【完結】本栖高校吹奏楽サークル   作:小林司

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 演奏会と約束

 

※今話に限り、体育館内の館内放送(つまり、スピーカーから流れる声)は、〔〕で表記します。

 


 

〔皆様、お待たせしました~!〕

 

館内放送を通した綾乃の声が、体育館に響き渡る。

 

しかし、緞帳(どんちょう)が閉じているため、ステージで待機する俺たちには、体育館内の様子は分からない。

 

〔平成29年度、吹奏楽サークル定期演奏会の開演でございます~! 申し遅れました。私は本日司会進行を務めます、浜松舞阪高等学校*1土岐 綾乃(ときあやの)と申します。よろしくお願いしま~す〕

 

綾乃が自己紹介を終え、お辞儀をしたのだろう。拍手が起こる。

 

……綾乃の学校名、初めて聞いた。同じ制服を着た各務原(かがみはら)さんとの写真を見せてもらったことがあるから、彼女も同じ高校だったんだろう。

 

〔えっ? 服装については気にしないでください。借り物ですよ~。今回急に参加が決まったので制服を持ってきていませんからねぇ〕

 

だからといって(一応)学校行事に私服で参加するわけにもいかないからな。

 

先輩方(特に小笠原(おがさはら)先輩)は、スカートの丈が気になるらしいが、京アニパワーがある故見えることはないだろう*2……。

 

〔えーっと。こう見えましても私、滅茶苦茶緊張しています。ヘマやらかしたとしても、スルーしてくれると有り難いです。それでは、演奏するメンバーにご登場頂きましょう〕

 

綾乃がそう言うと、ゆっくり緞帳が動き出す。それに合わせて再び拍手。

 

これ、それなりの人数が集まってるよな……。

 

緞帳が開ききる前に、指揮者を務める可児の手に合わせ、トランペット三人が構え、スタンバイ。

 

その関係で今可児はステージの左脇に待機している。緞帳が開けば指揮台へ移動するのだ。

 

 

♪~

 

 

緞帳が完全に開いた。可児が手を止めずに指揮台へと上る。

 

〔はい。皆さんお馴染みですよね? まずは『必殺仕事人のテーマ』から。ここで演奏しながらですが、メンバーの紹介をしていきましょう〕

 

緊張していると言いながら、綾乃はノリノリだな。

 

〔まず、左から二番目。トランペットを吹いているのが、吹奏楽サークル部長、トランペットの人こと滝野 純一(たきのじゅんいち)です〕

 

紹介されたので、一旦演奏を止め、ペットを片手に両手を上げてお辞儀。

 

〔指揮者が、同じく吹奏楽サークル副部長、マルチスキルの女、可児 ミク~!〕

 

聴衆には背を向けている可児だが、くるっと一回転し、反対を向いたタイミングで皆に手を振った。

 

というか、聞いたことのない二つ名飛び出したけど……?

 

〔以上二名が吹奏楽サークルのメンバーです。続いて、右から二番目のトランペットが、今日のために駆け付けてくれました。浜松海浜高等学校*3吹奏楽部、新城 凪(しんしろなぎ)です〕

 

俺と同じように挨拶。

 

〔彼女は元々今日参加が決まっていたので、浜松海浜の制服での参加です〕

 

まあ、その通りだ。恥ずかしいのか嬉しいのか、微かに頬が赤い。体育館の端、先生方が座っている場所にマミさん*4の姿がある。流石に緊張しているのだろう。

 

……否、高音が続いて息がキツいのだ。

 

〔残る三人は、部長の滝野が京都にいた頃お世話になった先輩、ということだそうです。真ん中のトランペットが、中世古 香織(なかせこかおり)

 

香織先輩も俺と同じような挨拶をした。

 

途端に上がる男子からの喚声。

 

〔左端のユーフォニアムが、田中 あすか!〕

 

「どうも~!」

 

あすか先輩は今演奏をしていないので、椅子から立ち上がりユーフォ抱えたまま一礼。

 

着座すると右手から小さな花を出す。手品ですか……。

 

それに対して今度は黄色い声援が上がる。

 

あすか先輩は規格外の美人だからなぁ。男女問わず人気がある。

 

香織先輩の人気は言うまでもないだろう。

 

〔右端のバリサクが、小笠原 晴香です〕

 

「あはは~。どうも……」

 

小笠原先輩も演奏していないので、立ち上がって恥ずかしそうに手を振った。

 

ここで上がった喚声は、さっきの二人より小さかったことは、言わない方が良いだろう。

 

 

 

~♪

 

 

 

演奏が終わる。

 

〔それでは次の曲、『宝島』です〕

 

ステージ脇から、水谷先輩の友人で、中学校で合唱部の部長を務めていたという一年生の北方(きたかた)さんが現れる。可児の代わり指揮台へ。

 

代わってもらった可児はパーカスの前に立つ。

 

ここ、伊那(いな)先生の出番だと思うんだけど……。

 

 

♪~

 

 

楽器が三種類(+可児が他を補完)だから、上手いこと他を補いながら演奏。

 

