お待たせしております。いよいよ本作完結への道程が見えてきました。
本話を含め、あと2話で終わります。もう少々お付き合いください。
堂ヶ島をあとにした俺たちは近くのスーパーへ入った。
誕生日パーティーに必要なものを購入するためだ。
残念ながら、クリスマスを二ヶ月も前に終えている今、普通のスーパーではケーキスポンジは売っていない。それでもケーキのデコレーションに使えるネームを書くチョコやロウソクは売られているので、それらと一緒にホットケーキミックスを買っていたから、それを重ねたケーキを作るのかな……。
店を出て、車に乗り込もうとした時だった。
「先生、キャンプ場まで私が前を走っても良いですか?」
「ああ。志摩さん、西伊豆スカイライン走りたいって言ってましたもんね」
リンが鳥羽先生を捕まえそう切り出す。そういえば、そんな話していたな。
「景色に見とれて事故を起こさないよう、気を付けてください」
「はいっ!」
当初は原付での参加を渋っていた先生も、この二日間の運転を見て納得したのだろう。すんなり許可を出した。
「説明しよう。しまりんは原付と合体してパーフェクトしまりんになると、時速30キロで高速移動することが可能になるのである!」
「みんな原付乗ったらそうなるやろ」
大垣さんの言ったことに犬山さんが即座に突っ込む。
「それなら俺は?」
「時速60キロで
「え。それだけ?」
何この扱いの差は……。
国道136号線を一旦南下し、県道59号線へ入った。
川沿いの道路を北上してゆく。
海が近く開けていたところから、どんどん山へと入って行く。
木々が濃くなり、道も狭くなったり広くなったりを繰り返している。
そして森を抜けると……。
『ふおおおお~っ!』
また
西天城高原だ。
車列は、リンのビーノを先頭に、車・俺のトリシティの順で走っている。俺の背には
良い景色だ。道路が直線というわけではないので、脇見していたら事故りそうだが、多少景色を見るぐらいなら大丈夫だろう。
『ホレ見ろ、あっちゅー間に山ん中入っちまったでないの。おい、あれシカ注意の看板でねぇか?』
そんな話が聞こえてきて標識を見る。確かに。
『シカ出んの? シカ出んのここ?』
『アテレコやめーや』
大垣さんの言ったことに対して、犬山さんが呆れ声で突っ込む。何かの真似だろう。
仁科峠を越えて伊豆市へ、風早峠で県道411号線、船原峠から西伊豆スカイラインへ入る。
直訳すると
頬を撫でる風は冷たいが、心地よい。これ、もう少し……。
後続車がいないことを確認して、一度バイクを止める。そして、リン・車組との距離が開いたのを確認してから発進。ゆっくりと、それでも制限速度一杯まで飛ばす。
「うほっ! 風が冷たいわ……」
『そりゃあ、風と一緒になってるんだから、当然でしょ?』
凪から尤もらしい突っ込みを喰らうが、スピードが速いと風と一体化したような感覚になる。面白い。
『ありゃ! あおいちゃん、お兄ちゃんおらんくなった!』
俺の姿がないことに気付いたのだろう、あかりちゃんの声が聞こえてきた。
「大丈夫だよあかりちゃん。わざと遅れてるだけだから」
そう。車はリンの速度に合わせてゆっくり走っている。だから、ちょっとでも速く走ってみたかった。
『ならええけど……。リンちゃんはどないなん?』
『うん。めちゃ寒いけど、来てよかった』
おお。流れるようにリンから感想を聞き出したぞ。
寒いのか。俺は大丈夫だけど、これは個人差あるしなぁ……。
『良いなあ。ブランケット先輩とリンちゃんは。私も免許取ろうかな?』
『それ良いな、なでしこ!』
あら。大垣さんまで……。
『原付免許なら簡単だぞ』
「免許費用も五千円位だし、一日で取れるからな。あ、俺の普通二輪はもっと掛かるからな?」
