【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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お待たせしております。

前話にて、『来週ここで』と記載しましたが、あとがきに書きます。

では、まずは本編をどうぞ!



 伊豆キャン 一日目⑤~細野高原そして温泉へ~

 

爪木崎を出発し、脇道から国道135号線に入る。

 

恐らく、車組は来るときに一度走ったであろう道だ。それを逆方向に走ってゆく。

 

国道は海岸を行くので、海が見れる。こちらは相模湾だろう。

 

まあ、海岸線の崖沿いを進むので、高潮で海水を被りそうな程の距離ではない。だからこそ、海が見れて良いんだよねぇ……。

 

まあ、こっちは運転中だから景色を楽しむ余裕は無いが……。

 

「ところで(なぎ)

 

『んー?』

 

「いつまで俺の後ろに乗るんだ?」

 

一応、当初予定では下田で合流後、車に移ることにしてたけど。

 

『楽しいから。眠くなるまで乗ってるよ』

 

「つまり、寝たくなったら車に行くのか……」

 

(ずる)いぞ』

 

最後のはリンの声だ。

 

確かに、運転手三人は寝るわけにはいかない。

 

狡い、そう言ってしまえばそれまで。

 

だが、逆に捉えれば、無免許の人にとって俺たち免許持ちは、自由に動けて狡いと思われかねない。互いにそこは追求しない方が良いんだけどなぁ。

 

『お姉ちゃん。車ん中も楽しいで。いつでも来てや!』

 

「これ、車乗っても寝させてもらえない感じだな……」

 

『だね』

 

 

 

 

 

 

 

志摩(しま)さん滝野(たきの)くん。そこのドライブインに寄りますよ』

 

インカムから鳥羽(とば)先生の指示が入る。

 

「了解です」

 

『了解』

 

お。何かでっかい看板が建ってる。

 

【挿絵表示】

 

伊豆オレンヂセンター……。オレンジじゃないのか。進行方向左手にあるその施設へ入る。

 

その際、後方の巻き込みを確認。

 

 

 

どちらかと言えば、ドライブインというより、お土産屋だ。

 

 一杯飲んだら3年長生き!

 ウルトラ生ジュース

 

どうやら、これが名物らしい。

 

それをみんなで頂いたり、お土産も購入。先生、みかんワインを買ってご機嫌な様だけど、お酒は夜まで我慢ですよ?

 

 

 

『そろそろ見えてきますよ』

 

オレンヂセンターで休憩しつつ、爪木崎から走ること30分。細野高原に到着したらしい。

 

『先生、目的地の三筋山はまだ先ですよ?』

 

あれ?

 

『細野高原はまだ先ですが、その前にキャンプ場があるんですよ。あ、ほら』

 

先生の言う通り、森の中を縫うように走る道路の両脇には、ツリーハウスのコテージが幾つか並んでいる。

 

『ここキャンプ場なんだ』

 

『ホントだぁ。林間キャンプ場だねぇ』

 

『こっちにもキャンプ場があったんやなぁ』

 

「ん? ヤギだ」

 

木にヤギが繋がれている。ここで飼われているのか。

 

 

 

『あ、見えて来たよ』

 

林の間を抜ける。

 

『ふおおおーっ! 凄いよ、何か凄いよここ!』

 

細野高原はススキの群生地として有名らしい。

 

さっきの爪木崎が水仙の群生地として有名だ。

 

しかし、ススキが10月から11月。水仙が12月から1月がシーズン。つまり、どちらも時期外れだ。

 

『あおいちゃん。ここに車置いて登るん? むっちゃ遠いで?』

 

『大丈夫。上にも駐車場あるみたいやで』

 

『リンちゃん、ブランケット先輩、聞こえてました?』

 

「ああ。上にも駐車場あるんだってね」

 

『分かった』

 

アスファルトではなくコンクリート舗装の道路を進んで行く。*1

 

山頂に一番近い駐車場へ至る道は、うちの入口に匹敵する狭さだ。対向車が来たらすれ違いは不可能。

 

加えてそこそこ急な上り坂。

 

『先生』

 

『大垣さん、どうしました?』

 

『先生って普段、車は軽ですよね』

 

『ええ』

 

車内の会話、言いたいことが分かったぞ。

 

『この車でこんな道入って大丈夫なんすか?』

 

『……っ!』

 

おいおい。この様子だとあまりよろしくなさそう。

 

『これ、前から車来たら避けれなくないですか?』

 

