まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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ほむらの初戦

 ここら一帯は保育園を建てるという名目で町に買い占められた土地である。

 広さだけは十分にあるのだが、保育園を建てるというにはやや交通の便も悪い。土壌が柔らかいので砂場なども作りにくい。そんな諸々の理由から、建設計画もなかなか出なかったのだが、二年ほど前に不景気の煽りを受けて共働きに出る親が増えたことにより、ここの建設が進められたという。

 それがどうして今も更地で、手付かずのままなのかというと理由は簡単だ。

 

 誰も──────工事ができなかったのである。

 

 どうやらいろいろといわくつきの場所であったようで、当初から良くない噂ばかり流れていた。

 元々の負の感情に、そこを恐れる人の感情が重なったのだろう。そうして魔女が現れ、人を結界内におびき寄せて食らっていた。

 それを神隠しだとか、謎の失踪などと騒ぎ立てられ、工事は中断された。

 今では不良の溜まり場になっているばかりである。

 その不良でさえも、最近までは怪奇現象に怯えて近づきもしなかった。

 おかげで買い手もつかなくなった周辺の建物も含めて、ここは人のいない廃墟地帯となっていたのだ。

 

 魔法少女の活動がむしろ治安を悪くするという結果に終わった例の一つである。

 

 複数人の魔法少女によって、不良はことごとく追い出されている。

 そんな場所へ来たのは七人の魔法少女と二人の魔女、そして一人の一般人に地球外生命体が一体である。

 

「な、なぎさは帰ってはダメなのですか?」

 

 今も貼られたままのお札だとか、簡易鳥居などの人々の必死さが垣間見える装飾の数々に気圧されて、なぎさが震えている。

 自分自身が怪奇現象よりも厄介な存在のくせして、魔女の残り香に怯えるとはなんともシュールである。

 それをさやかは笑いとばした。

 

「大丈夫、もう魔女は倒されてるんだからさ」

「ううむ。かつての同胞が倒されたことを素直に喜ぶべきなのです?」

「そういうこと言わないでくれる? 私たちはそれを倒さないといけないんだから」

 

 隣でなされる心をえぐる会話に、マミとしては一言いっておかねばならない。

 ほむらは土の柔らかさを試すように、掘り返しては埋めている。

 

 ザッ、と砂をこする音がした。それは人の足音であり、少女たちに気づいて立ち止まったという証明である。

 

「来たのね。逃げなかったことは褒めてあげる」

 

 仁王立ちで強気に威嚇する少女の頭をはたいてたしなめる者がいた。

 気づけばまどか達は大勢の魔法少女に囲まれていた。

 

「やめなさい。失礼でしょう。巴マミさんですね。後ろの方々が参加者で良いですか? はじめまして。束音(たばね)律花(りつか)と言います。この魔法少女相互組織のリーダーです」

 

 丁寧さの抜けない言葉ではあるが、その中にはマミを知る気色が含まれていた。

 知り合いかしら?とほむらが目を向けると、マミは無言で頷いた。

 

「来ていただきありがとうございます。本日はこちらの勝手な要望により、力試し、模擬戦闘による合同訓練という形で引き抜きをしたいと思います」

 

 薄紅色の魔法少女が前に出た。

 あまりに丁寧な物腰に、ほむらと杏子は毒気を抜かれた。

 他の魔法少女はさほど警戒していなかったのもある。

 

「へへん! あたしたちの中から強い子ばっかりが出てくるんだから! 覚悟しなさい!」

 

「私たちが足手まとい? そうじゃないことを証明しましょう。あなたがそこまで言う魔法少女。知っておいても損ではないでしょうし」

 

「かしこまらないでよ。中学も縄張りも違うとは言え、かつて一緒に戦ったこともある仲じゃない」

 

「……そうね。でもあなたは牙を抜かれてしまったわ。正義のために一人で戦うあなたは強かった。今はなに? 後輩に囲まれてちやほやされて満足? 私はこうして相互組織を作ったけど、あなたのそれは本当に助け合いになっているのかしら?」

 

「……ええ。私は変わったわ。けど弱くなったつもりもないわ。確かに助け合いにはなってないかもしれないけどね」

 

 その言葉を聞いて束音は、新人たちのことを大袈裟に言ったのだと解釈した。やはりマミが面倒を見ているのか、と。

 

「もう一度聞くわ。鶏口牛後なんて狙ってなくて、こちらでナンバー2になるつもりはない?」

 

「もう私は選んだわ。全てを正義のためだけには捧げられない。それでも捨てきれないからここにいるの」

 

 実際は、まどかの能力によってグリーフシードの問題から守ってもらっている状態である。

 マミは基本的に善良ではあるが、同時に臆病でもある。自分が安全に人々を守れるならば、そうするべきだと思っている。そしてほむらを最初縛ったように、信頼できない相手に無条件で全てを許せるほど平和な日々を過ごしてはいない。

 まどかの能力をバラして、どういう対応をとられるかわからない以上、それを話して味方に引き込んだり、逆に庇護下に入る選択肢はなかった。

 

 まさに足手まといだったのだ。

 

