしたら、明後日から卒業旅行だね」
卒業旅行。そういえば前にそんな話したっけ。
「俺、誘われてませんけど?」
「アハハ。ああは言ったけど、本当に連れていく訳ないじゃん。純一だって演奏会有ったりで忙しいんだし」
そんな状況で明後日から伊豆キャン行きますけどね。
「結局、車で行くんですか?」
前、ここで話したときは、『原付を借りて交互に運転』『運転しない間は、俺の後ろに乗る』という話になった。
「うん」
「免許試験落ちたらどうするつもりですか? というか、現時点で免許持ってない人が車どう手配するんですか?」
気になると最後。疑問が次々と浮かんでくる。
「そこは抜かりなく。借りるのは太志のお父さんの車だからね。お父さんも一緒に行くから運転手付き。だからもしアタシと太志二人とも試験落ちても、運転手の心配はないの」
思ってたよりもしっかり考えてあった……。
「それじゃあ。そろそろ太志が迎えにくると思うから、アタシは帰るよ」
そう言って、飛び跳ねるように屋上入口の扉へと行く。
「先輩……」
「どうした? アタシのために泣いてくれるのかな?」
「泣きませんよ。俺と先輩の仲、じゃないですか。別れに涙は不要です」
「だよね。さよならは言わないよ」
「もちろんです。さよならは別れの言葉じゃなくて」
「再び逢うまでの遠い約束。ってね」
何時だったか。俺がトランペットで吹き、先輩が歌った歌。その歌詞の一部。
「じゃあね。四年後にまた来るから」
「は?」
「教育実習でね」
そういえば、教師目指すって言ってたっけ。
「その頃には俺もいませんって」
「だよね。じゃあね」
「また……」
扉の向こうへ消える先輩を、そのまま見送った。
いよいよ明後日から伊豆キャンだ。
余談だが、最後に可児がピアノで『旅立ちの日に…』を弾いたのはサプライズ的なことではなく、先生からの依頼があったらしい。
というのも、伊那先生が『旅立ちの日に…』のCDを用意する予定だったのを、間違えて『明日への扉』を用意してしまい、使えなかったから、可児に白羽の矢が立った。とのこと。
お待たせしております。
本栖高校の校歌。私が頭を捻らせて考えましたが1番を考えるだけで精一杯でした……(汗)。
アニメ・原作完全スルーだった卒業式でしたが、如何でしたかね……?
次からはいよいよ 伊豆キャン です!
ここまでが既に、私のオリジナルストーリーだったことからも分かる通り、伊豆キャンもオリジナルとする部分が多くなります。
そのため、辻褄が合わなくなる危険があるので、ある程度書き溜めができてから投稿したいと思います。今月一杯は執筆に時間を頂きたいと思いますので、しばらくお待ちください。
今後ともよろしくお願いいたします。