まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
魔法少女のことを深く知りながら、魔法少女ではないという一見変わった少女、それが美樹さやかという少女である。
そんなどうでもいい自己紹介をしたのは彼女がまともにメインで登場というのが久しぶりだということになろうか。
親友と親友が好きすぎる転校生の紹介によって、彼女の家にはマスコットキャラ的な元魔女がやってきた。
そのことについて、さやかは不満を覚えることはなかった。
だが家に置く以上、互いのことを知っておくのは無意味ではないと誰にでもなく言い訳をしながらさやかは元魔女の魔法少女──────百江なぎさに話しかけた。
「あなたがまどかの言ってたなぎさ? どんなことができるの?」
自分より年下に触れる機会がそれほど多いわけでもないが、人見知りしない気さくな調子で尋ねた。
「いろんなことができます。とりあえずさやかの護衛をするのです」
「ありがとう。これでさやかちゃんも安心ですな!」
「なのです! 元シャルロッテはあのマミさえも互角に戦う魔女でした。来たからにはさやかを襲う魔女なんてけちょんけちょんなのです!」
いささか表現が死語ではあったが、心意気だけはしかと伝わり笑顔になった。
彼女らのファーストコンタクトは上々と言えるだろう。
「元魔女ってのは不安だけどねー。あ、何食べるの? やっぱ食べないと死ぬ?」
「今のなぎさは魂を魔力で肉付けしているだけなので、食事とかは食べなくてもいいのです。けどチーズが大好きなので、時々食べさせてくれると嬉しいです」
実に直球な要望に、さやかは「うん、いいよ」と快諾した。
時々チーズをあげるだけで、こんな可愛い子が家にいてくれるならば安いものだ、犬や猫の方がずっと大変でお金もかかる。そんな黒い思惑をおくびにも出さない。
「今のなぎさはキュゥべえと同じなのです。魔法少女の素質があるものにしか見えないのです」
「ますます好都合じゃん。よろしくね」
「こちらこそです」
常に語尾に「です」を絶やさない彼女ではあるが、今回はある程度さやかのことを相棒やパートナー的なものとして見ている。
それは決して「居候とチーズを対価に用心棒」という仕事上のものではない。これから長い付き合いになりそうだ、と本人は無自覚の上での直感によるものだ。
「ねえ、なぎさ。私ね、思うんだ」
さやかは普段、魔法少女について思うことはあれどなかなか相談する相手というのはいなかった。
自分が魔法少女でない以上、何を言っても贅沢で傲慢なことのように聞こえるからだ。
だがなぎさだけは違う。そのことに気がついたことで、良き相談相手を得たと言える。
「まどかは私のことを強いって言ってくれるけど、私のそれは単なる空元気でさ。本当は人のために戦えるまどかの方が強いんだって。今も戦うのが怖いんだよねー。あの日、あんたにマミさんが食われかけたじゃん。あれがもし自分に起きるかもしれないって思うとさ」
これを食べようとした本人に言うのはどうかとも思うさやかであったが、彼女以外に適役がいないのも事実だった。
恭介にも話したことのない想い。それをまさか出会ったばかりの少女に言うことになるとは。さやかは戸惑いを隠せずに強がって笑った。
「さやかは幸せなのです」
さやかはそれを否定する言葉を見つけられなかった。まさにその通りだと思った。
今も、友達は魔女と戦い、そして助け合っているのに、自分は愛しい人の怪我を治すだけ治してもらっておいて、何もしていない。安全な場所で護衛までつけてもらっているのだ。これを幸せと言わずしてなんだろうか。
そんな風にいつも明るい表面とは裏腹に、ネガティブなことばかり考えてしまうのは悪い癖だ。その思考自体が幸せを阻害していることには気づかないさやかであった。
「そういう意味ではないのです。何も知らずに契約する人たちとは違うのです。全てを知って、悩んで、そして選ぶことができるのです。確かにまどかは凄いのです。行動を後悔しないのも凄いのです。けど、悩んで後悔しながら選んだ道を歩くさやかも強いのです」
なぎさは何も知ることなく契約したのだ。そのことに気がついたさやかは少しバツの悪い顔をしたが、それさえも何もなかったかのようになぎさは続ける。
