彼が歌姫の名前を聞いたならば   作:ペトラグヌス

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暗いステージと豪雨のエレジアで

 ルフィとウタが現実世界で抱き合っていた頃。

 ウタワールドの中ではそんなことも露知らず、五線譜に磔にされたサンジがどうにか脱出しようともがいていた。 

 

「クソッ、ダメだ、ビクともしねェ!」

「無様だな、エロコック」

「てめェも動けねェだろうがアホ剣士!」

 

 磔にされていたのは何もサンジだけではない。麦わらの一味はルフィを除いてその全員がウタによって捕らえられてしまっていた。

 しかしながら、いくら頑張ったところで拘束は一向に外れる気配がない。ウタが休憩に入り会場にいない今が絶好のチャンスであるのだが、なかなかそううまくはいかないようだ。

 

「ウタがいきなりこんなことをするなんて……海賊嫌いとは知ってたけど……」

「それにしちゃあタイミングが妙じゃねェか?ウタはおれたちのことを海賊とは知らなかったみてェなのによォ」

 

 すっかり諦めてため息をつくナミの言葉に対して、疑問を投げかけるフランキー。

 そう、ウタがライブを楽しんできた麦わらの一味の下にやってきたのは、海賊だとバレたからではない。むしろ、観客たちの言葉で目の前にいるのが海賊だと気づいたようだった。

 

「物事には必ずきっかけがある。ウタが突然襲い掛かってきたのにも……」

「きっかけかァ……。確か、あの時は……」

 

 横向きで寝転がるような形に拘束されたロビンが呟いたその言葉に反応したのはウソップだ。瞳を閉じて、当時の状況を思い出そうと試みる。

 

 

 それはライブが始まってからしばらく、海賊騒ぎから7, 8曲ほどの歌唱が終わったころであった。

 初めはウタのライブに心が浮き立っていたウソップも、こんなに大騒ぎしているのにも関わらず未だルフィがやってこないことに疑問を抱き始めていた。

 普段のルフィであれば何も心配することはないのだが、ライブ前のサニー号での出来事が脳裏をよぎる。あの時の普通でないルフィの様子を考えれば、何事かが起こっている可能性も否定はできない。

 何より、せっかくのライブを、ウソップはルフィと共に楽しみたかった。

 

「……おれちょっとルフィ呼びに行ってくるわ!」

「ええ~!?ウソップ、もう次の曲始まっちまうぞ!?」

 

 ウソップの言葉に驚くチョッパー。全身ライブ仕様の彼は、同じく派手に衣装まで着替えるほどこのライブを楽しみにしていたはずの狙撃手に向かって疑問の視線を投げかける。それに対して、ウソップは笑いながら言った。

 

「曲も聞きてェけどよ、やっぱあいつがいねェとどうにも盛り上がりが足りねェっつうか何というか……ルフィにもプリンセスウタの生歌を聞いてもらいてェしな!」

 

 一味の宴の中心にいたのは、東の海の頃からずっとルフィだ。こんな盛り上がるシチュエーションだというのに、主役がいないのでは不完全燃焼だろう。同じことを思ったのか、頷き返すチョッパー、そして一味の面々。その様子を見て、サニー号へ向かおうと踵を返したウソップの背中に声がかかる。

 

「そういう事ならわしも付き合おう」

「いいのか、ジンベエ?」

「勿論だとも。それに、小舟で戻るよりはわしに乗っていった方が速い」

 

 声の主は先ほどからルフィのことを気にしていたジンベエだ。サニー号を泊めたエレジア本島からライブ会場となっているこの小島までは、小舟を使って来るようになっている。ジンベエがいれば、海を進むのもあっという間であろう。申し出に頷くと、ウソップは二人連れ立って小高い岩に刻まれた階段を下っていく。そうして、ようやく海面近くまでたどり着いた、その時だった。

 

「おーい、そこの人たち!何してるのー?」

 

そんな言葉と共に、ウタが一味のいる岩へと近づいてくる。ふわふわと宙に浮かぶ音符を従えて飛んでくる彼女に、サンジは目をハートにして迎え入れるかのように腕を広げた。

 

