【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 伊豆キャン 二日目②~堂ヶ島公園・トンボロ~

 

結局、野クル部のメンバーが起きてきたのは、11時を過ぎた頃だった。

 

俺とリンは起きるのが早く、流石にお腹が空いたので、沢田公園の帰りにコンビニに寄って軽く朝食を済ませておいた。

 

しかし、当然ながら他のメンバーはまだ朝食前。お昼に、俺たちが昼食を食べる中、朝食を食べることになる……。

 

因みに、(なぎ)は先輩方が起きるのと同じタイミングで起きていたんだけど、俺のテントが無い(つまり、俺がいない)ことに気付いて、そのまま二度寝に突入したらしい。それ故、野クル部メンバーと同じ時間に起きてきた。

 

 

 

「も~! リンちゃんにブランケット先輩、ずるいよー」

 

各務原(かがみはら)さんが、テーブルに頬杖を突き、唇を尖らす。

 

「二人で温泉行ってさっぱりしちゃうんだもん」

 

「だってみんな寝てて暇だったんだもん」

 

反論するリン。

 

「俺はリンの指示に従ってバイク走らせただけだし」

 

俺は逃げを打つ。

 

「でも、温泉入るのを提案したのはお兄さんだったろ。逃げないでよ」

 

「濡れ衣はよせ。俺は何も言ってない」

 

おっと。逃がしてもらえるほど甘くなかった。

 

しかし、本当に俺は何も言ってないぞ?

 

こんな俺たちのやり取りの横で、同じテーブルの凪は窓の外を眺めている。なお、窓の外には堂ヶ島の海が見えている。

 

因みに、凪の顔はめちゃくちゃにやけている。話を聞いていない振りをして、ちゃんと聞いているようだ。

 

今俺たちは、堂ヶ島の海が見える食堂で、注文した料理の到着を待っている。それが朝食か昼食かは、さっき話したとおり……。

 

 

 

「お待たせしましたー」

 

店員が料理を持ってきた。

 

「だし醤油が掛かってますから、よく混ぜてお召し上がりください」

 

俺以外の三人の前に置かれたのは『海鮮ぶっかけ丼』。

 

「こちらは、海鮮丼です」

 

「どうも」

 

ぶっかけ丼には卵黄が乗っているので、生卵が苦手な俺は普通の海鮮丼を頼んだ。

 

因みに、鳥羽先生は刺身定食で、他全員がぶっかけ丼だ。

 

「「「いただきまーす」」」

 

各々、言われたとおりに混ぜて……。

 

「これ美味しい!」

 

「海鮮卵かけご飯って感じやねぇ」

 

「新鮮なお刺身に出汁醤油……。旨い」

 

それぞれ皆の感想が漏れる。

 

かくいう俺の海鮮丼も美味しい。すぐ目の前に海があるから新鮮な魚が手に入るからだろう。鮮度が違えば味も違うんだな……。

 

先生の刺身定食も美味しいみたいだ。

 

「海を眺めながら、朝からお刺身……」

「先生、もうお昼やで」

 

何か突っ込まれてるけど……。

 

「あきちゃん。今日は堂ヶ島とトンボロに行ったら、キャンプ場直行だよね?」

 

「おうよ。今日はのんびりまったり行こうぜ」

 

各務原(かがみはら)さんにそう返した大垣さんは、あかりちゃんの方を見る。

 

「しかし、ちっこいのによく食うなぁ、お前」

 

あかりちゃんはところてんを食べている。

 

「おいひいぉ」

 

食事を注文すれば、誰でも食べ放題の奴だ。セルフサービスなので、さっきから何度か取りに行っている。

 

たぶん4杯目……。

 

「そんなに食べたら、トンボロ食べれんくなるんやない?」

 

「別腹やし大丈夫やで」

 

姉からの忠告に笑って返す妹。その笑みに隠された秘密があるのを姉は知る由もない……。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました~!」

 

食堂を出て道路を渡ればそこは堂ヶ島公園だ。

 

天窓洞などを巡り、いよいよ目指すは……。

 

「それじゃあ、トンボロに向かうか!」

 

「せやなぁ」

 

「いよいよだね!」

 

「楽しみやなぁ」

 

そう。トンボロだ。

 

「それで大垣さん。ここからトンボロってどうやって行くんですか?」

 

「そっすね。えっと、この先600mのところに入口があるんですが、トンボロの近くには駐車場が無いっぽいっす」

 

先生の問に大垣さんが答える。

 

「じゃあ、車はここに停めて歩いて行きましょうか」

 

「そうですね」

 

「いやいやいや。待ってね?」

 

(まと)まりかけたところだが、俺は突っ込みざるを得なかった。

 

「駐車場ありますよ。さっき通ったじゃないですか!」

 

さっき大垣さんが言ったトンボロの入口の前。昨日の夜と今日の昼に通り過ぎている。つまり、既に一往復通っている。

 

首を傾げる一同。いや、ね? 後ろに乗っていた人はともかく、運転していた鳥羽先生とリン、助手席にいた大垣さんまで見落としているとは。ちゃんと前だけでなく回りも見て運転しようね?