「さやかがまどかに守られることを選んだのなら、別にそれを責める人はいないのです。まどかがさやかのお願いを叶えたのはさやかに魔法少女になってほしくなかったからだと思うのです。きっと守るよりも守られる方が苦しくて、辛いのです。それでも守られてほしいというまどかのお願いを聞いているのはさやかなのです」
もしかするとそれは詭弁だったのかもしれない。けれどそれはさやかの悩む心に一筋の光を投げかけた。
「そう……だよね。悩むことさえできない子がいたんだよね。あんたたちは何も知らずに契約しちゃったんだよね。私が落ち込んでどうするんだろ。ありがと。ちょっとは解決したよ」
「なぎさは心身ともにさやかの護衛なのです。チーズ一個で手を打つのです!」
「なぎさは強いね」
「当然なのです。これでも魔女と魔法少女の両方を経験しているのです」
そういう意味じゃないんだけれど、と言おうとしてやめた。経験があるなら精神も見た目以上に成熟していてもおかしくはないし、そういう意味で言ったのかもしれないからだ。
「じゃ、お買い物にでも行きましょうか」
「お供するのです!」
「あんたはチーズ目当てでしょ」
「当然なのです」
二人はお互い、相手に既視感を覚えながら認めあった。
◇
まどかを筆頭とする七人の魔法少女───今は舞が含まれ、七人と一人ではあるのだが───は複数での行動を心がけている。とはいえ、さすがに学校や学年の違う少女たちが七人も行動を共にし続けるるというのは傍目にも異様であるし、お互い自由に行動したいだろうということで、基本的に彼女たちは三つに分かれる。
言わずもがな、まどかとほむら、今は舞。キリカは織莉子にべったりであるし、杏子とゆまはマミの家に居候しているのでごく自然なこととしてこのように三つに分かれていた。
杏子、マミ、ゆまの三人はとある魔法少女に呼び出しを受けていた。
正確にはゆまの存在は知られていないが、杏子とマミが行く以上、一蓮托生のゆまもついてくるのは当然のことである。
三人が呼び出された場所には、同じく三人の魔法少女がいた。
「本日はわざわざ時間をとっていただきありがとうございます。リーダー代理の
中央にいた代表とおぼしき少女が敬語で礼を述べた。
「かしこまらなくていいわ。あなたと私たちの間に上下関係なんてないじゃない。同じ魔法少女でしょ?」
マミの口調からは二人が旧知の間柄であることが察せられた。
杏子はそのことについて深くは聞かなかった。どうせ、一人で魔女狩りをしていたころに共闘したことがあったとかその程度だろう、という信頼とも予想ともつかない思いの元に気にしないことにしたのだ。
「わざわざ遠いところから来て私たちを呼び出すなんて、どういうご用件かしら?」
ベテランの余裕を持ってマミが尋ねた。呼び出したからには要件があって、それを聞かないことには何も始まらない。
「それに、あたしたちが三人で行くっていったのに随分少ないんだな」
杏子が訝しげに三人を見やる。
信頼できない相手に会うときは、戦力に余裕を持つのは当然のことである。ゆまは幼いとはいえ、一人前の魔法少女であり、二人は言わずもがな腕利きの魔法少女として一部の間では有名である。そんな彼女たちと相対するのに三人だけというのは余程自信があるのか、それとも隠れているのか。そういった探りを入れる意味合いもあって、杏子は挑発するように言った。
「戦う気がないのですから。逃げる最低限の戦力があればいいのですよ」
戦う気がないと聞いて、三人の警戒も少しだけ解ける。
ゆまは年上の二人に任せておこうと特に話すことはなかった。
「頼み事……いえ、単刀直入に言いましょう。私たちの仲間になりませんか?」
「仲間?」
「ええ。本来は私たちのマスターが来るべきなのでしょうが、本拠地とする場所を離れるわけにもいかず、こうして部下の私がくることをお詫びしたい。私たちは総勢三十名による魔法少女の団体……ゲームにおけるクランであったりギルドであったりするものを結成しています」
その内容というのが、魔法少女による相互扶助組織であった。
余裕を持って魔女を狩り、負傷やスランプにおける魔法の使用不可などの有事の際にグリーフシードの貸し借りや、戦闘情報や魔女の情報の共有、複数による魔女狩りなどを一定のルールのもとに行う組織であったのだ。
「以前は共闘の余裕がなかったとお聞きしていましたが、最近は複数による狩りの場面も目撃されており、私たちのリーダーはあなたたちを、特に巴さん、あなたを引き入れたいとのことです。あのワルプルギスの夜の少数討伐に成功したあなたたちを、ね」
