彼が歌姫の名前を聞いたならば   作:ペトラグヌス

1 / 4
霧のエレジアで

「オイオイオイ、エレジアはまだ見えねえのか?もうすぐ歌姫のライブが始まっちまうってのに!」

「はやく、はやく着かねえかなあ……!」

「気候も変わったし、そろそろ着くはずなんだけど……」

「アウ!このス~パ~!なサニー号を信じやがれ!」

 

 偉大なる航路前半、エレジア近海に船の影が一つ。

 海原に浮かぶ、麦わら帽子の海賊旗を掲げたその船の甲板では賑やかなやり取りが交わされていた。

 新世界の大物海賊である彼ら、麦わらの一味がわざわざ逆走してきた理由はただ一つ。

 近々エレジアで行われるという歌姫のライブに参加するためである。

 

「うおおおお!生の歌姫に会えるまでもう少しだあああ!」

「はしゃぎ過ぎだ、アホコック」

「ああん?んだとクソマリモ」

「ふふふ、みんなもう待ちきれないみたいね」

 

 これまで映像電伝虫やTDでの発信はあったものの、直接観衆の前に現れるのは初めてのこのライブ。

 サンジが浮かれるのはもちろん、ゾロまでばっちりと服を着替えているあたり、事の重大さが見て取れる。

 何せ、今や歌姫は世界的有名人なのだ。彼女のことを知らない人などいない。

 もちろん、何事にも例外は存在するのだが。

 

「どうやら魚たちもはしゃいでるようじゃのう。まあ、わしはあまり知らんが……」

「歌姫さんの歌は骨身に沁みますからねえ……私、沁みる身はないんですけど!ヨホホ!」

「しっしっし!みんな盛り上がってんなあ」

 

 一味の中でも比較的年長のジンベエは、こういった流行りごとには疎いようで、歌姫のことは噂に聞いた程度にしか知らないという。

 そして、どこか一歩引いたような様子なのは欄干に腰かけたルフィだ。

 

「ところで……ルフィさんはご存じだったんですか?歌姫さんのこと」

 

 そんなルフィの様子を見て問いかけるブルック。

 今回のことは、もともと新聞でライブが開かれることを知った一味のメンバーたちが要望したことから始まったことだ。中でもチョッパーなどは一生のお願いとまで言ってルフィにしがみついていた。

 結局、船長であるルフィがエレジア行きを決めて今に至るわけだが、彼は肝心の目的である歌姫については知っているのだろうか。

 

「いや、知らねェ!」

「やはりそうでしたか。彼女の歌を聞いたことは?」

「それもねえ!……ん?そういや、ウソップが最近よく歌流してたけど、あれ歌姫か?」

 

 ?マークを浮かべて首を傾げるルフィ。そんな様子を見て、ブルックは笑った。

 興味のあることにはとことん夢中になるけれども、そうでないことにはからっきしなのがルフィという人間だ。どうやら今回は後者だったらしい。

 といっても、彼もまた音楽をこよなく愛する男。きっと一たび聞いたならばその魅力は分かるはずだ。

 おあつらえ向きのことに、この船が向かっているのは歌姫のライブ会場。初めてまともに聞く彼女の歌が、生歌というのもなかなか贅沢でいいものではないか。

 そんなことを考えながら、ブルックはルフィへと語り掛ける。

 

「ヨホホ!きっとルフィさんも聞けば好きになると思いますよ!」

 

 歌姫の、彼女の名前とともに。

 

「歌姫、ウタさんの歌は!」

 

 

 

「ウタ?」

 

 

 

 

 その名前を聞いた瞬間、ルフィの顔色が変わる。

 直前までのにこやかな表情から、一転して真剣な表情に。

 

「……ブルック。その歌姫の名前ってほんとにウタなのか?」

「ええ、そうですけど……どうしたんですか、ルフィさん?」

 

 ルフィはブルックの言葉を最後まで聞くことなく手すりから立ち上がると、下の甲板でソワソワとしているウソップに声を掛けた。

 

「ウソップ、前に聴いてたトーンダイアルって今持ってるか?」

 

 ルフィの突然の発言に、ウソップは目を白黒させる。

 

「おいおい、いきなりどうしたんだよルフィ。おめェがそんなこと言うなんて珍しい」

「ちょっと気になることがあるんだ。だからさ、貸してくれねェか?」

 