リンがそれとなく勧誘していたから、俺もそれに乗ってみる。
因みに、免許費用は安くても、原付バイクの購入費用や維持管理費は高い。諸々込みで年に数万円が消える。
『なるほど……。イヌ子、恵那は?』
『私は遠慮しとくわ……』
『私も。どちらかといえば、車の方かな』
犬山さんと恵那ちゃんは興味ないのかな。
『そういえば恵那ちゃんそう言ってたね』
『うん? なでしこちゃん、恵那ちゃんとなんか話したん?』
『昨日の夜、ちょっとね~。寝れなかったんだってさ』
『あ、あかりちゃんがゾンビぐらし観るからだよ~! もう、ああいうのは観ないからね!』
『なんや、やっぱり強がっとったんか』
昨夜の悲鳴の正体はゾンビかよ……。
『でもさ、バイクって高いよな? 詳しく知らないけどさ』
お、そこに気づいた。
『だよねぃ。リンちゃんのバイクは? ……って、お父さんに譲ってもらったって言ってたね』
『うん。だから、幾らするかは分からない。維持費はある程度分かるけど……』
俺も人の事は言えないが、リンも距離を走るので、ガソリン代も高く付くだろう。
『バイト増やさないと無理だよな……。キャンプにも行きたいし』
『あの……、皆さん? 皆さんの
『だよねぇ。当分は無理かな』
なんというか。車は賑やかだ。
西伊豆スカイラインの終点、
右折して少し進むと目的地に到着だ。
駐車場に止める。
「寒っ!」
「山の上はかなり冷えますねぇ」
車から降りてきた面々がそう口にする。
鳥羽先生がキャンプ場の受付に向かう中、野クル部一行は展望台へ向かう。
「ふおぉお~っ! 久しぶりの富士山!」
早速、富士山が見え、各務原さんが歓声を上げる。なんか、伊豆キャン始まってから彼女の歓声ばかり聞いている気がするなぁ……。
「私、富士山は西側からしか見たことなかったな……」
「こっちは南側だね」
「ほんと伊豆は展望台地獄だなぁ」
「全部回るには何度も来ななぁ」
「富士山見ると地元に帰ってきたって感じがして、何かホッとするんだよね」
「去年から原付でいろんな所行くようになったからじゃない?」
「おいおい、伊豆キャンはまだ終わりじゃねーぞ」
「せやせや! カピバラちゃんに会わな帰られへんわ!」
「あはは……。そうだったね」
「皆さん、キャンプ場の受付、済みましたよー」
「それじゃあ始めますか!」
テントやらテーブルやらを設営し終えると、そのまま夕食の準備に取り掛かる。
しかしまだ15時、流石に早すぎると思ったのだろう。首を傾げる
恵那ちゃんがあかりちゃんに目配せし、お酒を飲みかけた先生を、三人がかりで取り押さえる。
「「「いってらっしゃーい」」」
そして、
「さてと、やりますか!」
大垣さんが音頭をとり、誕生会の準備を始める。
みんなは準備に取り掛かるが、俺は先にすべき準備があるのだ。
まあ、そうは言ってもラインでスタンプを送るだけなんだけどね。
ラインを送ってから数分後……。
ブロロロロ……
響いてくるバイクのエンジン音。
そして……、
「お兄さん、お待たせしました」
「綾乃、お疲れ」
何処かで待機していた綾乃が到着。
「あ、アヤちゃんお疲れ」
「お疲れ様」
それに気付いたリンと凪が寄っていく。
「凪、リンちゃんもお疲れ様。下田から原付だと疲れたでしょ?」
「そんなことなかったよ。西伊豆スカイラインを走ったけど、楽しかったよ」
「凪はバイクの後ろ、疲れなかった?」
「昨日の後半は車に乗ったから、今日一日純兄の背でも疲れなかったかな」
「西伊豆スカイラインかー。どの辺りが
「えっ? 何のこと?」
「あら、リン気付いてなかった?」
早速、綾乃とリンと凪はバイクの話に。これでは準備が進まない。
「はいはい。一旦ストップね」
手を叩き、話を止めさせた。
そして、準備中の二人を手招く。
