まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
QB「全く。感情というものにとらわれるから、すぐに合理的な判断ができなくなる。だけど、だからこそ、予測ができないのが人間の強みかもしれないね」
そんなほむらを呼び止める者がいた。
後ろで声がした。それはほむらにとって心地よい声だった。
「どこに行こうとしてるの? ほむらちゃん」
ほむらには声だけでも誰かはわかっている。それに、振り返らずとも今駆けつけるようなヒーローなんて今も昔も一人しかいない。
それでも振り返ってしまったのは失態だった。
「せっかくみんな心配事がなくなったんだから、私たちはこれからでしょ?」
始めて出会ったときの強い瞳のままのまどかだった。
決意と、覚悟と、優しさと。
目の前の全てを守ると宣言したこの時間軸のまどかもまた、ほむらの憧れのまどかと何の変わりもない。
「見つかっちゃったわね」
ほむらは人生最大の失敗だと思った。
「それよりも説明してくれる? どうして私に黙ってどこか行こうとしたのか。それとも一人で死ぬつもりだったとか」
「その必要はないわ」
ほむらはいつも、まどかが魔法少女にならないために黙って物事を解決してきた。まどかに説明することを拒否していた内に自然と口癖になってしまっていたのだ。
まさか、自分のことで使うことになるとは思いもしなかっただろう。
「説明してくれても納得はしないしね。でもはいそうですかって行かせると思う?」
そう言うと、まどかが自身にかけた幻惑の魔法を解いた。まどかの格好が魔法少女のそれとなる。いつかのまどかがノートに描いたのと変わらない衣装。常人程度にしか強化していないほむらの目にさえ、魔力の奔流が見えるかのような濃密な魔力をまとっている。
「あれだよ。死亡フラグの塊だけど、定番で王道の」
手には弓矢、背中には翼がある。
全力にして本気のスタイル。
ワルプルギスの夜どころか一魔法少女に使うのを見ることになるとは。
心なしかキュゥべえも驚いているように見える。
「ここが通りたければ、私を倒していって」
私の屍を越えていけ、とはまた違うか。
「ほむらちゃんがもし不公平だとかいうなら、翼と浄化魔法ぐらいは禁止でもいいよ」
「はあ……それが出来たら私はここから去らないわ」
ぶつくさ言いながらもほむらは魔法少女に変身する。
黒を基調として、アクセントに紫、淵は白色の魔法少女となった。
手には役に立たない盾を持っている。ほむらの努力の象徴であるそれは、魔法の媒体や攻撃用としては役に立たないが、魔力を込めればほとんどの攻撃を防げる。
彼女の戦闘スタイルから盾で防ぐことはあまりなかったが。
「でも、時間停止が使えないだけで」
杏子も幻惑魔法を使えないまま戦っていた。
攻撃力なんてなくていい。
「魔力の応用も盾の機能も残っているし」
ワルプルギスとは直接戦わなかったから。
「重火器、現代兵器もたくさん残っているのよね」
「なーんだ。やる気マンマンじゃん」
まどかは凄く残念そうに言う。
それもそうだ。まどかはバトル漫画の主人公でもないのだから、友達と書いて好敵手とは読まないし、友達と戦いたい願望もない。
ほむらにはできれば諦めてほしかったのだ。
「私の物語は日常かラブコメでいいのに」
「私の物語はいつでもSFバトルだったわ」
ほむらもまどかも、宇宙人だとか、世界のエネルギーだとか、それこそわけのわからない理由で戦う運命から逃れるために戦っていた。
「じゃあ始めよっか」
二人の魔法少女の決闘が始まった。
◇
二人の戦いは壮絶なものだった。
まどかとワルプルギスの夜との戦いは、まどかの自爆と力押しと一般人への被害を抑える戦いであったが、こちらは激しさの中にお互いの全力をぶつけ合うものがあった。
ほむらの魔女への戦い方は時間停止で攻撃を避けながら不意打ちで爆弾を食らわせるというものだった。
時間停止が使えない今はその分を肉体強化に回して攻撃を避けていた。
それは防ぐよりも騙すよりもまどかに対する適切な対処だった。
まどかの攻撃力は他の魔法少女を圧倒する。ワルプルギスを単独で葬ることができるほどに。
そんなまどか相手に防ごう、と考えるのは愚策だった。