…………。

 

『皆さん、来ないように祈ってください』

 

神頼みかよ。

 

「祈ってどうにかなりますか?」

 

『先輩、そういう現実的な話は……』

 

「だったら、俺がリンを先行させて、対向車が行きそうなら、待ってもらう方が、よっぽどマシかと……」

 

『『あっ!』』

 

今になって気付いたようだ。

 

『帰りはそうしましょうね……』

 

 

 

まあ、無事に辿り着けたわけだが。

*2

 

 

 

 

 

 

 

 

駐車場に車・バイクを止める。これ以上は車両で進めない。

 

階段があり、徒歩十五分で辿り着けるとのこと。

 

「15分ならプチ登山だね」

 

「うむ」

 

車組のメンバーはずっと座りっぱなしだったため、軽く準備体操をしている。

 

俺もそれに(なら)い軽く準備体操。

 

「お兄ちゃん、バイクどうやった?」

 

あかりちゃんが俺の傍までやって来た。

 

「慣れない道走るのは大変やけど、やっぱり楽しいで」

 

「ほぇ~。せや、お兄ちゃんも一緒に頂上まで競争せん?」

 

「えっ?」

 

競争って、走るってことか。

 

「なでしこちゃんもな!」

 

「お。良いねえ! 受けて立つよ!」

 

各務原(かがみはら)さんも?

 

「何々、純兄走るの?」

 

「凪まで喰い付くなよ」

 

凪まで!

 

「ちょっと待ったぁ! その勝負、あたしもやってやんよ!」

 

「大垣さんまでも?」

 

何だかんだで話が大きくなり、各務原(かがみはら)さん・あかりちゃん・大垣さん・俺・凪の五人で争われることになった。頂上までかけっこだ。

 

「因みに、最下位はみんなにジュース奢りな?」

 

スタート直前に、あかりちゃんがとんでもないことを言い放つ。これ、本人が負けたら一番悲惨な奴じゃん?

 

「なあ、アキ大丈夫なん?」

 

「大丈夫だって」

 

犬山さんの心配を余所に、大垣さんは自信があるらしい。

 

笛吹公園のあの坂でバテた大垣さんだ。犬山さんのその心配は俺にも分かる。でも、本人が大丈夫だと言うんだから、大丈夫なんだろう。

 

否、たぶんダメだ。

 

「よーい」

 

スターターを努めるリンの声。

 

「ドン!」

 

それを合図に走り出す。

 

とはいえ、五人横に並んで走れるほどの横幅はない。自然と縦列になる。

 

先頭は大垣さん。ツインターボみたく大逃げを狙うつもりか?

 

続いて各務原(かがみはら)さん、俺、凪、あかりちゃんの順だ。

 

「うわっ!」

 

あと半分、の辺りで前方を走っていたはずの大垣さんが、突如視界から消え去る。

 

といっても、急に立ち止まった彼女を追い越してしまっただけだけど……。

 

「ははっ。あんなに……飛ばすからだよ……」

 

凪が笑っている。というか、走りながらなのに余裕あるなぁ。

 

今の並びは、各務原(かがみはら)さん、俺、凪、あかりちゃんだ。大垣さんは……消えた。

 

もうすぐゴールだ。見えてきた。

 

さてと。

 

二人横に並ぶぐらいの幅はある。ラストスパート。とはいえ、女の子相手に本気を出すのも宜しくない。

 

この辺りで……。

 

 

ゴール。

 

 

 

 

 

 

結果は?

 

「ブランケット先輩……速いですねぇ……」

 

息を整えながら、近くのベンチに腰掛ける。

 

各務原(かがみはら)さんも。……南部町からチャリで……本栖湖行っただけはあるね……」

 

はは。もう息落ち着いてる。

 

「浜名湖を自転車で回って鍛えたのは、伊達じゃないことが改めて分かったよ」

 

「でしょう?」

 

お。後の二人がゴールした。

 

「も~! 二人とも小五相手に大人げないで!」

 

ゴールしてからその場にひっくり返り、息が整ってから、あかりちゃんのブーイング。

 

「ライオンはウサギを捕まえる時も本気を出すんです」

 

自慢気に語る彼女を見て、更に頬を膨らます。

 

「所で、勝ったのはどっち?」

 

凪の問いに、俺と各務原(かがみはら)さんは顔を見合わす。

 

「どっちでした?」

 

「さて? 俺は同時だったと思うけど」

 