「ちょっと良いかな?」
二人は準備の手を止めずとも、此方の様子が気になっている。先に、綾乃を紹介しよう。そうしないと準備に集中できないだろうし。
「実は。黙っていたんだけど、今日の誕生日パーティーのサプライズゲストを呼んだんだよ。この子は
俺が軽く紹介し、あとは本人に任せる。
「どうも、初めまして。ご紹介に預かりました、土岐 綾乃です。よろしくね~、大垣さんに斉藤さん」
綾乃が二人に自己紹介した。名前も呼んだ。
故に、二人ともポカーンとする。
「あれ? あたしらのこと知ってるんっすか?」
「私のことも?」
「なでしこから色々聞いているからね~。あ、あたし皆と同い年だし、敬語じゃなくていいよ」
「そっか。じゃあそうするな。あたしは大垣 千明、この野クル部の部長だ。よろしく」
「私は斉藤 恵那。野クル部には入ってないけど、活動には参加させてもらってるんだよ。よろしくね」
二人が自己紹介して握手を交わす。
「さてと。挨拶も終わったことだし、あたしも何か手伝うよ」
「いやいや。お客様に手伝ってもらったら悪いっすよ」
「そうだよ。土岐さんは休んでて」
「それは嬉しいんだけどね。あたしもパーティーの準備、手伝いたいんだよねー」
「そうか。それじゃあ、トラ先輩と一緒に、飾り付け頼むわ」
「了解。……
「俺のことだよ。トランペット先輩の略だって」
「ああ。なるほど」
納得しないでよ……。
みんなが準備に取り掛かろうと動き出す。
「ちょっと待って」
その前に。
「一旦、打ち合わせしよう」
そう声掛ければ、皆はっとする。
「まず、準備が完了したら、綾乃にはテントに隠れてもらう」
「オッケー」
「そして、二人が戻ってきたら、皆でお誕生日の歌を歌いながら、テーブルにケーキをだす」
「それは私と斉藤さんがやるね」
「じゃあ凪、恵那ちゃん宜しく。で、蝋燭に点火し、吹き消してもらう」
蝋燭担当の大垣さんが頷く。いや、ウッドキャンドルの方じゃないよ?
「そして、リンがプレゼントを持ってきて、二人に渡す」
「了解」
「そして俺が『俺からもサプライズ用意してるんだよ』と言って、綾乃の居るテントを開く」
「あたしが『じゃーん。なでしこ久し振り~、誕生日おめでとう』とか言いながら、登場します」
「そんな感じで行こう。因みに、綾乃のことは二人が帰ってきても、今言った登場する場面まで内緒な」
全員、無言で頷く。
「それじゃあ、やりますか」
「あれ? 土岐さんって浜松から来たんだよな? 疲れてないのか?」
「大丈夫大丈夫。
綾乃までそう呼ぶな。
「因みに。今、
そう言って俺にピース。どういう意味だ?
準備が整い、先生の車を呼び戻した。
「それじゃあ、皆手順通りに」
「「「了解」」」
どの辺りに行ったか分からないけど、10分もすれば戻るだろう。
「にしても、アヤちゃん凄いね」
ん、凪か。
「まあな」
聞いた話だと、昨日はあのあと西伊豆の海岸沿いを回って一度修善寺を通り越し、此方側から西伊豆スカイラインを往復してから修善寺に戻って宿泊。今日は鹿路庭峠から半島の東側へ抜け、大室山を見て伊東へ行き、亀石峠から修善寺に戻り、ここへ駆けつけてくれたらしい。
「かなりのハードスケジュールだな。これで明日はバイトだって言うんだから……」
「それは私たちも一緒でしょう?」
明日は午後から定演のリハ。確かに、人のことは言えない。
「お。戻ってきたぞ」
四人。主役の二人を先頭に歩いてくる。
みんなでお誕生日の歌を歌って出迎える。
「さあ、イヌ子、なでしこ。二人で消して」
恵那ちゃんと凪が持ってきたケーキ(ホットケーキを重ね、飾り付けしたもの)を置き、大垣さんがロウソクに点火。
それを二人が揃って消す。
「「「おめでとーっ」」」