いくら魔力強化した盾であっても、まどかの攻撃が直撃すれば壊れるかもしれない。ならば盾は攻撃を逸らすことと目くらましにしか使えないと見た方がいい。
一方、まどかから見たほむらとの戦いとはそれこそ将棋のような戦いである。
どこで最善手を打つか。
どこに最善手を打つか。
どちらせよ、まどかの多彩な魔法を持ち駒として、ほむらの降参という詰みに至らせる。
そのための才能と魔力量との掛け算である。
「魔法陣と弓矢で同時展開してるのに……っ」
ほむらは肉体強化を視力に多く割いている。
時間停止を使うタイミングで避けるのに一役買っていた。
まどかの攻撃は確かに速くて強い。だが魔法少女としての経験はまだ浅い。ほむらの動きを予測して当てることも、とっさの判断もまだまだ拙かった。
「あなたとは経験が違うわ」
隙を縫ってほむらの銃声が響く。それでも未だ本気になりきれていないことがわかる。ほむらの狙いはまどかの肩であった。
しかしそんな気遣いは全くの無用であった。銃弾は硬い音をたててまどかの防御魔法に防がれる。弾かれた弾丸はコンクリートの壁や道路に当たって穴をあける。
「相変わらずとんでもない魔力量に魔法のレパートリーね」
魔法の同時展開はただそれらの魔法を一つずつ使う合計よりも多く魔力を消費する。
戦いの最中防御魔法を展開し続けるのは、それが絶対に壊されないという自信か同時展開しても仕留めるだけの攻撃力があるということになる。
通常の魔法少女は、中でも一番魔力消費の少ない身体強化の魔法と同時展開して避けることに全力をさく。
不確かな防御魔法よりもリスクが少ないからだ。
ベテランのマミでさえ、当初のまどかとさやかを守るための防御魔法と身体強化、銃の召喚にリボンの召喚と魔力消費が少ない上に自身が得意で慣れている魔法ばかりで四重展開であった。
まどかはさらにその上をいく。
防御魔法、身体強化の二つに加えて、魔力を垂れ流すような魔法陣二つ、翼を生やしそして弓矢である。
魔法陣二つを一つの魔法として見ても、魔力消費の激しい魔法を組み込んでこの展開である。
「ほむらちゃんのおかげだよ」
あなたのおかげで強くなりました、その力をもってあなたを止めます。
どう考えても悪役のセリフだ。
広範囲に広がる火炎魔法がほむらをかすめる。
出力が問題なのであって、総合消費はまどかの弱点ではない。
「集中のきれたほうが負けね」
そう、まどかはなんでもできても全てはできない。
魔法は精神を酷使する。いつかその集中が途切れれば、まどかの防御魔法にも綻びが出る。
まどかの防御魔法の隙をついてほむらの攻撃が通るのが先か、まどかがほむらを魔法で当てるのが先か。
「地面を凍らせちゃえば?」
地面から温度が奪われていく。ピキピキと音をたてて戦っていた一帯の地面が凍りつく。薄っすらと氷の張った地面が光を反射している。
「滑ると思ったら大間違いよ」
ほむらは着地の寸前に身体強化の魔力を足に集中させた。そして地面につく瞬間、魔力を下に向かって押し出してそのまま氷ごと踏み砕いた。
その瞬間上から魔法製の網が降ってくる。だが砕いた地面から足を抜いてそれもかわす。
「ほむらちゃんに守られてきたから今の自分があるんだと思うの」
「そうよ。私が最後にいなくなることであなたを守りきれる」
今のまどかなら首でもはねられない限り死なない。
もしかしたら首をはねても魔法で繋げば生き返るかもしれない。
そんなまどかに自分は不要だ。
ほむらは戦闘を通じてまどかと会話していた。
ほむらはどれだけ攻撃しても、まどかが致命傷を負うわけがないと知っているから全力で兵器を使える。
まどかは拙い自分が全力を出せば、致命傷だけは避けてくれると信じているから次から次へと攻撃を繰り出す。
なんとも戦闘狂な考え方になってしまったのはここしばらくの生活が問題なのだろうか。
圧倒的信頼に基づいた戦いも、そろそろ決着がつこうとしていた。
まどかから一定距離を保ったまま、ほむらはじっと見つめている。
まどかはその翼を解いた。
「やっぱり行かせるわけにはいかないよ」
まどかが新たな魔法をかけると、その姿が魔法少女から随分とかけ離れたものになった。
武装少女とでも呼ぶべきか。神々しく鎧を着たまどか。手には美しい剣を持っている。全身が銀色に輝いている。
「見せかけの幻惑……ではないようね。ちゃんと質量もあるのね」
