香織先輩を見送ってから、受付へと入る。
駐車場の車が出掛ける前より増えている。先輩方の他にもお客様が来ているんだろう。そう思って予約台帳を開く。
男0女34 中世古 香織(学生) 田中 あすか(〃) 小笠原 晴香(〃) 土岐 綾乃(〃)
男1女1 小川 かおり(会社員) 小谷 あさひ(〃)
男0女2 山川 瑞穂(会社員) 揖斐川 早紀絵(〃)
あ。
山川さん*1来てるんだ。
これを見ると、綾乃は香織先輩達のグループに加わることになっている。
「
「はい」
「これね、手ぶらキャンプのお客様に持っていってもらえるかな?」
肉や野菜が入ったパックを持っている。
「予約は三人だったから、今あっちに渡ってる食材も三人なんだよ」
なるほど。綾乃の分ってことか。
「分かりました。行ってきます」
「よろしく」
足元が暗いので、懐中電灯を手に受付を出る。
「だよねー!」
「まあ、そんなところかな?」
キャンプサイトに辿り着くと、相当賑やかだった。
「そのお肉、そろそろ良いんじゃない?」
「あ、そのカボチャは固いと思うよ?」
「ちょっと! それあたしがキープしてるんですから!」
「早い者勝ちだよ、土岐ちゃん」
手ぶらキャンププランの四人は、バーベキューコンロを囲んでいる。近くにテーブルはあるものの、立食スタイルだ。
「あすか先輩!」
一番こちらに近い側に立っている人の名を呼ぶ。
「あれ?
「変なこと言わないで下さい、違います」
露天風呂ならともかく、ここは風呂もないキャンプサイトだ。
「お兄さん、あたしの裸は見てますもんね~?」
思い出すから止めて!
「えっ? どういうこと、滝野くん?」
「マジで?」
香織先輩と小笠原先輩まで喰い付いてきた。
! あすか先輩は目が何かヤバい……。不気味に光ってる。
「後で説明します。というか、そもそもこの場で裸になるシチュ無いでしょう?」
ここは屋外。着替えるとしても、普通はテントの中だ。着替え中のテント中を覗いたのなら流石にアウトだが、外で着替えてて見てしまったのならそれは不可抗力だろう。
「それもそっか。で、何の用?」
話をややこしくした張本人は、何事もなかったかのように、続きを促す。
「……。追加の食材です。元々の予約が三人だったので、今そこにある食材は三人分です。なので、これは綾乃の分」
そう言うと、四人揃って食材が置いてあるテーブルを見た。
「なるほど!」
「だからか。3の倍数だから変だと思った」
「道理で」
「3個を4人で分けろ、なんてケチなキャンプ場だと思いましたよ」
おい、こら!
しかし。
「綾乃、あすか先輩たちと意気投合してるのな」
最初、人違いされて怯えていたのが嘘みたいだ。
「最初は怖い人だと思いましたが、少し話してみたら、先輩方も普通の女の子だって分かったら、何か不思議と安心しました」
「不思議と、って……」
綾乃の言葉に呆れる俺。
普通の女の子と言うが、普通の一言で片付けるのは如何かと思う演奏技術を持っているのが一人。美人なのが一人。普通なのは一人だけだ。
その様を三人は苦笑いして見ている。いや、小笠原先輩だけ俺のことを睨んでいるような……。今の心の声読まれた?
「でもまあ、あすかの言う通り、声だけ聞いていたら
おいおい。(元)部長がそれで良いのか……。
「そうらしいんですよ。先輩方から話を聞いた感じだと、私がその黄前さん……? と声がそっくりなんですよ」
そうなのか。
俺が聞いた話では、その黄前さんの活躍が無ければ、北宇治が全国大会へ出場することはなく、あすか先輩が部活を引退するまで残ることも無かった。そう聞いている。
お父さんに演奏を聞いてもらえたのも、結果的には黄前さんのお陰なんだろう……。
そんな黄前さんと声がそっくりだと言われ、どこか嬉しそうな綾乃。
「それに……」
あすか先輩が綾乃を引き寄せる。
「やっぱり可愛いんだよね~」
「あはは~」
腕を組んで……。
え……。
綾乃の腕にあすか先輩の大きい
「綾乃ちゃん頑張ってくれたんだよ~」
「と言いますと?」
「スタッフの人と一緒に、テント張ったり、コンロの設営頑張ってくれたんだよ」
なるほど。
綾乃に目を向ければ、得意気にピース。
「いやぁ。皆さんが出ていった後、あたしだけ先にテント張って寛いでいたんですよ。そうしたら、スタッフの人がテントとか持って歩いてきたので、『手伝いましょうか……?』って」
「それとさ、リハやって思ったんだよね」
「何を?」
「進行係。MCって言うの? が、いないよね?」
あ。
「そうですよお兄さん。それに晴香先輩が気付いて、あすか先輩に提案されて、私が進行を務めることになりました」
先輩方の顔を見る限り、全員一致で決まった様だ。
「あとね、さっき教頭先生に電話したんだよ」
あすか先輩?