 新人のころの、簡単にグリーフシードを分け与えていたころの甘さが抜けて、精神的に成熟しているマミは確かに魔法少女としてベテランであった。

 ほむらと織莉子はそれを見て、口の端を軽くあげる。

 

「戦いに出ない子たちの力で、人払いの結界を張っているから安心して戦ってほしいわ。それと付け加え忘れてたルールだけど、相手を殺した方は問答無用で敗北ね」

 

「じゃないと困るよね。殺すまで勝てないとなれば、全員殺すことになるかもしれないんだから」

 

 確かに目の前にいるのは11人。決闘に出る最低人数だ。周囲にいる魔法少女を合わせても、30には届かない。不意打ちを警戒していた杏子とキリカはそれを聞いて表面上は納得した。キリカのどこかズレた返答に突っ込む者はいなかった。

 

「そう。それは良かった」

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

 束音に促されて、一人の魔法少女が前に出た。先ほど強気であった彼女だ。朱色の衣装に身を包み、片手には剣を持っている。

 魔法少女の武器というものは、慣れてくれば自分の使いやすい武器に変えることもできるが、多くの魔法少女は自分が使いやすい武器が最初に出る。中でも多いのが剣とステッキである。おそらく、戦う魔法少女と聞いてどこかで想像するのがこれであることが多いのだろう。

 

「名前ぐらいは聞いておいてやるよ。あたしは夏樹(なつき)詠美(えいみ)

 

「……暁美ほむらよ。ふうん。あなたの武器は剣なのね」

 

 盾を持ってほむらが前に出る。

 

「盾に言われたくないね。攻撃力がないのにどうやって敵を倒すってんの」

 

「あなたに話す必要はないわ。敵に手の内を話すほどバカじゃないもの。それに、あなたには魔法は必要ないわ」

 

 話の通じる魔法少女相手、対人戦だからこそ通じる手法である。

 魔法を持っていると思わせて警戒させておく。油断は誘えないならこちらの方が良い。

 ほむらは話しながらも

 

「バカにして!」

 

 彼女の叫びと同時に開始の合図がうたれる。

 それを皮切りに、相手は一直線に飛び出した。ほむらはそれを待っていたかのように、盾から出したまどか特製手榴弾を投げつける。

 煙で視界を遮られ、爆風でよろめきながらも前方に魔力による防御を集中させながらほむらに突っ込むことをやめない。

 しかしほむらはすでに横に跳んでおり、彼女の剣は空をきった。

 

「前しか見えてないのね」

 

 ほむらは冷静に、煙から飛び出した詠美にまどか特製リボルバーで弾丸を浴びせる。

 その幾つかを剣で弾き、致命傷だけは避けた。もっとも、魔法少女にとっての致命傷とは治るものであって、致命傷でなければ意味などないのだが。

 ほむらもそれで倒せるなどとは思っておらず、いっきに距離をとった。

 後ろに下がる前に、自分の足元に不可視の地雷を置いた。

 埋めるものではない、元から透明の地雷で、足元に置くだけの地雷である。

 こんな便利なものまで作れる、まどかの魔法センスは異常であった。

 

「ちまちま小細工しやがって!」

 

 魔力を探りながら、器用にそれらを避けていく。

 

「あなた、大切な人はいるのかしら」

 

「戦闘、中にっ、余裕だね!」

 

 斬りかかる剣戟を盾で防ぎ続ける。

 

「もちろんっ、いるよ! 目の見えなかった、私をっ、支えてくれた人が」

 

「へえ……わかったわ。あなたのお願い事」

 

 戦いで高揚し、同じ魔法少女としての運命を背負うということで口も軽くなっていたのかもしれない。

 ポロっとこぼしたそのセリフから、ほむらは詠美の願いを推測した。

 

「あなたのお願い事……目が見えるようになることのようね? あなたのさっきの地雷を避けたのは、魔力を感知していたからじゃない。だって不自然だもの。私が置いたことを知っていなければ、魔力を地面に向けて感知しないから。あなたの目は、魔力の残滓まで見える、そんな目ね」

 

 ほんのわずかな情報から、固有魔法とその戦い方、願いまで見透かされて少なからず動揺した。

 盾を攻撃し続けるその剣筋にも迷いと乱れが生じている。

 ほむらは片手で盾を持って剣を防ぐその間も、もう片方の手で透明の地雷を増やしている。

 

「だ、だったらどうだって……」

 

「だったら私の勝ちね」

 

 透明の地雷を2人して駆け抜け、戦場が移動し続けていたことに誰もが疑問を抱かなかった。

 戦っているのだから当然だ、押されているのはほむらだ、と。

 不利だと思われる状況でも、未だ固有魔法どころか、魔法武器以外の何も使わないほむら。彼女が何をしてくるのかという警戒はあった。

 

「な……にがっ……?」

 

 だが、だからこそか、詠美の足元が爆発し、彼女が爆風に包まれたとき、誰も何が起こったのか理解できなかった。

 

 

 




さあ、ここまで目の良い相手を不意打ちでしとめることができたのでしょうか。
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