【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 伊豆キャン 一日目②~天城越え~

 

修善寺(しゅぜんじ)駅を出発し、国道136号線を南へ走る。

 

途中、136号は伊豆半島西側へ進路を変えるため、半島中央を縦断する国道414号線へ入る。

 

このまま国道を南下すれば、河津(かわづ)を経てから下田だ。

 

リンと車組との集合場所、下田まであと一時間強。時間にはまだ余裕がある。

 

『このまま下田に直行するの?』

 

「その予定。一応、少しは寄り道するつもりだけど、ほとんどこのまま進むよ」

 

『了解』

 

月ヶ瀬(つきがせ)湯ヶ島(ゆがしま)といった温泉街を進んで行く。(なぎ)との待ち合わせ場所にした修善寺駅界隈も温泉地だ。伊豆は総じて温泉が多い。

 

バスとすれ違う。行き先はさっきの修善寺駅だ。半島中央や西側の鉄道が無い区間はバスが連絡しているのだろう。

 

『そう言えばさ。純兄、八丁池(はっちょういけ) って知ってる?』

 

「八丁池? 何処それ?」

 

聞いたこと無いな……。

 

『分からないから聞いたんだけど。純兄も知らないのね』

 

「まあ……。その八丁池がどうしたの?」

 

『修善寺駅で待ってるときにバスの時刻表も見たんだけど、その八丁池に行くバス。前日に雨予報が出ている場合には運休するんだって』

 

天気で運行が決まるってことか。変わった路線だな。

 

天候が悪影響を及ぼす場所へ行くのか、雨が降ると誰も乗らないのか……。謎だな。

 

「まあ、後で調べてみようか」

 

『そだね』

 

*1

 

 

 

 

 

 

温泉地を抜ければあっという間に山の中だ。峠越えに向け、どんどん標高が高くなってゆく。

 

道の駅 天城越え を通過。

 

ふと、道の駅の駐車場を見たら、見たことのある車が止まっていた。

 

同じ車なんて数え切れないほど存在するが、ナンバープレートまで同じことは有り得ない。

 

何度か見ているから間違いないと思うが、あれは鳥羽先生の妹さんの車。つまり、車組。

 

道の駅で休憩中、といったところだろう。

 

かく言う此方はまだそんなに経っていないから、このまま目的地へ向けて走り続ける。

 

 

えっ? 何度か見ている件について?

 

いや、ね。本文中で触れていないだけで、皆が今日までの一ヶ月間、バイトや勉強に精を出していたように、俺も家の手伝いを頑張っていたんですよ。

 

その先々で、稀に鳥羽先生の妹さんに出会っていたから覚えてしまった、というのが理由です。

 

 

 

 

 

 

「もうすぐだっけ……」

 

『何が?』

 

おっと独り言が声に出てしまい反応されてしまった。

 

「見てれば分かるよ」

 

とりあえず、こう返しておこう。

 

…………あった。旧道分岐。青の標識にはそのまま 旧道 と書かれている。

 

これを曲がれば天城峠の旧道に入れる。

 

「凪、この先道が悪くなるから、気を付けて」

 

『了解』

 

この先は舗装がされていないので、タイヤをとられないように気を付けて進む。

 

未舗装、ダートとも言う。デコボコしているから、タイヤをとられないように……。

 

道なり進んでゆくと、いよいよ目的のものが見えてきた。

 

 天城山隧道

 

そう。トンネルだ。

 

 

 

「1905年完成。全長446メートル、日本初の石造道路トンネルで、現存する石造トンネルでは日本一長い。1970年に隣の新天城トンネルが開通し、一線を退いたが、2001年に国指定重要文化財に指定された」

 

凪がスマホを見ながらそう解説する。まあ、そういうことだ。

 

「雰囲気あるなぁ……」

 

回りには俺と凪の他に人が居らず、山の中という立地も相まって独特の雰囲気がある。

 

【挿絵表示】

 

「凪、そこにトイレがあるから。トイレ休憩も兼ねてるから忘れるなよ」

 

「はーい」

 

写真を撮って回っている凪に声を掛け、俺は先にトイレへ。

 

トンネル手前の脇に駐車スペースがあり、そこにトイレが設置されている。その駐車場にはトリシティが一台。

 

さっき言ったとおり、他に誰もいないから、止まっている車はない。

 

 

 

トイレを済ませて出ると、凪はまだ写真を撮っていた……。

 

今回の伊豆キャンのもう一つの目的、それは 伊豆のジオスポ巡り。

 

ここは別にジオスポではないのだが、こういった名所巡りも悪くはないだろう。

 

俺も写真を撮り、ラインで共有する。

 

 

 

純一:天城隧道

 

純一:【画像】

 

恵那:私たちは道の駅でわさびソフト

 

恵那:【画像】

 

 

 

ああ。ソフトクリーム自体は普通のバニラなんだけど、注文を受けてから磨る おろしたてわさび が添えられている、この辺の名物だ。

 