「うおおおおおおおお!ウタちゃんがこっちに!!!!」

「U・T・A!U・T・A!」

「ウタさーん!もしよろしければ……」

「やめろ!」

 

 歌姫が目の前にやって来るというまさかの出来事に、感激してただただコールを繰り返すチョッパー、どさくさに紛れていつものセリフを言おうとするブルックとそれを全力でボコボコにして阻止するナミ。ウタの到来に一味はてんやわんやの大騒ぎだ。

 自らのファンと思しき彼らのそんな楽しげな様子に、ウタは笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「みんなライブを楽しんでくれてるみたいでよかった!……だけど」

 

 そこで一旦言葉を切ると、彼女の視線は少々下の方へ向けられる。菫色の瞳の先にいたのはウソップとジンベエだ。

 

「お、おれか?……ど、どうするジンベエ、あああのプリンセスウタが……」

「落ち着かんか。……して、わしらに何か用か?」

「……二人とも帰ったりはしないよね?まだまだライブは途中だよ?」

 

 どこか不安げな様子で問いかけてくるウタ。なるほど、彼女にとっても初めてのライブ、ファンたちが楽しんでくれているかどうか、満足してくれているのかどうか不安なのだろう。そう考えたウソップはファンとしてその不安を打ち消すべく、明るい声で返事をする。

 

「帰るなんてとんでもねェ!ただ、ちょっと船に戻る用事があって……」

「用事なんてさ、忘れちゃおうよ!ここにいればもっと楽しいことがいっぱいだよ!」

 

 突如発せられた大きな声。ウソップの言葉を遮るようにしてのそれはどこか必死さを孕んでいて、ジンベエは怪訝そうな表情をする。

 船に戻る、その言葉を聞いた瞬間、ウタの中にある種のパニックが生じた。ここはウタワールドの中、港に行っても船などない。

 ここが新時代なのだ、戻る必要なんてないじゃないか。ここはとっても楽しい場所なのに、なんで戻るなんて言う事を言うんだろうか。意味が分からない、訳が分からない。私は、みんなを救おうとしているのに。ウタの内面で焦りと苛立ちが渦を巻き起こしていく。

 

「忘れるっつっても……」

 

 困惑したウソップの言葉など、もはやウタには届かない。どうしよう、どうすればいい、予想外のファンの行動にフリーズしてしまうウタ。

 その様子に、観客たちもまたざわめき始める。彼らはウタの凍り付いたような表情を見ると、そのすぐ近くにいる集団のことに気付いた。

 

「あれって……」

「あの鼻……”神”ウソップじゃないか……!?」

「嘘だろ、億越えの賞金首の……!?」

「それだけじゃねえ……!あいつら、やっぱり麦わらの一味だ!」

「五番目の海の皇帝の……!?」

「そんな大海賊が何でこのライブに……」

「あいつらもウタを狙ってるんじゃないか!?」

「ウター!悪い海賊に負けないで!」

 

 "海賊"と対峙するウタに声援をおくる観客たち。その4文字は、するりとウタの耳へと吸い込まれていく。

 なんだ、こいつらはみんなのためのライブを邪魔しに来た悪い海賊だったのか。だったら、捕まえて、懲らしめてもいいよね?むしろそうするべきだよね?

 チリチリとした焦燥感に苛まれていたウタの中に湧き出してくる安堵。そして敵意。いつの間にか心の内で燃え広がり始めていた凶暴性が発露される。

 

「なんだ?こいつら……」

 

 そのゾロの呟きは、一味全員の言葉を代弁していた。

 先ほどから宙を舞っていた音符。それが姿を変じ、槍と盾を持った人型が次々と生み出されていく。彼らは一味のいる岩を取り囲むように整列し、揃ってその槍の穂先を前へ突き出した。

 

「あなたたち、悪い海賊だったんだね。私は『海賊嫌いのウタ』。……みんな私のファンなんでしょ?海賊なんてやめてさ、ここでずっと一緒に楽しく過ごそうよ」

 

 そうして告げられる最後通牒。それに対する返事は、決まり切っていた。

 

「「「「「「「「「断る!!」」」」」」」」」

 

