まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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キリカと織莉子の敵意

 一人の魔法少女が地に倒れていた。

 背中は黒く焦げており、爆発の煙がぷすぷすと立ち上っていた。

 悔しげに片手を伸ばしほむらに向けるも、ほむらはそれを見ることなく踵を返した。長い黒髪を手で梳くその動作も勝った後では更に優雅なものであった。

 

「勝負あったみたいね」

 

 勝ち負けの判定は概ね束音律花側に任されている。

 それを不公平だと糾弾することはできるが、まどか陣営はそれに文句一つ言わず受け入れた。

 決して不正をしないと信頼するなどといった綺麗事でそれを受けたわけではない。

 向こうが負けてもそれを認めないならば、向こうの命が危ないからである。判定など意味はないのだ。多少の不正ならば不正ごと叩き潰せば相手も諦めるだろうと思ってのことでもある。

 

 現に、誰も疑いようのない結果が目の前に広がっている。

 しかし、ほむらの歩みを止める者がいた。

 

「まだ……いけます。私はまだ負けていません!」

 

 戦っていた張本人、詠美であった。

 ボロボロで自己回復も間に合わないその体を引きずって未だ戦意は失っていなかった。

 

「やめなさい! あなたの負けよ!」

 

 束音はそれを厳しく律した。

 

「ですが……」

 

「勝負に負けても失うものはないわ。けれどあなたをここで失うわけにはいかないの。まだ初戦、ひいてもらうわ」

 

 厳しい中に自分の身を案じる言葉を受けて、彼女は負けを認めた。

 

「おめでとう!」

「よくやったわ!」

「凄いわね」

「さっすが!」

 

 口々に賞賛しほむらを迎えた。

 

「つーか、どうやって不意打ちを当てたんだよ」

 

 杏子は何をしたのかわからなかったらしい。いや、未来視を持つ織莉子でさえもわかっているか怪しい。

 

「簡単よ。彼女に思い込ませただけ」

 

 ほむらは自分がしたことを話しはじめた。

 それを要約すると、ほむらはまず派手に見えない魔法製地雷を撒いたことで、ほむらが魔法製武器(そういった武器)だけを使う魔法少女だと思い込ませた。

 次にほむらは自分の置いた場所を覚えて、それを避けながら戦うことで、踏まなければ爆発しないと刷り込んだ。

 極めつけが、ほむらが一度も固有魔法を使わなかったことだ。固有魔法がない魔法少女はなかなかおらず、汎用性の高い平凡なものなら最初から使っているはずだというのが魔法少女の常識だ。それを一度も使わなかったことで、それを切り札や一撃必殺のものだと予想させて警戒させ続けた。

 当然、踏まなければ避けられない魔法製の地雷は魔眼で最低限の注意だけを払い、自分は攻撃しながら固有魔法を使われるタイミングだけを気をつけていればいいと侮らせたのだ。

 まさか時限式の爆弾で、現代の科学兵器を魔法少女が使うと思わなかったその隙をついたのだ。

 

 彼女が魔眼であったからこそ、隙が生まれて致命傷となったのだ。

 

「やっぱりほむらちゃんは凄いよ」

 

「ふふっ。貴女に言われると皮肉に聞こえるわよ」

 

「そんなことないわ。ありがとう、まどか」

 

 そしてほむらは現在治療中の詠美に近づき、言った。

 

「あなたは私の固有魔法を警戒していたみたいだけど、ごめんなさい。私、固有魔法とかないの」

 

 言葉だけはしおらしいが、その顔は全く申し訳なさを感じていない顔であった。

 手の内をバラしてでも戦意を削いでおきたかったのだ。

 詠美も、固有魔法さえ使えなくなった貧弱な魔法少女にあっさりと負けたことでプライドをズタズタにされていた。

 初戦から手の内を丸裸にされ、背中に火傷、そしてプライドまでへし折られた彼女は次の戦いから出てくることはないだろう。

 

