飲酒した
リンのビーノには
それでは車へ乗ろう、となったところで俺の袖が引っ張られる。
「ん?」
「なーなー、兄ちゃん」
「どうした? あかりちゃん」
「バイクの後ろ、乗せてくれん?」
「「は?」」
俺の驚いた声と、
「前に約束したやろ?」
「まあ……したけど」
クリキャン前の話だったな。
「あかり、別に乗せてもらうのは構わへんのやけど、ヘルメットあるん?」
普段、このバイクには予備のヘルメットを積んでいるが、今回は
そもそも、そのヘルメットがあったとしても、あかりちゃんには大きすぎるはずだ。
「うん。持ってきとるで」
しかし、俺の心配も余所に、車から取り出したリュックサックをひっくり返して、底からヘルメットを出した。自転車用のものか。
「あんた……、リュックえらく嵩張っとると思ったら、そんなん持ってきとったんか……」
「ニシシ!」
呆れる姉。自慢気な妹。
「あのお姉ちゃんが運転するんやろ? そうなると一人乗れなくなるやん?」
確かに。車には定員一杯の七人が乗っている。そこに水谷先輩が加わるわけだから、一人溢れる。
「私がまたバイクに乗ろうと思ってたんだけどね……」
凪は細野高原から車に移った。眠そうだから、そのまま車で行けるのなら、その方が良いだろう。
「分かったよ。犬山さん、それで良い?」
「ええですよ。ただ、あかり、先輩に迷惑掛けたらかんで?」
「分かっとるよ」
それぞれ出発準備が整い、先生の車→成田先輩のところ→ビーノ の順に出発。
「なーな」
俺たちも出発しよう、そう思った所であかりちゃんに声掛けられた。
「お兄ちゃん、あおいちゃんが凄いこと言ったの、気付いとる?」
「『トンボロ』の話?」
あたかも食べ物だと言わんばかりのホラ吹きだった。
「トンボロって、前にお兄ちゃん見せてくれた奴やろ?」
「せやで。食べ物ちゃうよ。豚トロの仲間やなんて大嘘や」
それを聞いてニシシと笑う。
「いつもあおいちゃんのホラに騙されてばかりやで、たまには騙されたフリしてやらんとな」
この姉妹、二人とも業が深いぞ。
「それじゃあ、そろそろ出発するよ。しっかり捕まってな」
「はーい」
「それと、もし何かが起きて止まって欲しいときは、俺の背中三回叩いてな」
「おお。暗号みたいで面白いな」
「SOSってことや」
「なるほど~」
あかりちゃんを乗せているため、普段よりかなりゆっくり走ったので、時間が掛かってしまった。
30キロしか出せないビーノにすら置いていかれたぐらいだ。
それでも無事に黄金崎キャンプ場に到着。
二組とも、既に受付を済ませたようで、あかりちゃんとテントサイトへ行くと、既に設営は終わっていた。
「お待たせ。しかしまあ、10人もいると仕事が早いねぇ。……一人カウントしない方がいい人居るけど」
リンが脇で椅子に腰掛け眠っている。
「寝てませんよ。こうやって目を休めているんですよ……」
「それと同じ台詞、今度授業中に言ってみ? 十中八九怒られるぞ」
そう突っ込むも、返事はなかった。
厳密には、イビキが返ってきたけど……。
「というか、他にも数人ダウンしてないか?」
よくよく周りを見渡したら、鳥羽先生と
「何があったの?」
ピンピンしている犬山さんや
「
視線の先には水谷先輩。
「ん?」
俺が見ていることに気付き、ピース。
「水谷先輩の運転、絶叫マシンかと思いました」
はぁ!
