まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
まどかの戦いが終わったことで、律花側の完全敗北が決定した。
まどかは全員のソウルジェムの輝きがいつも通りであることを確認して、変身を解いた。変身を解いた、といっても表面上だけで、魔法少女としての衣装を制服に変えただけの話である。
要求を何するか、という話であったが、織莉子の提案で情報の融通というところに収まった。毎月グリーフシードを納めろ、などと言われる可能性も考えていた律花側は拍子抜けであった。まどかの力がある以上はグリーフシードなど必死で集めるほどではないだけのことである。
そうして大した禍根もなく、魔法少女団体戦が終わってそれぞれが元の生活に戻っていった。
◇
暁美ほむらは機嫌が悪かった。
それは何かがあったというよりは、せっかくなかったのに、という理不尽な怒りであった。
「ちょっと魔法少女システムに不備が出たらしくってね」
そう言ってマミやほむらたち魔法少女の元を離れたキュゥべえ。いたらいたで不愉快で、いなければいないで不都合が出る。
おそらく問題などというのは、一度ほむらたちと離れるための方便かもしれないとさえ思っていた。だってあの体は仮初めの器にすぎないのだから。
ほむらたちにはまどかがいて、ソウルジェムをグリーフシードを使わずに浄化できる。だからこそそんな横暴を許されたが、もしも普通の魔法少女であればすぐに使い終わったグリーフシードの処理ができなくなり、ソウルジェムの浄化ができずにピンチに陥るであろう。
で、そのキュゥべえが戻ってきたのだ。
「使ったグリーフシードがあれば出してね」
口も動かさずに、あたかもマスコットキャラのような声が脳内に響く。
耳を塞ぐことさえ意味のない会話方法は、ますますストレスを高める原因となっている。
「口を閉じなさい、と言いたいけど無意味ね。できれば認識の外に行ってほしいのだけど」
「やれやれ。僕は別に敵対することはないってのにね。いわばパートナーだ。感情を抜きにしてビジネスライクに付き合うべきだと思わない?」
「感情のない貴方に"思わない?"と聞かれることほど腹立たしいことはないわ」
しかしほむらもまた、この毒と無感情のやりとりに慣れてしまっていた。
まどかの魔女化の心配がなくなり、ひとまずの安寧を得られたことが原因かもしれない。
一人、天井の高い部屋でぬいぐるみ然としたキュゥべえを踏みつける。
きゅむぅと間抜けな音と共にキュゥべえの体が足の形に凹んだ。
「さあ、今日も頑張りますか」
いつもの魔女狩りを。
◇
ほむらたちは魔女狩りにあまり全力を尽くさない。
不真面目だというわけではないし、もちろん手を抜くというわけでもない。使い魔が出れば倒すし、魔女が人を襲う前に駆除するのはいつものことだ。全力ではない、というのは何が何でも全ての魔女を撲滅しようとはしないということである。
例えば、隣町に魔女を見つけたならその場で食い止めてその地域の魔法少女を呼ぶのだ。
その理由の一つは縄張り争いの問題である。もう一つは強力な魔法少女であるまどかたちが全力を出し続けるとグリーフシードの独占になり、残された数少ないグリーフシードを奪い合って魔法少女同士の戦いが頻発するからである。
「でも、今日の魔女は随分とおかしいわね」
今日はまどかと二人での狩りである。
強化されているとはいえ、高速で動き続け、多少は疲労の色も見えるまどかにほむらは呟いた。
まだ魔力量に対する効率で言うならばまどかはメンバーの中で最も悪い。それを補おうとして魔力放出を増やせばオーバーヒートする。その結果がワルプルギス戦である。
ならば魔力効率は良いに越したことはない、と通常の魔女との戦いにおいてもできるだけ全力を出しつつ制限できるようにと慣らしているのだ。
「私はほむらちゃんほどたくさんの魔女を狩ったわけじゃないからあまりよくわからないけど……」
口ではそういうまどかもまた、この異変を肌で感じとっているようだ。
いつもの負の感情に染まった重苦しさの中に、生々しい気配がする。
次の魔女を見つけて結界の奥へと到達した時にそれはあった。
「ちょっと待って……」
多くの使い魔がそこにはいた。使い魔とは魔女から生まれた魔女の幼生のようなものである。つまりは魔女に似ているはずなのだ。
それがどうだろうか。目の前にいる使い魔はその形状を人から獣へと変質させていた。
◇
「と、いうことがあったのよ」
