【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 ○伊豆キャン 三日目②~野クル部の朝。リンの帰り道~

 

滝野(たきの)先輩、(なぎ)ちゃん、綾乃ちゃんと別れ、達磨山(だるまやま)を目指す私たち一行は、車でふもとまでやって来た。

 

「あかり、ついたで」

 

「んぅ~。やっぱり寝てるう。寒いから閉めてぇな」

 

一緒に行くって言っていたあかりちゃんは、いざ登るとなったらダメだったみたい。

 

「もー」

 

「私が見てますから、皆さんで行ってきてください」

 

あおいちゃんはちょっと怒っているけど、先生のご厚意に甘えることにして、五人で登り始める。

 

登山道を登って行く。

 

「はあっ、はあっ」

 

一昨日細野高原でくたばったあきちゃんは、もう辛そうだ。

 

「リンとなでしこちゃん、登んのはやー」

 

上を見上げれば、先を歩く二人の姿が。もうあんなところまで……。

 

「頂上、すぐそこかと思ったのに、全然違うし」

 

「ふもとから頂上に見えてたのは、ただの起伏だったみたいだねぇ」

 

すぐ頂上だと思っていた私たち三人は、ゆっくり休みながら昇って行く。

 

「まるで龍の背中みたいや」

 

階段を登った先に緩やかな上り坂があり、その先にまた階段がある。振り返って見ると、確かに龍の背中かも。

 

「ほら、二人とも急がんと日が昇ってまうで」

 

「「ういー」」

 

これ、細野高原でも辛そうだった鳥羽先生まで来ていたら、間に合わなかったかもしれない……。

 

 

 

ようやく山頂に到着。

 

「はぁーっ。ついたぁー」

 

「あ、来た来た。お湯沸いてるよ」

 

「お疲れ」

 

先に登っているリンから労われ、なでしこちゃんからはコップを渡された。

 

これは……お味噌汁かな。

 

あきちゃんあおいちゃんも受け取った。

 

「はぁー生き返る~」

 

「あったまるなぁー」

 

「すごい、二度目でもこんなに出汁が出るんだ」

 

一昨日、私とで焼いた伊勢海老の殻で取った出汁。昨夜の夕食にも使ったのに、まだ十分使えている。

 

「んふふ。リンちゃんと同じこと言ってる」

 

リンも? 顔を見ると少し赤くなった。何だかんだ私たちも付き合いは長い。思考が似てきたのかな?

 

「頂上まで500mって書いてあったから、軽い気持ちで来たけど、きつかったぜぇ……」

 

「因みに、キャンプ場からは3.8kmだって」

 

「標高981mてほぼ山中湖と同じ高さなんやな」

 

道しるべの看板が二つ立っていて、片方には『達磨山981.8m』という記載がある。もう一つは距離標だ。

 

「へぇーそうなんだ」

 

「登山道、所々に雪残ってたよ」

 

「マジか。えっと……達磨火山だと。『かつての山頂部は今の達磨山標高より500m程高く』って、昔はもっと高い山だったんだな。えっと……1400mぐらいか……?」

 

「本栖湖近くの竜ヶ岳と同じ位だよ」

 

「独立峰で1000mって高く感じるけど、山中湖の辺りは見た目そんなに高く感じないよね?」

 

「それで油断したんだよね……。山中湖は寒さで死にかけたねぇ」

 

思い出すと寒さで鳥肌が……。

 

「「「あの時は本当にお世話になりました」」」

 

三人、立ち上がってリンの方を向き、頭を下げた。

 

「いやいや、実際に助けたのは先生と飯田さんだし」

 

「そうそう。それにブランケット先輩のことも忘れてるよ」

 

しかし、リンとなでしこちゃんに指摘されてしまう。

 

「だよね。先輩が連絡してくれたから、飯田さんが私たちを探して助けてくれたんだよ」

 

「それなのに、あの後謝りに行ったら『俺はなにもしてない』って」

 

「お兄さん、なんでもかんでも謙遜しっぱなしだよな。『俺はなにもしてない』って、最早十八番(おはこ)

 

十八番って。でも、リンのその喩えは上手いと思う。

 

「みんなそれぞれ滝野先輩にお世話になってるよね」

 

「だな。私は初めてバイクに乗ったとき、一緒に走ってもらったし」

 

「私は散歩中に逃げちゃった ちくわ を一緒に探してくれたよ。見付けたのは、あきちゃんのバイト先の副店長さん? だったけど」

 

「ああ、副店長から聞いたぞ。でも、保護したのは良かったけど、誰のか分からないから困ってたらしい。とんな時に現れたのがトラ先輩だった、って訳だな。……えっと、あたしはシフト間違えてバイトに遅れたとき、バイト先まで送ってもらったし、一緒に謝ってくれたなぁ」

 

「私は恵方巻協力してもらったわ。あと、ほったらかし温泉行ったときに、バイクのせてもらった奴もな」

 

「私もその時乗せてもらったよ。でも一番はブランケットかな……? みんな滝野先輩に助けてもらってるよね」

 