 本当にルフィはどうしてしまったのだろうか。釣りのお供に、ポップグリーンの水やりのお供に、これまで散々流してきた歌姫の歌。流しているときはもちろん、ライブに行くことを決めた時もこれといって興味を示さず、あまつさえ昼寝をしていたルフィが今更になって彼女の歌を聞きたがるなんて。突然の変節に、ウソップは驚きを隠せない。

 ただ、このタイミングでというのは不思議だとは言え、ルフィも歌姫に興味を持ったのならそれは喜ばしいことだ。了承を得た上でライブに向かっているとはいえ、やはりただ付き合わせるというのは少々後ろめたかったのだ。

 

「もちろんいいけどよぉ……ほら、ルフィ。使い方わかるか?」

「……わかんねェ」

「……ったく、じゃあこのウソップ様が教えて──」

「お、なんか流れてきた」

「聞けよ!」

 

 カチカチと適当にダイアルを弄るルフィ。ウソップは鋭いツッコミを一つ入れると、トーンダイアルの使い方についてレクチャーする。

 

「──ってな感じだ。わかったか?」

「おう!ありがとな、ウソップ」

「……しっかし、何で急にこんなこと言い出したんだ?歌姫の歌ならもうすぐ生で聴けるってのに」

 

 使い方を一通り教え終わり、ひと段落着いたところでふと抱いた疑念を口にするウソップ。

 それに対して、ルフィが答えたのはただ一言だった。

 

「今すぐ聴きてェんだ」

 

 それだけ言って、ルフィはありがとな、ともう一度ウソップに告げてから船室へと入っていった。

 

 

 

「なあブルック、ルフィはほんとにどうしちまったんだ?」

 

 ルフィを追ってやってきたブルックに話しかけるウソップ。ブルックもまた、船長の突然の変貌に首を傾げるばかりだ。

 

「私にも何が何だか……ただ、歌姫さんの名前を言った瞬間、ルフィさんの表情が変わったんです」

「歌姫の名前って言ったら、ウタだろ?それ以外になんかあるのか?」

「さあ……もしかすると、ルフィさんとウタさんの間には並々ならぬ何かがあるのかもしれません」

「まっさかあ~。だってあのウタとあのルフィだろ?そんなことありっこねェよ」

 

 ブルックの推測を、有り得ないと切って捨てるウソップ。それが真実であったこと知るのは、随分先のこととなる。

 

 

 

 

 

 

 サニー号の船室に入ったルフィは、男部屋の自分のハンモックにごろりと寝転がる。

 目深に被った麦わら帽子の奥で思うのは、記憶の彼方の幼馴染の名前。

 

 ウタ。

 その名前を今になって聞くことになるとは思ってもいなかった。

 シャンクスとともにフーシャ村にやってきて、そして突然いなくなってしまった少女。

 

「……ウタ」

 

 その名を呟くだけで、ルフィの脳裏にはたくさんの思い出があふれ出す。

 初めて出会った時の偉そうな態度をしたウタ。マキノの酒場でシャンクスに話しかけるルフィを、ダサい格好といって切って捨てるウタ。崖登り対決に身長対決、可愛さ対決、腕力対決、それに大声対決、いつも負けず嫌いなウタ。フーシャ村のとっておきの景色を見せた時の、凪いだ笑顔をしたウタ。

 

 そして何より、赤髪海賊団の音楽家として歌うウタ。

 

 ……思えば、フーシャ村での思い出のほとんどはシャンクスと、それとウタとで占められていた。

 

 フーシャ村の皆はいつも幼いルフィを見守ってくれていたし、マキノにも宝払いと言っては色々と世話になった。村長もいちいちうるさかったけれども、それでもルフィのことを大切にしてくれていたように思う。

 けれども、フーシャ村でのルフィはいつもどこか孤独を感じていた。両親は姿を見せることもなく、たまにやってくる爺ちゃんもぶん殴ってくるし谷底に落としてくるしで無茶苦茶だ。同年代の子供もおらず、自分だけ子供で周りはみんな大人。そういう意味では、ルフィはいつも一人だった。

 

