当日の朝。
原付で行くリンは4時ぐらいに出発すると言っていたので、普通二輪の俺は車組より少し早い時間に出る。
勿論、野クル部メンバーの中で一番目的地から遠いところに住んでいるので、その分は加味している。因みに、集合場所の下田まで、ノンストップで行った場合に三時間半掛かるらしい。
5時前。
「それじゃあ、行ってきます」
「おお。気を付けて」
起きていた父にそう告げ、ガレージへと向かう。
これから二泊三日の旅へと出る。年始の六泊七日に比べれば短いが、『短くても濃い旅』となるだろう……。
「留守番宜しく」
\キヲツケテナ!/
ビーノに声を掛け、トリシティのエンジンを始動させる。
荷造りは昨日までに終わらせてあるので、忘れ物が無いか最終確認をして、出発。
走り慣れたいつもの道を、凍結に気を付けながら進んで行く。
いつもの通学ルートを進み、学校の横を通過。富山橋を前に見て左折。富士川左岸を走る。
富栄橋を渡って右岸、国道52号線へ入る。
「見えた」
道の駅 とみざわのたけのこタワーだ。
毎度恒例、トイレ休憩にしよう。ここを過ぎれば県境だから。
売店は開いていないので、トイレだけ済ませると、バイクに戻る。
さてと。
ここからは初めて走る道路に向かうので、諸々の準備をする。
まずはスマホだ。
ビーノ同様、スマホホルダーを取り付けてもらったので、そこにスマホをセット。ケーブルを繋げば充電も行われるので、バッテリーの心配もない。
まあ、地図は結局Google mapなので、時々とんでもない道に誘導されるが、このバイクなら走れない道は少ないから特に問題ないだろう。
次にETC車載機にカードを挿入。
『ETCカードが挿入されました』
お馴染みの機械音声が流れる。
えっ? 勿論、ETCカードは俺名義のカードだ。
この年齢では
簡単に言うならば、デポジットを預けて使った分だけが口座から引かれる仕組みのETCカード。俺みたいに学生だったり、収入が無かったり、その他理由でクレジットカードが作れない人でも使えるETCカードだ。
準備が整えばいよいよ出発。
国道52号線を更に南下。
県境を越えて静岡県に入った。
新東名高速の新清水インターチェンジから高速道路へ入る。
今回はETCレーンへ。
減速してETCレーンに進入。認証の音声と、レーンに設置されている表示器を確認、バーが開いたのを確認して通過……。よし。通れた。
今回向かうのは東京方面だ。前回とは逆。
加速車線で速度を上げ、本線合流。よし……入った。
降りるインターチェンジまでおよそ30キロ。前に走ったときと同じように、大人しく走って行こう。
「お。富士山」
ちら、っと左に視線を向ければ富士山が見える。
ほぼ毎日見ているが、それは北西方向からの富士山。対し、今見えているのは南側。この角度から見るのも違って見えて良いなぁ……。
結論。富士山は何処から見ても良い。かな?
予定通り、長泉沼津インターチェンジで降りる。料金所を通過し、そのまま伊豆縦貫道へ。
この先、修善寺の先にある大平インターチェンジまで信号無しで行け、(途中に二ヶ所ある有料道路を除き)無料で走れる便利な道路だ。その代わり、原付では走れない。
道なりにずっと走って行くと、伊豆中央道に入る。ここは有料道路なので、料金所でお金を払う。ETCが使えないため、現金で。
「二輪車160円です」
160円……あった。
「はい」
「丁度、頂戴しました。ありがとうございます」
「どうも」
さっき言ったとおり、この伊豆中央道を含む伊豆縦貫道は原付は走行できない。なのに、料金所の料金表には『軽車両・原付』の表記があった。何故だろう……?
「そろそろだよな……」
とみざわを出発して丁度一時間。そろそろ休憩の時間だ。それに、ここで降りてしまえば後の道が楽だからね。
道の駅『伊豆のへそ』。つまり、伊豆の真ん中にあるという意味だろう。
良い頃合いなので、自販機でホットコーヒーを買い、用意してあるパンで朝食にする。
車組もそろそろ出発する頃だが、どの辺を走ってるんだろう? リンはどの辺りまで来ているか?
凪とは修善寺駅で待ち合わせだが、彼女もどの辺だろう?
