まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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先輩の口から語られる過去編




閑話 少女たちの過去

 

 暁美ほむらは言った。

 この時間軸にはイレギュラーが多すぎる、と。

 キュゥべえに言わせればそんな彼女こそがイレギュラーなのだが、そんなことは気にしない。

 

 そう、幾つかの人間関係の進行がズレているのだ。

 

 ほむらがズレてここに来たように、さやかが勧誘されるのが遅かったように、マミと杏子は仲直りしていて、キリカが魔女化していない。

 

 全てが少しずつズレていたのだ。

 

 それは暁美ほむらにとって好都合なことこの上なかった。

 だから、ギリギリまで見ないふりをしていたのかもしれない。

 ワルプルギスの夜討伐の直後、まだまだほむらが旅立とうとしていないころのことだった。

 ほむらはまどかから少し離れたところで夜空を見上げながら回想シーンに突入していた。

 

「ふふっ。貴女は私たちには無表情だけど、一人でそんな顔をすることもあるのね」

 

 ベランダで手すりに肘をついたほむらに話しかけてきたのはマミだった。

 

「一応人間はやめてないわ。まどかのことなら悩むのよ、私だって」

 

「いや、貴女……鹿目さんのこと以外で悩んでるところなんか見たことないわよ?」

 

 マミはそう言うと、クッキーを差し出した。

 ほむらはそれに何を言うでもなく受け取って口に放り込んだ。

 

「貴女たちは全員がイレギュラーよ」

 

 今までのまどかは良くも悪くも受動的だった。

 どのループでも何かトラブルが起こってからそれを解決するために契約することが多い。

 その点はどの魔法少女にも言えることなのだが、まどかは特にそれが顕著だった。それでいて他人の問題を解決するためにのみその祈りを捧げてしまう。機会さえあれば猫のためでも契約してしまえるほどには。

 だが今回のまどかは別であった。

 全ての問題を力でねじ伏せられるように。自分の素質を最大限活かし、魔法少女システムを逆手にとった。

 

「だからこそ、ここまで来れたんじゃない」

 

「早計よ。私たちが魔法少女であることに変わりはない」

 

「まだまだの私だけど、期間だけなら貴女よりも昔から魔法少女をしてるわ。お姉さんの過去でも参考になれば良いと思うのだけど……聞くかしら?」

 

「興味深いわね」

 

 座右の銘は「まどか命」でもおかしくないほむらがこうして人の過去について聞こうとするのもまた、珍しいことだった。

 

「貴女のことだから、言わなくても知ってることもあるんでしょうね」

 

 ほむらは確定した過去についてはよく知っている。

 つまりは自分が介入する半年以上前のことになるとその精度は高くなる。

 逆にそれ以降となると、自分の介入や魔法少女たちの選択によって千差万別に変化する。

 それでも変化しない部分であるまどかの魔法少女化、それに伴う魔女化を防ぐために頑張ってきたのだが。

 

「貴女と佐倉杏子がペアを組んでいて、佐倉杏子の家族の問題で離別したこととかかしら?」

 

 少なくともマミや杏子の家庭事情は確定した過去であり、それが変化したことはない。

 つまりはマミや杏子が魔法少女になる理由も変化することはないということになる。

 

「ええ。でも貴女が何を知っていて、何を知らないかまではわからないから全部話してしまうわね」

 

 見えすぎているからこそ見えていない彼女に、先輩がその過去を語りだした。

 

 

 

 ◇

 あの話をするにはどうしようかしら。佐倉さんと出会ったときのことから話そうかしらね。

 

 たいしたことじゃないのよ。当時私が見回っていた見滝原に佐倉さんが逃げた魔女を追って入ってきたときだったかしら。

 そのころはまだ彼女ももっと素直で、元気な魔法少女だったのよ。

 今の素直になれない佐倉さんも可愛いところはあるけど。

 あ、話が逸れちゃったわね。

 

 とにかく、その時は私の方がずっとベテランで佐倉さんが私に教わるという形でペアを組むことになったの。

 今思えばとても相性のいいペアだったわ。

 佐倉さんは幻惑と槍でその場に干渉しながらの近接戦闘型だったし、私は銃にリボンを絡めた中距離から遠距離型で最後は巨大砲撃でトドメだったしね。

 あの頃は何も考えずに正義の味方をしていられたわ。

 魔法少女になってから、今を除けば一番幸せな時期だったと思うわ。

 

「そこは私もよく知らないけど、私の過去と変わりはないみたいね」

 

 そうなのかしらね。

 でも問題が起きちゃったの。

 貴女も知ってるかもしれないけど、佐倉さんのご家族が魔法少女について知ってしまってね、それを佐倉さんのお父さんは許せなかったみたい。

 

 だんだん荒んでいって、最後には一家無理心中だった。

 

 佐倉さんだけが取り残された。

 自分の家族を奪ったと佐倉さんは自分の存在そのものに強い責任を感じてしまったみたい。

 潜在意識の奥底で願いを否定してしまったことが原因で佐倉さんは幻惑の魔法を使えなくなってしまっていたわ。

 貴女もわかるしょう?

 魔法少女にとって一番得意な固有魔法が使えなくなるって辛いのよ。死活問題とも言えるわ。

 

「…………そうね」

 

 佐倉さんはそれを私に隠してペアを解散させようと言ってきた。

 私の正義感にはついていけない、なんて嘘ついて嫌われようとしたの。

 私は随分とそのとき荒れたわね。お恥ずかしいかぎりよ。

 しばらくは出会うたびに憎まれ口を叩いたり、縄張りなんて口にしてみたり、今思えば全然似合わないことばっかり言ってた。

 

 でもそんな私たちを仲直りさせてくれるような存在が現れたのよ。

 

「ゆまちゃんのことかしら」

 

 ええ。言う前に当てないで頂戴。

 それともそこも知っていた話かしら?