「ほむらちゃんの肉体強化を真似したらこんなことになっちゃった」
スピードもパワーもあがった代わりに遠距離攻撃が苦手になった。
鎧の中には身体強化も含まれている。だからまどかはそれ以外の全ての魔法を解除した。防御魔法も、魔法陣も、弓矢も。
今のまどかは単なる騎士のような、何の小細工もない近接型だ。
それでも
「攻撃が……きかない……」
爆弾やミサイルを撃ち込んでいるのに傷一つつかないまどかを見て愕然とする。
この距離では万に一つも勝機はなくなった。
弓を使うまどかの唯一の弱点、接近戦を克服されてしまったのだから。
ただ発動して終わりの魔法に集中も何もあったものではない。維持にはただ魔力を込めればいいのだから。
「たくさん魔力がいるから長い時間はできないけど、一回こうなったら防御魔法をずっとかけてるようなものだから」
長い時間とはまあ一日とかか。
今までの肉体強化、防御魔法、翼、武器生成の総合といったところか。
まどかがアスファルトを蹴った。
音もなくほむらの後ろに回り込んだ。
「これで終わりだよ。ほむらちゃんの負け」
決着が、ついた。
◇
私は痛みに備えて身構えた。
だが待てども待てども衝撃も束縛もこない。代わりに背中に感じたのは柔らかい感触だった。暖かくって、安心するような感覚であった。
まどかは後ろから私の首に手を回し抱きついていた。
「どうか……私にあなたを守らせてよ。どうして守らせてくれないのよ!」
ずっとそれだけを頼りに、ソウルジェムを濁らせることなく生きてきたのに。
「私は自分の危険なんかよりほむらちゃんがいなくなるほうが辛いよ」
「どうしてよ……こうして不意打ちされたらどうすることもできない私なんてお荷物じゃない!」
確かに私はまどかと戦えた。
でもそれは重火器のストックがあったからで、これから先、私はゆっくりと足手まといになっていく。
一番の利点である戦闘経験も、巴マミなら十分だし、センスも杏子はいい。
私はもう、魔法少女として成長することはないのだ。
人間としても、魔法少女としても中途半端な存在のまま生きていくのだ。
「ほむらちゃんは繰り返した過去の中で私を守ってくれたとき、私をお荷物だと思ったの?」
「そんなわけないじゃない!」
そう、そんなはずがない。
叫んでみてようやく、まどかを自分に当てはめてみた。
私がまどかだったら、どんな形でもいいからそばにいてほしいと願うはずだ。
はあ……私としたことが。
まどかの私に対する気持ちを過小評価しすぎていたってことかしら。
「じゃあ今度は私に大好きなほむらちゃんを守らせてよ」
「うあぁ」
思わず顔が赤くなる。
両手で頬を抑えて見られないように顔を背けるが、あまり意味はないのでしょうね。相変わらず不意打ちを食らうと弱いわ。
「ほむらちゃんにとって私が最後の道標なら、ほむらちゃんもまた私にとっての目標だったんだよ」
はあ、変なところでそっくりなのね、私たち。
私もあなたを目標にしてきたのよ。転校してきて、明るく話しかけてくれたあの日からずっと。そして今でも変わらない。
「強くなって、守られる私じゃなくなったら、ほむらちゃんの隣に立って一緒に戦えるって思ったの」
だから魔法少女になった本当の願いは『ほむらちゃんの隣にいたい』だったみたい、とまどかは続けた。
「隣どころかあっさり追い越したじゃない….…」
その理不尽さを作り出したのは私だけど、それでも言わずにはいられなかった。
「いくら強くてもかつての魔法少女を倒すのは嫌だよ。でも倒さなきゃ傷つく人がいるんでしょ」
「そうね」
「じゃあほむらちゃんが私の魔法少女の理由になってよ」
戦う理由になってほしい。
そんなことを言われて突き返すことができない私も相当まどかバカのようだ。
「あなたには敵わないわね」
「これからもずーっと一緒にいてね」
もしも平和な世界になったならば、先に私の方から言いたかったのに。
人生最大の失敗は返上。
こっちこそが失敗だ。
とびきりの笑顔のまどかを見て思う。
「私の、最高の────」
ようやく原作改変部が終えられました。
これからしばらくはハーメルン初投稿となる完全オリジナルストーリーが続きます。
ただし、加筆修正ではないため、やや更新速度は落とします。
週一ぐらいで投稿できればいいと思いますね。
最後のセリフの聞き取れない部分はご想像にお任せします