「純兄何してるの?」

 

凪が覗き込んできた。

 

「車組との連絡だよ。あっちは道の駅でわさびソフト食べてるんだって」

 

「えっ? この時期にアイス?」

 

おお。至って普通の反応……。

 

 

 

 

「それじゃあ、次行くぞ」

 

『了解。私は準備オッケーだよ』

 

「はい」

 

二人トイレを済ませると、いよいよトンネルに入る。

 

乗用車どうしの離合は厳しいが、ある程度の大きさがある。

 

トンネル内のライトは、所謂(いわゆる)蛍光灯やナトリウムランプではなく、ガス灯が使われていて、メインの街道だったときの雰囲気を出している。美しい。

 

『あ、純兄。このランプガス灯じゃないらしいよ。Wikipediaにはそう書いてあった』

 

「マジか」

 

皆様、そういうことらしいです……。

 

余談だが、俺が反対側へ迎えに行けば良い話なので、トンネルを歩いてみるかと凪に聞いたところ、俺がトイレに行っている間に既に一往復してきたとのこと……。

 

 

 

トンネルを抜ければ下り坂だ。トンネル内はコンクリート舗装だったが、再び未舗装になる。

 

カーブの続く道を、スリップや転倒に注意しながら走ってゆく。

 

砂利道だから、雨で削られてとんでもないことに……。

 

『降りよっか』

 

「だな」

 

乗車したままの通過が危険な溝が、道路を斜めに横断していた。

 

そこは降車して慎重に押して通過。

 

 

 

お。アスファルト舗装が復活した……と思えばここが寒天橋だ。

 

『下田で採れた寒天の原料となる天草を、信州や純兄が前に行った恵那市山岡へ輸送するための街道上にあるため、この名が付けられた』

 

これまた凪の解説。まあ、そういうことらしい。

 

……何だ? 今の解説。俺、凪に山岡へ行った話してないと思うけど。

 

 

 

寒天橋を過ぎ、更に進むとようやく国道に復帰。南下を続ける。

 

「見えてきた!」

 

河津七滝(かわづななだる)ループ橋だね』

 

かつて、この場所には山沿いを進むつづら折れの道路があったのだが、地震で崩落。利便性と安全性を考慮した結果、崩落した道路は放棄し、このループ橋が作られた。

 

天城トンネル側から来た場合に、時計回りの下り坂、720度(つまり、2回転)ループする構造になっている。

 

制限速度は40㎞/h、転倒しないようにゆっくり曲がって行く。

 

二重になっているループを過ぎれば、名残は惜しいがループ橋は終わりだ。

 

土地の有効活用といえるだろうか。ループ橋故発生する中心部の空きスペースは駐車場になっている。

 

 

 

 

 

 

ループ橋を過ぎ、しばらく進むと交差点が現れる。国道414号線は右折方向。しかし、俺たちは直進し県道14号線に入る。

 

国道とは一旦お別れだ。下田で再び合流する。

 

お、ガソリンスタンドを発見。そろそろ給油しようと思っていた所だから丁度良い。

 

反対側なので、対向車を確認し右折で入る。

 

 

 

セルフスタンドではないので、係員の誘導に従って指示された場所に停車させる。

 

「レギュラー満タン、現金で~」

 

復活の呪文(?)を唱えた。

 

「はいっ!」

 

作業の邪魔にならぬよう、バイクから降りて近くで待機。

 

しかしこのスタンド。セルフではないのに、価格がセルフ並でお得だ。

 

いつもセルフではないスタンドで給油しているから、この価格は有り難い。

 

まあ、学校から家までのルートにガソスタは一軒も無いから、いつもお世話になっている三沢屋さんを悪く表現するのは避けるべきだが……。

 

「お待たせしました。こちら、お釣りです」

 

なんて考えていたら、給油はとっくに終わっていた。お釣? 俺お金出してないのに……。

 

あ。凪が払ってくれたのか。こっち見てウィンクした。

 

「ところで、お兄さん方はどちらへ?」

 

準備を整え、出発しようと思ったところで、店員から声が掛かった。

 

「下田です。開国……なんたら? って道の駅です」

 

『開国下田みなと でしょ』

 

凪に突っ込まれた。

 

「下田というと、右折ですよね……?」

 

「はい。どうかしましたか?」

 

何だろう?

 

「この先、今河津桜祭りの真っ只中ですから、酷い渋滞ですよ。下田に直行するのであれば、国道へ迂回した方が無難です」

 

……河津桜?