気になることが幾つかあるので、スマホを弄る。
走行中はマップを表示していたが、それでもラインの通知は届くはず。しかし、道中なんの反応も無かった。誰からも連絡が無かったということだ。
「えっと……あれ?」
マップを閉じてラインを開こうと思ったら、そのタイミングでラインの新着通知が来た。誰からだろう? リン?
綾乃:おはよーお兄さん
綾乃:今どの辺?
滝野:何の話だ?
綾乃:今日から伊豆キャンですよね
滝野:ああ。そうだよ
滝野:今、伊豆のへそ
綾乃:了解です。安全運転で!
綾乃:よろしく~
相手は綾乃だった。
伊豆キャンの話は
……そういえば、富士宮に親戚が住んでいるとか言っていた記憶が。まさか……ね? 最後の一文、意味深だったけど。ね?
あ。昨日の最後のやり取りに、『一緒には行けない』というのがあったっけ。これ、捉え方によっては真逆の意味になるが……。
色々と気になる部分があるけれど、考えすぎか。
浜松から伊豆は遠い。流石にあり得ないだろう。
野クル部グループライン(恵那ちゃんとリン含む)は反応なし……。こちらからつついてみよう。
純一:今どの辺?
純一:俺は伊豆入ったけど
恵那:私たちも伊豆入ったよー
恵那:ネテナイヨー
【画像】
リン:目 バッキバキじゃねーか
おいおい……。
各務原さんの寝顔に、目が落書きされている。寝ているんだけど、起きているように加工されている写真だ……。
まあ、各務原さんの場合リアルに『遠足前のなんたら』で寝不足なのかもしれない。何処で起きるか分からないけれど、色々と見逃したり、食べ逃したりして、後で後悔しないように……。
純一:今どの辺?
凪:修善寺駅着いたよ
凪:純兄はどこ?
純一:伊豆のへそ
純一:15分ぐらい待ってて
凪:了解
凪はもう駅に着いているらしい。順調に来れたようだ。
俺もそろそろ出発しよう。
狩野川沿いの国道136号線を南下。そのまま道なりに進んでいくと、修善寺駅が見えてきた。
「あ、居た居た」
駅前のロータリーに凪が立っている。
寒くないよう防寒着を着込んだ服装で、リュックサックとヘルメットを手に持っている。端から見てもタンデムの待ち合わせと分かる格好だ。
此方を向いたので手を振ると、向こうも手を振り返す。
凪の前に停車させた。
「凪お待たせ」
ヘルメットのシールドを上げる。すぐに発車するのだから、脱ぐ必要はないだろう。顔さえ見えれば俺だと分かるはずだし。
「純兄久し振り。元気だった?」
二ヶ月振り。しかし、その時に一回会っただけ(それ以前は記憶にないのでノーカン)なのに、俺には全然そんな風に感じられない。
「元気だよ。しかし、不思議なもんだよなぁ……」
「何それ。どういうこと?」
後ろの方のは口にしたつもりはなかったが、声に出ていたらしい。聞こえたのか突っ込まれた。
「別に。凪に会うの、二ヶ月振りだし、そっちは久し振りって言っただろ? 俺はそう感じなかったからさ」
「そう?」
「そうだよ。二ヶ月も経ってるんだな、って驚いてるぐらい」
おっと。あまりロータリーに長居すると他の交通の妨げになり得る。
「そろそろ行くから準備しろ」
「了解」
そう声掛けると、ヘルメットを被る……、と思いきや……、
「純兄、インカム着けた?」
「えっ?」
凪はインカムを装着してから、ヘルメットを被ったらしい。
「この距離で要るか?」
「むしろこの距離だから必要。風の音で全然声聞こえないじゃん」
「まあ、確かに」
「急にトイレ行きたくなったらどう伝えれば良い? 漏らせと?」
「いやいやいや、それは勘弁。分かったよ」
俺は前にリンから貰った奴を常に携帯しているので、問題は無い。
「ちょっと待って」
一度ヘルメットを脱ぎ、鞄からインカムを出して装着。再びヘルメットを被り、スマホを操作……。
「聞こえる?」
『純兄オッケーだよ』
インカム越しの声と、それよりワンテンポ早い声が横から聞こえる。
少々聞きづらいが、走り出せば大丈夫だろう。
インカムが準備出来て、凪が後ろに乗った。
「じゃあ、出発するぞ」
『オッケー。私は準備出来てるから』
「了解」
合図を出し、ゆっくり発進させる。