まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
ワルプルギスの夜さん登場。
カビ臭い廃工場。おおよそ中学生女子が二人で出入りするような場所ではないが、そんな常識など彼女らには通用しない。
「ご機嫌よう……? 妾は……いったい……?」
浄化されて魔法少女の姿となったワルプルギスの夜の第一声は疑問系の挨拶であった。
彼女はさしていた傘を閉じて下ろした。
「貴女は魔女の状態から倒され、グリーフシードとなったところをここにいるまどかに助けてもらったのよ」
ほむらがそう言うと、びくん、と彼女の肩が震えた。
もしかすると自暴自棄になってこちらに向かってくるのでは?と恐れたほむらが盾を構えた。
しかしまどかはその震えの正体を見抜いており、弓を下ろして近づいた。
彼女はスカートの裾が汚れることさえ気にせずその場に崩れ落ちた。
「まさか……こんな日が、来る、なんてっ……」
途切れ途切れなのはこみ上げる嗚咽に言葉を遮られているからである。
口元を抑え、顔を見られないように伏せる。
その姿を見てなお、彼女が敵か、などと追及するほむらではなかった。
まどかを守るために非情になれる彼女ではあるが、ここで追い詰めることがまどかを救うことにつながるとも限らない。
優しさの必要も理解しているほむらならではの行動でもあった。
「でも……妾は……」
ワルプルギスの夜は葛藤していた。
シャルロッテほどに楽観的であれたらきっと楽だったのだろう。
彼女は魔女時代の記憶全てを忘れられず、かつそれに罪悪感を感じるほどには良識があった。
足元に弓を置いてまどかはワルプルギスの夜に近寄った。
「大丈夫。全部受け止めてあげるから」
そっと肩に手をおいて優しく語りかける。
それでもまどかにはワルプルギスの夜だった少女が強張ったのが肩から伝わってきた。
ほむらはその光景を後ろからじっと見ている。
かつてまどかのことをたったひとりの友達とさえ思ったこともあるほむらは、このような時にどういった言葉をかければよいのか皆目見当もつかなかった。
「妾は……大勢の人を殺しました。みんなを幸せにしたい。そう願って戦いに身を委ねたはずなのに。どうして……ずっと、囚われた魂が悲鳴をあげていたというのに、どうして止められませんでした……」
わなわなと震え続ける彼女からは、死のうとかそういった意思さえ感じられない。
どうしていいかもわからず、ただ立ち尽くしているようであった。
「大丈夫。あなたは悪くない。全部、キュゥべえが悪いの。私の友達にも、昔魔法少女を殺した人がいるよ。今はもう殺さないって約束したの」
何度も、何度も言い聞かせられた。
あなたは悪くない、大丈夫、と。
次第に震えが収まっていった。
彼女は誰かに認めてほしかったのだろうか。
過去を知らない二人には想像もつかないことではあるが。
「もう一度、人として生きてもいいのでしょうか……こんな妾が」
「いいの。せっかく戻ってこれたんだから」
「だけどわかりません。どうしていいかも」
「じゃあ、探そう。見つかるまで私たちが一緒にいてあげるから。起こしてごめんね。ずっと眠ってられたのに」
「ええ。まどかとならきっと見つかるわ」
不器用でも慰めたかった。
そんなほむらが胸を張って言えるのはまどかのことばかりであった。
「いいのです。妾はこうしてまた光を見ることができて幸せです。だから、あなたたちの力になれませんか? あなたのために生きても構いませんか?」
まどかに上目遣いで尋ねる彼女。
それは、その質問の意味を理解していれば、とても重い頼みであった。
「いいよ、あなたの第三の人生、背負ってあげる」
二人目の元魔女、ワルプルギスの夜が仲間になった。
◇
彼女たちを紹介したときはみんな驚いていた。
失礼なことに、一番危ないのはマミではないかと思っていた二人であったが、意外なことに一番彼女らを受け入れた人こそがマミであった。
「そう。どちらが先輩なのかわからないけど、よろしくね」
キリカは自分が魔法少女狩りの第一線にいたこともあり、やや複雑な表情をしていた。
それを見てワルプルギスの夜が不安に思ったりするのだが、なぎさの方が人の感情には聡いらしく、それをあっさりと見抜いたことには杏子が驚いていた。
「この子が私の護衛? じゃあよろしく頼みますね、べべちゃん!」
さやかは魔女と言われてもぴんとこないらしく、単なるチーズ好きの居候で食事がチーズ以外にいらない女の子程度に思っておくことにしたらしい。
杏子、織莉子はそういったイレギュラーにたいしてさほど嫌悪はないらしく、それこそ当初のまどかに対するスタンスと同じように、暴走すれば殺す程度の感覚らしい。
ほむらとまどかは二人が暴走することはないと思っていた。
それこそ勘ではあるのだが。
「名前は覚えてるの?」
「いえ。魔法少女や魔女の頃の記憶はよくあるのですが、人間としての記憶はやや朧げです」
魔女時代が長すぎたのだろう。
情報の流れにくい魔法少女界隈にあって、多くの魔法少女が知っていて当然とまで言われる知名度を獲得するまでには長い年月が必要である。
現になぎさは自分の名前を覚えていた。
「目元が布で覆われているのもその副作用みたいなものかしら?」
自分の記憶がない。
つまりはアイデンティティーの喪失に他ならない。