そう。女の子相手に本気を出すのは良くない。しかし、だからと言って手を抜くのも失礼。

 

ということで、俺は同着を狙った。

 

「ほぇ~、同時やったんか。じゃあ、なでしこちゃんの方がおっぱい大きいで、胸の差でなでしこちゃんの勝ちやな」

 

「それ、男の俺には勝ち目ないだろ……」

 

それでも構わないけどさ。

 

「まあまあ。私とブランケット先輩の同着ってことで良いよ。凪さんとあかりちゃんも同着だったよね?」

 

「うん。お姉ちゃん、ちゃんと手加減してくれたで」

 

自慢気に胸を張る凪。胸の話をしたからか、しっかり張る……。

 

 

結果 (  )

1なでしこ

〃純一

3凪

〃あかり

 

 

 

という感じになった。

 

……。

「誰か忘れとらんか?」

 

「何のことや?」

 

「だよねぇ」

 

「うん。忘れてないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベンチに四人並んで腰掛け、他のみんなが来るのを待つ。

 

「良いところだねぇ」

 

「そうだね」

 

「純兄、トランペット吹きたくなってるんじゃない?」

 

「それは凪も同じだろ?」

 

「だよね。まあ、明後日までの辛抱だよ」

 

「明後日……?」

 

「あれ? 各務原(かがみはら)さん知らない? 俺と凪は、定演のリハーサルがあるから、最終日は達磨山(だるまやま)のキャンプ場から直接帰る予定だよ」

 

学校の都合で仕方無く、最終日は全ての行程をキャンセル(?)して、学校へ向かう予定だ。

 

午後からリハーサルの予定だから、朝起きて出発すればじゅうぶん間に合う。

 

「なんや。じゃあ、お兄ちゃんとお姉ちゃんはカピバラに会えんのやな」

 

「せやで。まあ、しゃあないやろ」

 

カピバラにも飯田さんにも会えないが、仕方ない。学校がそう指定してきたんだから。

 

逆らって定演が中止になろうものなら、サークルを潰されかねん。定演だけじゃ物足りないから、他にも何かしろ、って言う先生が居るからね……。

 

でも、これなら途中まで綾乃と帰れるかもしれない。

 

「やっと着いたぁ……」

 

「みんな、待たせたなぁ」

 

「お待たせ」

 

恵那ちゃん、犬山さん、リンが到着。

 

「あれ? アキちゃんは?」

 

「途中でくたばってたよ」

 

くたばってた……。

 

まあ、状況は容易に想像できる。

 

 

 

しばらく寛いでいたら、ようやく大垣さんが到着。更に遅れて鳥羽先生が到着。

 

先生は運動不足なのか、暫く膝に手を付いて息を整えていた。

 

大垣さんは、拾った木の枝を杖代わりにして、今にも倒れそうなお祖父さんのごとくやって来た。

 

「アキちゃんやっと来たで」

 

「ホンマやな。ダントツ最下位」

 

「遅いよ~」

 

「無茶するからだね」

 

勝負に参加した人からの講評。……と言えるのか?

 

「み、皆まで言うな……」

 

「まぁ。でも、お疲れ様。俺の分はジュース要らないからね」

 

別に俺はジュース目当てに参加した訳ではない(後から決まった)し、『吹奏楽部は文化部』と思っている奴等への証明の意味もあった。世間はそろそろ運動部・文化部の括りを見直すべきだ。

 

ん? いや、野クル部にそう思っている人は居ないと思うけどね。

 

「せ、先輩……!」

 

「でもアキちゃん、うちら三人にはちゃんと奢ってや」

 

「……」

 

納得ずくのようだが、そう決めたのだから、仕方あるまい。

 

 

結果 (確定)

1なでしこ

〃純一

3凪

〃あかり

5千明

 

 

「へぇー。うっすら見えとったん伊豆諸島やったんか」

 

「あれが利島で」

 

「あっちの大きな島が伊豆大島みたいだな」

 

伊豆大島か。

 

「あの島は三原山の火山島だな。1986年11月に大きな噴火があって、島民が全員避難したことがあってね」

 

「ほぇ~。みんな無事やったん?」

 

「うん。ただね、一部役場職員は残っていたんだけど、その残った人に該当しない人影が、噴火口付近で目撃されててね。『いるはずのない歩く人影が映ってる』って話題になってね~」

 

あ、各務原(かがみはら)さんが。少し青くなってる。

 