彼女は入っていただいた場合、特例昇進による幹部推薦も考えると約束した。
話だけ聞けばさほど不利な部分はないと思われる。だがマミや杏子、ゆまにとっては不利なことばかりであった。
「なあ、それって一応聞くけど他にも勧誘ってのは……」
「どういった方ですか? 一人ぐらいなら押し込めますよ。あまり人数は増やしたくないので。それに有事の助け合いこそ取り決めておひますものの、足手まといを増やしたくありませんので」
「後四人なんだけど……」
「魔法少女期間はどれほどですか?」
「一人は一ヶ月、一人は固有魔法が使えないわ。後二人は……わからないわ」
マミはあえて四人の強さに触れないでおいた。彼女たちはマミと杏子がワルプルギスを倒したと勘違いしているようで、それを利用させてもらったのだ。
「それは厳しい……ですね」
「じゃあちょっとね。新人育成の時間はないってことでしょ? それに、一応正義の味方、なんて後輩に自称しちゃってるから、私たち、使い魔も倒すの。集団行動するにはちょっと不向きでしょう?」
「ますます勿体無い限りです。使い魔を倒しつつ新人育成までできるあなたがそんな風に腐るのは。リーダーもあなたの豊富な経験とその戦闘センスを求めているのですよ。もちろんそのお弟子さんとして活躍なされている杏子さんも、ね」
マミと杏子の二人はゆまの戦闘能力を侮っている時点で彼女たちとの交渉は決裂だと考えていた。
それに、どれほど綺麗事を並べられても、自分の意思が貫き通せなくなる可能性があるならばそれは不利なことでしかなかった。
今組んでいる七人は誰もが誰かに強制をしない。しいて言うならば、誰かが無茶をして死ぬことだけを禁じているとも言える。
「残念ね。私たちはもう居場所を見つけたわ。あなたたちの申し出は魅力的かもしれないけど、そちらにはいけないわ。お互い頑張りましょう。もちろんワルプルギスの夜みたいな魔女が出たら言って頂戴。いつでも私たち全員で駆けつけるから」
マミの返答は予想内のものでしかなく、杏子もゆまも隣で頷いている。
しかし綾野燈火は諦めなかった。
「ではなんとかあなたの新人育成を組織をあげて行えるようにしましょう。副官までなら構わないとの言葉ももらっています。だから──」
燈火の言葉は最後まで続くことはなかった。マミや杏子の呆れた顔を見てしまい、彼女たちはどうあっても首を縦に振らないだろうと考えたからだ。
「あなたたちは既に三十人もいるのに、まだ戦力を欲するっていうのはどこかに競う相手がいる。違うかしら?」
「それはっ……!」
「図星みたいね。自分たちの身を守ることさえ精一杯なら共闘ぐらいは構わないし、グリーフシードも譲ったって構わないぐらいには余裕があるわ。でもね」
続きは杏子が引き継いだ。
「いいように使われるのは我慢ならないってわけだ。こんな分不相応な祈りで得た力、無力な人のために使ってやろうと決意したのは最近だけどな」
そして先ほどからまるで力を腐らせているような物言いをしていた燈火に、とうとう本音を言ってしまった。
「というか、あたしたちがさっき言った四人のうちマミに匹敵する魔法少女が二人、イレギュラーが一人、そしてマミさえも足元にも及ばない新人が一人いるんだ。あんたらと組んだところで、お守りっつーか足手まとい? 組むっていうかあたしたちが一方的に守る展開になるから嫌だっていってんの」
杏子のかなり無礼な物言いに、まさかそんなことがと三人はマミを見たが、マミもまたそれを否定する言葉が見つからなかった。
「察しの悪い子ね。遠回しに断るって言ってるのよ」
自分たちの利益のために、引き抜きなどを目論み、そして自分たちなどという八人の中で決して最強どころか強い方とさえ言えないマミを得意げに勧誘してくる彼女らに辟易していたのは杏子だけではなかった。
つい強めの、しかも敵意さえ感じられるような口調で杏子を後押ししてしまった。
「信じられないわ。この場はとりあえず引かせていただきます」
そう言って綾野、茅、芽吹の三人は帰っていった。
だがその後、彼女たちのグループの会議によって下された決断が手紙によって届けられた。
その内容というのが、五回戦制による魔法少女グループ同士の戦いというものであった。
魔法少女同士の熱い戦いが今、幕開ける。
今度は説得も何もないですね。
もしよければ活動報告の方も覗いていってくださいね。