 

「でもまあ。散策がてら歩くのも悪くないでしょう」

 

決まったんだから今更だ。

 

「だな」

 

 

 

 

国道の歩道を歩いて行く。

 

「おばあちゃん、ここからずっと坂道だけど大丈夫?」

 

「なにを~! まだまだ若いもんには負けんズラ!」

 

斉藤さんと大垣さんによるプチコント。

 

「あ、昨日の温泉だ」

 

昨日寄った温泉の前を通る。

 

「良かったですよね、ここ」

 

「夕日も見られて良い露天風呂でしたね」

 

「先生がビール飲んじゃった時はどうなるかと思いましたが……」

 

「先輩のお陰やな」

 

「純兄無駄に顔が広いからね」

 

「無駄言うな」

 

「でも、お陰で助かりました」

 

話ながら歩いて行くと、駐車場が現れる。道路の脇にある、縦列駐車のスペースだ。

 

「やっぱり駐車場あるじゃん」

 

「ホントですね」

 

「口コミには書いてなかったんだけどなぁ」

 

「まぁ、口コミサイトなんて所詮そんなものさ」

 

ふと、先生と目が合う。

 

「先生」

 

「なんでしょう?」

 

「縦列駐車、出来ますか?」

 

苦手な人は多いと聞く。

 

水谷先輩も相当苦戦したそうだ。でも、卒業試験? には縦列駐車は無かったらしい……。*1

 

「自分の車なら……何とかいけます。普段縦列駐車なんてやりませんから」

 

そんな感じか……。

 

ふと、海の方を見ると目的地のトンボロが見えている。だいぶ潮が引いてきている。

 

【挿絵表示】

 

その向こうに見えているのが三四郎島だろう。見る角度によって島の数が3つや4つに変わることが由来らしい。

 

 

 

少々分かりづらいルートだが、脇道にそれて少し急な坂道を降りて行くと目的地に到着。

 

こんな細い道の先にも駐車場がある。バイク用かと思えば普通に乗用車が止まっている。

 

 

 

 

「見る角度によって島の数が3つや4つに変わる事から三四郎島と呼ばれており、干潮時には海岸から島へ歩いて渡ることが出来ます」

 

犬山さんによる解説。因みに、ここまでは本当。もとい正しい説明だ。

 

「朝早くに地元の料理人が船で島へ食材を持って渡り、干潮時だけ屋台を開きます。1日に2時間しか食べることの出来ない幻の西伊豆B級グルメ。これが『三四郎島のとんぼろ』です」

 

これは嘘。つまり、ホラだ。

 

「今食べに行くで待っとってな~! トンボロー」

 

「楽しみやなぁ」

 

海に向かってそう叫ぶあかりちゃんと、隣で法螺吹きの目をしている犬山さん。

 

因みに、法螺吹きの目について知ったのは最近だ。無意識に、必ずこの目になってしまうらしい。CCSの山崎みたいなものか。*2

 

『『『あかりちゃん、思いっきり信じてるけど、どうすんのこれ?』』』

 

声に出さずとも、こんなことを思いながらあかりちゃんを見つめる各々。

 

心配ご無用……。

 

 

 

 

 

 

「段々潮が引いてきたんじゃない?」

 

恵那ちゃんがスマホで撮った写真と海を見比べる。

 

【挿絵表示】

 

「そろそろ渡れるんやない? あきちゃん!」

 

「そうだな、行くか!」

 

あかりちゃんと大垣さんは行く気満々。

 

「でも、真ん中とかまだ道できてないぞ?」

 

「けど、ぼちぼち渡り始めとるなぁ」

 

リンの言うとおり、まだ未完成ではあるが、待っていた人々は渡り始めている。

 

「みんな『トンボロ』目指して渡り始めとるんや! 急がんと食べ損ねてまうで」

 

「じゃあ行くぞ~!」

 

行く気満々の二人が真っ先に走り出す。

 