「まあ、実際は避難指示に逆らったカメラマンが隠れてて、その人が映っただけらしいよ」

 

行方不明扱いされてたとか……。

 

「まあ、そんなわけであの島自体がジオスポに認定されてるんだよ」

 

「伊豆大島かぁ……。いつか島キャンも行ってみたいね」

 

「そうだな」

 

「志摩リン島根で島キャンプ」

 

三重県に志摩市がある。『志摩リン志摩で島キャンプ』の方がしっくりくると思うがな……。

 

「しましましまキャン~」

 

「くだらねー」

 

「あははは。風車のある風景って何か良いよね」

 

「いいよね。風車」

 

「一家に一本欲しいよね」

 

「省エネにはなるけど、騒音とか振動とか、大変だと思うぞ」

 

 

 

一番薄着で来ている大垣さんが、一発くしゃみをした。

 

「日も傾いてきましたし、そろそろ降りましょうか」

 

「ですね」

 

「流石に寒くなってきたなぁ」

 

「そんな薄着で登るからや」

 

 

 

車に乗り、一路黄金崎を目指して走る。

 

『そういえば今日、まだキャンプっぽいことって、買い出ししかしてないよね』

 

『いいのいいの。こんくらいの緩さが野クル部クオリティーってもんよ』

 

「四月に野クルを立ち上げ、初キャンプが十一月やったもんな」

 

『あ、あれはテントが届かなかったから、仕方なかったんっすよ……』

 

『夏キャン用に春に注文して、届いたのが秋やったんで……』

 

野クル立ち上げメンバーによる釈明。

 

届くまでそんなに掛かるなんて。見た感じ新品ではなかった*3し、フリマサイトで落としたのかな?

 

もっと早く俺と知り合っていれば、こんなことにはならなかっただろう……。

 

まあ、過ぎたことを言っても仕方無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この先の行程としては、一旦来た道を下田まで戻り、そこから半島を横断して、東側へ抜け、海岸沿いを北上する感じだ。

 

山登りで疲れたからか、車内は幾分静かになってきた。

 

車列の並びは変わっていないが、凪が車に移ったので、俺は一人でバイクに乗っている。

 

『先生、温泉はどうします?』

 

『キャンプ場へ行く途中で入っていきましょうか。日帰り入浴オッケーの温泉、調べてもらえますか?』

 

『分かりました』

 

先生がそう提案すると、各務原(かがみはら)さんが元気よく返事した。*4

 

『……うわぁ~』

 

『ん? どうしたん? なでしこちゃん』

 

『温泉、沢山あるんだね……』

 

『そうですね。伊豆半島は昔海底火山だった関係で、温泉が多いんですよ』

 

『なるほどなぁ。この道沿いだけでも、すげー数だぞ。こりゃ温泉地獄だな』

 

大垣さんがしれっと面白いことを言う。地獄かぁ。絶妙な(たと)えだ。

 

『何言うとんのアキちゃん。温泉地獄やのうて温泉天国やんかー』

 

『そうだよー』

 

しかし、それに何人かは反論する。

 

『いやいや、温泉地獄だ。何処の温泉にするか決めかねている間に、全ての温泉の営業時間が終わり、結局入れなくなる地獄。だ』

 

ほれ。

 

恐らく、恵那ちゃんと犬山さんも同じことを思っただろう。山中湖でこういう考えからあの事件を起こしてしまったのだから。

 

「俺とリンが湯冷めするから、出来るだけ近いところにしてくれよ」

 

『分かりました!』

 

念のため、釘を刺しておいた。言わなくてもそれを考慮してくれるとは思うけどね。

 

 

 

極力、隊列を崩さぬように走っているが、信号のタイミングで、どうしても前との間が開いてしまう。

 

『あおいちゃん。後ろ、お兄ちゃん居らんくなった!』

 

『えっ? あ、ホンマや。リンちゃんしか居らんな』

 

こうなる。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと追い掛けてるから」

 

みんな心配してくれる。有り難いねぇ。

 

「いざとなったら、これがあるから大丈夫だよ。それより、入る温泉、そろそろ決めて欲しいな」

 

『迷ってるんですよぉ~』

 

「いやいや。泣かなくて良いからね?」

 

温泉が決まらないが、行先は分かっている。

 

もし迷子になっても、場所を決めて合流すれば良い。

 

無理して違反したり事故を起こすよりかマシだろう。

 