「むっちゃ飛ばしたり、他人に迷惑かけるとか、そんなことはないんですがね。何と言うか……、凄かったです」
「だってさ! 人乗せて運転するの、初めてだったんだよ!」
まあ、そうだろうね。昨日取ったばかりだし。
「ところで、なんで君らは大丈夫なんだ?」
ダウンしてるのは三人だけ。
「元日に、鳥羽先生のドリフト運転乗ってましたから」
「あの程度、
「せやでー」
「私はお祖父ちゃんのバイクで似たようなに乗ってるから」
ということでしたか。
ん? 先生のドリフト?*1
時間も時間なので、夕食の準備に取り掛かる。
今日の夕食担当は各務原さんと犬山さん。ついでに水谷先輩。
「ちょっと! アタシがついでって酷くない?」
今夜はアヒージョを作るらしい。なので、キャンプ定番のカレーライスを作る予定だった先輩方の食材も貰い、全員で鍋を囲うことになった。
「いやいや、無視しないでよ?」
「先輩、何のことです?」
「しかし、ね。先輩方がシーフードカレーの具材提供してくださいましたから、具沢山のアヒージョになりますよ」
「じゃがいも入れる予定は無かったんですが、これも合いそうやね」
そんな三人の脇で、大垣さんと恵那ちゃんが炭火で伊勢エビを焼いている。『エビ作戦』で先生に買わせたやつだが、二人が本当に欲しいのは殻なので、身は先生に食べてもらう。
じゃあ何故
そしてそして……。
焚き火を起こして力尽き、旅立ったリンの代わりに、俺は焚き火の番。
最初はあかりちゃんとリンが火起こしして囲んでいたが、俺が代わることに。
「ぷはーっ! 四週間ぶりのお酒~!」
先生、
そんな突っ込みはさておき、焼いた伊勢海老を肴にお酒が進む。
「そんじゃあ、ちょっと遅くなってもうたけど。いただきます」
「「「いただきます!」」」
ヤングコーン・マッシュルーム・エビ・粒ごとにんにく・長芋・じゃがいも・いか・アサリetc……。
それぞれの具材に にんにく が効いていて、根菜もホクホク。
旨い。手が止まらない……。
「アヒージョソースに浸したフランスパン。ワインがすすむわぁ~」
ぐび姉一丁上がり~?
「今日は料理に合うお酒持ってて良かったですね。先生」
「ふふふ。クリキャンの失敗を活かして……」
そう言いながら、自分の後ろに広げられた酒瓶を示し、
「今回は色々なお酒、持ってきてますから!」
軽く10本はある。
「そ、そんなに……」
流石に恵那ちゃんも引いてる……。
そんな時、先生のスマホが震えた。少し間があって俺のスマホも。
涼子:飲み過ぎないように、監視よろしく
おお。これは絶妙なタイミングで送ってきたなぁ。
先生の顔色を見た感じ、先生にも同じ様な内容のメッセージが届いたのだろう。
「おや、先生も行けるクチですか?」
成田先輩のお父さんが寄って行く。
「おお。マニアックなの用意してますね!」
「お、お父様もいけますか!」
「ええ。ご一緒しても?」
「もちろんです!」
あらら。大人二人は完全に彼方の世界へ行ってしまった……。
「良いなぁ……」
「渋谷、俺たちはまだダメだよ」
その姿を羨ましそうに眺める二人。
「お酒かぁ……」
「ええなぁ……」
更に、遠巻きに眺める二人も。
この二人、まさか『二代目ぐび姉』と『三代目ぐび姉』だったりして……。
「なぁ、みんな知っとる?」
唐突に、犬山さんが口を開く。
「アヒージョの『ジョ』は、スペイン語で『叫ぶ』って意味でな。『アヒージョ』は旨すぎて『アヒーと叫ぶ』って意味なんやてー」
出た。犬山さんのホラ。
「はいはい」
大垣さんは本当の意味を知っているのか、いつものホラだと思ったのか、適当にあしらう。
「「「アヒ~!」」」
それでも、みんなで声を上げてみる。
「アハハ。面白いね」
水谷先輩はそう言って笑った。しかし、俺と目が合うと目配せ。
うん? 犬山さんのことを示している? ああ、『今のは本当か?』って。
『違います』という意味を込め、首を左右に振る。
『了解』と言いたいのだろう。頷きを二回。
正しくは、『アヒー』がスペイン語で『にんにく』を指している。
12人で鍋を囲んでいたら、具材が減るのも早い。
「なあ、なでしこちゃん。金目鯛は使わんの?」
「あ、そうそう。忘れてない?」
言われてみればそうだ。
しかし、言われた
悪い魔女みたいだな……。毒入りリンゴとか取り出さないよね?
