まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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見知らぬところで

 静かな教室にカツカツとノートをとる音と黒板の上をチョークが走る音だけが響く。

 生徒たちよりも年上でありながら、どこか幼さを残す教師が教鞭をとっていた。担任にして英語の担当である先生はこのクラスには最も馴染み深い。

 

「はい。ここでのthatは同格ですね。つまりthat以下の文章が直前の単語の説明になっています」

 

 授業中までまどかを見張らなくとも良い。しかしほむらは過去のループで予習をしてしまっていた。本来のループ期間中の授業は何度も繰り返したため、真面目に受ける必要がなくなってしまっていたのだ。そうして暇になった授業を遊んで過ごすのももったいないか、と元来の勤勉さがほむらをさらに予習に駆り立てたのだ。すると、今受けている授業どころかまだ半年分ぐらいは予習が終わってしまっている。ますます授業ですることがなくなっていた。

 苛立ちを紛らわすようにシャープペンをノックしながら思案にふける。

 

また(・・)魔法少女か……)

 

 魔法少女になった時、最も厄介なことはなんだろうか。

 

 それをほむら以外に聞けば、きっと十人十色な答えが返ってくることだろう。

 杏子、そして魔法少女になってはいないがさやかであれば、願いが歪んで叶えられることこそが最も怖いと言うだろう。自分の祈りこそが、自分の願いを壊すという結末を知ってしまっているから。

 マミが聞けば、それは何より孤独だと言うのだろう。

 ゆまやキリカは何も困ることはないと言うに違いない。

 元魔女勢が聞けば、生きる世界が変わってしまうことこそが嫌だと言うかもしれない。

 まどかは、自分の手で同じ魔法少女をいかせてあげるのが辛いというだろうか。

 

 だがほむらは違った。

 

 願いは確かに叶えられている。仲間がいるなら孤独ではない。魔法少女の中でもさらに違う世界を生きてきた。大切なものを守るためなら、なんだって犠牲にしてみせる。

 今更何を思うことがあろうか。

 

 しかし困ることは確かにある。

 

 孤独でも、倫理観でもない。まして戦う恐怖や魔力のやりくり、強さへの渇望などでは断じてない。親の目も、社会とのズレも、学業との両立でもない。

 

 何より厄介なのは――――魔法少女(どうぎょうしゃ)である。

 

 ほむらはそう思っている。

 

 ほむらは箇条書きですることを書き出し、小さな町の地図を広げて思案していた。

 男子生徒が意図不明の質問をされて、戸惑っているのが視界の端に入った。中……なんだったか、と名前が思い出せずにまた視線を外す。

 いつしか授業は終わり、チャイムの音が聞こえてきた。合図が終わると同級生は思い思いに散らばって親しい者の元へと集まる。

 ズレたからといって、同じように歩めないはずがない。そんな風に呟くのであった。

 

 

 

 ◇

 

 ほむらとまどかは二人で下校していた。魔女や魔法少女のことも忘れ、学校の話に花を咲かせていた。

 突然まどかはほむらに話しかけたのはそんな時のことだった。

 

「ねえ、向こうに人が集まってるよ」

「何かしら……」

 

 まどかの問いかけに人の集まる場所を見た。

 遠目によくわからないが、何か起こったらしい。人々の間には不安と動揺が広がっている。携帯などを向けている野次馬根性の強い者もいた。

 総合すれば決して良いことではないということはわかった。

 

「あれは……」

 

 二人は人々が指をさして見上げる方向を見た。そこそこ高いビルの屋上の端に一人の男性が立っているのが見える。原因は上にあったのだ。

 

「自殺かしら」

「止めないと!」

 

 落ち着いたほむらの分析に、慌てるまどか。対照的な二人ではあるが、今魔法少女の力を大衆の前で使うわけにはいかない。それをわかっているからこそ、無力感に悔しさを覚えながらも飛び出すことができないでいる。

 

「ちょっと待って!」

 

 ほむらは何かに気づいたようにまどかを止める。どうやら魔力で視力を強化していたらしい。

 

「魔女の口づけ……」

「あの人は魔女のせいで自殺しようとしてるってこと?」

「魔女退治の中にはそういう人もいたでしょう」

 

