まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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使い魔、真相解明編

 こぽこぽと液体特有の気泡が上へと昇る音が聞こえる。

 

 マミは以前から紅茶が好きだったが、特によく飲むようになったのは魔法少女になってからである。部屋の中がじんわりと熱を持って、辺りにゆったりと香りが広がるのを目を細めて感じる。

 より好きになったのが、中学生になって味覚が大人のそれへと変化したからか。それとも一人で暮らすようになって自由に紅茶を飲めるようになったからか。それとも魔法少女という過酷な生活と、両親を亡くした悲しみで眠れぬ孤独を紛らわすために心の拠り所を求めたのかはわからない。

 

 だがそんな紅茶が今は、可愛い後輩たちとの交流の道具となっていることに喜びを覚えながら今日もマミは紅茶を淹れた。

 休みの日だということで寝ている二人を見て、自分の立ち位置を確認した。

 

 二人は意外にもしっかりとしていて、使う金額は増えたがマミの手間はぐっと減った。

 さすがに料理はマミが一番得意であったが、掃除や洗濯などはゆまもそつなくこなし、一人で生活してきたしたたかさからか、杏子も買い物からマンションのもろもろまで手伝ってくれる。

 孤独ではないのだ。そう感じるだけで、ソウルジェムが穢れる速さがぐっと遅くなるのを感じた。

 精神状態が強さに直結する魔法少女において無視できないメリットである。

 

 チャイムがなった。

 

 気がつけば約束の時間になっており、玄関へと出向いて後輩たちを招きいれる。

 ほむら、まどかとさやかに織莉子、キリカ。おそらくは時間が一緒だから近くで出会ってここまで一緒に来たのだろう。

 無関係じゃないから、と恭介との時間を削ってまで魔法少女に関わろうとするさやかの姿にどこか贖罪のようなものを感じるのはマミだけなのか。

 

「いらっしゃい」

 

 まどかがいつもケーキをご馳走になっているのは申し訳無いと、手土産をもってくるようになった。

 両親の保険金と、遺産と、そして補助金に月々の親戚の支援によってなに不自由なく暮らしているマミとしては、ケーキや紅茶などの嗜好品ぐらいにしか使う当てがないのでそこまで気を使われても困ったりする。

 しかしまどかもおそらくは両親などに言い含められたりしているのだろう。お礼と共にそれを受け取った。

 

「お邪魔します」

 

(魔法少女円卓会議ね)

 

 少しかっこつけたようなことを思うのであった。

 

 

 

 

 ◇

 

 ほむらとまどかがもたらした情報は、魔法少女を警戒させるのに十分なものであった。

 

「共食い、ねえ……」

 

 キリカと織莉子は平然としている。罪に濡れたその手を見て、食べるために殺すならばまだマシだと感じているのか。

 杏子もだ。杏子はかつて、強がりではあったものの人を使い魔が喰らい、育って魔女になれば自分たちが喰らう、という魔法少女の在り方を食物連鎖に喩えたことがある。

 しかしそれを聞いて喜ぶ者はいない。

 

「まどか嫌なもの見たね。さやかちゃんが励ましてあげるとしますかー!」

「彼氏ができて浮かれた子はあっちいってなさい。私がまどかを慰めるのよ」

「ほむらちゃん!?、」

「ちょ、なによ。もしかして嫉妬ですか?」

「ええ。まどかの親友ポジションに嫉妬よ。私がその座はもらうわ。貴女には上条恭介がいるじゃない」

「親友と恭介は別ポジだってー」

「私はまどかが全てよ」

「や、やめてよ! なんだか恥ずかしくなっちゃうから……」

 

 話を聞いていたマミがあごに手を当て考えこんだ。やいのやいのと推測を飛ばし、時折無駄な……いや、多量の無駄な話を挟む少女たちの会議に参加せず、淹れた紅茶がぬるくなるころにようやくポツリと。

 

「……蠱毒」

 

 今まで黙っていたマミが突然言葉を発したことで周りの話がピタリと止む。すると、マミの発言がやけに重く響いた。

 

「蠱術とかいろんな呼び方があるわね。同じところに様々な種類の毒をもつ生物を大量に閉じ込めて、殺し合い、喰らいあった生き残りを使った毒のことよ。古来から固く禁じられた呪法の一つとして扱われているわ」

 

 マミは魔法少女になった時、より効率よく、より見目良くあろうとした研究のために魔法などについて詳しく調べたことがある。その時にふと横道にそれるようにして呪術についても調べ、知った知識の一つ。そういったフィクションを読んでいれば自然と知ることもあろうが、中学生の少女が知るにはいささか異端の知識が、戦いの日常の中ではたびたび役に立つ。