 そんなルフィの、隙間風にガタガタと揺れる心を埋めてくれたのはウタだ。

 初めてできた同年代の……友達。初めは生意気で嫌味な奴だと思っていたのに、いつの間にか彼女と一緒に過ごしているのが楽しいと思うようになった。

 モノトーンにくすんで見えていたフーシャ村での日々が、色鮮やかで輝くような毎日に変わった。

 時々、ウタはシャンクスと航海に出てしまって、その間はまたつまらなかったけれど。けれども、また戻ってきて会えると思えばそれも堪えられた。

 そうして、やっと航海から帰ってきた時には一番先にみんなを、ウタを迎えに行って。いろいろな冒険の話を聞いて、そしてまた勝負をするのだ。

 いつも通りの、いつまでも続くような毎日。

 

 ……もちろん、シャンクスたちもずっとここに居続けるわけではない。海賊は自由だから。そんなことはわかっていた。だから、いつかお別れをしなければならないとも知っていた。

 ……けれども──

 

「──なんで急にいなくなっちまったんだよ」

 

 突如として胸にぽっかりと空いた穴。

「帰ってきたら、少しは強くなってるか試してあげる!」

 そう言ってたのに、ウタは帰ってこなかった。

 歌手になるために船を降りた。シャンクスはただ一言、そう言った。

 

 

 

 あれから、随分と時間が経った。

 ウタがいなくなった後、シャンクスとは絶交していたこともあったけれど、それでもいつも相手をしてくれて、命まで救ってもらった。彼がいたからこそ、ルフィはウタがいなくなってもどうにか立ち直ることができたのだ。

 それでも、あまりにも大きな喪失感は決して癒えることはない。忘れようにも忘れることのできない日々を、ルフィはどうにか脳みその隅っこに追いやって生きてきた。初めうちはそれでも辛かったけれども、エースやサボとの出会い、そして修行の日々。過ぎていくときの流れの中で少しずつ、少しずつ痛みは消えていき、やがてもう気にならなくなったはずだった。

 

 今日までは。

 

 ウソップたちの話によれば、ウタは歌姫と呼ばれていて世界中で大人気なのだという。

 二人で新時代を誓ったあの日に聞いたウタの夢。自分の歌で世界中を幸せにするという、そんな夢。

 歌手になると言って消えた彼女は、もしかすると自分の夢を叶えたのだろうか。

 

 ルフィはトーンダイアルのスイッチを入れた。

 

 流れ出すのは彼女の代表曲、「新時代」。

 力強く、それでいて透き通った歌声が高らかに歌詞を紡いでいく。

 世界中の皆に音楽を、夢を、未来を、新時代を。

 歌に込められたのは彼女の決意。それは今なお苦しんでいる人々の依代となり、道しるべとなり、そして救いとなる。そう、彼女こそが救世主なのだ。

 

 「新時代」が終わると、トーンダイアルからはまた次の曲が流れだす。

 ルフィは歌を聴きながら、ゆっくりと目を閉じた。

 

「……ウタ、お前……」

 

 彼女の歌は、確かに素晴らしいのかもしれない。世界中の人が認めるのも、当たり前なのかもしれない。

 けれどもルフィは知っている。赤髪海賊団の音楽家、ウタの歌う歌を。

 

「……全然楽しくなさそうじゃねェか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお!着いたぞ、エレジアああああ!」

「どうやらまだライブは始まっていないようね。良かったわね、チョッパー」

 

 1時間後。無事にエレジアへとたどり着いた麦わらの一味は、船を港につけてエレジアの地に降り立っていた。

 

「おお、やっと着いたか。で、ライブ会場ってのはあっちか?」

「おいゾロ、そっちはスーパー!に正反対だぜ」

「オラ、迷子マリモはフランキーの肩にでも乗せてもらってろ」

「ああん?」

「はいはい、喧嘩はやめなさい。……あれ、ルフィは?」

 

 キョロキョロとあたりを見回すも、ルフィの姿がないことに気付くナミ。いつもならば島に着くなり船を飛び降りているのだが、いったいどこにいるのだろうか。

 

「まさかあいつ、もうライブ会場に……」

「いや、ルフィならちょっと前に部屋に行ってそれっきりだ」

 

 ナミの問いかけに答えるウソップ。返答を聞いたナミは、たっぷり十数秒かけてから首を傾げて尋ねる。

 

「……嘘?」

「いや噓じゃねェって!」

「あのルフィが……サンジ君!ちょっと部屋にいるルフィの様子見てきてくれる?」

「もちろんです、ナミさ~ん!……ん、ルフィ?」

 