言われてみれば。ここにいる全員、一回は滝野先輩の後ろに乗せてもらっている。

 

「そう! 野クル部の存在は、トラ先輩無しには語れない……! ってな」

 

「にしてはみんな、先輩こき使ってる感じしない……?」

 

「確かにな……」

 

あ、あきちゃん少し顔が青くなった。

 

「そろそろ自重した方がいいかな……?」

 

「でも、今までお兄さん嫌な顔一つせず協力してくれただろ? いきなり頼るのやめたら逆に不安になると思うぞ」

 

リンの言うことも一理ある。

 

「確かに……。一度先輩と相談した方が良さそうだな」

 

「そういえばシマリン、急にトラ先輩のこと『お兄さん』って呼ぶようになったけどさ、どういうこと?」

 

「え? えっと……又従兄妹だってことが分かったんだよ……。あ、そろそろ日の出だぞ」

 

太陽が顔を覗かせ、空がゆっくり明るくなってゆく。

 

「ええ景色や」

 

「目に染みるぜ」

 

 

 

後片付けをしっかりと行い、登ってきた登山道を降りて行く。

 

「今日は助けてくれた飯田さんの所へお礼に」

 

「そしてチョコちゃんをモフモフしに」

 

「よし、最終日も伊豆ジオスポ巡り、がんばろう!」

 

「うん!」

 

「カピバラもな」

 

伊豆キャン最後の一日が始まる……。

 

 

 

 

余談だけど、先生が車を止めた場所。止めた時は暗くて気付かなかったけど、猫の額程のスペースで、すぐ後ろが斜面になっている。操作を誤れば崖下に転落……な場所だった。

 

それに気付いた私たちは驚き、止めた先生自身も私たちが指摘するまで分かってなかったらしく、青ざめていました……。

 

 

 


 

 

 

作者から注釈

 

 

御存知の通り、本作オリキャラが全員退場しているため、本作で伊豆キャンの続きは執筆しません。

 

物語は原作どおり進行したと思ってください。

 

 

では、帰路に飛びます。

 

 

 


 

 

 

 

修善寺(しゅぜんじ)温泉の手前で皆と別れた私は、一人帰路を走っている。

 

最短路である東名・新東名高速道路や国道139号線の途中にある西富士道路・富士宮道路はビーノでは走れない*1ので、遠回りを強いられる。それでも、初日の朝走った道路を逆方向に走っていけば良いので、スマホのナビは使っていない。

 

県道353号線を進んでいるけれど、渋滞していてノロノロ運転だ。ちょうど帰宅ラッシュの時間帯にはまってしまった。

 

メーターを見れば、家を出てから400キロも走ったことを示している。

 

お祖父ちゃんの言っていた通りだ。

 

「伊豆は広かったずら……」

 

思わず一人呟いた。

 

400キロか。お兄さんはアヤちゃんと一緒に年始ツーリングに行ったとき、三日で400キロ走ったって言ってたな。お祖父ちゃんの家に泊めてもらったとも言ってた。

 

その時、凪と会い、親戚関係が判明し、私とも親戚であることが分かったんだ。

 

その話を聞いて、世の中の狭さを実感したっけ……。

 

 

 

初日の下田から先と、二日目はずっとお兄さんと一緒に走っていた。お兄さんの背には凪。

 

誰かと一緒にツーリングというのは初めてではないけど、こんなに長い間走ったことはなかった。

 

50ccの30㎞/hは不便だ。他の早いバイクを見て、私にはこのスピードが合っていると思ってたけど、お祖父ちゃんやお兄さんと一緒に走ってみて、早いスピードへの憧れが出てきた。

 

50cc以上のバイクに乗るには普通二輪免許が必要なんだっけ……。

 

一度、お父さんに相談してみるか。

 

お母さんには……黙っていよう。

 

 

 

 

 

一人で走るからなのか。

 

それとも夜の景色がそう思わせるのか。

 

少し寂しい。

 

でもほどよい疲れと、家に近づく安心感。

 

この感じ、すごく好きだな。

 

 

 

 

朝霧高原を通過。真横に富士山が見えている。この景色を見ると、戻ってきたことを実感する。

 

県境を通過し山梨県に入る。

 

やっぱりこの辺は寒い。

 

国道139号線から国道300号線へと入り、本栖湖畔で身延町へと入る。あともう少しだ。

 

「おーい!」

 

うん?

 

「おーい! リンちゃーん」

 

この声は、なでしこ?