「まぁまぁ待ちなさい。これからですよ」
「そろそろやな」
「だねぃ」
「次は頼んだで、なでしこちゃん!」
「おーっす!」
ああ。今日の夕食当番が二人なのに、アヒージョは犬山さんが一人で作ったのはそういうことか。
各務原さんが続き(リメイク)担当になっていたんだな。
「まず、具材の少なくなったアヒージョに、追加の具材を投入。次に、予め炭火で焼いておいた金目鯛を投入」
もちろん、頭と骨を取り、丁度良い大きさに切ってある。
「そしたら火を強くして、白ワインと水をふりかけ、プチトマトを入れて少し煮込む」
因みに、今(先生の)白ワインを入れた時、何か悲鳴が聞こえた気がする。たぶん気のせいだろう……。
しかし、二泊三日のキャンプで赤白ワインに焼酎、日本酒にウィスキー紹興酒その他諸々。持ってきすぎじゃないか?
まあ、そのお陰で成田先輩のお父さんとお酒談話が盛り上がっている訳だが。
「そして、茹でたパスタを絡めて味を整えて……」
さっきまでアヒージョだった鍋が、瞬く間に……。
「出来上がり! 金目鯛のアクアパッツァパスタだよ」
あ。これは
恐る恐る頂きます。
「う~ん」
はい。予想通り。
「金目鯛の旨味と、アヒージョで染み出た具材のエキスが絡んで、旨すぎるだろ!」
「お頭も炭火焼きにしたから食べてみてね」
「頭も骨も全部食べられるんだね」
「うん、お店の人に教えてもらったんだ」
「アヒージョからアクアパッツァへ。流れるようなリメイク……」
「まさにスキなし」
「明日のハードル、上げやがったなぁ」
そう言われ、恥ずかしそうな二人。
「直前まで色々調べたんよ」
「そうそう。こうすればアヒージョのオイルが活用できて、後片付けが楽だとか」
「干物は生魚より塩気があるから、塩は控えめがええとか」
「なるほど……」
「
水谷先輩も感心している。
「いえいえ」
「坦々餃子鍋とか、きりたんぽ鍋とか」
「鍋のことなら 鍋しこ ちゃん!」
「鍋しこって、それ山中湖行ったときに言っとった奴やんか」
鍋しこ……? ああ、なでしこに引っ掛けたのか。
「面白いね。鍋しこかぁ……。
「ですね。言われてみれば、山中湖のきりたんぽ鍋にクリキャンのすき焼き。リンちゃんとブランケット先輩との坦々餃子鍋。野クル部キャンプにはお鍋を囲うのが定番って感じだね」
言われてみれば。
「一家に一人、なでしこちゃん!」
いや。それは止めておいた方が良い。理由は食費。
「そういえば。リン、静かじゃね?」
ふと、誰かが言った。
みんな一斉にリンの方を向く。
「あ、リンちゃん旅立ってもうた……」
陥落。限界突破。
「あ、これリン限界だね」
夕食を食べ終えたリンは、睡魔にやられたらしい。
「ほらほら。寝る前に歯磨きしないと」
「うん……」
「化粧水は?」
「付ける。というか、付けてぇ……」
「お母さん?」
「お母さんや」
「ママしこだ」
何だそのネーミング。
「……」
リンと
「えっ?」
無言で肩にもたれてきた。
「どうした凪?」
「純兄、私もそろそろ寝るわ……」
あ、そういうこと。
言いたいこと(やって欲しいこと?)を汲み、凪を立たせて肩を支える。
「行くぞ」
「うん」
嬉しそう。リンと違って別に限界突破とか、そんなわけではなさそうだけど。
「歯磨いて、化粧水とリップ忘れるなよ?」
「うん……」
凪はリンと同じテントで寝るので、リンの後を追う感じで同じテントへと吸い込まれていった……。