次にお決まり(?)のウッドキャンドルの火消しを勧められ、即答され……。
「それと、二人にこれも」
リンがプレゼントをだす。カリブーの袋に入っている。
「ふおおお!」
「プレゼントまで用意しとったん?」
予想通りの反応。
「まーな」
得意気の大垣さん。まあ、発案・集金・購入は大垣さんが担当したからね。
中には木の食器。
木の繊維と樹脂を混ぜたものなので、熱い飲み物も入れれる優れものだ。
「ありがとなー。これからキャンプでも使わせてもらうわー」
「大事に使うね」
「しかし。何かやってくれるんは分かっとったけど、ここまでしっかり祝ってもらうと何か照れてまうなぁ」
「うへへー。だよねぇ」
若干照れ気味の二人。
「私ももう16歳かぁ」
感慨深そうに呟く。この中だと一番誕生日が遅い。何か思うことがあるのだろう。
因みに、逆に一番早いのは(一つ歳上というのを除いても)俺だ。
と、感慨に浸っている
「まだ終わりじゃないぞ」
俺はそう言ってテントへと向かう。
前に立ち、振り向く。
おお。二人とも何が起こるか分からずキョトンとしてるぞ。
「俺から
テントのジッパーを開く。
「えっ?」
「ん~。なでしこ久し振りー」
ん? すぐに出てこない。声だけ聞こえた。
「何食ってんの?」
テントを開けば、横になったまま
「まじうませんべい」
それを咥えたままテントから這い出て靴を履く。
ゆっくり立ち上がり、皆のもとへ向かって歩いてゆく。
その一連の動作を、
「あ、あ……。アヤちゃん?」
「そうだよー。久し振り~」
綾乃が
「本当にアヤちゃん?」
「そうだよ~。お、相変わらず頬っぺた柔らかいねぇ」
夢ではないことを証明するためか、綾乃は
「ほら、夢じゃないだろ?」
「本物……?」
「あたしの偽者でも見たことあるの?」
「無いけど。……なんでここに居るの?」
まあ、当然の疑問だろうな。
「そりゃあ、
「浜松からここまでって、すっごく遠いよね?」
「そう? 200㎞も無いぐらいだよ。
たった、って……。
「誰かさんと一緒に正月に走り回ったからねぇ。これくらい大したこと無いよ。ね?」
そこ、俺に振らない。彼女の指す誰かさんとは俺のことだけどさ……。
っと、
「泣くなよ~」
「だ、だってぇ~」
感極まって泣いている
「申し遅れました。あたしはなでしこの幼馴染み、土岐 綾乃です。よろしく」
「犬山 あおいです。こっちが妹の」
「犬山 あかり。よろしく!」
「よろしくね」
「私は野クル部顧問の鳥羽 美波です。えっと……お話を聞く限り、浜松からいらしたのですか?」
「はい。弁天島から。富士宮の親戚の家と、修善寺の民宿を経由して来ました」
そうか。浜松市と一言で言っても
……あら? 先生驚いている。
「そうは言っても浜松からわざわざ……。遠路遙々ご苦労様です」
「いえ。慣れてますから。ね?」
だから俺に振らないの。
「えっと。みんな、ご飯冷めちゃうから、そろそろ頂こうよ」
おっと。俺の用意した(?)サプライズに、皆ご飯のことを忘れていた……。
「「「はーい」」」
みんなが声で返事をする中、一人だけお腹の音で返事をした。
まあ、誰かは言うまでもないだろう。
美味しかった夕食も食べ終え、後片付けも終わり。
明日は達磨山の山頂から日の出を見ることにしたらしく、朝帰る俺たち・綾乃も含め、早く寝ることになった。
しかし、ここで想定外の揉め事が勃発。
『誰が俺のテントで一緒に寝るか』という、正直どうでも良い争いが始まった。
テントは五つある。だから昨日は各テントに二人づつ入り、俺は一人で寝ていた。
今日は一人増えた訳だから、何処かのテントに三人入れば解決するのに、何故か俺のテントに入ろうとする。
「あたしは明日の朝早いし、お兄さんと一緒に帰るんだから、一緒のテントの方が良いでしょ?」