 サンジは脊髄反射で返事をした後、ふと首を傾げる。ルフィの様子を見るとは何事だろうか。こんな新しい島に上陸するというタイミングで、ルフィが部屋にいるなんて。いくつもの?マークを頭に浮かべながら、サンジは男部屋の扉をコンコンコンとノックする。

 

「おいルフィ、もうエレジアに着いたぞ」

「…………」

「?」

 

 声を掛けるも返事はない。エレジアと聞けば飛び起きて来そうなものを、一体どうしたのだろうか。

 サンジは扉を開けて部屋の中へと入る。ハンモックの一つを覗き込んでみれば、見慣れた麦わら帽子が顔を出す。

 

「こいつは……」

 

 どうやらルフィは寝ているようだ。帽子の下から小さく寝息が聞こえる。手に何か硬く握りしめているのはトーンダイアルだろうか。

 よく耳を澄ましてみれば、寝言か何かを言っているような気がする。けれども、サンジはそれを聞こうとするほど野暮な男ではなかった。

 仕方ないと首を振ると、静かに部屋の扉を閉めて外へと出ていった。

 

「サンジ君、ルフィは?」

 

 再び船から降りるとナミが駆け寄ってくる。どうやら部屋に行っている間、一味の皆もルフィがいないことに気付いていたようで、全員がサンジの言葉を待ちわびている。視線を一身に浴びながら、サンジは大きく首を振るとナミに向かって答えた。

 

「ぐっすりだ。ありゃ当分起きないだろうな」

「ええ!?ルフィ、なんか体調でも悪いのか!?」

「いや、本当にただ寝てるだけって感じだ」

「ルフィが……珍しいこともあるものじゃのう」

 

 一様に驚く一味。そんな中、どこかしら納得した様子なのはブルックだ。

 年の功によるものなのか、ルフィとウタにただならぬ関係があるのではと感づいている彼は、このこともきっと彼女絡みなのではないかと推測する。ならば、今ここで自分たちができるのはしばらくルフィをそっとしておくことだろう。

 

「それならば、仕方がありませんね。皆さん、私たちだけでもひとまずライブに向かいませんか?もうすぐ始まってしまいますし」

「でもルフィが」

「ナミさん、きっと大丈夫ですよ。ルフィさんもすぐにやってくるはずです。彼が自分の意思で寝ているというのならば、今はそっとしておいてあげましょう」

 

 やさしく、諭すように語り掛けるブルック。そんな彼の言葉に、一味の面々は頷く。

 ルフィならば心配はいらないし、それにライブが始まったならすぐに飛んでくる。

 そう、彼らは信じているのだ。己の船長を。

 

 そうして、ルフィ一人を残し、麦わらの一味はライブ会場へと向かった。

 

 

 

 

 

「ん……あれ、寝ちまったのか」

 

 ハンモックから起き上がり、眠たい目を擦るルフィ。

 ふと異物感を感じて視線を下に向けてみれば、その先には硬く握られたトーンダイアル。

 それを見て、ルフィはずきりした痛みを思い出す。あんなに楽しそうに歌っていたはずのウタは、どうして今、こんなにも苦しそうに歌っているのだろうか。

 そこまで考えて、ルフィはふと周りに気配がしないことに気付いた。

 

 

「よっ……っと」

 

 部屋を出て、サニー号から飛び降りるルフィ。どうやら寝ている間にエレジアについていたらしい。

 しかし、着いてみればいいものの、とてもではないが話に聞いていたライブをやるような状況ではないように思う。

 雨がぱらつく島は霧に覆われていて薄暗く、活気も何も感じられない。祭りと言えばそこら中で食べ物が振舞われているはずなのに、それもない。

 

「んー、どうすっかな……」

 

 しばし考えた結果、ルフィは決断する。

 

「取り敢えず、あのなんかデカい白いやつまで行くか!」

 

 ルフィの言うそれはアーチ状の屋根。奇しくも、今回のライブ会場となっている場所だ。

 目的地を定めると、ゴム人間はその弾性を存分に生かして大きく腕を伸ばし、ロケットのように飛び出した。

 

 このエレジアは不思議な島だ。

 歌姫のライブなどという大きな祭りを開いているはずなのに、街には一切の賑わいがない。それどころか、まるで廃墟だ。ボロボロの建物には植物のツタも絡んでいることから、だいぶ昔からこのままのように思われる。

 不思議なところはそれだけではない。何故かこの島にはたくさんの海兵がいるのだ。

 

「……!また来る!」

 

