「それじゃあ
「頑張ってね」
「行ってきます」
「お兄さんは大変だねぇ」
翌朝。昨夜のうちにすっかり三人と意気投合した綾乃は、車に乗って四人で朝早くから出掛けて行く。今日は周辺を観光してくるらしい。
「行ってらっしゃいませ……」
道が狭いから当然と言えば当然なんだけど、それでも必要以上にゆっくり走って行く、初心者マークが貼られたレンタカー。
そこはかとなく不安だが、心配しても仕方ないので、手を振って見送った。
昨日お風呂に入れていないので、最低限温泉には行くらしい。おすすめの温泉を聞かれたので、俺は迷わず『ほったらかし温泉』と答えた……。
対し、俺はというと、普通に学校がある。
朝食を終えれば、学校に向かう準備を整える。
どのバイクにしようか迷うが……。
「まあ、無難にビーノだろう」
\ブナンダト?/
トリシティは昨日まで三日間長距離を走ったから少し休ませたいし、綾乃からエイプの鍵を預かっていて乗っても良いと言われているが、この山道を知らないバイクで走るのは少し怖い。
「それじゃあ、行ってきます」
ガレージのトリシティとエイプに声を掛け、ビーノを出庫させる。
「純兄、バイクに話し掛けるんだ」
「げ、
扉の横に立っている凪に茶化される。そこにいるとは気付かなかった……。
「いいだろ。でないとビーノは拗ねるんだよ」
「バイクが?」
「バイクが。信じられないようだが、それが ゆるキャン△ という作品の世界なんだよ」
夢で見た話だが、リンは危うくビーノにストライキされるところだったとか?*1
「うわ……。純兄がメタ発言してるの聞くと、何かテンション下がるわ……」
露骨に嫌そうな顔するなよ。
「怒るぞ? ところで、凪は今日どうするんだ?」
先輩方+綾乃は既に出掛けていった。
ここは徒歩圏には何もない。車がなければ外出出来ない。
「スタッフさんに車出してもらって、リンの家に行こうと思ってる」
「リンの家?」
「うん。久し振りに咲さんや渉さんに会いたいし」
そうか、親戚だっけ。俺よりも近いんだ。
「了解。じゃあ、俺は学校行ってくる」
「うん。気を付けてね」
エンジンを掛け、ビーノを発進させる。
「よーし、お前らよく聞け」
放課後。俺たち野クル部メンバー+リン+恵那ちゃんは、制服のままグラウンドに集まっている。
「忘れないうちに、伊豆キャンの反省会を行うぞ!」
制服のままなのは、このあとバイトがあるメンバーもいるため手短に済まそう、ということらしい。
「はい、部長!」
「何だ?
隊員って……。
「初日、下田まで寝てしまったのは大失態です」
「知らん!」
一蹴されてしまった。
「部長!」
しかし、懲りずに続ける各務原さん。
「今度は何だ!」
「何故滝野先輩はそこに立っているのでしょうか?」
「座る場所が無いからだ」
…………。言われてみれば。
「えっと。回ったジオスポは幾つだ?」
「
先にリンが一人で回った場所を自分で報告。
「
続いて犬山さんが全員で回った場所の報告。
「了解。えっと……全部で幾つだ……? あれ……?」
「あき、算数の問題やで。12箇所やな」
両手を使って指折り数える大垣さんさんに呆れた犬山さんが、瞬時に計算して答えた。
「了解。それに加えて、河津
河津桜か。俺たちは河津を迂回して下田へ行ったから見ていないが、所々桜が咲いていたのは覚えている。
「それに、わさびソフト、金目鯛バーガー、オレンヂジュース、金目鯛の干物、伊勢海老、海鮮ぶっかけ丼……伊豆のおいしいモンも食べれたなぁ」
伊豆グルメの復習。うん、色々食べた。
「だな。まあ、河津桜の渋滞や爪木崎がキャンプ禁止だったりと色々トラブルはあったが……。皆の衆、伊豆キャンは楽しめたかな」
「「「はーい!」」」
皆の声に、嬉しそうににっこり笑う大垣さん。
「よろしい。……っと、そろそろ時間だな。それじゃあ反省会は終わり、解散!」
10分にも満たない反省会が終わった。
「じゃあ、あたしらはバイトあるから」
「行ってくるわ」
「リン、なでしこちゃん。またね」
大垣さん犬山さん恵那ちゃんはバイトがあるので帰って行く。
「それじゃあ、私たち三人で野クル部の続きを……」
「私は帰る」
「ええっ!」
しかし、リンが帰ると言い出して各務原さんが悲しそうな声を上げる。
「何で?」
「凪が遊びに来てるってお母さんから連絡あったから、早く帰りたいんだよ」
ああ。朝そういう話してたっけ。
「凪、マミ*2さんが来てること知ってたのかな……」
「うん? 今リン何て言った?」
「マミさん来てるんだよ」
…………。
「たぶん知らない。でもまあ、それならリンは早く帰った方がいいな」
今の話を聞いた各務原さんは、羨ましそうな顔をしてリンと俺を交互に見ている。
「良いなぁ。私ももっと凪さんとお話したかったよ。今からリンちゃん家行っても良い?」
「それは良いけど、どうやって来るんだ?」
ああ。各務原さんは電車通学だから。ここからリンの家まで歩いて行くには距離がある。
「あ、言っておくけど俺はバイク出せないからな?」
状況からして、俺の後ろに乗って送ってもらうって言い出しそうなので、予め断りを……。あ!
