まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
織莉子とキリカに会った一週間後ぐらいのことだった。ワルプルギスが来るまではまだ時間があり、魔法少女たちは通常運転であった。魔女が出れば狩りに行き、何もなければ普通の中学生活を過ごしている。
まどかとほむらは学校から二人で帰る途中だった。ここのところ知る限りの魔法少女の説得にあたっていたので、二人きりの時間が少なかったのもある。久しぶりの二人きりの時間に胸を踊らせて歩いていた。普段学校ではニコリともしないほむらがにやけているのがその証拠である。だがそのにやけは親しい人にしかわからないのであまり意味はない。
「ねえほむらちゃん」
まどかは今も魔法少女姿を幻惑で偽装している。ポフポフと手のひらから炎の魔法を発動してコントロールする練習をしながら尋ねた。
「どうしたのかしら?」
ループを繰り返していく中で冷静に話そうとするくせが身についていた。それが抜けきらないがゆえの口調でほむらは返した。
「何回かいろんな魔法を使ってみてるんだけどどれもこれもしっくりこないんだ」
今まで使ったのは魔法銃、魔法陣からの光線、鎖を使った拘束魔法、自分を制服姿に見せる幻覚魔法、防御魔法、ソウルジェムの穢れを取り除く魔法などだった。
こうして見てみるだけでも多い。ベテランと言われるマミが物の強化に銃の召喚、リボンに防御結界を使えるようになったのは長年の独自研究の成果である。
ほむらも多い方かもしれないが、それはループを繰り返した経験の差である。
たった数週間。それも魔女との戦闘をあまりこなさず、これだけの魔法をまどかは修得しているのだ。
「私本来の魔法や武器ってなんだろう」
まどかがこうして疑問に思うのも無理はない。
本来、魔法少女は願いに応じて何かしらの魔法が得意になるし、それに見合った武器となる。
まどかが規格外なのだ。
全ての魔法が他の魔法少女の得意な魔法と同じぐらいに使えるだけの才能を秘めている。当然武器も固定のものがない。
もちろん、いくら魔法が強くてもそれを扱う技量までは同じではない。
例えばまどかが遅延の魔法でキリカに挑んだ場合、経験の差でキリカに負けることだろう。
まどかの強みはその魔法の出力と多彩さにある。
ほむらは今までのループを思い出し、少し考えて口にした。
「弓矢じゃないかしら」
ほむらの脳裏に過去の光景がフラッシュバックする。幾重と繰り返した時の輪の中での記憶で、まどかはいつも弓を使っていた。最初に使っていたのも弓矢だった。まどかの髪と同じ色の、ピンクの弓矢。
「あなたはどのループでも弓矢を武器としていることが多かったわ」
それにしてもまどかにとってしっくりこないということは、その魔法は本来は得意ではないということだ。願いで強化されているから使えているだけなのだ。
なのに普通の魔法少女を凌ぐあの威力とはやはり格が違う、とほむらは改めてまどかの桁外れの才能を感じた。
彼女が経験を積めば、魔法少女が束になっても敵わないだろう。
かといってまどかに恐れを抱くなどほむらにとってあり得ないことではあるのだが。むしろ多大なる愛情だけが増大している。
(と言ってもその才能の原因が私にもあるとはキュゥべえに言われたわね。私のループで因果がまどかに集中した、ともね)
「そっかーじゃあ本気を出していい時は弓矢を使おうかなぁ」
自分の役割や存在意義について思うところのあるまどかは自分の個性の欠片を見つけてはにかみながら言った。その中には、ほむらが何度も自分の為に頑張ってきてくれたのにそれを苦労とも思わせない態度に思わず喜んでしまった部分もある。
「ワルプルギスの夜に対しては少し手加減してほしいわ。市街地が戦いの舞台なんだから」
それに、ワルプルギスの夜以外の結界の中の魔女ならば本気を出すまでもなく瞬殺だろう。効率も何も考えず、一撃必殺級を連発すればいいのだから。
それなら近づかず、遠距離の弓で仕留めても構わないのだが、ほむらは違うことを心配していた。
「本気は出しちゃダメなのかな」
ほむらはやや不満げに言うまどかに、
「いくらあなたが破格の素質を持っているとはいえ、まだ魔法少女になってから一ヶ月も経ってないのよ」
強力な技はそれだけ隙を大きくする。まどかの小技が他の魔法少女の攻撃とさほど変わらないのだから、できるだけ安全に戦ってほしいというのがほむらの意見だった。
まどかなら安全に魔女と戦える。その気になれば周りに防御結界を張って、遠隔操作で武器を使うことだってできるはずだ。
「ほむらちゃんたら過保護なんだから。心配しすぎだよ」
まどかはいつも自分を心配してくれるほむらに嬉しくもあり、面映ゆくもあった。
守られるだけじゃない、守るための力を願ったのだから。それだけがまどかの強さであるのだから、もっと頼ってくれればいいのに、と。
しかしこれまでもほむらはまどかの強さに頼ろうとは思わなかった。話し合いの通じる人にはそれで納得してもらうのが最善だと思っているし、今のまどかが誰かと争う理由もないと思っている。