 驚きや困惑がないわけではない。しかしながら、己たちには海に出てやらねばならないこと、成し遂げたい夢がある。それをこの場にいることを強制されて妨げられるなど御免被る。そう、海賊は”自由”なのだ。

 

「……そう。残念、じゃあみんな歌にしてあげる!」

「U・T・A!U・T・A!」

「U・T・A!U・T・A!」

 

 ウタの宣言とともにコールを始める観客。青空の下にあったはずのライブ会場はいつの間にか屋根に覆われ、暗い場内にサイリウムの灯りが星のように瞬く。

 その暗闇を裂くようにして浴びせられたスポットライトの光の中で、彼女は大きく手拍子を始めた。

 会場に鳴り響く乾いたクラップ音を合図として、場内に響き渡るバックバンドの演奏。その最初の一音を聞いた瞬間、観客たちは一つになって両の掌を打ち鳴らす。

 異様な熱気と歓声、乱舞する緑色のレーザー、徐々に上がっていく楽曲のボルテージ。やがて、ドラムの音とともに戦いの火蓋が切って落とされる。

 

「……来るぞ!」

 

 ゾロがそう叫ぶや否や、周囲を取り囲む人型、ウタの生み出した音符の戦士から発射されるロケット弾。

 斬撃で、電撃で、植物で、水滴で、機銃で、迎撃されたそれの爆音と爆風をも演出に変え、歌姫のステージが始まる。

 曲名は「逆光」。海賊への怒りを込めた、そんな曲だ。

 

 槍を振るい、機銃で弾をばらまき、ロケットランチャーを放ち、次々と襲い掛かる音符の戦士たち。そんな彼らに対して、一味は各々の技を繰り出して対抗する。

 ゾロが三刀流の剣技で盾ごと真っ二つに両断すれば、サンジも負けじと赤熱した脚で盾を砕いて攻撃を浴びせる。たまらず宙を飛んで距離を取る音符の戦士。しかし、空中とて逃げ場はない。ロビンの能力で咲いた手が関節技を極め、ウソップの正確な偏差射撃が次々と戦士たちを無力化していく。ならばと遠距離から機銃を掃射すれば、チョッパーの毛皮によって攻撃を防がれ、お返しとばかりのフランキーの弾丸に風穴を開けられる始末だ。

 海のほうに視線を向ければ、豊富にある海水を弾丸と化して発射するジンベエに水面を走っては斬って走っては斬ってと遊撃にまわるブルックの二人によって散々に蹴散らされる戦士たちの姿が。

 極めつけは、小さな雷雲を生み出して雷撃を繰り出すナミ。射線上にいたサンジをうっかり巻き込みながら、その一撃は当たるまで確実に敵を追跡していく。

 まさに圧倒的というべき麦わらの一味の戦闘力。それを目の当たりにした観客たちは、しかしウタの勝利を疑ってはいなかった。

 

 ウタの歌唱とともに、無数に現れ続ける音符の戦士たち。一体一体は強くなくとも、終わりの見えない戦いは肉体的精神的疲労を強いる。

 そして、その終わりは突然やってきた。

 

「きゃ!?」

「!……ナミさん!」

 

 曲がラスサビに突入するとともに、ウタの両手の十の指から都合10本のレーザーが放たれる。腕ごと薙ぎ払われたそれは一味の面々を通り過ぎる直前に実体化し、ぐにゃりと形を変えて二つの五線譜を成した。

 五線譜はまずナミを、続けて悲鳴を聞いて駆け付けたサンジを、順々に捕まえていく。ウタが歌とともに両の腕を振り終わった頃には、麦わらの一味は虹色の繭一つに丸め込まれていた。

 

 そうして「逆光」を歌い終わったウタ。歓声の中、彼女はファンに向けて手を振るとともに、繭を宙に浮かべて広げていく。譜面がピンと張り終わったとき、そこに現れたのは磔にされた一味9人の姿があった。

 世界の歌姫が、海の皇帝の一角を見事捕まえて見せたのだ。観客席からは今日一番の歓声があがった。

 

 

 

「……ありゃ、おれがルフィを呼びに船に戻ろうとした時か?プリンセスウタがおかしくなったのは」

「恐らくはそうじゃのう。あん時は何やらウタの様子も妙じゃった」

 