寝落ちした二人を除いたメンバーで、後片づけを行う。
みんなでやれば早いが、鍋や食器等の洗い物は、先輩方が引き受けてくれた。
曰く、『(カレーライス作る予定だったのが、)こんな豪華な料理を頂けたんだから、片付けぐらいやらせて欲しい』とのこと。
片付け終われば野クル部側は毎回恒例となった映画鑑賞の時間。
明日が昼ぐらいまで自由となるので、『夜更かし祭りだ』とか言っている。
俺もリン程ではないが、朝が早かったから眠くなってきた。
歯磨きのため、水場へと向かう。
「純一」
呼ばれて振り向けば、水谷先輩が立っていた。
「どうしました?」
「今日はありがとね。夕食に誘ってくれて」
そう言いながら、俺の横を通り過ぎ、東屋にあるベンチに腰掛けた。
俺もその隣に座る。
「せっかく同じキャンプ場なのに、別々ってのもつまらないでしょう? 大人数で楽しかったですよ」
「そうだね」
「それより、先輩の方、夕食の材料が中途半端に余りませんでしたか?」
カレーライスを作る予定だったわけだ。シーフドミックスとじゃがいもはもらってしまったから、ルウとご飯が残った筈。
「なに、別の用途で使うから大丈夫だよ」
「それなら良いんですが」
会話が途切れた。
聞こえてくるのは、波の音と
…………悲鳴?
ホラー映画でも観てるのか?
「純一ってさ」
沈黙を破ったのは先輩だった。
「凄いよね」
唐突に言われても、なんのことかさっぱり。
「原付講習受けたけどさ、自転車とは違ってバイクって難しいんだね」
「そうですね。自転車に乗れなくてもバイクなら、って人も居ますからね」
「そうなんだ。だからさ、そんなバイクに一年以上乗ってて、しっかり乗りこなしてるし、2人乗りも出来てるんだからさ。純一って凄いよね」
そういうことか。
「さっき、免許取って初めて人乗せて運転したけどさ、緊張したよ」
絶叫マシーンって言われてたっけ。運転に慣れていない証拠だろう。
「普段から安全運転に心掛けてますが、2人乗りしている時は尚気を付けてますよ。もし、俺一人が単独事故を起こしたのなら、自滅して終わります」
「いやいや。終わっちゃダメだよ?」
「まあまあ。でも、その事故に誰かを巻き込んだら、一生続く問題になるかもしれません」
相手に後遺症が残ったり、最悪亡くなってしまうことも有り得る。
「2人乗りの場合、単独事故でも後ろの人を巻き込んでしまいますから……」
「そう考えると、純一凄いよね。そういうことを一年以上やって来てるんだからさ。運転に関しては純一の方が先輩だね」
先輩って。普通免許と二輪免許じゃ話が違う。
「ふわぁ~」
一発、大きな欠伸が出てしまった。
「もしかして、これから寝るところだった?」
「ええまあ。歯を磨きに行く途中だったんで……」
「ごめん。呼び止めちゃったね」
「謝らないでくださいよ。俺と先輩の仲、でしょう?」
「確かに。それじゃあお休み」
「お休みなさい」
恐らく、明日の朝は時間がずれ、会うことはないだろう。それでも、俺と先輩との間に別れの挨拶はない。
これこそ、俺と先輩の仲 だから。
歯磨きを終えたら、映画鑑賞中のメンバーに声を掛け、テントへ入る。
伊豆キャン一日目、これにて終了…………。
お待たせしました。原作から脱線したどころか戻る兆しのない物語が進行中でございます(滝汗)。
なお、執筆したストックの底が見えてきましたので、今後は不定期更新の可能性があります。ご理解ください。