「悪い顔っ」

 

「悪い子だもの」

 

 治療で体こそ普通に戻った詠美はガクンと両手を地についてうなだれた。

 

 

 

 

 ◇

 

 相対する私たちが呑まれるわけにはいかないとばかりに、束音側の二人が出てくると、

 

 

「……珠奈(しゅな)(やなぎ)

果菜野(かなの)珠香(たまか)だよっ!」

 

 無口な方とハイテンションな片方、対照的な二人であったが、彼女らが出た瞬間に束音サイドが騒がしくなった。

 

「あれは、ダブル珠玉コンビ……!」

「やっぱりペアならあの子たちなんだ……」

「もう出てくるの?」

 

 ここぞという戦いで出てくるだけあり、随分強いらしいことがその反応から伺えた。

 

 しかし織莉子はそれを一笑にふした。

 

「愚かな子たち……絶望というものを知らないから"強い"だけで喜べるのね」

 

 本来、常時発動型の固有魔法によって非常に燃費が悪く、戦闘時に多めに魔力を使えなかった織莉子。それでも強力すぎる固有魔法とその覇気で魔法少女として十分な力を誇っていた。その織莉子が今、まどかの浄化によって十全の力を発揮できるようになっている。その意味がわかっているのだろうか。

 

「知らない方が幸せ、ねえ。私はそうは思わないけど、こればっかりは知らない彼女たちが幸せなのかもしれないね」

 

「それはランダムに様々なことを知ってしまう私のことかしら?」

 

 そう言う織莉子に傷ついた様子は全くなく、むしろそうしたキリカを面白がっているようであった。

 

「そ、そんなつもりはないよ。私は織莉子と会えて幸せだから!」

 

 こうして笑いあう最中も、決して敵側への視線は外さない二人。

 初戦を魔法もろくに使わなかった魔法少女に負けたということで、まどか陣営を侮る輩はもういないと見えた。束音サイド全体がピリピリとしているが、それ以上に束音陣営は出てきた二人に緊張させられた。

 

「油断しないでね」

 

「あははははっ。わかってる。織莉子のためなら、なんでもするよ。彼女たちに見せてあげよう。私たちが守られるような存在ではないことを」

 

 どちらもまだ魔法少女になってから半年と経っていない。比較的経験は浅いが、まどか陣営は若い魔法少女が多いことを考えるとむしろベテランである。そして、誰よりも実戦で鍛えてきた二人である。

 

 そんな二人にそこまで緊張させられたのは、経歴も何もかもが吹き飛ぶぐらいに。

 

「はじめよう」

 

 殺意と敵意をむきだしの彼女らに本能的な恐怖を覚えたからだ。

 

 

 

 戦いが始まってしばらくは様子見の連続であった。

 技量、武器の相性、固有魔法、相手の情報を引き出すために汎用魔法を撃ち合い、武器を交える。

 

「何をもたもたしておるのやら。ドカンと派手にやってしまえばよかろうに」

 

 その戦いにじれったさを覚えて舞がつぶやいた。

 

「みんながみんな、舞みたいに馬鹿げた魔力と出力がないのよ。まどかぐらいよ、あなたとまともに力勝負できるのなんて」

 

 最強の魔女。多くの魔女や魔法少女を取り込んだその力は桁が違った。それと比べられては魔法少女がかわいそうというものである。

 

 快活な少女、珠香が前衛をつとめ、寡黙な少女、柳が後衛として補佐する形で戦いは継続していた。

 織莉子はどちらかというと消極的なサポートに回っていた。予知を使ってキリカに致命傷がいかないように妨害を中心とした攻撃が多かったのだ。キリカが一対一の戦いに集中できるようにしていたのだ。

 

 キリカの爪と柄の長い斧を打ち合わせる珠香がニヤリと笑った。

 

「そうだ。最近魔法少女が死んだって話を聞いててさ。それが引き抜こうとしてた女の子だったもんで調べたことがあるんだ」

 