 

「どうしたの? こんなところで」

 

中ノ倉トンネルの手前、交差点のところで なでしこ が手を振っている。

 

「返事がないから心配で。お姉ちゃんに頼んで連れてきてもらったんだ」

 

「返事?」

 

スマホのラインを確認する。

 

うわ! 凄い数の通知。

 

「ホントだ。めっちゃ来てるし。帰りはナビオフにしてたから、気付かなかったのか」

 

『今どの辺り』とか『私は帰宅したよ』とか『連絡下さい』とか。かなり心配していたことが分かる内容だ。

 

「そこまで心配しなくても……」

 

と、ここまで言って次の言葉が続かない。

 

「どうかした?」

 

不思議に思ったなでしこが私の顔を覗き込む。多分、赤くなっている。

 

「あ、いや……別に」

 

お互い様だな……。

 

私もなでしこのことを心配して、早川から富士川まで様子を見に行ったんだった。

 

「あ。ここ来る途中でね、滝野先輩にも会ったよ。リハーサルの帰りだったみたい」

 

桜さんやお兄さんとも出会(でくわ)した。お兄さんは仕事だったけど、桜さんは私と同じ理由だったっけ。

 

「そっか。凪は?」

 

「凪さんは一緒じゃなかったよ。その代わりに……えっと……。知らない女の人乗せてた」

 

なんだと……?

 

 

 

「伊豆キャンプ楽しかったぁー」

 

富士山の見える場所の手すりに腕を乗せ、自然と二人で伊豆キャンの思い出を語り始める。

 

「ジオスポ何箇所回れたんだっけ?」

 

「えっと……合わせて12箇所かな」

 

数としては私が単独で回った所の方が多い。

 

「随分回ったんだなぁ」

 

「リンちゃんはどこが一番良かった?」

 

「うーん。黄金崎も良かったし、細野高原も良かったし、大室山も良かったし……」

 

一番、そう聞かれたのに一つには絞れない。それだけこのキャンプが楽しかったということだろう。

 

「大室山、良かったよねぇ。温泉も良かったし、みんなが誕生日祝ってくれて嬉しかったぁ……」

 

なでしこも同じ感じだ。

 

温泉も良かった。千人風呂に入れたし……。

 

また、顔が赤くなってゆくのが分かった。

 

「アヤちゃんも……」

 

そう。そのアヤちゃんのイタズラのせいで!

 

今度会ったらなにかしら仕返ししてやりたい……。

 

さておき。

 

「アヤちゃん凄いよな。いくらお兄さんに触発されたからって、なでしこの誕生日祝うために浜松から駆け付けるんだからさ」

 

「だよねぃ……。先輩のお陰なんだよね……。先輩の……」

 

うん?

 

何となくなでしこの様子がおかしい。そう思って顔を覗き込むと、少し赤くなって両手で頬を押さえている。何だろう?

 

 

 

「何か、旅が終わっちゃうのって、やっぱり寂しいなぁ」

 

「また行けば良いんだよ。何処かに」

 

「うん。そうだよね」

 

 

 

「そろそろ帰ろっか。リンちゃんのお母さんも心配してると思うし」

 

「だな」

 

なでしこが車の方へ歩いて行くので、それを見送る。車の横に立つ桜さんと目が合ったので会釈をする。

 

思えば、なでしこと桜さんと初めて会ったのが、ここ本栖湖だった。

 

あの時はここまでの関わり、交流になるとは思ってなかったが……。

 

きっかけは何であれ、会えたことは良かったのだろう。

 

ビーノのエンジンを始動。

 

「あと少し。頑張れよ」

 

ココハニワダヨ(ここは庭だよ)

 

 

 

 

 

 

やっと着いたぁ~!

 

バイクに乗ったまま伸びをして、同時に気も弛みそうになった。

 

でもまだだ。道具を片付けるまでがキャンプ。家に入るまでが旅行。

 

「お疲れ様」

 

\オツカレサマ!/

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「あ。お帰り」

 

「疲れたでしょ。お風呂沸いてるわよ」

 

玄関を潜れば、お父さんとお母さんに出迎えられる。

 

ん? もう一人現れた。

 

「ああ。リンちゃんお帰り。久し振りね」

 

「えっ? マミさん!」

 

私の叔母であり、凪の母であるマミさんだ。

 

「お久し振りです。一体どうしたんですか?」

 

「明後日の演奏会、見に来たんだって。全く、親バカなんだから」

 

お母さんの呆れた声。

 

「それは私たちも言えないでしょう? お義父さんも(しか)り、新城家の血筋なのよ」

 

「あなた、出は新城の者じゃないでしょう?」

 

「細かいことは気にしないの」

 

この二人のやり取りを、お父さんは苦笑いしつつ眺めていた。

 

そうだ。明後日は吹奏楽サークルの定期演奏会があるんだっけ。

 

その為に凪が来ていたことを忘れていたな。伊豆キャンはオマケだったのに、メインと入れ替わっていた……。

 

 

 

それと。

 

忘れちゃいけないのが、明日は普段通り学校があるということだ。

 

早く寝よう……。

 

 

 

 

 

 

*1
自動車専用道路





本編が完結しても、吹奏楽サークルの定期演奏会が終わっていませんね。番外編……という形ではなく、このまま本編として続きます。

『完結するって言ったじゃん』って? あれは嘘です。


リンの声が震えた なでしこ 曰く『知らない女の人』。滝野や可児までもが平然としているその女の人の正体は……?

定演のお話をお待ちください。
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