そもそも、修善寺まで一人旅だったし、最初に戻ったような感じ……。

 

『ここはどうなん?』

 

『日帰りはやってないんやって』

 

『駄目やなぁ』

 

でもないか。

 

 

 

半島を横断して西側へ抜ける。

 

海岸沿いの国道136号線を北上して行く。此方側は駿河湾だろう。

 

お、西伊豆町に入った。

 

『恵那ちゃん、ここ良さそうじゃない?』

 

『うん? どれどれ……。岩壁に突き出した露天風呂で、潮風を感じながら堂ヶ島の海が堪能できます……。良いね』

 

お。リンの後ろ姿が。ようやく追い付いた。

 

『でしょ! キャンプ場からも遠くないし』

 

『堂ヶ島ならあと3キロですね。お二人とも、今の聞こえてましたか?』

 

温泉がやっと決まったみたいだ。

 

「堂ヶ島の温泉ですね」

 

『……分かりました』

 

今、リンが返事するまで間があったぞ。

 

「リン大丈夫か?」

 

『何とか……』

 

信号で停止して、首が斜めに傾いたんだけど……。

 

「居眠り運転には気を付けろよ? いざとなったら、ビーノその辺に止めて、車へ避難しろ?」

 

『車、定員一杯だよ?』

 

「凪に俺の後ろに戻ってもらう」

 

『うん? 了解。いつでも言ってね』

 

『そしたらバイクはどうするのさ?』

 

「明日回収に戻る」

 

『お兄さんそれ、本気で言ってる?』

 

「リンの為を思って言ってるんだぞ? 面倒だろうけど、居眠り運転して事故を起こすより安全だ」

 

『…………。そうならないように、がんばる』

 

『クスクス~』

 

うん? 笑い声が聞こえないか?

 

『愛されてるね、リンちゃん』

 

『先輩のこと、お兄さんって言ったよね?』

 

『お兄さん言ってるの聞くと、本当の兄妹みたいやな』

 

『ツーリングも楽しそうだよねぇ』

 

 

 

 

 

 

堂ヶ島の温泉に到着。

 

合流した時に車に預けたお風呂道具を受け取り、中へ入る。

 

リンは相当眠いらしい。お風呂の中で寝なきゃ良いんだけど……。

 

 

 

受付を済ませ、案内された通りに進んでお風呂へ。

 

ちょっと複雑だったが、無事にお目当ての露天風呂に辿り着く。

 

女性陣と別れて脱衣所へ。

 

 

 

 

 

おお! 目の前が堂ヶ島の海だ。そろそろ日没で夕日が美しい。

 

ん? 先客がいるらしい。

 

「あれ? 純一くん~!」

 

えっ、聞き覚えのある声なんですけど。

 

「あ。成田先輩。……と、もしかしてお父さん?」

 

「どうも。太志の父です」

 

「純一くんお疲れ~」

 

お風呂に浸かっていたのは、水谷先輩の彼氏である成田先輩と、成田先輩のお父さんだった。

 

 

 

「じゃあ、卒業旅行って伊豆だったんですね」

 

「ああ。太志と渋谷ちゃんが卒業旅行に行くって話してて。丁度僕も有給消化で仕事が休みだからね。一緒に行けるけど何処が良い? って」

 

「そしたらさ。渋谷が『純一が伊豆キャン行くって言ってたから、伊豆行きたい』ってね」

 

俺が行くからって……。

 

「今夜は黄金崎のキャンプ場で、明日は下田の金谷旅館に泊まる予定だよ」

 

えっ! 聞き覚えのある名前しか出なかったんだけど。

 

「黄金崎って、これから俺たちが行くところです!」

 

「マジか。こんな偶然、あるんだね……」

 

驚いた。

 

だって、予定通りにキャンプ出来ていたら、ここに来ることはなかったし、黄金崎に行く予定もない。

 

そうしたら、同じ 伊豆にいる のに、会うことはなかっただろう。

 

これこそ、怪我の功名って奴だ。

 

「そういえば。成田先輩免許取れましたか?」

 

免許取れなくても大丈夫と言っていたから、ここに居るってだけでは判断できない。

 

「勿論。俺も渋谷も無事にね」

 

それなら良かった。

 

正直俺には関係の無い話だが、それでもお世話になった先輩の話だ。気になってしまうのは人の性だろう。

 

「お。そろそろ日没だよ」

 

「ですね」

 

「綺麗だなぁ……」

 

ゆっくり日が沈んでゆく。

 

 

 

 

 

バイクで風に当てられて冷えた体をしっかり暖めて、良い頃合いで上がる。

 

成田先輩は水谷先輩が出るのを待つらしく、露天風呂入口で別れた。

 

ロビーの自販機コーナーへ行くと、女性陣は既に皆集まっていた。

 

普通なら男の方が先なんだろうけど、長湯していたから後になってしまったらしい。

 

「お待たせしました……。あれ?」

 

なんかお通夜の様な雰囲気なんだけど?