顔という最も自意識の現れる場所の一部が隠れているということは、それを暗示しているのかもしれないとマミが言う。
「妾の君よ、名前をいただけませんか」
「なに、その呼び名」
おかしげにまどかが聞いた。
ワルプルギスの夜はまどかに忠誠を誓ったようだ。
「じゃあー、舞ちゃんとかどう?」
「舞……ですか。ありがとうございます」
舞はまるで宝物を胸に抱くように、ふわりと微笑んでお礼を言った。
由来は少しだけ、魔女時代の二つ名を思い出してしまうため、舞にとっては切ない部分もあった。しかしそれさえもきっと罰なのかもしれないと舞は受け入れた。
◇
幸いにも、なぎさと舞は魔法少女姿も魔女形態も普通の人には見えなかった。
人間形態をとったときだけ、魔法少女の素質のない一般人にも見えるようになるのだ。
舞は──────とても強かった。
それはまどかがほむらと魔女の結界に入ったときのことだ。
舞は「お供します」と二人について中に入った。
ワルプルギスの夜の時と変わらない長いスカートを引きずることなく音も立てずに後ろをついてきた。
「いいのかしら?」
未だ実力の測れない彼女を、不意打ちに対処しづらい最後尾に置くことにほむらは難色を示した。
「いいんですよ。妾は自分で言うのもなんですが、そこらへんの魔法少女よりは強いですからね」
歯車の入り混じった機械的な装飾の服で、武器を持たない彼女の言葉をどう受け止めていいのかわからずにほむらは引き下がった。
だが、その発言が自惚れどころか謙遜さえしていたことを知るのはそのしばらくあとのことであった。
「ねえ、舞さんって魔女時代、どうしてあんなに強かったの?」
「魔女の間では、時間とともに穢れをより溜め込んで強くなるとは言われますが……妾の場合は他の魔女まで取り込んでいたように思われますね」
「じゃああの使い魔は……」
「お察しの通りです。吸収した他の魔女の成れの果てです。影の魔法少女といって一人一人が魔法少女並みの力を持ちますね」
「そっかー、元々最強じゃなかったんだ」
「いえ。あの忌々しい白いのに言わせれば、生前から妾は史上最強の魔法少女であったとか。当時は、の話ですので今はまどか様が最強でしょうけど」
「ねえ、そのまどか様っていうのやめてほしいな。せっかく友達になれたんだからまどか、って呼んで?」
「……わかりました。まどか」
「うん。ねえ、ほむらちゃん」
「そうよ。まどかが言うことに貴女に反論権はないわ。おとなしく呼び捨てを許可されときなさい」
ほむらのまどか至上主義はとどまるところを知らない。
「妾の今の人格も、魔女時代に取り込んだ大勢に少しだけ影響を受けているのですよ。日本に来てから日本の魔女を大勢取り込んだから日本語も扱えるようですが……」
「じゃあワルプルギスの夜は一人の魔女というよりは魔女のシステムから発生した一つの現象だったと言うべきかしら」
「少しばかり特殊であったことは認めますが……現象、ですか。そうなのかもしれませんね」
「ねえ、さっきから同じところを回ってない?」
「あ、本当ね。どういうことかしら」
「方向感覚を狂わせる幻覚によく似た魔法のようですね」
ほむらがどうする?とまどかの方を見ると、まどかが「解除できる?」と聞かれたのかと勘違いした。
「でも……魔法解除の魔法はまだ練習してない……」
「ちっ、違うのよ。別にまどかを責めているわけじゃ」
申し訳なさそうにいうまどかに慌ててほむらは訂正した。
舞が歪んだ風景を見上げて言った。
「これが解除できれば良いのですよね?」
「できるの?」
二人の声が重なる。
「妾の固有魔法は演出。魔女の結界内ごとき、どんな魔法がかけられていても元に戻せます」
そう言うと腕を一振り。
バシュンと奇妙な感覚とともに、目の前にあった光景が変化した。
「凄い……」
「予想以上ね」
まどかに作ってもらった銃を片手にほむらは舞を見つめる。
最強の魔女、その実力は魔法少女になって技術寄りになったのか。
だが彼女の強さはそんなものではまだ足りなかった。
三人が魔女の結界の最深部に到達した。
「まどかが魔女を、私と舞が使い魔を相手するわ。すぐに終わらせてまどかをサポートするから。いける?」
「うん」
「ええ」
二人が返事をした。
そんな悠長に待ってくれるものでもなく、ほむらがその指示を出すと同時に使い魔が襲いかかってきていた。
ほむらは銃を構える。狙い済ませた一撃は確実に使い魔を葬りさる。
まどかはその援護を受けて魔女に向かって駆け抜けた。
しかし二人は直後に起きた出来事に思わず動きを止めた。
全ての使い魔が消滅したのだ。
「ほら。使い魔はやりましたよ。援護するんでしょう?」
「え、ええ」
消滅したように見えたが、純粋にとても早く舞が倒しただけのこと。
指示を受けた瞬間に、彼女の衣装にあった歯車の飾りが離れて巨大化した。それぞれが独立して動き、使い魔に攻撃を加えた、それだけのことだった。
まどかも力に任せて、大規模の攻撃を放てばできるかもしれない。
だがここまで綺麗に倒すのは無理だ。
使い魔を複数相手に、一方的かつ迅速に倒すという点ではマミが思い浮かぶが、彼女でさえも倒すのに多少の時間がかかる。
当然のように、魔女との戦いは圧勝であった。
ワルプルギスさんの一人称は妾であるのに、丁寧口調という奇妙な組み合わせ。
元ワルプルギスの夜、舞さん無双でしたね。
もちろん名前の由来は『"舞"台装置の魔女』から。