「私だってブランケット先輩と一緒に寝たいよ」
「私は又従兄妹だから問題無いよね」
「それなら私も又従兄妹だぞ」
この四人(一人は関係ない)が、言い争っている状態。
倫理的とか教育上とか、何か言って欲しいんだけど、その人は肝心なときに酔い潰れて役立たず。
『前があるから』と言ったら凪しか残らない。
逆に前があるからという理由で選べば
しかし、ここで俺が口出しし、一人を決めてしまうとそれは『指名』だ。桜さんや新城さんに顔向け出来なくなってしまう。
……あ。一つ良い方法があるじゃないか。
「それじゃあ、俺は先に寝させてもらうよ。お休み~」
そう。『誰よりも早く寝てしまい、誰よりも遅く起きる』だ。
手早く、しかし丁寧に。歯を磨いてテントへと駆け込む。
山中湖より標高は低いがまだ3月。油断できないからカイロを入れてシュラフへ潜り込む。
さてと。お休みなさい……。
「結局、誰が入ったって、純兄がズボンにテント立てるのが目に見えてるのよ」
「凪、ちょっとそれは引くよ……」
「テントって何のこと?」
「いや、ね? 無知な なでしこ も可愛いけどさー。ちょっと知らなすぎ。今度あたしとお勉強しよっか?」
「いや。自分で調べろよ」
まだ揉めてるのか……。
目が覚めた。
まだ辺りは薄暗いが、もう朝だ。
隣を見る。……誰もいない。結局誰も来なかったのだろうか? それとももう起きたのか。
テントから出る。
……ん? 富士山の見えるデッキに人影が。
「
「あ、ブランケット先輩」
「おはよう。結局、誰が俺のテントで寝たの?」
「誰も。最後は酔いが覚めた先生に止められました……」
肝心なときに何も言わなかったけど、最後に締めてくれたらしい。
「そういえば、ブランケット先輩の誕生日っていつなんですか?」
俺?
「6月1日」
「あ、もしかして祝ってくれるの?」
因みに、今年は金曜日だ。
「あきちゃんとあおいちゃんと相談します」
明言しなかったけど、この様子だと何かやってくれるのは間違いなさそう。
「先輩、昨日はありがとうございました」
「うん? 何のこと?」
「アヤちゃんのことです」
「ああ、綾乃か」
昨日、
半年……まだそんなに経ってないか。それでも数ヶ月振りの再会だった訳だから、よっぽど嬉しかったのだろう。
「先輩のお陰ですよ」
「いや。『俺からのサプライズ』とは言ったけど、ここに彼女が来たのは綾乃自身の意思だから、本当は俺は関係ないんだよ」
そもそも、サプライズ提案したのも綾乃だった。
「でも、アヤちゃんがここに来たのは、先輩のお陰だって言ってました」
何で?
「俺、何かしたっけ?」
「お正月に、ツーリング行ったんですよね。散々連れ回されたから、それで長距離走るのに慣れたからだ、って言ってましたよ」
ああ。そういうことか。
と言っても、あのツーリングに誘ってきたのは綾乃だし、一日目の行程考えたのも綾乃なんだよなぁ……。
あ、でも新城さんの家に泊まり、二日目と三日目の行程を考えたのは俺だ。確かに、連れ回したと言われればそれまでか。
「お正月に浜松へ遊びに行く予定がアルバイトでダメになって、アヤちゃんにも会えなくて……」
言葉が途切れたので気になり、
彼女は前を見ていた。
その視線を追うと、デッキの前方。うっすらと富士山が見えている。
「先輩。ありがとうございます」
その刹那、俺の頬に柔らかい何かが触れた。
「えっ?」
咄嗟にその方を向く。
「えへへ~」
少し頬を赤らめながら笑う
「い、今、何を……」
「お礼です。じゃあ、先戻りますね!」
それだけ言うと、テントの方へ走って行く。
「お礼。か……」
その姿がテントに消えるまで、頬を撫でながら見送った。
恐らく、俺の顔も彼女と同じかそれ以上に赤いのだろう……。