まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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奇跡のご利用は計画的に

 転校生の紹介をする。

 そんなありきたりな言葉で招きいれられ、教壇の隣に立たされた。

 転校生を見る視線というのはまるでステレオタイプのようで、容姿の判断や人柄の洞察など好奇の意味合いが強い。そんな視線の中には青い短髪の少女や、緑がかったウェーブの髪の少女もいた。

 

「転校生の暁美ほむらです」

 

 必要以上に目立つ必要はない。私にはまどかさえいればそれでいいのだから。

 簡潔自己紹介を終えると真っ先にまどかに目を向けた。すると席に座ったまどかと目が合う。

 いつものように桃色の髪はくくられており、その可愛らしさは全くといっていつも通りだった。赤いリボンがとてもよく似合っている。

 にこりと微笑まれると思わずつられて笑そうになる笑顔をまた見ることができるだろうか。

 

「綺麗な子だな……」

 

 まどかが何かを呟いた。けれど聴力を魔力で強化している私にさえその言葉は聞こえなかった。

 

 ――相変わらずまどかは可愛いわ。

 

 そんなことを考えていたからかもしれない。

 ある意味息ピッタリの二人だったことを私はまだこの時は知らない。

 この後はいつも通り。まどかと二人きりになって軽く忠告をする。保健室へ向かう途中、いろいろと気にかけてくれているまどかを振り返って尋ねた。

 

 今の生活は大切?

 親しい人はいる?

 

 今はまるで意味はわからないかもしれない。だけど、この意味を噛み締めてほしいと願う。あの白い悪魔に騙されないように。かつてまどかと始めて会った時の構図のまま。私とまどかの立ち位置だけが逆で。

 

 しかしやっぱりまどかは数日後キュゥべえに巡り会い……否、出くわしてしまった。

 まどかは魔法少女へと勧誘されてしまった。あの白い悪魔への激しい憎悪がふつふつと湧き上がる。許したくない。許せるはずもない。

 だけど、あればかりはどうにも止めようがないわ。無理矢理止めると強引な手段で近づいてくる。なるべく、最低限の妨害にとどめておくのがよいのかもしれない。

 

 

 放課後の下校途中。

 特に開発が進み、洗練されたデザインの学校周辺には電信柱が存在しない。

 一人で険しい顔をしている私に話しかける者はいない。いたとしても一人を除いて無視するつもり満々だ。

 

「どうしようかしら」

 

 どうすればまどかに魔法少女を諦めさせられるだろうかと模索しながら歩いていた。

 今回は今までのループよりも早いうちからまどかと仲が良くなっている気がする。

 

 そしてふと思いつく。

 

 まどかはこのループでもまだ魔法少女になってないし、ならない内に全部話してしまえば楽になれるのかもしれないということに。

 打ち明けた結果怪しまれたループはあったかと記憶を辿った。

 でもまどかのことだから責任を感じて魔法少女になるかもしれないけれど。

 

 とにかく――

 

「一度まどかと二人きりで話がしたいわ。うまくいかないものね」

 

 溜息混じりに呟いた。あえて声に出してみると、ますます現在の状況が嫌になる。まだ始まったばかりなのに。

 私が憂いていたその時、背後で声がした。 

 

「エヘヘへ、奇遇だね。私もちょうどほむらちゃんと話したいことがあったんだ」

「まどか! い、いつから聞いてたの?」

 

 大抵のことには無表情でいられるようになった私だけど、まどかのこととなるとそうもいかない。

 私を脅迫したいならまどかを人質にすればいいのね。

 我ながら弱点がわかりやすすぎて泣けてくる。

 

「どうしようかしら、のところからかな。今日は時間ある? 一緒に帰らない?」

「さっきの言葉を聞いてたなら断られないことわかってるくせに、まどかったら」

 

 というよりまどかのためならこの後予定が入ってても全部キャンセルしてしまうのに。

 まどかより大事な用事なんてあるはずがないじゃない。

 

「じゃああそこで話そっか」

 

 私たちはファミレスに入った。

 真剣な話だというのに胸が高鳴る。

 それをごまかすかのように店員さんを適当にあしらった。ほぼ八つ当たりみたいなものに申し訳なく思いつつ水を飲み干した。

 

「で、話っていうのは」

 

 席についてすぐに切り出す。

 本当はいつまでもこうしていたいのだけど、まどかも私と見つめ合うためだけにここに入ったわけでもないだろうし……そうだったらいいのに。

 