 ポツリと呟くウソップ。一通り当時のことを思い出して見ると、そもそものきっかけは船に戻ろうとした二人が見咎められたことだ。もう片割れのジンベエも、ウタの言葉の端から感じられた焦りのことを思い出す。船に戻るということは、彼女にとってのタブーか何かなのだろうか。

 

「船に戻る、という言葉への過剰な反応……もしかして、彼女は私たちを永遠にこの島に閉じ込めようとしているのかしら……」

「相変わらずコエ―よ!想像が!」

 

 不吉な思考回路の元、自分の推測を口にするロビン。それに対して、チョッパーは鋭くツッコミを入れた。こんな状況でもいつも通りなやり取りを繰り広げ、ある種なごんだ様子を見せる一味。

 なお、この推測は実際ほとんど正しいという事を、彼らはまだ知らない。

 

「それと、もう一つ気になったんだけれど……彼女の歌にする、という言葉はどういう意味かしら?」

「……確かに、よく見れば私たちが磔にされているこれ、何かのメロディを表しているみたいですね。頭の位置が音符の符頭の代わりになって……」

 

 先ほどの推測はさておき、またもや何かに気が付いたロビン。彼女の気付きを汲み上げたのは、一味の音楽家であるブルックだ。自分たちが磔になっている五線譜を改めて一見することで、乱雑に磔にされたようなこの状況がメロディという法則性に従っていることを発見する。

 手探りで進んでいた闇の中にさした、僅かばかりの光明。それを頼りにこの状況を脱却する手立てを見つけるべく、ブルックは無い目を凝らして五線譜全体の様子を探ろうと試みて──

 

 ──突如、一味の目の前の空間が丸く切り抜かれた。

 

「!?」

「……こいつァ!」

 

 どこかで見た覚えのある光景に、サンジとフランキーが警戒を露わにする。かつてロビンを奪還すべく乗り込んだ海列車で、CP9のブルーノが見せたドアドアの実の能力。空気にドアを作り出し異空間を移動するその技を、彼らはかつて目の当たりにしていた。

 しかし、身構えていた二人の目に飛び込んできたのは、ピンク色の髪の毛。

 

「……楽譜に気が付くとは、流石は麦わらの一味ですね」

 

 空気開扉(エアドア)の向こうから顔を出したのはコビーであった。

 

 

 

 

 

 先程までは静かだった廃墟の外には、いつの間にか滝のような轟音が鳴り響いている。どうやら、止みかけだった雨が再び強く降ってきたようだ。

そんな中、ルフィは未だに座り込んだまま、ウタの消えた虚空を呆然と眺めていた。

 

「ウタ……」

 

 やっと会えたはずの幼馴染。それがどうしてこんなことになってしまったのだろう。

 ルフィの心の深い底の部分。柔らかくて、暖かい、そんな部分を共有できる、かけがえのない存在だったはずのウタは、いつの間にか変わって──

 

 ──いや、変わってなどいない。意地っ張りなところも、お姉さんぶろうとするところも、実は優しいところも。

 ウタの心の根っこの部分は、あの頃と何一つ変わっていない。ルフィはそう断言できる。

 

 ……それなのに、どうしてこんなにも遠くに離れてしまったように感じるのだろうか。

 物理的に離れていた時よりも遠く感じる心の距離。一度彼女の温もりを思い出してしまったからこそ、孤独が一層寒々しくルフィを苛む。

 胸が痛かった。堪らなく、どうしようもないほどに。傷を負ったわけでも無いのに、胸のその内側、心臓がギュっと握りつぶされるかのような苦しさ。

 それは、エースを喪った時とは似て非なる心の痛みだ。

 

 先ほどウタに抱きしめられた時。ルフィは、自分の鼓動が早くなっていることをはっきりと感じた。背中に背負っていた時におぼろげながら感じた感覚を、今度は確かなものとして。

 最初は、こんなことは初めてのことだと思っていた。こんな妙な気分になるのは、今までになかったことだと思っていた。

 ……けれども、それは違った。ウタと話して、笑い合って、触れ合って。そうして封じ込めていた思い出が、想いが、蓋を突き破って出てくるたびにわかった。わかってしまった。