 

「本来ならば自然と得るはずの穢れを、同族を喰らうことで増大させた、って推測かしら?」

 

 魔法少女システムについて魔法少女の中で最もよく知っていたのは過去のこと。そんなほむらもまだまだわからないことがある。

 

「効率は……いいでしょうね。もともと何十と発生しても、一匹が魔女になれば他の使い魔は魔女になれない。少なくとも見たことはない。そして魔法少女という外敵によって確実性を欠く魔女化もこれなら安定するかもしれないわ。成功するならば、最も強い使い魔を短期間で確実に魔女化してしまえるのだから」

 

 織莉子は未来視を使おうとするが、不透明なヴェールの先は明らかにはならなかった。しかしその答えが正解だと勘が告げている。

 

「じゃあ共食いしていても普通に倒せばいいのかよ」

 

 杏子は問題事を難しく考えない。

 そう、この問題の問題たる所以は使い魔の異常にどう対処するかであって、それ以上のことはない。

 

「そう──────」

 

 決着がついたところで、その流れのまま終わろうとしたほむらを遮るものがいた。

 

「でもおかしいよね」

 

 そう、まどかであった。

 誰よりも、誰にでも優しい彼女は時折その優しさにそぐわぬ冷静さを見せる。そう、誰もが気づかない、見て見ぬ振りをしているような何かを見ている。焦点が合うような、合わないような瞳でこれまでを回想している。

 

「その使い魔に会ったのって、ほむらちゃんか、私だけだよね?」

「え? 誰も見たことなかったのかしら?」

「私たちは二人の時に見たことはないかな」

「私たちもよ」

 

 ほむらの疑問に皮切りに答えていく少女たち。

 そしてまどかの違和感は確信の疑問へと変わっていく。

 

「どうして、そんな現象ならもっと他の人にも起きてないのかな? 変な風に強くなった魔女がいるなら、他の人たちの間で噂になってもおかしくないよね?」

「そう言われれば、そう、かしら……?」

 

 ほむらは嫌な想像に突き当たる。

 

「私か、まどかを狙って意図的に誰かが起こしている、ってこと?」

 

 現状ではその可能性が高いように思われた。

 ほむらはキュゥべえを呼んだ。

 

「どうしてここにいるとわかったんだい?」

「あなたはこの前、わざわざ私たちを放置してまで故郷に戻った。どうせ故郷に戻るならばその時に必要なことはしてしまった方が効率がいいわよね。だったらあなたはもう緊急の用事はないはず。すると私たちが集まって魔法少女システムについて話しているならここにいてもおかしくはないわ。というよりはいないとおかしいのよ」

 

 最初からこうすればよかったわ、と続けた。不本意なのがありありとわかる苦い顔では説得力はないが。

 そしてキュゥべえから、蠱毒現象について語られる。

 前半の蠱毒についての推測は概ね予想通り。

 しかし、その発生原因については、ほむらの予想よりも残酷なものであった。

 

「私の、せい…………?」

「厳密には君の胸元に、時間的な歪みがあってそこでエネルギーがおかしなことになっているんだ。ズレている、とでも言えばいいのかな? ちょうど、時間換算で言えば一週間ほどだね」

 

 ほむらは一週間、という時間に何か心当たりがあるような気がした。

 とはいえ、何かがあるとすればこの時間軸で魔法少女である期間なのだから、病院のベッドまで遡って……と記憶の糸を手繰ると、その一週間という時間がなんだったのかを思い出した。

 

「そう、私が時間逆行の固有魔法を失敗した時間じゃない」

 

 ほむらがこの時間軸にやってきた時、いつものループと一週間ズレてやってきた。

 

「君のせいだと決まったわけじゃあないけどね。君が失敗したからそれが起こったのか、それともそれが起こるから君がその起点となって失敗したのかわからないからね。こういうのをニワトリが先か、卵が先かの議論って言うんだろう?」

 

 無駄に人間の言い回しにまで精通しているキュゥべえが嫌味だった。

 特にゆまや杏子、キリカあたりはその言い回しそのものを知らないのか、きょとんとしている。その他は知っているところを見ると、教育水準の高い見滝原の学生なのであろう。

 とはいえ、よく知られた言い回し。キュゥべえの日本語の基本翻訳に入っていてもおかしくはない。

 

 キュゥべえは嘘をつかない。ほむらに向けた言葉だって、ただ不確定なことを事実ではないと否定しただけだ。だがその性質が今だけは少しありがたかった。

 

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