「魔法少女のことなんだけど」

「でしょうね」

 

 こんな時分に呼び止めてまで話す内容といえばそれぐらいだろう。

 

「あれからね、ほむらちゃんの言葉の意味を考えててさ。キュゥべえに勧誘されたときに二人?きりで話をしたんだ」

 

 疑問形なのはあいつを一人扱いすることにだろう。

 当然あれは一つ、二つで十分よ。ここに来ているのだって仮初めの肉体で、あれには感情だってないのだから。殺しても殺しても出てくるしね。

 

「魔法少女になってないわよね」

 

 冷たい水に映る自分の顔を見ると不安が翳っていた。

 まさかこの早さでなってしまったとすれば、私の説得が逆効果だったとしか思えない。

 

「まだなってないよ。心配しすぎだよほむらちゃん」

「あなたが魔法少女になったら私は……」

 

 嫌な予感がよぎってそれを打ち消すかのように首を振った。

 

「それでね、聞いたの。キュゥべえに。魔法少女の最期もソウルジェムの正体も」

 

 ソウルジェム。それはあの地球外生命体(キュゥべえ)達が少女を魔法少女へと変えるときに魂を使って生み出す宝石。魔法少女の力の根源とも言えるもので、それがなくなれば魔法少女の肉体は活動を停止する。

 

「ほむらちゃんは知ってたんだよね? だから必死で止めてるんだよね」

 

 魔法少女は絶望すると魔女になる。そうして奴らは感情をエネルギーとして私たちから搾取するのだ。

 魔法少女の強さは魔女となったときの強さに比例している。

 アレが最初は言葉巧みに決して語ろうとはしない、魔法少女の真実。

 

「そうよ。だから決して魔法少女になろうとか思わないで」

 

 落ち着きを取り戻して少し考え、やはり今までの自分がしてきたことを話したほうがよいと判断した。

 やや恩着せがましくなってしまうのは仕方ないとして、私がまどかのためにやり直していることを伝えた。

 

「解決策を見つけても?」

 

 会心の笑みを浮かべたまどか、その瞳には確実に大丈夫、という自信があった。

 

「キュゥべえに何か言われたの?」

 

 あいつはよく、あり得ないことを否定しないことで嘘をつく。

 魔法少女は世界の理を覆す存在だ、僕が知らないことがあってもおかしくはないね、と。

 

「ううん、大丈夫。今日までのほむらちゃんを無駄にはしない。私が犠牲になるわけでもない」

 

 誰もかもとまではいかなくても、自分の周りの人は、目の前の友達ぐらいは助けられる、そんな方法。

 

「そんなことができるはずないわ!」

 

 何度も、何度も繰り返したわ。

 そして何度も……貴女の最期を見てきた。ワルプルギスの姿が脳裏によぎる。

 今さらそんな方法なんてあるはずがない。

 

「できるって。だから私、魔法少女になるね。でてきてよキュゥべえ」

 

 まどかはまるでここにキュゥべえがいるかのように呼びかけた。

 

「どうして僕がいるとわかったんだい?」

 

 見た目だけは愛らしい、いかにも魔法少女を支援する妖精ですとでも言わんばかりの宇宙人が現れた。

 なにも知らなければ、の話だが。

 事情を知る今となっては、その見た目を可愛らしいとは微塵も思わない。もはや不気味の一言にかぎる。

 

「あなたの性格をほむらちゃんから聞いて、私を魔法少女にしたがっているならいるんじゃないかと思って」

「魔法少女になってくれるのかい?」

 

 感情のないというインキュベーターでさえ、この時ばかりは嬉しそうに見える。

 その喜びが私たちを食い物にしてエネルギーを得ることを期待しているのだと思うと、嬉しそうでも全然可愛くないわ。

 

「私の素質ってすごいんだよね」

「もちろんさ。マミやそこの彼女なんか比較にならないね。今まで見てきた中で一番だよ。そしてそれだけの素質があればどんな願いでも叶うだろう」

 

 それが紛れもない事実なのはほむら自身が身をもって体験してきた。

 私は二人のやりとりに口を挟めないでいた。

 

「世界に影響する願いでも叶うんだったらね、きっと一人の魔法少女の運命を覆して捻じ曲げるぐらいなら簡単かなーって」

 