一昨日のリハもそうだったが、可児がどんな楽器でもそつなくこなす様を見て、聴衆からもざわめきが起こる。

 

因みに、昨日驚いていたのは、凪+先輩方。

 

「あ!」

 

まあ、時々ミスするが。

 

 

バリサクのソロパートは、小笠原先輩が無事に演奏し終え、聴衆から盛大な拍手が起こった。

 

さっき、彼女に対しての喚声が小さかったのを補完するかのように……。

 

よほど緊張したのか、ソロの時に少し前に出て演奏した小笠原先輩は、終わった後椅子に戻る時にする予定だったお辞儀を、椅子に座ってから思い出したのか、一度立ち上がって一礼した。

 

 

~♪

 

 

その後、無事に『宝島』の演奏を終える。

 

〔それではここで、部長の滝野から挨拶いただきましょう〕

 

そう綾乃が言い、マイクを持ったまま俺の側まで歩いてくる。

 

〔えっと、吹奏楽サークル部長の滝野です。今日はこんなにたくさんの人に……〕

 

「固いっすよ先輩!」

 

「そんな挨拶はいらないよ!」

 

「普段通りで良いんだよ?」

 

観客席からヤジが飛ぶ。

 

一番最初の声、大垣さんだぞ……。

 

「その通りですよ、お兄さん」

 

綾乃まで……。

 

教頭先生は……頷いてる?

 

そういうこと?

 

〔みんなありがとう! 俺たちの演奏楽しんでくれたら有り難いです! 綾乃よろしく!〕

 

マイクを返す。

 

〔はい。それでは、一曲ずつ説明するのも面倒なので、まとめて数曲どうぞ!〕

 

投げやりだなぁ。まあ、予定通りだけどさ。

 

 

♪~

 

 

『Wednesday Night』

 

『夢の途中』

 

『フライデーナイトファンタジー』

 

『はぐれ刑事純情派のテーマ』

 

『残酷な天使のテーゼ』

 

『若い広場』

 

『ルパン三世のテーマ』

 

『新世界より』

 

『海の見える街』

 

『HANABI』

 

 

歌詞がある曲は、あちこちから歌声が聞こえてくる。まあ、有名な曲を選んだし、去年の紅白歌合戦で歌われた曲もある。

 

それを狙っての選曲だから、狙い通りだ。

 

『夢の途中』なんて曲知っている人居ないと思っていたけど、まさかの教頭先生の口が動いていた……。

 

 

~♪

 

 

全員が毎回演奏していたら疲れるので、交代しながら吹ききった。

 

全ての曲が終わったので、全員立ち上がり、一礼。

 

今までで一番大きい拍手が起き、それは次第にアンコールの催促へと変わる。

 

トランペット三人で顔を見合わす。頷く。

 

予定通り、ちゃんとアンコール用の曲を用意してある。

 

俺たち三人が立ったまま楽器を構え、指揮台の北方さんが手を上げる。

 

その一連の動作で、演奏が始まると察した聴衆から再び拍手。

 

 

〔それではもう一曲どうぞ!〕

 

 

♪~

 

 

まずは『鳩と少年』。

 

 

吹きながら、俺は知った顔を探す…………居た。

 

野外活動サークル 改め 野クル部 の部長、大垣 千明。

 

笛吹市のオートキャンプ場の下見に行くための相談に来た時、音楽室で俺が吹いていたのがこの曲だ。

 

跳び跳ねたいのを我慢してパイプ椅子に座っている感じだ。これ、体育館が暗かったらサイリウム振り回していそうな勢い。

 

さっきはヤジ飛ばしてきたし、やりたい放題やったことだろう……。

 

 

~♪

 

 

 

 

これで終わりかって? まさか。

 

お気付きの人もいるだろう。俺の 十八番 をまだ披露していないんだよ。

 

それではお聞き頂きましょう。『トランペット吹きの休日』

 

 

♪~

 

 

俺の十八番、吹きながら再び体育館を見渡す。

 

卒業した三年生は少ないが、水谷先輩と成田先輩の姿が目に入る。

 

あ、俺と目が合うなり投げキッスしてきたぞ……。

 

視線を変えれば二年生。揖斐川を始めとしたクラスメイトの面々。

 

更に移せば一年生。野クル部のメンバーも揃っている。

 

さっきから何度も跳び跳ねそうなノリの大垣さんに、それを抑えながらも何処から取り出したのか、カスタネットを叩いている犬山さん*5。二人並んで手拍子している恵那ちゃんとリン。実は音痴だ、という噂のある各務原さんは、手拍子さえもズレている……。

 

~♪

 

 

俺の演奏が終わると同時に、全員立ち上がる。

 

「ありがとうございました~!」

 

俺はこう言って頭を下げた。

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

四人が続いた。

 

「「「わ~!」」」

 

歓声と共に、今日一番の盛大な拍手。

 

そしてゆっくり緞帳が閉まって行く。

 

 

定期演奏会が終わった。

 

 

幕が閉まりきった後、可児が俺に飛び付いてきたのを筆頭に、全員が俺に抱き付いてきて、もみくちゃにされたのは皆には内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹奏楽サークルの定期演奏会は無事に終わった。