「それがどうかしたのかい?」

 

 キリカに動揺する気配はない。

 それを演技と見たか、それとも素で言っているのか皆目見当もつかないままに珠香は続けた。

 

「もしかして、あんたじゃないの?」

 

 キリカは眉一つ動かさずそれを聞いていた。激昂するわけでも、取り乱すわけでもない。ただ、一言。

 

「最近、か。人違いじゃないかな、 。私は最近というか前からだけど織莉子へ愛を注ぐのに忙しいんだ」

 

「なら、いいやっ!」

 

 大きく斧を振り、キリカを後ろへ大きく弾き飛ばした。

 斧という重量とリーチのある武器を使っていた彼女は最低限の動きで相手と戦う術を身につけていた。

 遅くなろうがそれは変わらない。彼女は速度の落ちた体でキリカの猛攻を防ぎ続けた。

 

「なっんだかおっせえな……あんたは速いな」

 

「愛の力さ」

 

「ふんっ。どうせ実戦だろ? あんたも私と同じ匂いがするよ。その目は魔法少女を殺したことがある目だ」

 

「わかっていない。愛は無限に有限。全てを凌駕する力だというのに」

 

「そこまで言うなら、見せてみろよっ!」

 

 離した距離をいっきにつめる。

 キリカの周囲でガクンと動きが遅くなった。

 

「ははん。そういうことかよ」

 

 キリカは現在、魔女の空間でやるように目に見える範囲全てに遅延魔法をかけるようなことはしていなかった。

 そんなことをしても、周りにギャラリーがいればどうせバレるだろうし、もう手の内がバレても問題はない。何より効率が悪く、他のトリッキーな攻撃に魔法が使用しにくくなる。

 そろそろバレるだろうというのは折り込みずみであるため構わない。

 いくら特殊魔法とはいえ、わかっていても防げなければ意味のない魔法である。

 

「じゃああんたの射程内に入らず攻撃すればいいわけだっ!」

 

 距離をとって遠距離に切り替えようとする。

 織莉子とよく似た色つきの球を幾つも出してキリカにぶつけようとした。

 

「甘いよっ」

 

 キリカはくるんと身を翻して、それらのうち幾つかに遅延魔法をかけながら避けていく。

 

「まだまだっ!」

 

 ぐるん、ぎゅんと加速したり減速したりしながら器用に球はキリカを狙う。

 キリカはお構いなしに柳の前数メートルで球を操る珠香に接近した。

 その瞬間、操っていた球同士が激突して消滅した。

 

「何が起こったの!?」

 

「珠香さんがあれの操作をミスするなんて……」

 

 周囲の珠香の魔法を知る者は魔法の自爆という奇妙な光景に驚いた。

 

「どうせ、自律操作じゃないんだろう? なら一部だけ遅くすれば君の感覚と球の速度にズレが生じて、本来ならば自爆しない球同士が衝突するってことだよ」

 

 その説明に勝ち誇る様子はなく、ただ虫けらでも見るようにキリカの爪が珠香をとらえようとした。

 大勢がキリカと織莉子の勝ちを予想した。だが。

 

「五月蝿い」

 

 やけに静かなその声があたりに響いた。

 

「ガッ…………!!」

 

 キリカが声にならない声をあげてその場に崩れ落ちた。

 

「追い詰めたと思っていたら誘いこまれていたのはそっちだったんだよーん」

 

 ニヤニヤと笑って、キリカを見下ろす珠香。

 

「この子、お願いごとに周りを静かにしてほしいって頼んだんだってさ。だから、特性は『鎮静化』。全てを停止に近づけるんだって。君と良く似てるね」

 

「勝手にバラさないで」

 

「はいはいごめんごめん」

 

 血を吐くキリカを二、三度踏みつけて勝ち誇る珠コンビにギャラリーは、先程とは逆の予想を抱いたのであった。




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