ただし杏子はまどかに向かって突っ込んでいったので、戦いは避けられなかったが。
「あなたのことなんだもの。過保護にもなるわ」
凛としてまどかを見つめた。まどかもその瞳をまっすぐに見つめ返す。
「ありがとう。でもね」
「わかってるわ。貴女のことだもの。守られるよりも守る側でありたいって言うんでしょう?」
「うん」
ほむらは最初の方こそまどかに憧れていた。今もその感情がないわけではないが、長いこと繰り返していくうちに自分がまどかを守らねば、と気を張りすぎていたのかもしれない。
だがこれとそれとは話が別だ。まどかのことで妥協するなんてあり得ない。
「でもダメよ。貴女が全てを守りたいなら、自分も守らなきゃ」
ワルプルギスの夜さえ倒すことができれば、後は災害級の魔女など現れた報告はない。だから、後は自分のソウルジェムでも浄化しながら戦いとは無縁の生活を送ってほしい。ほむらはそう思っている。
「ワルプルギスの夜が来たら確実に倒すわよ」
「もちろん」
決意を新たに二人は手を重ねた。
それを遠くから眺めていた二人がいた。それは美樹さやかと上条恭介だった。晴れて思いを通じ合わせあった二人は一緒に下校するようになっていた。
特徴的なシルエットと、並んで歩く姿に見覚えを感じたさやかが気づいたのだ。
「あ、あれまどかと転校生じゃないかな」
まだリハビリを終えず、松葉杖を手放せないでいる恭介に寄り添いながらさやかが言った。
できるだけ自分の力でリハビリしたいという恭介の意を汲み、あくまで添えるだけだった腕をギュッと絡ませる。
「この前僕の腕を治してくれたときの二人? お礼また言っとこうかな」
恭介は長い入院生活で親しくないクラスメイトの顔は覚えていなかった。だから最初まどかを見たときはさやかと一緒にいたことがあるかも、ぐらいにしかわからなかったし、ほむらに至っては転校生であることに気づくことさえできなかった。
だからあまり親しくない自分を助けてくれたときは驚いていた。さやか繋がりであることはすぐにわかったが、どうしてそうなったのかという経緯まではわからない。
彼女たちのあれはなんだったのだろうか。その疑問は未だ払拭されていない。さやかが信じるというから何も聞かずに治療を受けたが、聞くタイミングを逃して今に至る。
「ううん、いいや。二人の邪魔しても悪いし」
もちろんまどかとほむらの仲は妬けるぐらいに良い。親友だと言っていたころが懐かしくなるが、ほむらの話が本当ならば仕方ない。ほむらはまどかのためだけに、地獄のような時間を繰り返してきたのだ。
私の一番は恭介だから、ほむらの一番がまどかで、その一番にまどかが応えたことに嫉妬するのはお門違いだ。
そのように折り合いがついているのだ。
「そっか」
そっけなく返したものの、恭介は意外だった。
まどかとさやかは仲が良いと聞いている。理由もあることだし、てっきり話しかけにいくのかと思ったのだ。
しかしさやかにとっては二つの意味で当然の選択であった。
「それに恭介ともう少しこうやっていたいな……とか」
さやかは自分で言っておいて照れていた。頬をかゆくもないのにかくフリをしている。口角が上がっている。
「自分で言っといて照れないでよ」
そんな反応をされると男の方も恥ずかしくなってしまうのだ。そのことを意識してしたのならとんだ悪女だが、さやかはとことん天然だからなおたちが悪い。
さやかの照れた顔の影に微妙な表情が浮かんでいるのを見逃さなかった。
「あのさ」
恭介のいつになく強い声音に思わずさやかは尋ねた。
「どうしたのいきなり真剣な顔して」
「いつか複雑な想いに囚われて動けなくなったら言ってほしいんだ」
眉をきゅっとひそめる恭介に、さやかはそんな顔をさせたくないとなんでもないようにいつも通りを装って聞き返した。
「なにいってるの?」
さやかは恭介の言いたいことがたまに掴めなくなる。
それはまるで自分の知らない自分を知っているかのようで、後ろめたいというよりは、恭介が少し遠く見えるのが寂しいのだ。だが今回は自分のためを思って言ってくれているだろうことなので、さほど寂しくはなかった。
「僕じゃなくてもいいし誰かに相談するなりなんなりしてさ」
恭介は自分じゃなければちょっとだけ嫉妬するかもねといじけるようなことを思ったことは言わなかった。それを言ってあげれば、さやかはもっと喜ぶのだろうが。
「私、今幸せだから大丈夫じゃないかな」
幼馴染の彼には、その顔に嘘がないことだけはわかった。自分を好きでいてくれて、それで幸せならばとても嬉しいことだ。だがそれだけでは恭介は騙されなかった。
「さやかがたまに妙な顔してるから、さ」
確かにさやかは今の状態を一点の曇りもない幸せだとは思っていなかった。
その想いに恭介が気づけるはずがないし、さやかが相談できるわけでもない。
いかに長年の幼馴染の好意に気づくことができなかったとはいえ、まだ恭介は敏い方ではないだろうか。
違和感のあるやりとりが続いてるうちは幸せなのかもしれない。