 

大成功、むしろ来年の定演のハードルを上げてしまい不安が残る。という結果になった。

 

今日は普通に授業があったため、先輩方は後から別行動で来ていたのだが、直接帰路へ就く予定で荷物をまとめて持ってきていた。

 

当初の予定では俺たち演奏メンバーが後片付けを行うことになっていたが、先輩方を見送る必要があるということで、俺のクラスメイトや野クル部メンバーが、代わりに引き受けてくれることになった。

 

 

 

「もう帰られるんですね……」

 

駐車場の車の前に立ち、乗り込もうとしている小笠原先輩とあすか先輩。

 

「まあね。元々その予定だったから。滝野くん、会えて良かったよ」

 

うちの予約も二泊三日で入っていた。今日の定演参加は想定外だっただろうけど、それ以外は予定通りらしい。

 

「私も。会えて良かったよ、滝野。土岐ちゃんたちとも知り合えたし」

 

そう言ってあすか先輩が視線を向けた先では、此方(こちら)と同じ様に、各務原さんと綾乃、凪と香織先輩が別れの挨拶をしている。綾乃もこれから浜松へと帰って行く。

 

因みに、凪はマミさんと一緒に帰って行く。

 

「アヤちゃん、また一緒にキャンプ出来る……よね?」

 

「うん。いつでも出来るって。だってあたしバイク乗りだもん」

 

「呼んでくれたら、何処だって走っていくから」

 

「アヤちゃん……」

 

今にも泣き出しそうな各務原さん。

 

 

 

「香織先輩、今日は本当にありがとうございました!」

 

「私も凪ちゃんと吹けて楽しかったよ。ありがとね」

 

「もとを辿れば呼んでくれた純兄(じゅんにい)のお陰です」

 

「だね」

 

「俺は良いから!」

 

「凪ちゃん、私たちの代わりに来年は全国で金、取ってね」

 

「もちろん! 精一杯頑張ります!」

 

「約束だよ?」

 

「約束です!」

 

そこ、北宇治の部員と交わすべき約束じゃないか?

 

まあ、吉川とそういう約束は交わしているはずだ。ここで指摘するのは不粋だろう。

 

 

各々、別れの挨拶を済ませる。

 

「それじゃあ!」

 

「ありがとうございました!」

 

先に車が出発。

 

最初の運転はあすか先輩。助手席が香織先輩で、後ろに小笠原先輩。

 

校門で、坂を降りて行き左へ曲がるまで、凪と一緒に見送った。

 

続いてバイク。

 

来客も漏れず、校門の中では乗車禁止なので、外に出るまでは押して来る。

 

各務原さんとリンも一緒だ。

 

「アヤちゃん!」

 

「ん? うん」

 

「私も」

 

三人、グータッチを交わした。

 

そして、俺の横に来る。

 

「お兄さんも」

 

「ほい」

 

俺とも交わす。

 

「あ、そうだ」

 

「えっ?」

 

綾乃にそう言われ彼女の方を見ると、口の横に手を添えていた。内緒話をするときのように。

 

「何だ?」

 

綾乃はもうバイクに乗っているので、俺は体を傾けて耳を貸す。

 

「リンちゃんから聞きましたよ。何かの代わりに、二人っきりのツーリングの約束してるんですってね」

 

「はぁ!」

 

衝撃発言に、仰け反りそうになった。

 

そんな約束、いつしたっけ?

 

…………揖斐川(いびがわ)だ。

 

「してるよ。危うく忘れるところだった」

 

「ダメじゃないですか。私も巻き込んでキャンプツーリングとか如何ですか? 山梨と浜松の中間辺り……大井川とか?」

 

綾乃も?

 

「リンは何か?」

 

「リンちゃんには決まってから言います」

 

つまり、まだ何も言ってないってことか。

 

「……考えとくよ」

 

「あまり遅くなるとお兄さん誘えなくなっちゃいますから。月内に幾つか行ける日を空けておきますね」

 

「それは助かる」

 

来年は受験生って話をしていた。それを覚えているのだろう。

 

「約束ですよ? 良いプラン期待してますからね。じゃあ、出発します」

 

「待って。俺が考えるの?」

 

エンジンが掛かる。

 

「違うんですか?」

 

「分かったよ……。気を付けて!」

 

「は~い」

 

ゆっくり坂を下って行く。

 

こちらも同様に、姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

「さてと」

 

綾乃にもああ言われたことだし。

 

「ツーリング計画、練るとしますか」

 

 

誰かに言うわけでもなく、一人呟いた。

 

 

 

 

*1
実在せず

*2
むしろ、逆なんだけど(笑)

*3
※実在しません。なお、モデルにしたのは、浜松聖星高等学校(2016年まで 浜松海の星高等学校)

*4
凪の母。リンの叔母(咲さんの義妹)

*5
中の人ネタ。





ありがとうございます。

この後、エピローグを一話入れて本作は完結となります。今度は本当に完結です。

もう一話、お付き合いいただけると幸いです。
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