まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
ま、まさかの……
ほむらさんの意味深なセリフの意味がここで明かされる。
こうして見滝原の魔法少女達の平和な日常は取り戻された。
超弩級の魔女、ワルプルギスの夜はただの災害としてか認知されず、町の人々は避難だけでやり過ごすことができた。今は一人の魔法少女の元でグリーフシードとして眠っている。
それもこれも、魔法少女たちの裏での活躍によるものである。
これが御伽噺であれば、めでたしめでたしと終わることができるのだろう。魔法少女たちは幸せに暮らしましたとさ、結構なことだ。
だがそれでは終われないのがこの物語である。
住宅街を歩いて小高い丘の上まできた少女が立ち止まって振り返った。木々を揺らす風が吹いており、それに葉が舞う。
一人の少女が物憂げに見下ろすのは見滝原の街並み。それぞれの建物が光の加減を考えて作られており、独特の眩しさを作り出している。
少女は懐かしげに、そして気だるそうに言った。
「この景色もすっかり見慣れたわね。これで見納めかしら」
彼女は暁美ほむら。特殊な事情を持つ魔法少女である。
ほむらはこの町に来てから一年も経っていない。だが同じ時間を繰り返したことで、実質的にはその何倍も過ごしているのだ。
横について歩くキュゥべえにほむらは虫ケラを見るような目で見下ろした。
「いつも通り目障りね」
ほむらはキュゥべえを目の敵にしている。
キュゥべえが彼女……いや、魔法少女にしてきたことを考えればごく普通の対応である。
「君には随分としてやられたよ。君がいなければ、まどかから途方もないエネルギーが得られたのに」
キュゥべえは相変わらず感情のない声で言った。暗にまどかを魔女にできたのに、と。
キュゥべえは嘘を言わない。だから確かにほむらというイレギュラーがいなければ、まどかは魔法少女に、そして魔女になっていたということだ。
それはほむらのこれまでの努力が報われたということだった。自分の存在も無駄ではなかった。そう思えた。
「貴方から言われた言葉の中で一番嬉しい言葉だわ」
「君の存在にも説明がつくことだし、今度から気をつけるよ」
「それは失敗したわね。貴方のいないところで話せば良かったわ」
こんな軽口が叩けるぐらいの余裕があった。以前では考えられないことであった。
「まあなんとも思ってないけどね」
感情のないインキュベーターでなければとても滑稽な負け惜しみのように聞こえる。
「白豚を出し抜けてよかったわ。大半はまどかのおかげかしらね」
ほむらは改めて現状を確認した。
誰も魔女化してないし、まどかがいる以上、急速に絶望しない限りは大丈夫だろう。キュウべえはここで勧誘するのは不利と見て、最近はあまり出てこない。精々マミの家でお茶会に参加している程度だ。さやかでさえ魔法少女化していない。
そう、今までで一番だ。
だが、まだ魔女も魔法少女もいる以上、完璧な平和ではないのだ。
誰とどうして戦うのかなんて誰にもわからない。
これからもきっとまどか達は戦い続けていくのかもしれない。
「それでも、今のまどかなら」
どんな敵が来ようとも大丈夫なはずだ。
先日の戦いと、仲間の絆を確かめたほむらには確信があった。
そしてそれならば耐えられる。以前の何も知らない私たちが単なる魔法少女として生きていけたように。
しかしそれだけではほむらがこの町を離れるという選択には繋がらない。
ほむらの願いは「まどかとの出会いをやり直したい」。その契約内容から来た固有魔法は時間逆行と時間停止。しかし、その契約をした時間より前にしか戻れず、その戻れる時間もまどかと出会う直前までと決まっていた。そしてその時間停止の魔法も、時間逆行の使える期間内のみ使えるということがわかっていた。
つまり、ワルプルギスの夜が来たあの日から、ほむらは時間の魔法が全く使えなくなっていた。
それは杏子の幻覚魔法と違い、心的な要因によるものではないため、戻る見込みもない。
もちろん、身体能力の強化などは使えるので常人よりはずっと強い。
だが武器のあった杏子と違って盾には攻撃力もないのだ。
そう、ほむらはもう、魔法少女としてはほとんど役に立たなくなっていた。
自分はまどかにとって弱点でしかない。足手まといのお荷物だ。今までは円滑にことを進めるためと、まどかに恩にきせて付き合わせてしまったことを申し訳なくさえ思っている。
「私はまどかのためにループしたのではないわ。私は、私のために過去に遡ってやりなおしたの。確かに約束もあったわ。でもね、私は私が絶望しないために、貴女の約束を心の拠り所にしただけなの」
暁美ほむらという少女は自分を過小評価していた。
過去に囚われ、抜け出すことのできない無限廻廊を歩き続けた。そのことを後悔こそしていないものの、どこかで愚かだとも感じていたのだ。
同時にそこからまた助けてくれたまどかに傾倒しているのだ。
「で、君が去ろうってわけかい?」
赤い瞳を爛々と輝かせてキュゥべえが尋ねた。
キュゥべえからすれば、まどかの元から魔法少女が離れれば離れるほど都合が良いのだろう。
ほむら自身は気づいていないが、ほむらはまどかの中でとても大きな存在となっていた。
それを引き剥がすことは、まどかに精神的大打撃となり、大きな隙とさえなると考えているのだ。
「ええ。私はここを後にするわ」
ほむらは最初からそのつもりだった。まどかさえ救えればそれでよかった。ただ、六人の行く先を見れないのだけが残念がっていた。
(転校したことにできるだろうから誤魔化せるかしら。家の住所とかは教えないようにって先生には頼むつもりだけど)
ほむらはこれまでの細々とした手回しのことを考えた。
時間が経てば、書類が送られて学校転校から住所変更までの手続きが済む。
元々両親が外国にいることで、祖父母の家に移らないか、という提案があった。
後は一言、祖父母の家に連絡を入れれば良い。
「これでいいの」
何かを悟ったように優しげに微笑む。それはまだまどかにも見せたことのない顔だった。
普段無表情だと言われがちなほむらがまどかの前以外でこんな表情豊かになるのは珍しい。それがたとえ、まどか絡みのことであったとしても。
「だから私は……もう……」
紫色のソウルジェムにそっと触れる。魔力量だけだとさやかに次いで少ないほむらのソウルジェムはやや小さめだ。というよりは、ほむらの周りの魔法少女たちが魔力量の多い魔法少女たちばかりなのかもしれない。いつも、騒動の中心にいた少女たち。その時間軸によって差異はあれど、それぞれの弱点ははっきりしていて、何度もほむらはその死ぬ場面を見てきた。多少強いだけではどうにもならないこともあったのだ。
今度こそ、大丈夫。だって疲れれば戦わなくてもいいのだから。全てを時間に任せて心の傷が癒えるのを待ってもいい。それだけの余裕が彼女たちにはある。ほむらは心の中で何度も、何度も確認した。まるで危険性がないか必死に探すかのように。
「さようならみんな」
今だけは誰にも知られないように。
「さようなら、まどか」
見滝原を背にした。
こうしてほむらは旅立ち、その悲しみを乗り越えながらもまどか達は強力な魔法少女のパーティーとして名を馳せるのでした。
これまでお付き合いくださりありがとうございました、
次回作に乞うご期待!
……ってそんなわけがありませんね。
むしろここからが始まりです。
王道にしてお約束の、彼女たちのハッピーエンドはまだ先です。