俺がバイクを出せない理由。それを考えたら、むしろ各務原さんは学校に残った方が良いんだ!
「代わりに各務原さんには音楽室に来てもらおうか」
「音楽室ですか?」
流石に首を傾げた。
えっと……何て説明すれば良いだろう。
変なことを言ったら帰ってしまいそうだし、本当のことを言ったらつまらない。
「明日の定演のことでね。まあ、音楽室行けば分かるからさ」
各務原さんに一人で先に音楽室に向かってもらい、俺は校舎裏の駐車場へ。
……ある。先輩方の車だ。
もう来ているんだろう。
それを確認して、俺も音楽室へ。
「失礼します」
そう断って扉を開く。
「あ、お兄さん来ましたね」
「先輩……」
「お。滝野」
「滝野くん」
「今日も練習するの?」
室内には、綾乃、各務原さん、あすか先輩、小笠原先輩、香織先輩の5人が揃っている。全員この学校の制服姿だ。
「お兄さん、これ似合ってますか?」
そう綾乃から。
「可愛い制服だよね」
は、あすか先輩。
「これ……スカート短くない……?」
これは小笠原先輩。
「晴香は真面目だからね。せっかく似合ってるのに」
とは香織先輩。
三者三様の感想。他校の制服を着ることなんてまず無いだろうし、先輩方はもう高校を卒業している。尚貴重な経験じゃないのかな。
「私たちが先に音楽室に来ていたんですよ。で、なでしこが後から入ってきて、あたしがいるのに気付いてプチパニックです」
「だって。滝野先輩が音楽室で明日の定演がどうとか言われてたのに、中に入ったら同じ制服着たアヤちゃんがいるし、知らない人が三人もいるからびっくりです」
「本当のことを言ったら意味ないから、どう誤魔化そうか考えた結果だよ」
リハーサルは昨日終えているので、今日はMCを担当してもらう綾乃が、当日何を話すかの打ち合わせだ。
「MCやってもらうんだと、セトリしっかり決めとかなきゃだよね?」
香織先輩の言う通りだ。でないと綾乃が混乱してしまう。
「綾乃はどうしたい? 喋る内容書くなら書いておくし、アドリブで構わないってのなら、曲目だけ決めるけど」
本人の意志が大切だ。
「そうですねぇ。最低限あたしの自己紹介とメンバー紹介はしなきゃですから……。アドリブで行きますよ」
「おお! 土岐ちゃん流石~」
「茶化さないでください。代わりに喋らせますよ?」
「それではユーフォの歴史について……」
「不要です」
あすか先輩と綾乃のやり取りを見て、小笠原先輩と香織先輩は驚きを隠せない様子。
「どうしました? そんな顔して」
香織先輩なんか両手で口元押さえてるし。
「全国大会の時、演奏前にね、部長から一言って言われた場で、私が慌てちゃったら今綾乃ちゃんが言ったのと同じようなことを言ったの」
そんなことが……。
「綾乃流石」
「でしょう? 伊達にお兄さんと一緒に行動してませんよ?」
「どういう意味だ。それに一緒に行動したって言っても僅かだろう」
「まあまあ、滝野も土岐ちゃんも夫婦漫才はその辺にして……」
夫婦て……。
「決めちゃおうか?」
後から合流した可児を含めた6人で、明日のMCの内容が決定。あとは明日を待つだけだ…………。