 あの頃、ウタと一緒にフーシャ村で過ごしていた頃に、こんな気持ちになったことが何度もあったということが。

 

 すぐ馬鹿にしてくるし、ズルをしてばかりだけれども、一緒にいるといつもより楽しい。普段、ルフィがウタに抱いていたのはこのような感情だった。

 けれども、時折……例えばこちらに対して微笑みかけてくる彼女を見た時や、無理やり手を引かれながら村を二人で歩き回っていた時。そういう時には、なぜだか胸が昂って、身体が熱くなって、どこか落ち着かないような感じがした。

 

 何時しか……そう、ウタがいなくなってから、久しく感じていなかったその感覚。

 12年間でルフィは様々な経験をしてきた。コルボ山での日々はフーシャ村でのそれと違って毎日が刺激的で、楽しいことも、悲しいことも、苦しいことも、たくさん経験した。海に出てからも、かけがえのない仲間たちをはじめ、色々な面白いやつ、そして強敵達といった出会いを重ねてきた。出来事も重ねてきた。

 それなのにも関わらず、ウタに対するこの気持ちだけはあの頃に見つけた……いや、置いてきたままだ。ドキドキして、ワクワクもして、けれどもズキズキと痛む、この気持ちは。

 

 ルフィは昔マキノから聞いた話を思い出す。確か、ウタがいつもズルい手を使ってばかりだとか、そういう愚痴を酒場でしていた時のことだ。

 それは”ケッコン”というものの話だった。何でも、好き合った人どうしがするものらしい。

 ルフィにとって、好き、と言われてすぐに思いついたのはシャンクスたち海賊のことだ。そのことをマキノに言うと、彼女は意味深に微笑んだ。ルフィもいつか”好き”が分かる時が来る、そう言って。

 

 それからのルフィの冒険の中でも、何度かその言葉を聞く機会はあった。スリラーバーグのローラ、そしてハンコックの口からだ。

 誰彼構わず求婚していたローラは置いておくにしても、ハンコックに関しては色々な恩もあるし、好きでもある。けれども、ルフィは結婚を断った。話に聞いたように所帯を持って落ち着くというのはまだ冒険がしたいルフィにとっては嫌だったし、それに彼女に対する”好き”はマキノから違うと言われたシャンクス達に対するものと同じだと直感的に感じ取ったからだ。

 

 ……なら、ウタは?

 

 ルフィはウタのことも好きだ。けれども、その”好き”は果たしてどの好きなんだろうか。

 心が離れ分かたれて、そのことに鋭い痛みを発しているのが何よりの答えのような気がした。

 

 

 

 

 

 雨は未だに降り続き、止む気配はない。それでも、いつまでもここに留まっているわけにはいかないだろう。

 正直なところ、ルフィにはどうすればいいか何もわからなかった。

 心は相変わらずぐちゃぐちゃのままだし、何かを考えるのはからっきしだ。

 サンジのように相手の心情を慮ることもできないし、ロビンのように何か新しい情報を見つけられるわけでも無い。

 けれども。他に何もわからないけれども、それでも自分のやりたいことだけははっきりとわかる。

 

 ウタを助けたい。

 

 何かがあって、何かに苦しんでいる彼女を。何もわからないけれど、それでも助けたい。

 だって、ルフィは確かに彼女の助けを求める小さな心の声を聞いたのだから。

 

 脚に今一度力を込め、ルフィはゆっくりと立ち上がる。

 今度こそは彼女の手を掴むために。そして、もう離さないために。

 

 一歩ずつ歩を進めて外に出れば、全身に激しく打ち付ける雨。重く立ち込める鈍色の空の下、遠くに霞むライブ会場をルフィは見つめる。

 そこにいるはずのウタまで届くように、ルフィは風雨を切り裂いて叫んだ。

 

「ウタあああああああああ!!今行くぞおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ルフィ」

 




幼少期の初恋が突然いなくなったせいで恋愛感情を全部まとめて持って行かれちゃったという概念、あると思います
結婚って言葉は原作でも知ってることが明示されてる以上そういう感情がないわけではないと思うんスよね
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