まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
ほむらやまどかが不可思議な使い魔の共食い現象に右往左往していた時、キュゥべえは見滝原から離れた場所へとやってきていた。
漆黒の夜空に月が輝く。満月に少し足りないぐらい、それでいて明るさは十分に一人の少女を照らしだした。
キュゥべえは彼女の仕事が終わるまで待っている。
彼女は使い魔を追っていた。殺さないように、それでいて被害が出ないように。
使い魔が自身の手におえないと感じたときに本能的にとる行動の一つとして、自身の主、つまりは魔女の元へと向かう性質がある。それによって使い魔に魔女の元へ案内させようというのだ。
彼女の追っていた使い魔が歪みの中へと駆け込む。いつもこうして結界を見つけているのだ。
結界に入った彼女は特に苦労することなく魔女を葬る。そこには躊躇いも怯えも見られない。巨大な鎌は魔女の胴体を真っ二つにしてまるで瘴気のような魔力をまとう。切り終わると同時に魔力は収束して普通の鎌と見分けがつかない。屈指の隠蔽能力を見せつけた。
彼女はキュゥべえの姿を認めると、人の少ない廃墟へとズカズカと入っていく。
中にもともといた若者たちが自分たちより年下の少女の姿を認めて絡んだ。
直後、悲鳴が夜空に響くがおそらく死んではいないだろう。
廃墟の屋上で一人、愛用の武器である巨大な鎌をコトリと置いて隣に寄り添う白い地球外生命体に話しかけた。
「その魔法少女が最強というのは本当なのか?」
相変わらず感情の読めない眼だ、と思いつつもともと感情などないのかと思い出す。
「正面から戦って勝てる魔法少女はいないかもね」
キュゥべえは話題の彼女が魔女にならなさそうという事実を隠して話す。真実の中から都合の良いように取捨選択する。いかにも人間らしい技能だ。感情がないのにここまで感情の誘導に必要な会話に長けているとなると、感情がないというのも疑わしいものである。
もしもその話術とやらを問い詰めたのならば、いつもの話術だと悪びれもせずに言うだろう。実際は話題の少女、つまりはまどかのことだが、彼女とほむらととある事情を話さないと約束しているからでもある。その事情とは、「まどかがソウルジェムを浄化できること」である。
おそらく二人は「まどかの強さに関する全ての情報」だと思っているが、あの時約束したのはその部分だけ。むしろその事実のみを隠す許可が与えられたことで、誘導しやすくなったとも言える。
ふーん、と少女はそっけなく返事をするも、その顔にはうっすらと笑みが浮かぶ。
「まあいいんだ。相手が強かろうと弱かろうと私は魔法少女を刈るだけだから」
「君はより強い魔法少女を探しているのかと思っていたよ」
それではただの戦闘狂だ、と言ってすぐに似たようなものかと自嘲気味に呟く。
「ベテランの魔法少女や極めつけのイレギュラーもいるから気をつけなよ」
杏子に初めて話したときと同じようなことを思い出したように付け加える。
少女はそっとキュゥべえの首元に指をなぞらせる。手つきこそ優しいものの、そこに慈愛は一切こもっていない。感情があったならば怯えて後ずさりそうな殺気の元に晒されるキュゥべえ。
「何を言うか。私が刈ってきた魔法少女の中には徒党を組んで複数で戦っていた娘達もいただろう」
その全員が、魔法少女でなく結界内で肉塊になっていたり、壊れたソウルジェムと共に眠っていたりする。
「人数も強さもどうでもいい。魔女になる可能性のある存在を片っ端からね」
かつて織莉子とキリカも魔法少女狩りに手を出していたが、彼女のそれは次元が違った。二人の目的はあくまで「まどかの殺害」にあったが、この魔法少女は「魔法少女の殲滅」その一点にあったのだ。つまり前提からして違うのだ。
ただ、彼女は一つだけ嘘をついた。キュゥべえにではなく、自分に。
「じゃあその最強の魔法少女とやらを拝みに行こっか」
夜空に禍々しいシルエットが浮かびあがる。彼女は一体どのような願いでその身を戦いに投じたというのだろうか。彼女は音もなく立ち去った。
その様子をキュゥべえはうまくいったと喜んでいた。感情がないのに喜ぶとは変ではあるが。
キュゥべえには目的があった。まどかは現在唯一、浄化魔法を使っても問題ない魔法少女だった。彼女が長く生きていればいるほど、周りの魔法少女の魔女化が防がれ、ノルマが達成できなくなる。そういう意味でまどかが邪魔なのだ。
逆にこの魔法少女が負けた時は?