今日も今日とてマミの部屋である。
急にマミに連絡をとっていつものメンバーを集めるようにと頼んだほむらとまどかは開口一番、魔女狩りでの異変を説明した。
一人暮らしの中学生の部屋であるというのに、いつ見ても整えられた部屋はマミの先輩としての
杏子がもしかして、とほむらに尋ねた。
「実は使い魔じゃなかったとか」
「そんなはずは……」
ないとは言い切れなかった。
どれだけ魔法少女歴が長かろうと、キュゥべえの作るシステムを十全に理解しているわけではない。
しかしまどかが頭を振った。
「ううん。あれはきっと使い魔」
魔法少女システムに干渉する願いを得たまどかにとって、そういった相手にこそ敏感になるのだ。いつしかまどかは使い魔や魔女を気配で感じられるようになっていた。そんなまどかがあれを使い魔だと言う。
「埒があかないわね」
こんな時にこそ未来視は使えないのだろうか、と織莉子の方に自然と視線が集まった。しかし織莉子は残念そうに
「何も見えない」
と答えただけであった。
◇
それからしばらく、特殊な使い魔と出会うこともあったが、まどかたちにはさほど問題はなかった。
だがこれまでソロで活動してきた魔法少女たちは、使い魔の実力が急激に変化し、強くなったことで手こずっていた。
ソロということはグリーフシードのわけ前について悩む必要がないが、それ以上に戦闘での危険性が高まる。
まどかと出会う前のマミや杏子は一人でも十分にやっていけたが、多くの魔法少女は徒党を組む。
今回の件で一人を貫いていた魔法少女たちも仲間を本格的に探し始めた。
そんな魔法少女がまどかたちを見つけた時の反応は二通りである。
そんなに大勢ならば、一人ぐらい増えてもいいじゃないか、いれてはくれないか、もしくは大勢でしかも長い付き合いならばきっと孤立してしまうだろう、かだ。
つまり仲間になりたいかどうかが二分極されるのだ。
そして実力を知ってさらに分かれる。
ついていけないから、と退くのか、自分の安全のために実力者と共にいたい、と願うのか。
概ねまどか以外は当然断る。
全ての人を救う。
それは立派な精神だが、そもそも魔法少女が戦うのは自己の存続と一般人の安全のためである。
寄生しなければ生きていけないものが打算で利用してこようとするのをよしとはしなかった。
まどかはほだされるかもしれない。
そう考えたほむらは自然と他の魔法少女からまどかを遠ざけた。
情報収集は顔の広いマミと、予知能力のある織莉子に任せてしまったのだ。
こうした非情で冷静な判断こそがほむらの真骨頂とも言える。
適材適所。その意味では
「ねえ、ほむらちゃん。魔女は使い魔が育つか、グリーフシードが孵化するか、魔法少女が絶望するか、のどれかなんだよね?」
グリーフシードも結局は魔法少女の成れの果てだと考えると、魔女というのは結局は「人の負の感情」と「魔法少女システム」の二種類の要素しかない。
それがキュゥべえとほむらに共通する認識であり、それで今まで辻褄があっていた。
ほむらはそのことをまどかに言った。
「じゃあ使い魔は?」
「使い魔は」
そして言い淀む。そもそも魔法少女システムを敵視こそすれ、解析しようしたことは少ない。
魔女から生まれるのが使い魔で、使い魔が育てば魔女になるとしかわかっていない。
それがもしも間違っていたら。間違っていないにしても、それが全てではないとしたら。
とんでもない思い違いをしているのではないかとほむらのうなじに冷たい汗が流れる。
「使い魔が私たちが思っているだけの存在ではなかったとしたら」
二人は依然として歩みを止めない。
謎の使い魔がいる。魔女狩りをそんな理由でやめることもなかった。
「うっ……!」
そして目にした。大量の使い魔が、一つの場所に集まってきているのを。最初は何が起こっているのかわからなかった。彼らはお互いをお互いに喰らいあっていたのだ。
生理的嫌悪感を催すほどにおぞましいその行為に、思わず二人は口を抑えた。ほむらも、まどかもこれぐらいで嘔吐するほどの脆弱な精神ではなかったが、吐かないからといって気持ち悪くないわけではないのだ。攻撃性をむき出しにした魔女にも怯まぬ二人が、歩みを止めるどころか二歩ほど後ずさる。
「退却しましょう……」
情報の少ない相手に、イレギュラーに挑むことほど緊張を強いられるものはない。
ほむらはまどかにかろうじて戦闘を避ける旨を伝えた。まどかの二つの見開かれた目はぐるぐると目の前の光景を焼き付けていた。そしてそんなまどかもまた、頷くことしかできなかった。