 

「いえ、ただ美国織莉子と呉キリカ、そして千歳ゆまがいた世界線ではあなた達の仲が比較的良かったような気がするだけよ」

 

 そう……佐倉さんもゆまちゃんという家族のような存在に出会えたことで孤独の辛さを知ってしまったのかもしれないわね。

 失って初めてわかるものもあれば、得て初めて知るものもあるのよ。

 私に頼ってはいけない、一人で生きていかなければ、そう張り詰めていた彼女の心をゆまちゃんは雪のように溶かしてくれた。

 

『まあでも、これはあんたに頼りたくないって理由じゃない。ただでさえ固有魔法がなくなって狩りの効率が落ちてるんだ、よりたくさんグリーフシードも必要。だからお互い二手に分かれて狩ろう。もう新人じゃないんだ。たまに会うぐらいならいいからさ』

 

 佐倉さんと次に出会ったとき、私にそう言ったわ。

 確かに合理的なの。二手に分かれたほうがより多くの魔女を狩れて、町の人を守ることにも繋がるから。

 でも一人は嫌。そんな寂しさを紛らわすように佐倉さんは私に会いにきてくれたわ。

 ゆまちゃんまで連れてきたのはこの前が初めてだけど。

 

 その直後ぐらいかしらね。

 私が彼女に襲われたのは。

 

『君のおかげで愛は死なずに済んだよ』

 

 最初は天然な子だと思ったわ。

 

『愛は無限に有限だよ』

 

 次に恐怖を感じたの。

 

『恩人を故人にするのも、無限の中の有限にすぎないよ』

 

 私は激闘の末、彼女らを退けることに成功したわ。

 そのくだりは聞くまでもないでしょう?

 私の攻撃は彼女に重傷を負わせたわ。それこそ治癒を専門にした魔法少女でもない限り治せないぐらいの、ね。

 魔法少女の行く末も知らなかった当時の私だけど、思えばあの時彼女は魔女化しかけていたのでしょうね。

 後から聞いた話だと、あの時彼女の傷を治して魔女化を防いだのは二人組の魔法少女の一人だったそうよ。

 

『彼女は私たちに言ったよ。無知でなければ希望なんてない、ってね』

 

 その意味を知るのは随分と後になってしまったけれど、今もこうしてみんな一緒にいられるのはその人のおかげね。

 治してくれた方よりも、横で見ていた子の方が印象深かったみたいね。

 いや、印象がないっていってたかしら。あんな大きな鎌を持っていたのに、まるでそこにいないかのようだった、って織莉子さんはね。

 

 この話自体は聞いたのは最近よ。

 本当は勝手に話すのはマナー違反なのかもしれないけど、貴女には知っていて欲しくて。

 

「私の知る限り、呉キリカはそこで退場の予定だった。それに合わせて捨て身の覚悟で中学校に二人が襲撃することで魔法少女の真実が明かされる展開だったはずよ。きっとその治癒少女がフラグを叩き折ったのね」

 

 まあよくわからないけどそうなんじゃない?

 

 

 ◇

 話し終えるとマミは魔法で紅茶を二杯召喚した。

 この先輩はこういった演出のような魔法が得意だな、と呆れ気味にその紅茶の片方を受け取った。

 

「とまあ、私が話せるのはこれぐらいかしら。その後は貴女も知るようなものよ」

 

「思ったよりたいしたことなかったわね。……気にかかるとすれば、その治癒少女かしら」

 

 ひたすらにまどかの懸念だけを検証するほむらに、マミはやや強引に話題を変えた。

 いや、本当はこちらが本題だったのかもしれない。

 

「暁美さん、私ね時々思うの」

 

「何のことかしら」

 

「もしも願いが叶うのなら、魔女のいない世界でみんなに会えたら良かったな、なんて」

 

「みんな思ってるわ。ただ、私が出会ったまどかは既に魔法少女だったわ。だから私の中には魔法少女だったまどかがいるの」

 

「そうね。魔法少女というシステムがあったからこそ出会えたのよきっと。そう考えることにしたの」

 

 ほむらはもう一度マミの顔を見た。

 誰よりも魔法少女としての戦いに向き合った彼女。誰よりも努力してきたことを知っている。経験と努力に裏打ちされた自信は決して自惚れではない。

 だが、彼女は今どう思っているのだろうか。

 努力も経験も、願いすらも飛び越えて最強の魔法少女が生まれたことに。

 

「それでも……その目をするの?」

 

 マミはほむらの決意をなんとなく悟っていた。

 どんな行動に出るかまではわかっていなかったし、もしもわかっていたら止めていただろうから。

 ただ、まどかを悲しませないということはその範囲内で頑張る日が違いないとたかをくくっていたのだ。

 ほむらはまさか気づかれているとは思わず、それに慌てることも否定することもなく不快そうに顔をしかめた。

 

「あなたには関係のないことよ」

 

 何度も、何度も言ってきたことたがそれはやや違った意味を持つ。

 

「そう。自分が死ぬことだけはやめてね。どんな手を使っても」

 

 かつて人を巻き込んでまで死のうとした本人の口から聞くと重みがある。

 

「死なないわ」

「ならいいわ」

 

 まどかの知らないとある晩の話であった。





新章突入させようとしてたのに、不自然な部分の前フリ回収回みたいに。
ああ、まだドロドロさせた方がいいのか、それとももっと熱いバトル展開がいいのか激しく迷っております。
pixivなら迷わずイチャイチャを増やすんですけどね。
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