この魔法少女もほむら達と同じく、キュゥべえの目的と魔女化、ソウルジェムの秘密を知っているため、魔法少女を減らすことで魔女を減らそうとしていた。
キュゥべえにとっては不利益になる魔法少女の一人だった。
(まどかに魔力と魔法の才能で勝てる魔法少女はいないけど、彼女ならもしかしたら……)
実際、彼女は自身よりも魔力が多く、魔法の相性も悪い魔法少女と戦い勝ったことがこれまでに何度もある。
不意打ち闇討ちなど先手必勝にして一撃必殺の戦いをしてきたことが多い彼女は実力差をひっくり返すという点でキュゥべえが一目置いていた。
(ま、どっちが負けても僕にとって有利になるんだけどね)
キュゥべえはある意味とても誠実だ。自身が契約の願いを決まった後でいじることはないし、嘘はつかない。キュゥべえができるのはせいぜい喋ることと、契約できる状態でタイミング良く現れることだけだ。だからこそ今回のように自身だけでは崩せなくなってしまった相手に他の魔法少女をぶつけるという手はキュゥべえの十八番であった。
さっきの魔法少女よりも凶悪とさえ言える笑みを浮かべて何も映さぬ眼を爛々と輝かせていた。
◇
まどかたちの使い魔共食い事件は、ほむらの側でのみ起こるということでまどかが側にいて倒せば問題なしと判断された。
ちなみにまどかが、の部分は本人の強い希望によるものである。
最近はマミの部屋に集まるのも狭くなってきており、それは舞やなぎさ、さやかが加わることで顕著になっている。
仲の良い彼女たちは密度が高まることを厭うことはなかったが、さすがにマミの家にのみ集まるのは迷惑ではないかと相談した結果として二回に一度は別の人の家に集まることになった。
しかし家に家族がいるまどかや、そもそも魔法少女ではないさやかを含めるわけにもいかず、家のない居候二人を無視すると自然とほむらと織莉子の家が候補にあがる。
「最近、魔法少女達が次々と変死する事件が起きているみたいだね。犯人はもちろん魔女じゃない魔法少女だ。で、その犯人は他の魔法少女達に恐怖の意味を込めて"透明の死神"って呼ばれているらしいな」
今回話題を出したのは予知能力を持つ織莉子でもなければ、顔の広いマミでもなかった。
杏子はどうやらもともと隣街を縄張りにしており、それは今も変わっていないために他の魔法少女と出会うことも多いのだとか。
ゆまと狩りに出かけた時に出会った、この前の魔法少女のチームの一人から聞いた話をそんな風に言った。
その話題に敏感なほむらは目をむいた。
「魔法少女狩りが行われているですって?!」
以前のことを思い出してちらりととある二人を見ると、心外だとばかりに否定しはじめた。
「も、もうそんなことしてないわよ!だってあれはキュゥべえの目をまどかからそらせるためのものだったわけだし……」
「そうだよ!それに織莉子は悪くないよ。あれは勝手に私がしていたことだから」
むしろ墓穴を掘っているように見えるのは気のせいか。
清濁併せ呑むようなまどかはその発言を流したが、さやかは眉をひそめた。ゆまと杏子は嫌なことを思い出して苦い顔をしている。
「まあそうよね…まどかを諦めた以上、する理由がないし、あなた達はしてたら嘘はつかないタイプだしね」
ほむらは何度かイレギュラーのあるループの中で彼女たちに嘘をつかれたことがない。
繰り返すことで敵さえも理解が深まるという皮肉なことではあるが、もはや"今"を見るならば関係はない。
「じゃあ犯人は誰かしら」
「そもそも目的はなんだっていうんだよ。ライバルを減らすってんなら魔力を無駄に使ってまで同類を狩るのは効率が悪いぞ?」
グリーフシードを手に入れるなら魔女を狩ったほうが楽だろう。言外にそんな効率主義を匂わせる。相手の感情面など推測する意味がないと判断したからだ。しかしその判断にマミはやんわりと反論する。感情面は無視できない、と。
「もしかしたら私たちと同じ真実を知っているのかもしれないわ」
数人はマミを見て思いだした。彼女もまた、魔法少女の真実を知って他の魔法少女と心中しようとした一人だったことに。
さやかは自分が呼ばれているのは自分が彼女たちにとって人質としての価値が高いからだと理解していた。だから話の半分ほどしかわからずとも、その場にいることに異論は唱えない。
「いずれ魔女になるなら今のうちに全員……って」
「怖いなー」
怯えるさやかに「考えはわからなくもないわ」とほむらは紅茶に映る自分の目を眺めながら洩らす。
「だとしたら厄介な相手よね。真実を知って解決策もないのに絶望しないまま戦っているわけでしょう?精神力が強い証よね」
自分だったら自殺モノだと。
豆腐メンタルだから。
「何人もの魔法少女を狩っているってことは複数か、それともまどかみてえにバカみたいに強いか……これが一番怖いが得体のしれない魔法を願いで使えるか、だ」
ほむらも期間限定とはいえ時間操作の魔法を使えた。そういったイレギュラーな魔法で不意打ちされると魔法で応戦する間もなくやられるかもしれない。
「よっぽどの怪我じゃなければ鹿目さんも私も、ゆまちゃんも治せるから……」
「とりあえずソウルジェムに防御魔法でもかけておきますか?」
「さっすがまどか!」
もともと願いが壊れないソウルジェムをもった魔法少女であること、も含んでいるため、防御魔法は結構得意であった。不得意なんてものはないのだろうが。
「そうね。それと魔女狩りに一人で出かけないこと。三人以上が望ましいわ。二人は狩って、一人が見張るの」
七人だから二つぐらいにしか分かれられないということだ。
「そうね。しばらくは警戒しときましょう。それとさやかさんは魔法少女のことを上条君以外には言わないこと。聞かれたら魔法少女候補だとわかって狙われるかもしれないわ。できるだけ私達の誰かと一緒にいてね」
「マミ、それは意味ないかもしれないよ。だってキュゥべえがバラすかもしれないんだから」
「念のため、ね」
キュゥべえが嘘をつかなかったからといって、バレないとは限らない。そのことを忘れずにはいるが止める手だては思いつくことはなく、結局そのような消極的な対策しか打てなかったのであった。
最終章になりましょうか。
とりあえず今年最後の更新となります。
皆様、よいお年をー