「演奏会の服装についてをね」
あ。先輩方私服じゃないか。
「それで明日の放課後、学校に服の試着……? に行くことになったから、滝野よろしくね」
それはどうも。
しかし、一体何を着るのだろうか。
「そういえばさ、お隣のキャンパー。あの人の声、
「そうなの?」
「えっ? 誰って言いました?」
「ああ、綾乃ちゃんは知らないよね。塚本くんは……」
何か、話は俺の知らない人の事に変わった。
俺の用事は終わった。これ以上四人を邪魔するのも悪いと思い、そおっとこの場を後にする。
湖畔の道を戻って行く。
トイレの前まで来た。
「あ、こんばんは」
「こんばんは」
眼鏡を掛けた男性。予約台帳からして小谷さんだろう。ちょうどトイレから出てきたところだ。
挨拶し、会釈してすれ違う。
「こんばんは」
「こんばんは~。うん? お兄さん……何処かで……」
しかし、後方で再び挨拶が。
振り向けば、綾乃と男性キャンパーが、二人首を傾げながら向かい合っていた。
「お会いしたこと、ありましたっけ?」
「無いと思うよ? 君、名前は?」
「土岐 綾乃です……。お兄さんは?」
「僕は小谷 あさひ……。気のせいだと思うけど?」
「ですよね。ごめんなさい。私の勘違いだと思います」
「いいよ。他人の空似ということもあるだろうし」
「ですよね。ごめんなさい、呼び止めてしまって」
両者何処か府に落ちぬ様子のまま、互いに歩き始めた。
「あ、お兄さんまだ居たんですね」
「そんなに早く戻れないだろう。綾乃は?」
まあ、トイレだろう。
「トイレに……」
ほれ。
「そこのトイレ、水洗じゃないけど大丈夫だよな?」
「マジで……」
この感じだと、汲取式のトイレ使ったことないな。
「あっちまで行けば簡易水洗だけど……?」
「じゃあ、あっち行きます。お兄さんも一緒で良いですよね?」
「俺は構わんが、帰りは一人だぞ?」
「大丈夫です。あたしはなでしこじゃありませんよ?」
そうですか……。
二人で湖畔の道を歩いて行く。
横に二人並ぶ道幅は無いので、縦になってしまうが一緒に歩いている。
「今の男の人、お兄さんの知り合いですか?」
「いや。もう一組の方のキャンパーは、お世話になってる人だけど」
「ああ。キャンプ用品店の人」
この様子だと、会っているみたいだ。
「炭火のおこし方とか教えてもらいましたし、色々とお洒落なグッズ使ってました」
だろうな。
「なでしこも持ってるガスランプとか、お正月に借りたヒーターとか。それと、暖かそうなシュラフも」
一人はそのガスランプを買った店の店員だし。
「そういえばさ。今更だけど、綾乃テントとシュラフ揃えたんだな」
「はい。お兄さんとしたキャンプが楽しかったので。予算不足なのでテントは中古のをオークションで落としましたけどね……。あ、シュラフは新品ですよ」
だろうな。新品と中古品では桁が一つor二つ違ってくる。
「そっか……。着いたぞ」
歩いているうちに、受付に戻ってきた。
「そこの脇にあるのがトイレだから」
「ありがとうございます。それじゃあお兄さん、お休みなさい」
「ああ。帰り気を付けて行けよ」
「はい」
綾乃と別れ、受付へと入る。
さてと。
今日の朝はまだ伊豆にいたのに、帰ってきたら先輩方三人と出くわし、学校でリハやって、香織先輩とタンデムしながら帰ってきたら、キャンプ中の四人のところへ行って……。
今日一日がとても長かったような気がする。
さてと。明日は学校だ。
普段通り朝早いから、早く寝てしまおう。
あ、揖斐川さんと山川さんに顔出してないや……。
中の人ネタで遊んでいます(汗)。
本当は、season3に登場した女の子(花ちゃん)も登場させ、山川さんと会わせてみたかったんですよ。某アニメでの 姉妹 ですからね……。断念しましたが。
因みに、前話の最後で滝野が発した言葉、彼はこの言葉に隠されている意味を知りません。ただ単に『月が綺麗だ』と言ったまでです。
これに対する香織先輩の 返し がどういう意味なのか。皆さんの想像にお任せします。
(もちろん、意味は決めてあります)