 だから魔法少女になるのだと言う。全てを守るために。

 止めなくてはよいのか。そんな不安が胸をよぎる。

 まどかは強い子だ。本当に覚悟を決めたとき、私にも止められないほどに。

 そして期待してしまっていたのかもしれない。あまりに孤独な戦いに疲れ、まどかの提案でもしかしたら出口に辿り着けるかもしれないなんて。

 

「さあ鹿目まどか、その魂を代価にして」

 

 キュゥべえの赤い瞳は何も映してはいない。

 

「君は何を願う」

 

「うん。私の願いは──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果としてまどかの願いはエントロピーを凌駕した。

 まどかの願いとは具体的に言うと

 

 "最強の魔法少女であり続けること"

 であった。

 

 しかしまどかは、事前に契約内容を吟味していた。口先だけでのらりくらりと騙されないように。

 

 その"最強"の条件というのが……

 

 ・全ての魔法を使うことができる。

 ・まどかのソウルジェムは決して穢れない。どれだけ魔法を使おうと、絶望しようと最初の穢れなき状態を保つ。

 ・まどかのソウルジェムは決して壊れない。

 ・まどかがソウルジェムからいくら離れても体を遠隔操作できるようにする。

 の四つだった。

 

 最強の魔法少女にする、という願いから生み出せる条件はこれぐらいしかなかった、とまどかは物足りなさそうな顔をして言ったけど。

 

「どれだけ万能なのよ……」

 

 一つ忘れていた。まどかの使える魔法にはソウルジェムの穢れを取り除くという魔法もあった。

 魔法少女は本来、この魔法を使えるのだが、明らかに効率が悪く、遅い。結果誰も使おうとさえ思わなかったみたいね。

 だけど今のまどかは言わば無限に近い魔力を持っているも同然よ。どれだけ魔法を使ってもソウルジェムが穢れないのだから。

 

 まどかの素質ならばすぐに穢れを吸収できるようになるだろう。と呟くキュゥべえが悔しそうに見えたのは気のせいかしら。

 

「まどかの願い事を私が左右するわけにはいかないから、今まで願いで解決するなんて考えたこともなかったわ」

 

 いつも、いかに願いを使わせないようにまどかの心配事を取り除くかに重きを置いていたから。

 

「私ね、人の役にたてるようなかっこいい人になりたかったんだ。なんの取り柄もなかったから」

「そんなことない! あなたは……」

 

 いつも、そうやって自分を犠牲にしてきた。

 それを止めるのにどれだけ苦労してきたことか。

 ある時は魔法少女として死んだ子を戻すために。またある時は魔法少女を普通の少女に戻すために。

 私はあなたに普通の幸せを送っていてほしかっただけなのに。

 

「でもねほむらちゃん」

 

 少し伏し目がちに続ける。

 いくらまどかの過去が暁美ほむらという人間に何かを与えていたとしてもそれは私の過去の記憶の話。

 今のまどかにはそんな記憶は全くない。

 そのことを改めて私は自覚した。

 

「もし誰かが私の近くで魔女に襲われて死んだり魔女になったらきっと後悔すると思うんだ。どうして魔法少女になっとかなかったのかって」

「そんなのはその人の実力不足よ」

 

 魔法少女になった以上、魔女になる覚悟や魂を宝石にされる覚悟とまではいかなくともせめて戦いの中で死ぬ覚悟は決めないといけない。

 他の魔法少女に助けてもらうことを期待するのなら、それはとても甘いと言わざるをえない。

 

「襲われるのは普通の人も、でしょ?そんなときになって慌てて願いを決めるのも嫌だから。これで大切な人を守れるよ」

 

 本当、まどかは優しいのね。優しすぎるわ。

 まどかはなおも言い募る。それはまるで、私に責任を感じさせないため……事実、そうなのかもしれない。

 思えば昔からそうだった。魔法少女になれただけで夢が叶う。そんなことを言って、魔法少女になる。なってしまうのだ。そして決まってまどかが魔法少女になるのは魔法少女関係の願いが多かった。誰かを魔法少女から普通の少女に戻すためであったり、魔女から戻すためだったり――それを数えるのはもうやめた。いつものことだった。

 もう引き返せない。私はまどかを支えるだけだ。この溜まった知識と経験を少しでも活かして。

 そしてまどか私に聞こえない声で何かをつぶやいた。

 

「大切な人の中には家族にさやかちゃんや上条君とか友達、マミさんやまだ会ったことのない杏子ちゃんみたいな魔法少女、自分自身に……ほむらちゃんも入ってるんだから」

 

 

 




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