 そんなことを言い合っているうちに、屋上の人影はぐらりと傾く。

 野次馬の中の何人かから悲鳴があがる。多くの人が落下地点に放射状に広がる血飛沫と、原型をとどめない肉塊を想像した。

 しかしそうはならなかった。飛び降りた人影はビルの側面、落下中に忽然と姿を消してしまったのだ。

 想像していた衝突音が聞こえないことで、目を瞑っていた人々は恐る恐る目を開けた。

 ドッキリだったのか? 集団幻覚か? などと口々に疑問を洩らしつつ散らばっていく。何もないとわかれば、原因究明にまで熱心ではないのがほとんどである。こんな時にどこに連絡すればいいのかも当然不明。ほむらとまどかもまた、首を傾げていた。

 

「なんだったのかしら……」

「魔女が食べちゃった?」

「同業者かもしれないわね」

 

 魔法少女が近くにいればわかるはず。魔法少女ばかりを相手にしてきたほむらはその自負があった。しかしそんな魔力の残滓は見られない。もしも魔法少女であったならば、自らが鍛錬不足などということになる。そんな不安と警戒を募らせるのであった。

 

 

 ◇

 

 夕暮れの公園。すっかり人がいなくなった遊具の上に一人の少女が音もなく降り立つ。その姿は誰にも見えておらず、何もないブランコに影だけがあった。彼女が影を一瞥(いちべつ)するとその影もまた消えた。透明の少女に透明の鎌。彼女のその魔法はとある条件下において、同業者にさえその存在を感知されない。

 

「収穫はあまりなかったか」

 

 昼間に見た男は魔女の口づけを受けていた。魔女の結界まで案内してもらおうと捕まえたのだが、それより先に使い魔が現れたおかげで探す手間が省けた。使い魔は魔法少女である彼女を恐れ、魔女の下へと逃げていったのだ。よって男は面倒になったので、軽く柱に縛って放置しておいた。そのうち誰かに見つかるだろう。

 

 そしてまた一人。魔法少女がパトロールに出ているのを見つける。一般人に見つからないようにと気をつけていても、同業者からすればバレバレである。とはいえ、ある程度魔力を隠さずに自分の縄張りを主張するのも、魔女狩りでの衝突を防ぐ一つの手段である。

 薄紅色のリボンに水色のフリルのスカート。手にはステッキと魔法少女を体現したような衣装はキュゥべえ側の作戦の一つ。潜在意識にある「魔法少女らしい」衣装にすることで、いっそう警戒心を削いでいる。

 鎌を持った少女はそんな魂胆が見えているからこそ余計に腹立つとばかりに舌打ちをした。

 

 ゆらりと動き出すと、彼女の姿はブレる。おぞましいほどの殺気に、ステッキを持った魔法少女は身をすくめた。しかしもう遅い。彼女の肩が背後から振るわれた鎌によって切断され、血まみれの腕がぼとりと落ちる。

 

「――――!」

 

 悲鳴をあげようとして、痛みと恐怖で声が出ない。

 攻撃したことで、条件から外れた少女が姿を現す。

 その場で戦意を喪失した少女は姿を認識したことでようやく我を取り戻した。自分と同じ。それは厳密には異なれど、自分の理解の範囲内にいることを示す。

 現状の確認が追いついたところで、か細い声で尋ねた。

 

「どうして……こんなこと……」

「君に話す必要はないけど」

 

 少女も全く予想できないつもりではなかった。グリーフシードが効率良く奪えるならばそういう魔法少女もいるだろうというというのはわかっていたことだったから。

 

「ま、これからの大仕事の準備運動みたいなものだし、少しおしゃべりしてもいいかな」

「お願い……助けて……グリーフシードならあげるからぁ……ねぇ……」

 

 縋って懇願する少女に蔑むような目を向ける。とどめをさすための鎌がやけに禍々しく、そして希薄になっていく。

 

 また一人、魔法少女が姿を消した。




お久しぶりになります。
受験やなんやらで更新が止まっておりましたが、また再開していきます。
今月中には完結させたいところでございます。

今回はリハビリも兼ねて、やや短くかつあまり物語も急展開にはなっておりません。じわじわとフラグが立つ様子をば。
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