「もう。しょうがないなぁ……」

 

各務原(かがみはら)さんが呆れている。普段なら真っ先に飛び出しそうな子が……。

 

「因みに。この時期は潮の引きが小さいから、完全に道が出来る訳じゃないからね。途中で靴脱ぐ覚悟で行ってね」

 

俺からの一言。

 

トンボロは自然現象であり、潮の満ち引きに左右されるため、毎日、それも決まった時間に現れる訳ではない。悪天候なら尚更。

 

「そ、そうなんですね……」

 

「じゃあ私たちもそろそろ……」

 

そう言い、残ったメンバーも歩き出す。が、

 

「あれ? 先生と先輩、トンボロ渡らないんですか?」

 

俺もそうだが、隣に座る鳥羽先生まで動く気配がない。

 

「私はここで見てますから、行ってきてください」

 

「俺もここで見てるよ。気を付けて」

 

「分かりました」

 

「行って来ます」

 

 

 

 

「う~ん」

 

隣に座る先生は、伸びをしたり肩を回している。ずっと一人で運転しているから、流石に疲れたのだろう。

 

「先生、肩揉みましょうか?」

 

「えっ? じゃあ、お願いします」

 

先生の背に回り、肩揉み開始。お、お客さん凝ってますねぇ。

 

海の方に視線を向ければ、観光客に紛れトンボロを歩いて行く野クル部+αの姿が。

 

おっと、各務原(かがみはら)さんがコケた。

 

「もう良いですよ」

 

先生にそう言われ、止める。

 

「代わりますね」

 

俺がベンチに腰掛けると、入れ替わるように先生が後ろに回った。

 

「あ。じゃあ、お願いします」

 

断るのも失礼だろう。そう思って、お願いする。

 

「そういえば。先生の妹さんって、普段はどんなお仕事をされているんですか?」

 

折角なので、今まで疑問に思っていたことを聞いてみる。

 

「涼子ですか? あの子は富士吉田市で居酒屋をやっているんですよ」

 

居酒屋かぁ……。道理で。

 

「なるほど。だから職業が『自営業』なんですね」

 

「えっ? 滝野くん、ご存知なんですね」

 

「まぁ」

 

妹さんは何度も()()を利用してくれている。受付時に『自営業』と書いていたのは知っていたが、詳しい内容までは知らなかった。

 

一人で利用される際はデイキャンプも多いとは思っていたけど、夜からが忙しい居酒屋なら納得だ。

 

「それなら先生も妹さんのお店、行かれるんですか?」

 

「あ……。実は涼子は経営の方が主でして、店頭に立つことは稀なんですね。急病とかで欠員が生じた場合に、代わりに出るとか、そういった場合にしか……」

 

あれ?

 

思っていたより規模が大きい感じ?

 

「まだお若いのに凄いですね……」

 

「恥ずかしながら……。私より涼子の方がしっかりしてるんですよね……。っと、如何でしたか?」

 

先生が肩揉みを止めた。

 

「ありがとうございます。凝りが解れましたよ」

 

先生が隣へ戻る。

 

しかしまあ。先生の言うとおり、妹さんはしっかりしてる感じはある。

 

野クル部の伊豆キャン計画を知り、俺が鳥羽先生の生徒だと知っているから、『お目付け役、頼んで良いかな?』って、先生がキャンプ中に飲み過ぎないよう監視を頼んできた。

 

 

 

「先生はトンボロ見たことがありますか?」

 

「いいえ。初めてですよ」

 

そう言いながら、スマホを構えて写真を撮った。

 

「一時間で海から道が現れて、一時間後にはまた海へ消える」

 

「自然の不思議ですね」

 

先生と共に、戻ってきたメンバーを出迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに。

 

犬山姉妹の様子はどうだったか、というと、犬山さんは名前の如く顔が青くなっており、あかりちゃんはいつも以上にニコニコ顔でした。

 

 

 

*1
普通免許の卒業試験では、縦列駐車・方向変換(左・右) どれか一つが行われる。

*2
カードキャプターさくらに登場する 山崎 貴史 のこと。普段閉じている目が、足を踏まれた時に開くことに喩えている。因みに、法螺吹き癖があるのは彼女と同じ。





鳥羽先生の妹さんの職業は、中の人 がとあるアニメで『おでん屋台』をやっているキャラを演じていたことに因みます。

先生の妹さんの車、富士山ナンバーですが分類番号から山梨県在住であることが確認できるため、こういう設定にさせて貰いました。
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