 見聞色の覇気で気配を察知すると、ルフィはその場を立ち去る。

 先ほどから、何度もこのような場面に遭遇していた。どうやら海兵は海賊を捕まえに来たわけではなさそうで、何か探し物をしているようだ。現に、ルフィの見聞色でも敵意は感じられない。やる気のないやつをぶっ飛ばす気もしないため、こうして逃げ回っているのだが如何せん数が多い。

 

「うーん、やめた!」

 

 そうして、遂にルフィは諦めた。ちまちまと隠れているのは性に合わない。

 全速全力で目的地まで最短で突っ切る。それこそがルフィに一番似合う道だ。

 

「うおおおおおおおおおおお!」

「な、なんだ!?」

「邪魔だァ!」

 

 

 幸いなことに、霧で不確かな視界と目撃者を次々となぎ倒していったこともあり、ルフィがここにいるということに気付かれることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「ハア……ハア……!」

 

 ルフィは膝に手をつくと、荒い呼吸を整えて前を向く。

 全速力でたどり着いたその場所は、どうやらライブ会場のようだった。

 霧で視界は十分ではないが、白い石造りの舞台は所々ひび割れており、見えている限り、スタンドと思しき場所は草が伸び放題に生えているように思える。

 ステージとなっている離れ小島には海水が入り込んでおり、突き出た岩はさながら孤島のようだ。

 

「なんだ、ここ?」

 

 ルフィの息も整ってきたところで、周りの霧が晴れていく。

 徐々に見えてくるスタンド、そしてメインステージの様子。

 歌姫の初めてのライブで盛り上がっているはずのそこには、異様な光景が広がっていた。

 スタンドに生えた草に埋もれるようにして、倒れこんだ大勢の人たち。孤島のようになった岩の上にも、幾人か倒れている人たちがいる。

 もしルフィがそちらのほうをよく見ていたのならば、その倒れた人の中に見知った顔──同盟相手や海軍将校、かつて戦ったCPの諜報員、そして何より大切な仲間たち──を見つけられたかもしれない。

 

 

 

 けれども、ルフィの目に映っていたのはただ一人。

 メインステージに立った、どこかで見たことのある少女だけだった。

 

 左右で染め分けられた、赤と白のツートンカラーの髪。

 うさぎのような耳とおさげが特徴的な髪型。

 鈍く光を放つ、菫色の瞳。

 ”UTA”と刻まれた大きなヘッドセット。

 

 あの頃と何もかも同じだったわけではない。

 けれども彼女が、あの黄金色の日々の中にいた彼女が、そこにはいた。

 

「……っ」

 

 色々と言いたいことはある。聞きたいこともある。

 ともすれば、堰を切ったように溢れ出す思いの丈だけ。ルフィはそれらをグッと堪えた。

 彼女に見せつけてやるのだ。最後に交わした言葉の通り、強くなった己の姿を。

 目深に被り直した帽子の下で、少し滲んだ視界を元に戻す。

 そうしてルフィは、大きく息を吸い込んだ。昔と同じように、航海から帰ってきた彼女を出迎えるように、その名前を呼ぼうとして──

 ──そして気付いた。

 

 彼女を取り囲むようにして銃を向ける海兵たち。

 刀に手を掛け、ギロリと睨みを効かせるどこかで見た中将。

 仕込み刀を構えながら彼女に近づいていくトバクのおっさん。

 

 自分のいちばん大切な幼馴染が明確な敵意に晒されている、そんな光景に。

 

 その瞬間、ルフィの中で()()が弾けた。

 

「お前ら……」

「!?」

 

 突如として発せられた圧倒的な威圧感にギョッとして振り返るモモンガ、仕込み刀を抜く藤虎。

 彼らの視線の先、麦わら帽子の奥から怒りが爆発する。

 

「ウタに何やってんだああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あらすじのボツ案

人はいつ死ぬと思う…?
ネズキノコをたらふく食った時……違う
レッド・フォース号の甲板で棺が囲まれていた時……違う
誕生日に公式から死亡宣告された時……違う!!!
……人に書かれなくなった時さ……!!!
彼女が消えてもルウタの夢はかなう
”書き継ぐ者”がいりゃあな

さすがに人目に触れやすいあらすじで派手にネタバレするのはNGなのでボツ

追記(10/7):最後の場面の心情描写を少し書き加えました。また、誤字の修正を行いました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。