 

あ! もうそんな時期か。

 

「戻って414号線行けば良いですか?」

 

「はい。道幅は狭いですが、二輪車なら問題なく走れますよ」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

店員の誘導で左折する。

 

「ありがとうございました。またお越しくださいませ!」

 

 

 

というわけで、一旦来た道を戻り、交差点を左折。国道414号線を西伊豆方面へ向かう。

 

ここからは峠越えだ。再び登りに転じる。

 

『さっきの話。どういうことなの?』

 

「ああ。日本一早咲きの桜として有名なのが、河津町の河津桜なんだけど、今がそのシーズンなんだよ」

 

俺も話だけは聞いたことがある。実物を見たことはない。

 

「当然のように、周辺道路は大渋滞。巻き込まれたら大変だったよ」

 

『確かに。桜、見てみたい気はするけど、渋滞は勘弁だねぇ』

 

教えて貰ったとおりの道だ。乗用車ならよほどすれ違いに困ることはなさそうだが、大型車となれば厳しいだろう。

 

 

 

 

ふと。スマホにラインの通知が。

 

安全を確認し、停車させる。

 

どれどれ……。リンからだ。個人ラインの方。

 

 

 

リン:お兄さん、今どの辺り?

 

 

……。

 

ここは何処だ?

 

住所を確認するか……。ああ、あの手がある。

 

 

 

滝野:【位置情報】

 

リン:流石お兄さん

 

リン:大垣たち車組、河津桜祭りに巻き込まれて、相当遅れるらしい

 

純一:マジか

 

リン:寄りたい場所があるので、蓮台寺駅で待っていてください

 

滝野:蓮台寺駅? 了解

 

 

 

『ライン? 誰から?』

 

「リン。車組、河津桜の渋滞に巻き込まれてるってさ」

 

『あーあ。可哀想』

 

「ガソスタ店員のお陰だな」

 

教えてもらえなかったら、俺たちも同じことになっていただろう。

 

まあ、バイクだから御法度とはいえ歩道か路肩を走ったり、Uターンや脇道という手立てはあるけれど。

 

『で、リンは他に何か?』

 

「蓮台寺駅に行けって」

 

『駅? 何だろう?』

 

「何だろうな?」

 

『純兄分からないの?』

 

「俺に分かるわけ無いだろ」

 

えっと……。mapで蓮台寺駅を目的地に設定。

 

後方確認し、発進。

 

 

 

 

 

 

 

 

峠を越え下田市に入り、道なりに進んで行く。

 

西伊豆方面へ向かう県道との交差点を過ぎると幾らか道幅が広がる。

 

伊豆急行の線路が見えてきた。

 

そのまま国道を進み、脇へそれる。

 

すると、蓮台寺駅が見えてきた。

 

 

 

駅で待つこと5分。

 

「あ。リン~!」

 

リンのビーノがやって来た。

 

「リン~!」

 

それに気付いた凪も手を振る。

 

俺たちの前に止まる。

 

「お待たせしました、お兄さん。凪、久し振りだね」

 

「うん! 久し振り」

 

「いつ以来だっけ?」

 

「去年の夏休み、リンが訪ねて来たとき以来だよ。確か」

 

久し振りの再会らしい。

 

「これがリンのビーノ?」

 

「うん。そうだよ」

 

凪はリンのビーノに興味津々の様子。

 

「リンにぴったりだね。特に色が」

 

色って……。パステルブルーって言うのか? この色がリンに合っているらしい。

 

「色……。まあ、そんな感じするかも……」

 

本人も納得してるよ。

 

 

 

「お兄さん、待った?」

 

「別に待ってないよ」

 

待ったとすれば、今の二人のバイク談話かな。

 

「で、何処行くの?」

 

「近くの温泉です」

 

「「温泉?」」

 

思わず凪と顔を見合わす。

 

温泉……とな?

 

 

 

駅を出発する前に、俺・凪・リン三人のグループラインを作り、それを使って走行中でも三人同士の会話が出来るようにした。

 

『彼処です』

 

しかし、駅を出て少し走ると、目的地が見えてきたらしい。

 

日本一の総檜大浴場 千人風呂 と書かれた看板がある。

 

『前に上諏訪温泉に行ったとき、千人風呂に入ってきたんだよね』

 

「ああ、片倉館ね」

 

上諏訪温泉に入ったという話は前に聞いたけど、片倉館だったのか。

 

『知ってるんだ。それで、同じ千人風呂という名前の温泉がここにあることを知って、入りたいなって思って。でも、当初の予定通りだったら無理だけど、運良く時間がが出来たから。……勇気を振り絞って

 

なるほど。車組が渋滞に巻き込まれなければ来れなかった訳だ。棚ぼた温泉だな。

 

…………ん? 今、終わりの方に何か言ったぞ。どういう意味だろう?

 

『リン、何か言った?』

 

『いや。別に』

 

凪がそれに気づいて問うもリンは答えない。何か隠しているのか。

 

 

 

*1
天城山の西陵にある池。『天城の瞳』『青スズの池』とも呼ばれる。ハイキングコースも整備されている。

尚、凪が言った通り、八丁池へ行くバスは、季節運行・雨天運休となる。

また、八丁池へ至る道路は自家用車での往来が禁止されているので注意。





伊豆の 千人風呂。行ったことのある方ならご存知の……。

リンが 勇気を振り絞って の理由とは?

次回をお楽しみに……。
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