 

「……何かあった?」

 

「あ、ブランケット先輩」

 

「先輩、実は風呂上がりの一杯って先生がビール飲んでしまったんですよ……」

 

大垣さん、犬山さんが順に、呆れた声でこう言った。

 

鳥羽先生の方を見ると、やってしまったが故に青ざめているのと、酔いで赤くなったのと合わせて、顔が紫だ……。

 

「えっと……。キャンプ場までどうやって行くつもりですか?」

 

この場に運転免許を持っている人間は三人いる。

 

俺が普通二輪、リンは原付、鳥羽先生が準中型(5t限定)。つまり、車を運転できるのは先生だけだ。その先生が運転不能となってしまった。

 

「運転代行呼ぶしかありません。各務原さん、ちょっと調べてもらえますか」

 

普通に考えればそれ一択だろう。…………待てよ? さっきお風呂で!

 

「先生、俺に考えがあるので、代行呼ぶの待ってもらえますか?」

 

近隣の代行運転に電話しようとしている各務原さんやリンを止め、俺は再びお風呂へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

……というわけで、呼んできた。

 

「皆さん、お待たせ。運転手呼んできましたよ」

 

そう言って皆の前に戻ると、全員が首を傾げる。……鳥羽先生も含めて。

 

「先生……。三年生の授業持ってませんでしたっけ?」

 

俺がこう指摘すると、成田先輩が続く。

 

「鳥羽先生。成田です。成田 太志」

 

「ああ。成田くんでしたか。……あ! そういえば、お風呂に先客が居まして、見覚えのある顔だなぁって思ってましたが、あの子。水谷さんじゃないですか!」

 

気付いてなかったのか……。

 

「鳥羽先生。お風呂でこの二人に会ったので、事情を説明したら運転してくれるそうです。しかも、行き先は俺たちと同じ、黄金崎キャンプ場です」

 

「子どもがお世話になりました。成田 太志の父です」

 

そう言い成田先輩のお父さんが自己紹介をする。

 

しかし、鳥羽先生は顔が青い。

 

完全に『やってしまった』という顔だ。

 

「えっと……本栖高校教員の鳥羽です……。この度はご迷惑お掛けします……」

 

この様子、完全に酔いもさめてしまっただろう。

 

とはいえ、この状態では運転できない。

 

「あれ? 純一じゃん! こんなところで会うなんて奇遇だね! ……って、どうしたのこの空気?」

 

話が纏まったところで、事情を何も知らない水谷先輩が現れた。

 

 

*1
※現在一般車両進入禁止※詳細は後述

*2
ゆるキャン△公式サイトに記載があった通り、2024年現在、三筋山へ至る車道は一般車両進入禁止となっている。道幅が狭く、離合に失敗して転落した車がいるらしい……。元々が景観保全維持用の作業道路だったのも理由。聖地巡礼するなら頑張って歩こう!

*3
新品・中古 諸説あり

*4
原作・アニメ共、この役は恵那が担ったが、本作品では彼女のスマホがラインを繋いでいるため、なでしこが代役。





前話の前書きに記載しました通り、先週の今頃は 運転免許合宿 の最後、卒業試験の日でした。

なんの偶然か、今話は 運転免許 の話に触れてましたね。たぶん、偶々です。


ところで、『車で聖地巡礼(執筆前の取材)に行ったって言ってたのに、何故今更免許合宿?』と思われた方もいると思います。

所謂 普通免許 ではないんですよ。私が行っていた免許合宿は別の物でした。

まあ、卒業試験もその後の学科試験も問題なく合格し、晴れて 大型二種免許 を取得しました。これで私も プロドライバー の仲間入りを果たしました。

……と、言ったところでスタートラインに立っただけですがね(汗)。


さて。伊豆キャンは唯一(?)のハプニング回に到達しました。皆様にとって予想外の展開かと思います。次回をお楽しみに……。

今後とも宜しくお願いします。
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